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しょうもなおじさん、ダンジョンに行く  作者: 埴輪庭


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しょうもなおじさん、ダンジョンに行く⑤

 ◆


 岩戸重工特殊部隊総部隊長、土門 兼次という男は自身の肉体の凡そ七割を機械に置き換えている


 度重なる死闘によって次々と“生身のパーツ”がダメになったからだ。


 体の七割が機械の者を“人間”と呼べるのだろうか? 


 土門はそう自嘲するが、周囲の者たちは土門をアンドロイドだとは思っていない。


 それは老いてなお盛んな闘争心ゆえであった。


 ──あの爺さんは偉くなっても前線から離れようとしないからなあ


 そんな風に呆れられるほどに土門は戦いを愛していた。


 そう、愛していた──過去形だ。


 いつの頃からだっただろうか。


 土門は生身が占める割合が少なくなっていくにつれて、それに比例するようにそれまで感じてこなかった恐怖のようなものを覚えるようになった。


 死ぬことが怖くなったといえばそうなのだろう、だが一般的に考えられるそれとは少し意味合いが異なってくる。


 土門の場合は肉体の死ではなく精神の死を恐れた。


 血と肉の割合が少なくなっていくつれて戦闘に際しての心の昂ぶりは小さくなり、電脳からはじき出されるタクティカル・メソッドは土門がこれまで培ってきた戦勘などよりよほど効率が良かった。


 しかし効率よく戦えるようになればなるほど、なぜか土門は自分が少しずつ無くなっていくような気がするのだ。


 そんな土門の恐れを見透かしたかのような“囁き”は、土門にとってひどく甘美な響きを伴っていた。


 ・

 ・

 ・


「抵抗しようと思えばできたのかも知れんなぁ」


 土門はそんなことを言いながら無造作に歳三に近づいていく。


 まあ歳三は聞く耳持たず拳を放つのだが。


 当たれば顔面陥没は必至だろう──が、それを土門は首のひねり一つでいなした。


「実際最初はそうした。部下共はさておき、儂をあんなモンでどうにか出来るものか」


 歳三からの追撃の次打。


 が、鈍い音。


 土門のまるで日常会話のような語りかけの最中に放たれた拳打が、歳三の鼻っぱしらを叩いて文字通り出鼻をくじいたのだ。


 歳三の反射神経は人知を超えているが、それでも躱せない。


「ほ、お主中々硬いの。桜の連中は儂のコレで頭を吹っ飛ばされたというのに」


 土門は嬉しそうに言う。


 歳三の鼻からツと血が垂れていた。


「カウンターってやつかい、爺さん」


 鼻から垂れる血をぬぐおうともせず、歳三は尋ねる。


「うむ。お主の拳骨ほどじゃなくとも中々痛いじゃろ」


 言いつつ流れるように歳三の正中線上に三連打。


 決して速すぎるという事はないのに歳三は躱せなかった。


 ──妙な動きだぜ


 何か仕掛けがある──それが何かはわからないが。


「力任せじゃ儂は殺せんよ」


 土門の業に歳三は翻弄されていた。


 ◆


 ──どんな技を使っても返される気がするな


 そんな事を思いながら、とりあえず殴ったり蹴ったりしている。


 そのたびに地面はまくれ上がり、摩擦熱であちこちがボウボウと燃えたり、大木がぶっ飛んだりしているが土門はクリーンヒットを一切許さなかった。


 まるで空気と戦っているようだと歳三は思う。


 対して、土門の一撃一撃は歳三からしてみればそこまで重くはないが、それでも少しずつダメージを与えていた。


「ぬう……」


 低く唸る歳三を見て土門は苦笑する。


「懲りないおっさんじゃな。まあ良いわ。……儂はな──」


「ぢェいっ!」


 話そうとする土門の顎を歳三の蹴り上げが捉える。


 しかし土門の頭は空高くぶっ飛んだりせず、後方転回するようにしてぐるんぐるんと回り、その場に着地した。


「力任せじゃ殺せんと言うとるだろうに……」


 呆れたように言う土門に──


「しゃおらァ!」


 とびかかり、宙空から叩きつけるように殴りつける。


 そこにわざはない。


 まさに土門の言うとおり、力任せのクソパンチでしかなかった。


 が、威力だけはあるので殴られた地面は爆撃でも受けたかのようにクレーターじみたものが出来る。


 そのパンチに押しつぶされたと見える土門だが──


「──足りねぇか」


 穴の底でぼそりとつぶやく歳三。


 すぐ眼前──土煙巻き起こる向こうに見える、2つの赤い光。


()()なる前なら儂もぺしゃんこだったじゃろうな。じゃが血肉通わぬこの身は既にダンジョンの干渉を受けておる。ましてや、力を地面に逃がしてやれば──」


 この通りよ、と歳三の額に下から頭突きが叩き込まれ、歳三は大きく仰け反った。


 出血するもダメージは小。


 しかし理屈がわからない。


 ──無傷かよ


 こと戦闘に関するかぎり、歳三は自身の力を過小評価しない。


 自分のパンチを受けてまともでいられるほうがおかしいのだ、と思っている。


 ならば種も仕掛けもあるのだろうが、それがわからない。


 わざを使っているのだ。


 ならば自分も何か業を使えばいいとは思うのだが、なんとなく歳三としてはそれは悪手な気がしてならなかった。力がより強い力にはかなわないのと同じように、業もより優れた業にはかなわない──歳三はそう思っているのだ。


 実際はどうであれ、歳三がそう思い込んでいるというところが肝である。


 しかし──


 いや、まてよと土門の顔をまじまじとみる歳三。


 額部分にはへこみがある。


 頭突きでへこんだとは考えづらいから、つまり先だってのパンチでへこんだのだ。


 歳三は勝機が見えた──ような気がした。


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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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