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ラーメンを食べる美少女を眺めたい

 麺屋白銀(しろがね)は男性客からの支持が厚いラーメン屋である。が、そもそもラーメン屋なんてどれだけ『女性も入りやすい』と謳われていたとしても男性からの支持が厚い傾向にある。

 白銀は特段量の多いラーメン屋というわけではなかった。味もそれほど尖ったものではない。鶏清湯スープをベースにした醤油ラーメンを出す店だ。


 こう書くと現代ラーメンにおいて主流とも言えるラーメンのようにも思えるが、白銀の出すラーメンはどことなく『昔ながら』の感があった。どちらかと言うと醤油ダレの味を全面に押し出しているラーメンであり、鶏油もあまり感じない。

 例えば、スープを一口含んだだけで鶏の旨味が口いっぱいに広がるようなラーメン……タレよりもダシを重視し、麺は細くしなやかで喉ごしの良い……そんなラーメンではなく。

 スープは丸鶏からではなく鶏ガラから。他には特に何も入れず、ノスタルジックな雰囲気もあるラーメンだ。

 また、店内も清潔ではあるが雑多な印象を覚えるようなものではあった。女性客が入りにくい、と言うほどではないものの、いわゆる『女性も入りやすい』と謳われるようなラーメン屋とはまた違った趣のある店内である。


 だが食べてみれば『昔ながら』の味ではないことがわかる。ノスタルジックな雰囲気はあるが『昔ながら』にしてはおいしすぎる。それでいて『毎日食べたい』と思わせられるような味でもあるラーメン。その味に魅了された者は常連客となり、毎日行列をつくっている。



 そんな白銀に誘き寄せられた少女がひとり。



 朝日の輝きに煌めく雪原のような髪に、宝石のような紅の瞳。

 黒いワンピースに透け感のある白のカーディガンを合わせた少女。ミモレ丈のスカートから足首の白い肌が垣間見え、靴には赤のパンプスを。


 どこで見ても二度見してしまいそうなほどの美少女が、ノスタルジックなラーメン屋に並んでいる。ただの女性客が並んでいても驚くことはない。異邦人であったなら、少しは気にするかもしれない。しかし、銀髪赤目の、それも見たことがないほどの美少女だ。

 なんならオシャレなカフェに並んでいたって気にするだろう容姿を持つ少女が同じ列に並んでいる。ちょうど彼女の前に並んでいた男は緊張に身体を固めながら意味もなく見ていたスマホを何度もスワイプした。誤操作で『アイドル――』とゲームの起動音が鳴り響きかけたので慌ててタスクキルを行う。



「ふふっ」



 少女が思わずと言った調子で小鳥が囀るような笑い声をこぼした。可憐だ……。そうして見惚れてしまった男だが、少女がふと気付いたようにこちらを見て、「あ、す、すみません」と照れたように小さくなっているのを認めた瞬間、恥ずかしくなって「い、いえ、その、こちらこそ」と返して前を向いた。

 不躾な視線をぶつけてしまった。男は恥ずかしくて死にたくなった。しかし……どうしてこんなにかわいい子が、こんなところに。


 あの少女が真後ろに居る。それだけでも心がざわめく。そしてそれはこの店に新しく並ぼうとしていた男も同じだった。何の気なしに並ぼうとして、銀髪の少女の姿を認めた瞬間に動きを止める。彼女はそんな男の様子に不思議そうにしながらも、「あ、最後尾ここですよ。……たぶん?」と微笑みかける。可愛すぎる。男はハートを撃ち抜かれてその場に崩れ落ちた。



「え!? し、知らない人ー!」



 慌てふためく銀髪の少女。彼女はそれが自分の可愛さが引き起こしたことだとは、夢にも思わ……ないこともなかった。



(えっ……ボクのかわいさって……そこまで……?)



 もちろんアオイだ。


 彼女はなかなか後ろに並ぼうとせず自分を見て固まる男性客の姿を見て『あ、これボクがかわいくて見惚れてるかどうかして、後ろに並びにくくなっちゃってるやつかな? しょうがないなぁ~。天使のアオイちゃんが気を利かせてあげましょー』と思って声をかけたのだが、まさかこうなるとは思わなかったらしい。はわわと動揺しながら青年を見る。

 ヒール撃っといたほうがいいかな……ここダンジョンの外だから効き目薄いけど、まったくの無意味ってことはないだろうし……。

 そんなことまで思うほどだったが、ほどなくして青年はなんとか立ち上がってアオイの後ろに並んだ。何も起こってないはずなのにどうしてか服もボロボロになって満身創痍になっている。なんでぇ……? アオイは動揺してヒールを放った。青年の服と身体が完全に回復する。それもそれでなんでだよ。アオイは心の中で突っ込んだ。



「あ、ありがとうございます」


「い、いえ、どういたしまして」



 そんなやり取りをして最後、また無言で並びなおす。……ボクのかわいさって、罪? アオイは冗談ではなく真剣な調子でそう思った。ここまでのことを引き起こすなら本当に罪なのかもしれない。


 でも、ラーメン……ラーメンかぁ。食べるの結構久しぶりかも。実家に居た頃は隠れて妹と食べに行ったっけ。見つかって折檻受けたりもしたけど。

 この身体になってからは自分の着せ替えにハマっていたが、アオイはラーメンが好きだった。味覚が変わったこともあって、以前のように楽しめるかどうかはわからないが……コーヒーとかは苦手になったけど、ラーメンならいけるかもしれない。さすがにおいしく感じられるままでいてほしいところだ。



(そう言えば、なんとなくで並んじゃったけど……ここ、何系のラーメン屋さんなんだろ?)



 メニューは前のほうに置いてるっぽいけど、ここからじゃ見えない。醤油、塩、豚骨、味噌、あるいは……男の人が多いし、二郎系? あ、家系って可能性もあるかな。さすがにそっちは濃く感じるのかなー。でもまた食べたい。試してみよう。


 どんなラーメンを出すのか。実際に食べてみるまでのお楽しみ……にするのも手ではあるが、今回は素直に調べてみることにした。並んでいる間にお店について調べて『何にするかなー』なんて考えるのも楽しいものだ。そうして期待を膨らませた状態で食べるものがこれまたおいしい。ちなみにここに来るまではスイーツについて調べていたのでスイーツ欲は依然としてある。この身体は甘いものに目がない様子。ラーメンにもかもだけど。



「……へー」



 ここ、醤油ラーメンのお店なんだ。アオイはふんふむとレビューサイトに載っている情報を読み込む。醤油の味……濃さによって種類がある感じかな。あるにはあるけど、けっこう珍しい感じかも。醤油と塩ー、みたいなのがやっぱり多い印象。つけ麺とか油そばとかもないし、白湯系の『こってり』バージョンとかもない。醤油清湯一本、潔いね。

 醤油が強いのと中くらいのと淡めのと……うーん、やっぱりここはスタンダードなのかな。それがいちばんオススメっぽいし。

 えーと、それから……ノスタルジック? 昔ながらの味……なのかな? それはちょっと……どうなんだろう。『昔ながら』って聞くと惹かれるけど、正直ほんとうに『昔ながらの』って味だとちょっとなーって感じだったりするよね。なんだかんだ料理って進化し続けてるから。カップヌードルとかでもちょっとずつ味は変わってきているらしいし、本当に『昔の味』だったりすると……どうなのかなー。

 今のラーメンの味に慣れて、舌が肥えちゃってる感じはあるよね。うん。昔なら素直に『おいしい!』って思えたラーメンが、今食べると『あれ……?』って首を傾げちゃうこともある。実際に味が変わってることもあるんだろうけど、思い出が美化されているだけってこともある。

 ……けど、ここはこんなに並んでいるわけだし、もっと言うとべつに『老舗』ってわけじゃない。じゃあ……おいしい、のかな?


 そう思いながらもアオイはレビューサイトやSNSの口コミを見ながらこの店の味について思いを馳せる。店の名前とラーメンの名前、味の種類、トッピング、あるいはサイドメニューなんかもいっしょに合わせて検索して、それぞれどう言われているのかを調べておく。

 情報を食べる。それはよくバカにされるようなことではあるが、アオイは『おいしく感じるならそれでいいじゃん』と肯定的に考える側の人間だった。『おいしい』というものはラーメンの味それだけで左右されるものではない。味が同じだったとしても、店舗で食べるものと冷凍で食べるものでは『おいしさ』はずいぶんと違ってくるものだ。

 それは『味』以外のものが『おいしさ』に関わっているということだ。本店で食べるラーメンと支店で食べるラーメン、味は同じはずなのにどうして本店で食べるほうがおいしく感じるんだろう……本店では行列ができていて、支店は並ばずスッと入れて、同じ味なら絶対に支店のほうがいいはずなのに……どうしてか、本店のほうがおいしく感じて、ついつい本店のほうに並んでしまう。それはどうしてなんだろうか。

 それは多かれ少なかれ人は『情報』を食べているからだ。行列の待ち時間さえも『おいしさ』には関わってくる。どんな味かを調べて、どれにしようかと考えて……そうして期待する時間によって引き立てられるものもある。

 アオイはそういう考え方をする。だから積極的に調べて悩んで期待していた。あと時間つぶしにもなる。正直それがいちばんかもしれない。



 そうこうしているうちに列は進み、アオイの番になった。いらっしゃいませの声に招かれて店に入り、席へと誘導される。



「ご注文お決まりですかー?」


「あ、はい。……えっと、この『醤油 ど真ん中』の特製で、あとミニチャーシュー丼をお願いします」

 


 アオイのオーダー。その真意は『せっかく来たんだし、このお店のことを知ることができるものを食べたい』だ。

 何度も来るかどうかはわからない。なら一度目である程度『その店がどういうものを提供するのか』を知っておきたい。トッピング――味玉やチャーシューがどういったものか、そしてサイドメニューはどういったものか。

 最初に全体像を把握しておくことで、再訪するかどうか、そしてそのときに何を注文して、何を注文しないかを探る……。例えば、味玉やチャーシューが『めちゃくちゃ好き!』って味だったら今度来たときも注文するし『おいしいけど……まあまあかなー……』ってくらいなら注文しないかもしれない。

 サイドメニューの丼ものもそうだ。餃子などがあればそれを頼むが、ない場合は丼もの――特にチャーシューの切れ端などを使ったものが置かれていることが多い。それにも好みがある。『おいしい!』ってときと『まあまあだけど、次は頼まないかなー』ってときがある。それは最初の一回で把握しておきたい。アオイにはそういうところがあった。


 まるで『効率が良い注文』のようにアオイは考えているが、もちろんそんなことはない。欲望のままになんでもかんでも試しているだけである。服だってそうだ。『最初に色々と試せば……』で色々買うところから始まる。すぐ金欠になる理由の一端である。


 んふー、と満足げに息を漏らして、アオイは目の前にあるピッチャーを手に取り水を入れて喉を潤す。キンキンに冷えてておいしい。ずず、と唇に当てたコップを片手に席に備え付けのメニューを見る。ラミネート加工されたペラ紙が二枚。一枚は両面、表はラーメンの種類と簡単な説明、それからトッピングや大盛り、替え玉についての記載。裏にはサイドメニューやドリンクなどについて書かれてある。もう一枚は限定ラーメン――えっ!? 限定!?

 アオイは二度見した。げ、限定……限定かぁ……。SNSにそんなの書いてあったっけ……突発メニュー? あるいは今日からだったり? い、いや、それでも今日は初めてなんだから今の注文でよかったハズ……限定かぁ。


 アオイは限定という言葉に弱かった。限定って聞くとすぐに試さなきゃという気持ちになってしまう。享楽主義であるアオイは欲望に弱い。確固たる信念なんてものは持ち合わせおらず常にふにゃふにゃ。ラーメンで出せば『これもう小麦粉じゃん』って言われてしまうくらいのふにゃふにゃっぷりである。


 ただ一つのことにこだわらない性格でもあるので『まあいっか』とすぐに立ち直った。ふにゃふにゃだ。芯というものをまるで持ち合わせていない。


 そうこうしているうちにアオイのラーメンが完成したようだ。カウンター席、前から直接提供される。提供(サーブ)が早い……これは嬉しいところだ。しかもしっかりと熱そう。ラーメンはやっぱり熱々がいいよね。この時点で好印象。アオイはすっかり目の前のラーメンに夢中になった。



「……いただきます」



 手を合わせていただきます。アオイはレンゲでスープをすくい、口に含む。



(熱っ……お? これはちょっとイマドキのラーメンとは違う感じ……なるほど、確かにノスタルジックな雰囲気もある)



 眉を上げてスープを味わう。熱々だ。正直一口目ではしっかりと味を感じることはできない。でもおいしい。確かに『昔ながらのラーメン』って系統の味……だけど、おいしい。



(しっかり醤油を感じる、けど酸味を感じたり醤油辛さは感じない。キレのある味。これは、スープだけで味わうよりも……)



 ずず、と音を立てて麺を啜る。やはり熱く、一瞬だけ顔をしかめる。そして。



(――おいしい!)



 アオイの表情に浮かぶのは微笑。もぐもぐと麺を噛み、歯切れの良い食感を楽しむ。



(ちょっとだけかための、かんすいの風味を感じる麺だ。懐かしさのある麺……でも、これがこのスープに合ってる。何と言うか……『ラーメンを食べてる』って感じだ)



 ずずっ、ずずずっ、と麺を啜る。おいしいーーそして、気持ちいい。

 キレの良いスープ、歯切れが良く少しかための細ストレート麺。どちらも単体で強く主張する味ではない。スープを飲んだ瞬間に口いっぱいに広がる旨味があるわけでも、麺だけで感じる芳醇な小麦の風味があるわけでもない。しかし、それが一体となった瞬間『醤油ラーメン』として完成している。



(あー……この店、当たりっ!)



 アオイはテンションが上がってきた。ちょっと胡椒がまぶしてあるのも『イイ』。卓上にもあると思ってたんだよなー。ラーメンコショー。最近はあんまり見ないけど『やっぱこれ』って感じある。まあ最近どころか正直ボクは最近しか知らないんだけど、イメージ的に。

 メンマも食べちゃお。……うん、普通! おいしいけどこだわってるーって感じじゃない。でもそれがいい。ラーメンに合ってる。

 ではではチャーシューは……なんか、ずいぶんとご立派なチャーシューだね。豚バラ肉を巻いた大ぶりのチャーシュー。このラーメンにはちょっと似つかわしい感じもある。


 でも……ガブリ、とかぶりつけば。



(肉~~~~~~ッ! これ、このラーメンにはおいしすぎない? でもこってりしすぎてるわけじゃなくて、ラーメンの味に合うように調整されてる……これで『昔ながら』を謳うのはムリでしょ)



 チャーシュー単体でも『料理』になるんじゃないかと思えるほどにおいしい。たぶんこれお皿に出してツマミにしてビールを飲む人とか居ると思う。そういやメニューにチャーシューメンマ盛り合わせとかあったなぁ。ボクはお酒飲まないけど……好きな人は好きそう。アテにできるよ、これは。なんならごはんのおかずになる。


 と言うか、そうそう。ちょうどそれを合わせたミニチャーシュー丼があるんですよね。アオイはミニチャーシュー丼に手をつける。具はチャーシュー、ネギ、キムチ。そこにタレをかけたっぽい感じの丼だ。ミニと言ってもそれなりに量はある。今のアオイの小さな手では片手にちょっと余るくらいのお茶碗だ。

 ダイス状にカットされたチャーシューの切り落とし。これはたぶんラーメンに使っているものと同じだろう。これを、ネギ、キムチ、ごはんといっしょにかっこめば……。



「んん~……!」



 当然、至福が訪れる。ネギの風味、白菜キムチのシャキっとした食感と辛み、酸味が味を締め付け、噛むたびじゅわっと旨味があふれるチャーシューと甘めのタレがごはんにマッチし……最高! アオイから恍惚の声が漏れる。


 熱いものを食べていることもあって、アオイの額に汗が滲む。ふぅ、と息をついて水で口内をリセットさせ……またラーメンに夢中になる。


 妖精のような容姿をした少女が流れる汗も気にせずに夢中になってラーメンを食べるその姿を見て、店の中に居る者は一人を除いて目を離すことはできなかった。目を離すことができた者は店主のみ。平時と変わらぬ迅速かつ丁寧な手際でラーメンを作る彼にいつもは見られぬところがあったとすれば、ただひとつ、その唇が微かに綻んでいたことである。



(それじゃ、ここらで煮卵ちゃんとごたいめ~ん……!)



 そんな視線には気付くこともなく、アオイはスープに浮かぶ煮卵を箸で掴む。ぷに、と挟めば微かに変形する程度の弾力が返ってきたその煮卵の中身は間違いなく半熟。それだけでアオイの期待は高まる。かための黄身もおいしいのだが、半熟煮卵というものにはどうしようもなく惹かれてしまうのが世の常だ。

 この店はいったいどういうタイプの煮卵なのか……。アオイは煮卵が好きだった。ただ『好み』の煮卵に出会うことはそれほど多くはない。ラーメンにもよるが、黄身にもしっかりと味が沁み込んだタイプの煮卵……それがアオイの好みである。さて、白銀の煮卵はいかに。


 箸で挟んだ煮卵をレンゲに乗せ、箸で割ったりすることなく直接口を付けて食べる。小さな口だ。そのことを忘れていたからか一度唇が卵の上を滑って空を切り、そんな自分にちょっとした恥じらいを覚えて微笑を浮かべて再挑戦。今度は控えめに顔を出した白い歯が煮卵の表面に突き立てられ、その場所が沈み込み――静かに弾ける。



(っ……これは……!)



 広がるは濃厚な旨味。黄身までしっかりと味が沁み込んだ煮卵だ。黄身は半熟だが粘度が高く、割ったにも関わらずレンゲから漏れ出すことなくねっとりとその内に留まっている。

 そしてその粘度は味わいにも大きく影響を与えており、ただでさえ強烈なほどに濃厚なその旨味が舌の上で流れることなく残っていた。ねっとりとした旨味の塊。それが舌で絡みつき、暴力的なまでの『おいしい』が口内にいつまでも居座っている。



「おいしい……」



 目を輝かせて、アオイはほうと息をついた。一度ゆっくりと目蓋を閉じて、旨味の余韻にしばし浸る。んん~……っ、と声を漏らして、また一口。幸せを感じる。



「はぁ~……」



 そうしてすべてをたいらげて、アオイは満ち足りた気持ちで大きく息をついた。スープを飲み、最後に水を口に含んで……やっぱりまたスープを飲んで、一息。



「ごちそうさまでした。おいしかったです!」



 ぺかーっと輝く笑顔でアオイは言った。神秘さすらまとう雪の精霊のごとき少女が見せる太陽のごとき無邪気な笑顔に居合わせた者たちの心は撃ち抜かれた。実情は『無邪気』というよりも本当に何も考えていないアホなだけであったが、外面だけを見ればそんなことはわからない。

 純真無垢ではなく単に考えなしの阿呆であっても見た目だけなら無邪気で可憐な少女に見える。美少女というものはかくも得をするものだ。アオイは満足して満腹満腹と微かにぽっこりと膨らんだお腹をさすりながらラーメン屋から出て行った。

 残された客たちは夢を見たような気持ちでぽけーっとしばし固まって、それから食事を再開する。

 ラーメンは少し冷めていたが、どうしてかたまらなくおいしく感じた。


『おいしさ』を左右するものは味だけではない。お腹を空かせたときに食べるものと満腹のときに食べるものでまったく異なってくるように――おいしそうに食べる人を見て期待に旨膨らませた状態で食べるラーメンは、きっと、極上の美味であろう。


 美少女の持つ影響力は大きい。


 ……ダンジョン配信にこだわらず、ラーメンを食べるだけの配信でもアオイの容姿であれば人気になれそうなものだが、彼女がそれに気付くことはない。


 もちろん、誰かさんが考えることの大切さを知らないアホだからである。


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