目が覚めたら美少女になっていた件
鏡の中に美少女が居た。
「お? ……おおー?」
輝くような銀髪に真っ赤な瞳。肌は不自然なほどに白く、だぼだぼのスウェットが肩に引っかかっている。
銀髪赤目美少女だ。オタクくん好きそう。ボクとかね。
そんなことを思ったのは鏡の中に居る少女その人、寝る前までは男だったアオイ――青井時雨だ。
目が覚めたら美少女になっていた。思い当たるきっかけはない。
昨日だって、いつものようにダンジョンに潜って疲れたところで切り上げて帰って寝ただけだ。
「……夢?」
可能性として最も高いのはそれだろう。むにぃ、と鏡の美少女が自らの頬を引っ張った。痛い。夢じゃないかもしれない。
しかし……。
「かわいすぎるな、ボク」
うわっ、声までかわいい。
あまりにも自分好みの少女になっていて動揺する。こんな格好であることを除けば完璧と言ってもいいほどの美少女だ。
しかしこんなクール系の美少女がだぼだぼのスウェットだけを着ている、というのも良い。『デキる』感じの女の子が家ではだらしなかったり生活力なかったりするやつ。
まさか自分がそうなるとは……。もっとも、アオイは外でも『デキる』人間などではないので外見以外ひたすらにダメな人間なのだが。
ズボンは寝ている間にずり落ちたのだろう。パンツもない。ノーパンである。スウェットがあまりにもオーバーサイズなのでワンピースのようになって見えてはいないが、めちゃくちゃにスースーするのでわかってしまった。
「……めちゃくちゃエロい格好してるなぁ」
彼シャツとはいかないが……彼スウェット? 下着がないと思えばこんな格好も魅力的に映るものだ。
と言うか……けっこうおっきいな、ボク。そう思ってアオイ自らの胸部を見る。
「……」
アオイは『今から後ろめたいことをします』とでも言うように首を振って周囲を見回す。
……ちらっ。
「うおっ……」
スウェットの首周りを浮かしてみると、胸が見える。
巨乳と言えるほどではないのだろう。だが、決して小さくはない。
アオイにとっては十分に大きい。この小さな手では収まりきらないほどには『ある』。
「……さ、触ってみるか」
誰に言い訳するでもなくそうつぶやき、アオイは自らの乳房に手を伸ばす。
はっ、はっ、と興奮から息が漏れる。自分の息だ。そうわかっていても、アオイにとっては聞き慣れない美少女の息遣いだ。それが間近どころか『自分』から聴こえているものだから破壊力は尋常ではない。惜しむらくは耳元でこの声を聴くことができないことだが……。
ゆっくりと手が近づいて行く。心臓の鼓動は速く、息遣いは熱い。
形の良い乳房、オーバーサイズのスウェットの上からでもはっきりとその存在を感じられる双房。スウェットもこれに引っかかっているのだろうということがわかる。
自分に男の象徴が残っていたのであれば大変なことになっていただろう。……なんとなく、胸の先っぽがくすぐったい。それが何を表しているのかは、おそらく。
そして、ついに――むにっ、と。
「おぉ……!」
おっぱいに、触った。
その感動に声を上げる。
やわらか……おお……こういう感触かぁ……。
鏡を見るとこんな美少女の胸を揉んでいるんだと思えた。今は自分だが、それでも美少女であることには違いない。
スウェット越しでもやわらかい。指がずむっと沈んでいく。『揉まれている』側としては特に何か感じることはないが……スウェット越しでもこれなら、直に触れたらどうなるのか。
そう思って、アオイはスウェットを脱ぎ去った。性欲による短絡的な行動だ。それが何を引き起こすかと言えば――
「――あっ」
思わず、隠すように自分の身体を抱いた。
鏡の中に、全裸の美少女が居る。
「……な、なんか、罪悪感あるな」
今は自分だ。自分、のはずだ。しかし、こんな美少女の裸体を見るというのは……悪いことをしているような気分になる。
と言っても、自分の身体だ。アオイはすぐに罪悪感を捨てた。実はTS(女体化)ではなく『入れ代わり』という可能性もあったが、今は自分のものだ。じっくりと自分の裸体を観察することにした。
肌、白ぉ……。めっちゃやわらかい。ぷるぷる。でもなぞるとさらさらで引っかかりなんてまったくない。肌理が細かすぎる。毛穴とかどこにあるの? ってレベルだ。
「じゃ、じゃあ……み、見るか」
ごくりと喉を鳴らして腕を開く。
すると、当然――乳房が見える。
「うおお……なんと綺麗な桜色……!」
思わずそんな声が出てしまう。うおー……と感嘆の声を漏らしながらふにふにと揉む。下から支えるように持ち上げると形が変わる。
お椀型の、張りのある胸だ。つんと上向いた、重力に負けないギリギリの大きさを誇るそれは自分のものながら感動してしまうほどにちょうど良かった。
個人的な好みだともうちょっと『お姉さん』な感じで、胸も大陸産のゲームに出てくるくらい『長い』のだったけど……『かわいい』ならこれくらいだよな〜。それはそれとしてエロいし。
うんうんとうなずきながら、アオイは乳房の先端に触れた。おお〜……ぷにぷに……なんだけど、く、くすぐったいな。
気持ちいいものかと思っていたが、くすぐったさが勝ってしまったので手を止める。
うーん……こういう感じか。視覚的にはめちゃくちゃ興奮するんだけどなぁ。
しかし、視覚と言えばまだ大事なところが残っている。アオイには既に謎の罪悪感などなかった。あるのは目先の性欲だけである。
どうせ自分の身体になったのだから見る機会なんていくらでもあるだろう。と言うか、むしろ確認しておかなければマズいだろう。今までの自分にはなかった器官なのだから。
うん、だから仕方ない。何も悪いことじゃない。
「ってことで、せーのっ」
ごろん、とその場で寝転がる。姿見の前で、背中を床に付けて膝を曲げる。膝の裏――太ももの裏あたりを手で押さえる。
そうして、そのままエビ固めのように腹筋に力を入れて顔を上げ――
「……あがっ!」
――攣った。
腹筋の痛みにアオイは腹を押さえて横になった。
どうやら、この肉体はかなり運動不足らしい。
痛みに耐えながら、アオイは思った。
それはそれとして見るものは見た。
眼福だった。
泉に落ちても悔いはない。




