表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く  作者: 埴輪庭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

223/280

巣鴨プリズン②~歳三の場合~

 ◆


 挑むと決めたのならば、と歳三はStermの依頼掲示板に目を通す。


 実生活は甚だ気の利かない歳三なのだが、ダンジョン関連では多少気を回す能もある。


 見れば、巣鴨プリズンダンジョン関連の依頼も僅かではあるがアップされていた。


 ちなみに依頼は複数でも同時に受注することができるが、問題はそれを達成できるかどうかである。


 一旦受けた依頼を破棄するとなるとペナルティが課せられたりする。


 破棄に至る経緯に情状酌量の余地がないとなると、場合によっては刑事罰を受けたりもするのだ。


 自分の実力と依頼の難易度を照らし合わせ、達成可能かどうかを判断する能力は探索者にとって必須といえよう。


 もちろん歳三にそんな能力はないため、明らかに簡単に達成できる依頼以外は受けないで来たのだが……


「やっぱりよくわからねぇな。今井さんに聞いてみるか……」


 と、早々に自己判断を諦めて端末を手に取る。


 実のところ歳三も "難関ダンジョンである" という話くらいは聞いた事があるものの、巣鴨プリズンダンジョン自体には行った事がないのだ。


 友香に目を通してもらい、歳三に可能な依頼を選別してもらう──……それが歳三の思惑である。


 友香からの連絡は先の探索以降は来ていない。


 専属オペレーターの中には担当する探索者と個人的な関係を深める者もいるが、あくまで仕事のみの関係に留める者もいる。


 友香は後者だ。


 ◆


 う~ん、と今井 友香は伸びをした。


 その表情はお世辞にも機嫌良くは見えない。


 ここ数日、今井 友香は歳三に仕事を振る事ができていない。


 理由はいわずもがな、協会が割れた事に対しての余波である。


 前協会長望月が去った事で、後を追う様に協会を辞していった上級の探索者が少なからず居たのだ。


 ダンジョン探索者協会は全国の企業、個人から数多の依頼を受注し、それを探索者に振っているのだが、難関ダンジョンの素材を手に入れる事ができる探索者の絶対数が減ると、それだけ依頼達成の効率が下がる。


 効率が下がれば依頼者からの信頼を失い、別の探索者組織へ仕事が振られたりもするだろう。


 それはバックに日本国を据えている協会にとっては甚だ不都合な事であった。


 国としては探索者協会という組織を通じて探索者達を管理し、国が抱える武力として取り扱いたいという思惑があるからだ。


 ・

 ・

 ・


 協会から宛がわれたオペレーションルームから退室し、廊下の自動販売機でホットコーヒーを買う。


 ──何だか疲れたなぁ


 そんな事を思うが、疲れの原因は明らかだった。


 担当探索者が増えたのだ。


 歳三の外に、丙級探索者が一人、そして丁級探索者が二人。


 合計4人である。


 本来、専属オペレーターというのはマンツーマンが基本とされていたが、人員調整の為にこれは仕方がない措置であった。


 ともかくも友香はこの四人の探索プランを練る必要がある。


 しかも、歳三はともかくとして他の三人が非常に、なんというか──……


 ──個性的、なんですよねぇ~


 何となく温かい缶を頬に当て、友香はため息をついた。


 あれはいやだこれはいやだ、危ない危険だデンジャーです、そんな理由でプラン設定が難航し、歳三用の難易度ルナティックな探索プランを練る事ができないでいた。


 頬がほかほかと温まり、多忙で瑞々しさを失った心が気持ち癒される。


 友香は何となく他の三人の一人、一番面倒くさい丙級探索者の男の事を思い出した。


 ・

 ・

 ・


 ──『いや、この先に進むべきじゃねえな。俺には分かる。風が、囁いてる。"危機" ってやつを。優れた探索者にしか聴こえない囁きだ』


 ──『いや、その依頼は別の奴に振ってくれ。俺は生物系のモンスターは好きじゃねえんだ。モンスターの血の匂いがついちまう。あ? 潔癖症? ……違うね。血臭は俺の中のウルフを目覚めさせ……おい、聞いてるのか?』


 ──『おい、アンタは桐野のヤロウから何か言い含まれてるんじゃないのか? 俺に何かをさせたい、そんな精神の波動を感じるぜ』


 ・

 ・

 ・


 担当した丙級の男は、始終そんな調子でしゃべくり散らす。


 男は思わせぶりな事ばかりいうが、友香には何となく分かるのだ。


 "コイツは適当に思いついた事を適当に口走ってるだけだ" と。


 感覚でそれが分かるのだが、その言が的を得ている事も多々ある為にどうにもやりにくい。


 逆に、と友香は歳三の事を考えた。


 歳三は逆に聞き分けが良すぎる部分がある。


 アレを受けて──ハイ


 これがお勧め──OK


 もう少し奥部まで探索しよう──YES、YES、YES


 何でもかんでも受け入れてしまう。


「それはそれで何となく歯ごたえがないんですけどね。まあいいか」


 これほどの強者が死を感じる程の試練、修羅場、そこを乗り越えてより強く美しく輝いた瞬間を目に収める事が出来たなら、と友香は思う。


 ──その時は、死んでもいいかも! 


 と、やや不穏な事を考えた所で端末が震えた。


 ◆


「えええ~!? 巣鴨プリズン!?」


 友香は思わず大声を出してしまった。


 無理もない、巣鴨プリズンダンジョンは特殊なダンジョンである。


 探索者稼業をしていく上で、天然自然に「さあ巣鴨プリズンダンジョンへ行こう!」とはならない。


 通常は考えもしない、いや、考える事が出来ない様になっている。


 もし探索者が巣鴨プリズンダンジョンへ行こうなどと思い立ったのならば──……


 友香は慌てて歳三へ通話を要請し、声を押し殺して端末越しに問いかけた。


「佐古さん、もしかして何かやらかしました……?」


 端末の向こうで歳三の「ウッ」という声が聴こえる。


「どうして、それを」


 歳三の疑問に、友香は刺々しい声で答える。


「罪人しかあそこに行こうとは思わないからですよ、そういう場所なんです。つまり巣鴨プリズンへ行こうとした時点で佐古さんは犯罪者なんです。何をしたんですか?」


 その後しばらく沈黙が続き、やがて観念をしたように歳三の沈鬱な声が返ってきた。


『俺は……一人の女性の人生を、壊したンです』


「それは……性犯罪ですか?」


『……へぇ』


 よりにもよってレイプか、と友香は俯く。


 人生を壊す程の性犯罪、これはもうレイプか、それに準じる何かであることは明白だった。


 探索者による一般人のレイプは重罪だ。


 場合によっては "処理" される恐れもある。


 それ以上に、友香にはレイプを格別忌み嫌う理由があった。


 痛々しい沈黙が二人の間を流れ、友香はぽつりと言った。


「ただ力を振るう事だけを覚えましたか……。残念です。佐古さんとはもう一緒にやれません……」


 でも、と友香が続ける。


「佐古さん、あなたは女性の天敵の様な存在です。しかし自分の行いを悔いる程度には救い様があるみたいですね。巣鴨プリズンの影響圏内に在りながら自身の良心に何の痛痒も覚えない人もいます。それこそが真の悪といえるでしょう」


 歳三は答えない。


「……佐古さん、私からの最後のお仕事を依頼しても?」


『へい』


「巣鴨プリズンダンジョンの最奥部で "在監証明書" が受け取れる筈です。それを受け取り、戻ってきてください」


 在監証明書とはこの人物は〇〇~〇〇の期間、刑務所に居ましたよと証明する書類である。出所した際、各種の身分証明書が失効していても、この在監証明書があれば福祉の援助を受ける事ができたりする。


 巣鴨プリズンダンジョンに於いてそれは禊の証だ。


 歳三に否やはない。


 自身の抱える闇と向き合う時が来たのだ。

ここ数日、短篇を2本書いてます。

どっちも恋愛?系だとおもいますが、そっちもよければ読んでくださーい。


愛、螺旋(現代恋愛)

常識的に考えろ、と王太子は言った(異世界恋愛)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20250508現在、最近書いたやつ


最新異世界恋愛。ただテンプレは若干外して、父親を裏主人公としました。裏ではヤクザみたいなことしてるパパ。
完結済『毒蛇の巣』


先日、こちら完結しました。47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く



女の子、二人。お互いに抱くのは好きという気持ち。でもその形は互いに少し違っていて
完結済『好きのカタチ』

男は似非霊能力者のはずなのに、なぜかバンバン除霊を成功させてしまう
完結済 GHOST FAKER~似非霊能者なのに何故か除霊してしまう男~

他の連載作


現代ダンジョンもの。もなおじは余りメインキャラが死なないが、こちらはバシバシ死ぬ
【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】

愛する母に格好いい姿を見せたいがために努力を重ねた天才──悪役令息ハインのマザコン無双伝
悪役令息はママがちゅき

戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
これで今井と縁が切れると嬉しいんだが そうはいかんかなー
もし歳三がそういうことをして、五体満足なレイプで済むお相手がどこにいるというのか
ただ力を振るう事だけを覚えましたか……。残念です。佐古さんとはもう一緒にやれません…… このセリフを書きたかっただけだろと思う一話でした。このセリフ渋いよね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ