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しょうもなおじさん、ダンジョンに行く  作者: 埴輪庭


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蒲田西口商店街ダンジョン③

 ■


 歳三と二機のロボが蒲田駅西口商店街に足を踏み入れると、まるで後方から夜が昼を浸食する様に "世界の色" が変わっていく。


 ──日常から非日常へ、か


 歳三は珍しく何やら雰囲気がありそうな事を考えたが、これはダンジョン探索者協会の探索者募集広告のキャッチフレーズである。

 このキャッチフレーズは大変異以降、全く変わらず使われ続けており、歳三はこの言を見て探索者になる事を決意したのだ。


 歳三がまだ自身が青年と呼ばれる年頃であった頃を思い出していると、傍らから無機質な機械音声が聞こえてきた。


『戦闘システム起動…稼働試験プログラムを開始します。追加アプリケーションを起動。マスター登録をして下さい。…注意、マスター登録は仮のものとなります。稼働試験プログラム終了後に登録は抹消されます』


『タンサクシステム…キドウ…カドウ…ケン…シマ……ツイ…キドウ!キドウ!マス…サイ…チュイィ、マス…ロクハカリノ…ス!カドウ…ラム、ゴニ、ロクハ…マッショウ!マッショウ!』


 前者が"SKR-001"『鉄騎』のシステム音声で、後者が"SKB-001"『鉄衛』のシステム音声であった。


 両機の音声の明瞭さに差があるのは、『鉄衛』は情報の収集に多くのリソースを使う為、言語機能の拡充に回す余裕が無いからだ。

 戦闘と、探索・索敵、どちらがデータを多く食うかは考えるまでもない。


 歳三はそれぞれのセンサー・アイの前で目を大きく開いた。

 佐々波から仮マスター登録というものが必要だと聞いていたからだ。マスター登録とは、ロボットなどの自律的な機械が特定の人物マスターを認識し、その人物の指示に従うように設定することを指す。


 この登録が行われることで、ロボットはマスターからの命令を優先的に受け取り、実行することが可能となる。

 戦闘行為や索敵などの機能を行使をするには、マスター登録がどうしても必要となるので、この場においては歳三が一時的な両機のマスターとなる。


 これは暴走に備えての事だ。

 ダンジョンが人間の精神に干渉する事は既に知られている。

 ではロボットなどに対してはどうなのか?

 仮にAIが何らかの原因で "狂って" しまったなら?

 それを危惧した "桜花征機" は、ロボットがその機能を十全に発揮する為の制限を設ける事にした。


 二機は歳三の網膜を読み込み、仮のマスター登録を完了させる。

 ロボットのマスターとなるというレアな経験に、歳三の精神世界では満開の桜が咲き、このような素晴らしい依頼をもってきてくれた "桜花征機" への称賛と賛美が無限に木霊する。


 ともあれ、歳三の仮マスター登録も首尾よく完了し、一人と二機の探索が始まった。


 二機は『鉄衛』が先行し、その後に『鉄騎』が続く。

 その後ろは歳三だ。一人と二機は、まるでRPGの様に縦隊でダンジョンを進み始める。


 さて、とワクワクしながら二機の行動を見守っている歳三。

 だがそれで周辺警戒を怠るわけにもいかないので、歳三は普段は使わぬ技を繰り出すことにした。


 歳三が袖をまくると、濃い腕毛に覆われた逞しい腕が顔を見せる。

 腕毛の一本一本はまるでブラック・ダイアモンドの様に艶々と輝いている。さらりと撫でれば心地よく、しかし強烈な反発力で撫でた方向へと反発する。毛先から根本に至るまで生命力が漲っている証だ。


 だがその腕毛で一体何をどうするというのであろうか?

 答えは索敵だ。

 普段歳三は索敵などという真似をしない。

 必要がないからだ。


 しかし現在は必要だと歳三は考えた。

 歳三は用便の後、便座をしっかり下げておく事を忘れたりするほど破滅的に察しが悪いが、気配の察知というような事は熟練の域に達している。


 猫の髭と同じ原理だ。

 歳三は全身に体毛が濃く繁茂しており、これを利用する。

 体毛一本一本が風になびき、微細な空気の流れや振動を察知するのだ。


 探索者達の中にはワケの分からぬ力、理屈で索敵をする者達もいる。例えば先立って救助した鶴見翔子などは、精神の網を周囲へ張り巡らせて接近してくる異物を察知する。

 後は特に理屈はないが、なんとなく敵意が分かる…という者もいる。歳三にはその辺の理屈は全く理解できない。

 納得できないのだ。


 歳三は不器用な男であるので、自身が納得できない事は例えひっくり返ってもフルチンになってもできやしない。

 しかし、納得すればその理屈が多少強引であっても出来る。


 ──風猫


 これぞ歳三の数少ない探索技だ。

 体毛を風に晒し、気配を探る。

 歳三はこの技について、とあるムーチューブ配信…つまり動画配信からインスピレーションを得た。


 シベリアンハスキーと、種類は分からないもののとりあえず可愛い猫が、異種であるにもかかわらずまるで恋人同士の様に仲むつまじくしている様子が人気を博している動画である。


 歳三の腕毛が風に触れ、揺れる…揺れる…

 敵の気配は…


 ──上か!


 歳三がハッと上を向く。

 牙を向いているナニカの姿が、上方から落下しつつ迫ってきていた。歳三は口中に息を溜め、そのまま圧力をかけて吹き出す事で圧縮空気弾を放とうとした。


 その名も


 ──口噛み


 沖縄のドキュメンタリー番組からインスピレーションを得たこの技は、空気をまるで "口噛み酒" の様に噛みしだき、吐き出す。

 噛み方次第では散弾の様に放散させることもできるが、威力は大分落ちる。歳三は大きな空気の塊を発射しようとしていた。


 とはいえ、こんなものは女子供の護身用の児戯に等しい。

 威力も精々暴徒鎮圧用のゴム弾程度だが、奇襲を阻害するくらいは出来るだろうと歳三は考える。


 もし歳三が一人で探索していたら、こういった場面では通常は "望月" を使用する。足刀が回転軌道を描く関係上、対空の技としても汎用性が高いからだ。


 しかし今回は護衛依頼、更に戦闘行為は極力ロボットに任せなければならない。だから殺傷性の低い手妻の様な技を選択したのだ。


 まあ、そうは言うものの結局 "口噛み" が発射されることはなかった。二機のロボットが自身の役割を全うしたからである。


 歳三に数瞬遅れて、先行する "SKB-001"『鉄衛』がドーム状の頭部をこちらへ向け、それとほぼ同時に銀光が閃き、紅い残光が箒星の不吉な尾の様に残光を宙空に刻む。


 歳三が敵を察知してからジャスト0.5秒後。

 歳三の目の前に、子犬程の巨大な鼠が胴体を真っ二つにされて斃れている。しかし歳三の目を引いたのは巨大鼠の死骸などではない。


 彼の興味は二機のロボにある。


 眼前には "SKR-001"『鉄騎』がこちらを向いて立っていた。

 手刀を一文字に振り切ったような体勢をしたままで。



『戦闘終了。当機に損傷無し』



『鉄騎』のシステム音声が戦闘の終了を告げると、頭部の紅いモノアイが妖しく輝く。その妖光はまるで歳三に自身の業前を自慢しているかのようでもあった。


 歳三がちらりと視線をずらせば、『鉄騎』の腕…肘から手首部分にかけて、いつのまにかスポーツ用品メーカーである『 MIKE 』のスウッシュロゴの様な湾曲したブレードが装着されている。刀身には銀メッキの様な塗装が施されており、非常に美しい。


 なるほど、と歳三は感心した。

『鉄衛』が奇襲を察知し、その情報を『鉄騎』へと伝えたのだ。『鉄騎』も『鉄騎』で無駄な動きなしで瞬時に対応をした。


 剣はどうやら内蔵型らしい。

 それがまた男心をくすぐるカラクリで、かっこいいロボットが格好いいだけじゃなく強い事に歳三は嬉しくなる。

 ただの格好良さではない。

 凄まじいまでの格好良さが『鉄騎』には在った。


 歳三の戦闘能力は確かに『鉄騎』など歯牙にもかけぬであろう。

 だが、先程『鉄騎』が魅せた、紅いモノアイの光を宙空に残しつつ、敵を美しく一刀横断というのは歳三にはひっくりかえっても出来ない事であった。いかんせん、不細工すぎるからだ。後、目も光らない。


 だが何より嬉しいのは、救ってもらった事であった。

 勿論先ほどの奇襲は歳三一人でもどうとでも出来た。

 出来たが、そういう問題ではないのだ。

 ではどういう問題かと問われれば歳三には説明ができない。


 しかし歳三は、胸の奥にほんのり温かい不定形のナニカを感得していた。

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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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