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しょうもなおじさん、ダンジョンに行く  作者: 埴輪庭


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蒲田西口商店街ダンジョン④

 ■


 "蒲田西口商店街ダンジョン" はJR蒲田駅の西口を出て左手に見えるアーケード街がダンジョン化したものだ。


 この地にはかつて、サンロード蒲田とサンライズ蒲田という二本のアーケード街が平行に伸びていた。しかし、ある日突然 "変異" が発生し、二本のアーケード街を飲み込んでしまう。

 結句、サンロード蒲田とサンライズ蒲田は物理的な常識を逸脱し、それぞれがねじれ、歪み、重なり合い、環状のダンジョンと化してしまった。


 具体的に言うと、それぞれ長い一本道だった二つのアーケード街が、まるでドーナツのように丸く捻じ曲げられ、二重丸を形成するような形状へと変貌したのだ。


 つまり"蒲田西口商店街ダンジョン" とは、サンロード蒲田ダンジョンとサンライズ蒲田ダンジョンの二つを内包する特殊なダンジョンという事になる。


 外側の環を成すのがサンロード、一方、内側の環を構成するのがサンライズで、外側と内側の環はそれぞれ独立したダンジョンとなっているが、サンロードからサンライズへと抜ける通路が随所に配置されている。これにより探索者たちは外環と内環を自由に移動することが可能となっている。


 ただし、外環と内環はそれぞれ難易度が異なる。

 歳三達がいる場所…外環であるサンロード蒲田ダンジョンは丁級ダンジョンだが、内環であるサンライズ蒲田ダンジョンは乙級のダンジョンとなっている。


 当然出現するモンスターの危険性も全く異なるが、幸いにも内環から外環へと出てくる事はない。

 ダンジョンから外界にモンスターが溢れ出てくる事がない様に、とあるダンジョンから別のダンジョンへとモンスターが移動する事もまたない。


 ・

 ・

 ・


『テキセイッ…ハンノウッ…!』

『戦闘終了。当機に損傷無し』



『ゼンポウッ!ゼンポウッ!ハンノウ…サン!』

『戦闘終了。当機に損傷無し』



 鉄衛が感知し、鉄騎があっという間に片づける。

 そんな戦闘とも言えない戦闘が何度か続いた。

 呆気ない話ではあるが、これは当然ともいえる。


 サンロード蒲田ダンジョンは丁級ダンジョンだが、 "桜花征機" が開発したこの二機に関しては丙級探索者を想定して設計、開発されているからだ。


 丙級探索者が丁級ダンジョンに挑めば、まぁこうなるだろうという当然の結果であった。


 それはともかく、と歳三は鉄衛をじっと見る。


 二足歩行、ドーム型ヘッド。

 よくよく見れば可愛いのではないか?

 凛々しい女騎士の様な鉄騎は格好いいし素敵だと思うが、鉄衛のどこかとぼけた声も心を癒される。

 鉄衛の頭部の丸みには知性と温和さが宿っている様な気がしないか?


 歳三はそんなことを思いつつ表情を綻ばせる。

 そんな時…


『マスター』


 鉄騎から呼びかけられる。

 これは探索中で初めての事だった。

 歳三は吃驚し、アアだとかウンだとか唸りながら鉄騎に顔を向けると、ほぼ同時に鉄衛が騒ぎ出す。


『ヴィイイイ!ヴィイイイ!ゼンポ!ゼンポ!キケン!キケン!』


 くん、と歳三の鼻がひくつく。

 強い獣臭を捉えたのだ。


『"SKB-001"よりデータが送られて来ました。前方よりデータにないモンスターの接近を感知。距離150m、110m、50、20、今!』


 四足歩行の獣…の様な影が凄まじい速度で突進してきた。

 大きさは全長約6m。


 歳三の貫手が伸び、獣を迎え撃つ。

 直撃すればタングステン合金をぶち抜く必殺の一撃はしかし、急激な直角ターンにより空振りに終わった。

 いや、それだけではない。

 歳三の手の甲にはうっすらと傷が残されているではないか。


 ほう、と歳三は瞠目する。


 殺傷する積りで放った攻撃をかわされたのは久しぶりだったからだ。ましてや傷つけられた事などはここ暫く経験がない。

 歳三の心を傷つけたいならその辺の小学生でも出来るが、肉体を傷つけるとなるとこれはかなり難しい。


 視界の横で影が蠢く。

 来るか、と歳三がじりと足を動かすと、鉄騎が弾ける様に歳三の前に飛び出した。


 キュイン、と鳴るやいなや、鉄騎の腕部のタクティカル・ダイレクショナル・ジョイントがその可動域の広さを誇示する様に前後左右にうねり狂い、次瞬、空中に描かれたのは鈍色の有機的な剣閃であった。


 血飛沫が宙を舞う。


 鉄騎が斬撃を連続で放ったのだ。

 歳三の目には鉄騎の放った斬撃は、その全てが命中した様に思えるがしかし、ブレードで切り刻まれた筈の影…全長6mの巨大な化け物鼠は地面に着地し、やや前傾姿勢で歳三達に憎悪に満ちた視線を向けている。


 ──ただのイレギュラーじゃあ無いな


 歳三は警戒度を一段階上げ、素早く周辺に目を配る。

 気配を探るまでもなく、キイキイと甲高い啼き声がそこかしこから聞こえている。商店街のそこかしこに赤い瞳が瞬いていた。


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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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