表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/71

自由度の高いゲームってどういうスキル構成にするかめちゃくちゃ迷わない?

「ボクは美少女だしヒーラーになりたいんだけど、どういうスキルを取ればいいかなー」



 配信中。アオイはそんなことを話し始めた。


 視聴者数は伸びないものの、それを改善するために何かするのも面倒くさい。

 今は今で生きていけるし楽しくやっていけてるからいいじゃんというダメ人間の思考を持つアオイが配信を始めて三週間、それなりにポイントが溜まってきていた。

 SPとも呼ばれるそれは脳内でやけにはっきりと浮かぶスキルボードで使用することができる。ゲームでよくある感じだ。ただ、自由度がめちゃくちゃのめちゃくちゃに高く――ぜんぶ見ようと意識すればそれだけで日が暮れるのではないかと思ってしまうほどである。

 これでも戦闘系のスキルだけに絞っているつもりなのだが……生産系のスキルも含めたなら、いったいどんな量になるか。

『戦う鍛冶師』とか『戦う錬金術師』とか居るけど、あの人たちってスキルどうしてるんだろう。頭パンクしないのかな。


 そんなことを思いながら、アオイは自らのスキルについて考える。【浄化】は既に取得した。美少女としてエチケットは万全にしなくちゃね。

 今のところ日帰りしかしてないので本来であれば帰り際に管理局所有のシャワー室を使えばいいだけの話なのだが、アオイは『興味はあるけどさすがにボクが女性用の更衣室とかシャワーとか使うのは……ねぇ?』と変な律儀さを発揮して使っていない。

 命が懸かっている問題に貴重なポイントを無駄遣いしていると言っても過言ではないのだが、アオイは危機感が足りないのでこういう使い方をする。



「え? 今のスキル? 【ヒール】と【浄化】かな」



:浄化?

:ヒールはわかるけど……浄化か

:アオイのことだからしょうもない理由な気がする



「しょうもなくないし! ほら、ボクって美少女じゃん? 美少女が汚いとかありえないでしょ? だからいつでも綺麗で居るために――ね!」



:でもアオイ毎回日帰りじゃん

:帰り際にシャワー使えや

:清潔さを保つことは重要だし深層に潜ったりするならわからなくはないけど……

:優先順位がおかしい



 案の定、そう言われてしまう。アオイも自分が元男だったからシャワー室には入りにくいなんて話はできないのでこれは説明が難しいところだ。


 もっとも、視聴者からすれば『いつものアオイ』案件である。配信を始めてからまだ間もないはずなのだが、アオイはすっかり『どうしようもないところがある』という共通認識を持たれていた。残当としか言いようがない。



「【浄化】に関しては……まあ、いいじゃん? 使っちゃったものはもう使っちゃったものだし、振り直しとかはまだできないし。前向きに考えてこ!」



:なんで俺らが励まされてる感じ?

:その通りなんだけどさぁ……

:釈然としない



「文句ばっかり。わがままだなぁ」



 やれやれとアオイは肩をすくめた。チャット欄を流れるコメントが『は?』『なんでアオイが呆れてる感じ?』『呆れてるのは俺らなんだが?』と埋まる。


 しかしそんなことはアオイには関係ないことだ。それよりも今はとスキルについて話し始める。



「ヒーラーになりたいわけだけど……【ヒール】さえあればとりあえずはいいかなーとも思うんだよね。これさえあればいいでしょ案件。【ハイヒール】とか【オーバーヒール】とか【レイズ】とかはまだ無用の長物って感じだし。強いて言うなら【メディック】とか? でも、第十層までだと状態異常攻撃なんてないからなー」



:攻撃系スキルは?

:ヒーラーでもあるよな 【ホーリー】とか

:白魔っぽいスキルな でもアオイが白魔ってガラか?

:ヒーラーは絶対に落ちちゃいけないわけだし、自分が生き延びること優先でどう?

:まあそもそもアオイはソロなんだけどwww

:ソロでヒーラーってなんだよ



「攻撃系のスキルねー。魔法ってあんま使いたくないんだよね。ヒールはいいんだけど……MP使うと精神的にダルくなるでしょ? アレほんと嫌い。だから攻撃系のはナシかな。だから【ホーリー】とかもちょっとね。ソロなんだからヒーラーも何もないじゃんって言うのは……予定は未定だし」



:アオイって避けタンクだと思ってた

:回避盾にぴったりだよな

:それそれ 挑発系のスキルとかは覚えないの?



「えー……ヒーラーやってるだけでもヘイト稼ぐのにわざわざ挑発系のスキルとか覚えたくないなぁ」



:そうか ヒーラーならそれだけでヘイトを稼ぐから挑発しなくてもいいのか……

:ヒーラー兼任のタンクなんてほとんど居ないからな

:イタリアの聖騎士はそうだけど

:アレは別枠でしょww



「や、そもそもタンクになるつもりとかないから。攻撃とかされたくないし。安全な場所で守られたい……美少女だし」



 まあ、今のところはソロだから予定は未定なんだけど。でも、美少女としてヒーラーをあきらめるわけにはいかない。



:まあでも腐らないスキルなら【フライ】とか【エアウォーク】とかじゃない?

:あー でも【フライ】ってMP消費そこそこあるだろ

:じゃあ【エアウォーク】か アオイには合いそうだが



「【エアウォーク】……あー、そういうのもあったっけ」



【エアウォーク】。端的に言えば空を蹴ることができるようになる魔法だ。空中に空気の足場を作るスキル。【風魔法】のスキルツリーに存在する魔法であり、三次元的な動きができるようになることもあって非常に取得率の高いスキルだ。



:そもそも風魔法は攻守一体だからな

:アオイって魔法の対策はしてないよな? 【エアバースト】くらいは取っとけば?

:どうしても避けられないってときにあると救われるぞ(体験談)



「うぅーん……そう言われると【風魔法】はかなり魅力的な気がしてきた」



【風魔法】は汎用性が高い魔法だ。風を起こすだけと言われればその通りでもあるが、その『風を起こす』という現象を起こせることが非常に強力な効果をもたらす。

 例えば、MOBが魔法で火球を使ってきたとしよう。弓でもそれ以外の何かでもいい。とにかく、遠距離攻撃全般において――風魔法で対抗すればどうなるか。


 風を起こす。それによって、相手の攻撃を『押し返す』ことができる。『攻守一体』と言われる所以だ。



「でも、ボクのポイントじゃさすがに【エアバースト】は無理かなー。取れて【エアウォーク】……あ、結構高いな。ゼロになっちゃった」



:は!?!?!?!?

:お、おまっ……気軽に使うなぁ

:そこらへんもうちょっと熟考するべきだと思うんですけど!

:そもそもスキルじゃなくてステータス補正値のほうに振るかとかさぁ……あるじゃん?



「まあまあ、取っちゃったものは仕方ないじゃん? でも、これでボクも空中を走れるようになったわけかー」



 よっ、とアオイが地を蹴り、空を蹴る。



「ふんふんふ~ん♪」



 空を蹴る。空を蹴る。空を蹴る。


【エアウォーク】


 それは地を蹴ることしかできない人間に空を蹴る権利を与えるスキル。


 その実態としては、空を蹴る瞬間にその先に『風の床』を作り出すスキルとも言える。


 それだから、このスキルを使用するには空間把握能力はもちろん、魔法の精密性も非常に大きく関わってくる。


 常時発動しておかなければならない【フライ】と比べれば比較的消費魔力は小さくて済むものの、慣れるまでは必要以上に『風の床』を大きくしたり、設置時間を長くしたりしてしまって消費魔力が大きくなってしまうスキル――のはず、なのだが。



「あはっ! これ、けっこう楽しいかも!」



 上に跳び、膝を曲げて肩を丸め、空中で回転することで脚を地面から向かって斜め上の方向に向け――空を蹴り、また同じ動作をして空中でくるりと反転して空を蹴り、また違った方向に跳んでは空を蹴り、そのたびに速く、鋭くなっていく。


 まるでピンボールのごとく縦横無尽に空を蹴り、空を駆ける少女の姿は。



:え

:……初めて使ってるんだよな?

:必要最低限の魔力消費量ね 私の天使やっぱり天才すぎ♡♡♡〈フレイヤ〉

:楽して生きたいとか言ってるくせに戦闘に向きすぎてる女



 熟練した探索者をして驚嘆に値するものであり――そして。



:見えそう



「へ? ――あっ!?」



 ひとつのコメントによって慌ててスカートを抑えたアオイがずざざぁー! と地面を転がる結果で終わりを迎えた。



「……【ヒール】」



 ぺたん、と地面に膝をつけて座り込んだアオイはそうつぶやいて、配信くんからぷいっと顔を背けた。


 しかし、それでも配信くんの眼は彼女の顔色を捉えている。


 そこに映ったその色は。



「……へんなこと言わないでよ、ばか」



:アッ!!!!!!!!!(絶命)

:見えなかったけどかわいすぎる

:マジで命の危険あったから笑い事じゃない

:アオイもこういうことで恥ずかしがるんだ 意外

:あざとい



 アオイの胸の内は羞恥でいっぱいになっていた。


 得意げに覚えたてのスキルを使って失敗したところを見られたからか、それとも――



(……スカートの中が見えそうになったからって、なんで、ボクは)



 どうしてなのかはわからない。


 わかることがあるとすれば、白い肌が赤く染まると非常に目立つということだ。


 その後、配信ではめちゃくちゃにかわいがられたが、どうしてかいつもより嬉しくなかった。


 ……もっとも、数分もすれば調子を取り戻して調子に乗るのがアオイなのだが。


 チョロい女である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ