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妖精の村の村長の家でのこと。

 妖精の村長の家は、妖精の村の森の奥にある。


 一見、壁かと思うほどの幹を持つその木は、普通の場所にあれば御神体と言われるだろう太く高い大木。胴体の中央にポッカリと空いた穴の中に家は作られており、小さな妖精だけでなく普通の人間でさえ優雅に暮らせそうなほど広い。大木自体が普通の家の何件分の幅があるから、見上げると要塞のようでもある。


 入口は頑丈な焦げ茶のドアで閉じられているが、これはあくまで雨風を防ぐためだけにあり、人や妖精が出入りしようとすると、そのドアを開けることなく素通りできる仕組みだ。


 それならドアの形にしなくても良かったのではと村長に言ってみたことがあったけれど、こういうものは形式と風情が必要なのだフォフォフォと笑われただけだった。


 村長の家のある大木を前にして、マリウスは足を止めてエイダン王子を振り返った。相変わらず、エイダン王子を見るマリウスの視線は厳しい。

「繰り返すが、用事が終わればさっさとこの村から出ていってくれ。1分1秒でもあんたの顔は見たくないんだ」

「害虫のような扱いだな」

「害虫の方がマシだ」 

 マリウスの口から出る言葉に、私は驚きを隠せなかった。

 マリウスらしからぬ言い方。

 過去に戻る前からマリウスがエイダン王子を好ましく思っていないことは知っていたけど、ここまでマリウスが嫌悪を顕にしているところを初めて見た気がする。


 エイダン王子は、魔王になったマリウスに『呪い』をかけられたと言っていた。半ば信じられなかったけれど、このマリウスのエイダン王子への嫌い方を見ると、真実味を帯びてくる。


 その点、エイダン王子は何百年生きているかわからないが年の功というか、マリウスの悪態をあまり気にする様子は見られない。むしろ、マリウスのことをじっと見て、まるで長年の友のように自然と声をかけた。


「マリウスの記憶は、どこまで戻ったんだ?」


 機嫌の悪いマリウスの眉間に、見たことないくらい深く皺が刻まれた。肌がピリつくほどの怒りをマリウスから感じる。

「、、、、、人の話を聞いてるのか。その顔は見たくないって言ってる。気安く話しかけるな。そもそも名前で呼ばれたくないんだが」

 だがエイダン王子は動じない。 

「魔王のことは?何か思い出さないか?」

「魔王のことなど知るか。夢で見るのはアグノラのことばかりで、、、」

とマリウスが言った瞬間、私と目があって、マリウスの顔がみるみる赤く染まった。


 え、何?

 今のって、私、普通に告白された感じ?


 嬉しさと、告白もどきをされた照れ臭さで私の顔も赤くなってしまっているだろう。

 

 私とマリウスが二人して照れているのを、エイダン王子は苦笑いで間に入ってきた。

「そういうのは二人きりの時にしてもらおうか。それよりも、私には勇者マリウスに聞きたいんだ。貴殿とは話す機会が殆どなかった。私へのその態度から、この先も話す機会は少なそうだ。だからこそ、今、貴殿に聞きたい。ーーー魔王との関わりは本当に思い出せないのか?」

 エイダン王子の言い方に、マリウスは首を傾げる。

「俺と魔王の関わりって、その言い方はおかしいだろう。勇者は魔王を倒す存在で、魔王はその相手。それ以外に何があるっていうんだ」


 マリウスの表情は、隠し事をしているようではなかった。本気でそう思っているのだろう。


 エイダン王子が聞きたいことは私にはわかる。

『マリウスの顔をした魔王に、エイダンは呪いをかけられた』のだから。

 マリウスと魔王の間に敵対関係以外の何かがあるかもしれない。その可能性を考えて、エイダン王子はマリウスに聞いているのだろう。


「あの日。勇者パーティーが魔王の住み処まで行った時のことは思い出せたか?」

「魔王の住み処、、、」

 マリウスは呟いて、少し記憶を辿る仕草をしてみせる。

「ーーー暗いーーーとても身体が重い、、、場所のことか」

「そう!そうよ。本当に思い出したのね!」


 2人の会話に割り込んだ私は、弾かれるように顔をあげてマリウスを見つめた。マリウスが記憶を思い出したと言われても、当時のマリウスとは性格が違うからピンとこなかった。思い出したなら、性格も戻りそうなものだ。けれど、あの魔王の住み処の独特な特徴を言えるということは、本当に思い出したのだと納得できた。


 マリウスは頭を少し抱えて、頭痛を堪えるように片眼を細めた。

「ーーーまだ、そこらあたりは頭にモヤがかかってるみたいにおぼろげではあるんだ。俺はーーー俺達は魔王を倒すために住み処まで行って、、、、俺は」


 マリウスの視線が、目の前ではないどこかに焦点を合わせて、ピタリと止まった。


「行って、、、俺は、、、」

 マリウスはもう一度同じことを呟いて。

 息を短く吸い込んだ。

 一瞬、驚いた顔をしたようにみえたけれど。


 マリウスは急に、ぐらりとその場で倒れこんだ。

 

「っマリウス!?」

 慌てて私は倒れたマリウスに駆け寄る。

 悲鳴に似た声が私の口から零れ、私は真っ青になったマリウスの頬を手で包んだ。

 心臓は動いている。

 

 魔王の住み処でのマリウスの死が、私の頭の中にフラッシュバックしてきて眩暈がする。私も一緒に倒れてしまいそうだった。


 大丈夫、と私は自分に言い聞かせる。

 あの時とは違う。

 今の私には上級の回復魔法が使える。

 寿命以外の傷や病気なら完全に治すことができる。

 マリウスは絶対に死なせない。

 回復魔法を一度使ってみたけど、マリウスは目を覚まさなかった。病気ではなさそうだ。


 苦しそうにはしていないマリウスの呼吸に、自分自身の落ち着きを取り戻しつつ、私は倒れたマリウスを支えようとマリウスの腕を引っ張る。

「ーーーうっ!ーーー重い、、、っ」


 鍛え上げてがっしりと引き締まったマリウスの身体はかなり重く、私には腕さえも動かすことはできなかった。


「マリウス?」


 低い声が巨大な木の中から聞こえて、私はそちらを振り返る。

 扉の前にいたのは、長い黒髪を1つに括った長身の男。青と深い緑のオッドアイが特徴の、彫刻のように顔立ちの整ったその人は、驚いている声を出したのに全く表情は変わらなかった。


「オスカー」

 私はその人の顔を見て心からホッとした。こんな無愛想な人の顔を見てホッとするなんて、と自分自身で可笑しく思うほどに。


「騒がしいから来てみたら、これはどういうことなんだ?何故マリウスが倒れている」

「私もわからないの。急にマリウスが倒れて」

 狼狽えている私の頭に、オスカーはポンと手を置いた。

「マリウスは大丈夫だ。魔力は安定している。体調の問題ではなさそうだ」

 ちらりと私の横に立つエイダン王子を確認して、オスカーは視線で促す。

「マリウスを倒れたままにはできないだろう。俺が運ぶから、中に入れ」

 それはエイダン王子も、ということなのだろう。


 長身だが線の細いオスカーでは、筋肉の塊のようなマリウスを抱えることはできないと思ったのに、オスカーは苦もなくマリウスを抱えあげて自分の背に乗せた。


 びっくりしている私の表情から、オスカーは私の考えていることを悟ったのだろう。

 無表情ながら、わずかに眉が寄っていた。

「魔法を使うのにも体力が必要だ。身体作りは欠かしていない」

「私は何も言ってないわよ」

「目がうるさいんだ」

「何それ。意味わかんない」

 オスカーの小言に、つい笑顔が浮かぶ。

 

 勇者パーティーの時は、オスカーは何を考えているのか全くわからなかったし、そもそも私と目が合うこともなかった。

 かなり嫌われていたのだと思うけど、会話をした記憶も殆どない。

 そんなオスカーと自然に会話しながら隣に並んで歩いていることも不思議だ。


「ーーー来ないのですか、エイダン殿下」


 立ち止まったまま歩く気配のないエイダン王子に、オスカーが王子の名を呼んだことに私もエイダン王子も目を見開く。


「オスカーも記憶が戻ったの?」

「記憶ーーーというのは、エイダン殿下のことか?戻るも何も、エイダン殿下は有名なんだから、知らないはずがないだろう。誰よりも多忙な人のはずだが、それをおいてここにいる理由は気になるがな」


 オスカーは普通に話をする。

『記憶が戻る』という言葉に全く反応しないところを見ると、オスカーは記憶を取り戻したわけではなさそうだった。


 オスカーは大賢者であり、かなり強力な魔法使いだ。魔力が強すぎると記憶は混乱しやすいらしい。

 オスカーが記憶を取り戻すのは難しいかもしれない。


 私はオスカーに、魔王について妖精の村長に話を聞きに来たことを簡潔に説明した。


 オスカーはちらりと私を見て、マリウスを肩に乗せたまま、また私の頭に手を置いた。

「アグノラは大丈夫か?随分と疲れた顔をしている」


「あ。う、うん。大丈夫。ありがと。大丈夫よ」

 オスカーは鋭い観察力を持っている。ちょっとしたことも気付いてしまう。


 勇者パーティーの時もそうだった。

 苦しむ民に対して、直接はマリウスが、裏ではオスカーが支えて、皆の苦しみを少しでも減らそうと配慮してくれていた。


 オスカーは視線が合うと、綺麗なオッドアイの瞳が優しく緩んで見える。

 私の気のせいかもしれないけれど、無表情の中で私を見る優しい瞳に、時々ドキリとすることがある。


「ーーーなるほど。そういうことだったのか」

 まだ動かずに立っていたエイダン王子が、ポツリと呟いた。


 大木の穴に通じる扉までは、大木をぐるりと回る木製の螺旋階段を登る。 

 私達が階段を上り始めると、ようやく動き出したエイダン王子は、並んで歩く私とオスカーとは少し離れた距離を保って後ろをついてくる。


 見知らぬ人間に気後れするタイプでもないし、むしろ何か観察されているような雰囲気で私達を眺めていた。


 背の高いオスカーが、私の耳に近づくために屈んで顔を寄せた。オスカーが研究している薬品の香りだろうか。独特な、草木にありがちな匂いがする。

 

「アグノラ。エイダン王子はもう、大丈夫なのか?」

 私にだけ聞こえる低い声で、オスカーは私に尋ねる。

 少し前、私がエイダン王子の姿をみてから精神的に不安定になってしまったのを言っているのだ。


 あの時は本当にエイダン王子に会うことが怖くて気が狂いそうになっていたけど、昔とは違うことを知って、エイダン王子が傍にいてもこうして穏やかな気持ちでいられている。


「大丈夫になったみたいなの。心配してくれたんでしょ、ありがと」

「ーーー別に心配はしていない。また落ち込まれたら面倒だからだ」

 私はオスカーの不器用な言い方にふふふと笑う。

「オスカーって顔に似合わず、その場の空気を敏感に察知するよね。全く気にしなさそうなのに」

「、、、無愛想で悪かったな」


 言葉通り無愛想に呟いたオスカーは、それでも瞳は優しい。

 傍にいる時の安心感といい、お兄ちゃんがいたら、こんな感じだろうかと思う。


「今は何の研究をしているの?」

「この前、城下町の外れで飢餓で苦しむ子供が倒れていたのを見つけたんだ。しばらく世話をしていたが、ずっと世話をするわけにはいかないからな。妖精の村の植物は栄養が豊富だろう。それに魔力を宿すことで、少量の植物でも栄養豊富で空腹も満たせる食べ物が作れないか研究している」


 オスカーは私にも沢山話してくれるようになった。


「すごい。それができれば空腹で苦しんで死んでしまうような人が減るかもしれないのね!」

「まだまだ課題は多いがな。栄養を保存するだけでなく、内部で増幅させる魔法の構築がとにかく難しい。どの植物が一番適してるかも、慎重に選別しなければならんしな」


 あぁ、オスカーから漂うこの独特な匂いは、植物をすりつぶした時のものかと合点がいく。


「私にできることがあったら何でも言ってね。そんな素敵な研究なら、私もめちゃくちゃ頑張っちゃうから」

 私がにかりと笑うと、オスカーはほのかに口の端をあげて、また私の頭をポンポンと叩いた。

「正直助かる。その時は言う」

「うん」

 こんな美形のお兄さんに頭を撫でられる日が来ようとは。人生何があるかわからないものだ。


 私達は村長の家の扉の前までたどり着き、まだ螺旋階段を登るエイダン王子を待った。

 エイダン王子は階段を登る姿まで気品があって美しい。

 輝かしいほどの美形2人が傍にいる不思議。

 私にはマリウスが一番の太陽だけど。

 オスカーの肩の上で眠るマリウスを見て、私はその頬に手を伸ばす。マリウスの体温を感じるくらい近づいたところで、私は手を引っ込めた。

「エイダン王子とな」 

 妖精の村長がひょっこりと扉から出てきたからだ。

 村長の小さな身体。つるりとした頭と真っ白な長い髭。杖をつきながら宙に浮かぶその姿は、異様そのもの。


「そなたの噂はワシの耳にも届いておるよ。一度会ってみたいと思うておった」

 ヒョヒョヒョと笑い、エイダン王子と私達を家の中に招き入れる。


「おや、そこのはマリウスか。気を失っておるようだが。ーーーふむ、精神が心の奥に入り込んでおるな。そこまで入り込んだら意識を保つのは困難じゃったろうて」

 

 村長はマリウスの傍まで飛んでいき、杖を揺らして他の妖精達を呼んだ。

「村長様、いかがいたしましょうか」


 妖精たちは皆小さい。手のひらサイズの村長のお世話係がずらりとやってきて、村長の下に膝をつく。

「この者に寝床を準備せよ。寝ておけば、おいおい目が覚めるじゃろうて」

「御意」


 小さい妖精達がわらわらとマリウスの周りに集まり、「せーの」と声を掛け合いながら人間でも重いマリウスの身体の下に入ってマリウスを運んでいった。


 か、可愛い、、、っ。


 うっかり妖精達についていきそうになるのを、エイダン王子に止められる。

「アグノラはここにいてくれないか。魔王について話を聞いてくれるのだろう?村長に挨拶をしたいのだが、紹介してくれないか」

「あ。そうでしたね」

 本来の目的を思い出して、私はその場に足を留める。


「でも、村長はエイダン王子をご存知でしたね。紹介するまでもないのでは?」

「形というものは大切だよ」

「そうですか」

 私は村長に向き合い、エイダン王子の方に手を向ける。

「村長。こちらが『この国』の第二王位継承者のエイダン殿下です」

 私が紹介すると、エイダン王子は見惚れるほど凛とした姿勢と綺麗な作法を持って、村長に向かい合った。

 腕を前に曲げて胸に手を当てる。

 首を軽く曲げて目を伏せた。

「私はエイダン・ジャル・ローゼン・ラカマシア。貴方様は妖精王サイモン殿とお見受けします。お目にかかれて光栄です」


 エイダン王子の敬意を払うその態度に、私はぎょっとして目を見開いた。

「妖精王、、、?」


 この、ど田舎隠居風のお爺さん妖精が?

 とある妖精の村の村長でしょう?


「ふぉ、ふぉ、ふぉ。久しく呼ばれなかった名じゃな。エイダン王子。そなたの叡知の噂は、ただの噂ではなかったということじゃの」

 妖精の村長は、自分の長い髭を撫で付ける。


「ーーーラカマシアーーーか。なるほどなるほど。そうか、お主は『覚えて』おるのじゃな。かつてこの国にも名前があった。いつの日にかなくなったが、他の者はもう覚えておらん国名じゃな」


 滅びた世界を繰り返すうちに失われた国名は、ラカマシア。


 過去に戻る前。

 私も知っていたはずのその国名を聞いてもピンとこない。

 やっぱり私も何度も生死を繰り返してきたのかもしれない。聖女として、あの頃、何度も王城に向かった。その時に必ず王にも挨拶した。その度に王の名を呼んだはず。なのに全く思い出せない。


 エイダン王子の、失われたフルネームを名乗るその姿が、寂しくそしてとても重く感じた。

 彼の生きる永い年月は、その名前に刻まれている。


 サイモンと呼ばれた村長は、ゆるりとエイダン王子に向かって何度か頷いた。

「歪みゆく時間の中で、ただ1人真っ直ぐ進む道は辛く厳しいものじゃったろうに。ーーーよく耐えたな」


 慰めとも、労りともいえるその言葉は、エイダン王子の立場を理解した言葉。

 本当にこの村長は、超越した存在といわれる『妖精王』なのかもしれない。


 エイダン王子は、ぐっと喉を鳴らした。

 エイダン王子の耳が赤くなっている。泣きたいのを堪えているのだろうか。


「『呪い』というものは、ほんに恐ろしいものじゃの」

 エイダン王子は、はっとして顔を上げる。

「この呪いを解く方法をご存知では」

 祈りにも似たその質問に、村長は無慈悲にも首を振る。

「わしは呪いをかけることができぬから、呪いを解く方法も知らぬ」

 そう言いきってから、ふぅむ、と唸った。

「呪いは呪いをかけたものが解くか、呪いをかけたものが死ぬかが基本であるが、呪いはその想いが強ければ術者が死しても消えぬこともあるというからな」


 それは呪いに関した希少な資料にも記載されていた。だけど、エイダン王子に呪いをかけたというマリウスは、過去何回も死んでいるという。

 今いるマリウスを殺したところで、エイダン王子の呪いは解けないことはわかっている。


 エイダン王子は自らの額を手で押さえる。


「、、、ずっと考えてきました。過去に戻ってからも死ねない自分を。ーーーまさか、あの時俺に呪いをかけた魔王があの世界でずっと生きていてーーーだから俺がこうして死ねないのかもしれないと」

 ずっと心の中で渦巻いていたのだろう不安を口にしたエイダン王子。

「それはあり得るかもしれんな」

 村長にあまりにあっさりと納得されて、エイダン王子の表情が険しくなる。

「では私はこのまま、ずっと死ねない存在でいなければならないのですか。何度も繰り返した世界に歪められて、もうあの時の世界に戻ることなど、空に浮かぶ星を掴むほどに不可能な話というのはわかっています」

 ふむふむと村長は頷く。

「ロイヤルストレートフラッシュを100回連続出すよりもはるかに厳しい確率じゃろうな。あるいは国士無双を100回など、わかりやすいかの」

「国士無双とは?」

 エイダン王子は首を傾げる。

「かつてあった大きな国で流行ったゲームのことじゃ。ほっほっほっ。わしはあのゲームが好きじゃったがの。今は出回っておらんのか、残念なことよの」


 私も村長が何を言っているのかよくわからなかったけれど、やはり私達が魔王と戦ったあの頃に戻るのは難しいようだ。


「しかし、魔王によって呪いをかけられたのであれば、可能性は残されておるやもしれぬ」

 エイダン王子は急浮上した期待に、ほんのりと顔を紅潮させた。

「!!!ーーーっやはり魔王を倒せば、この呪いは解けるかもしれないのですね?」


 村長は、小さな身体でエイダン王子の様子を一部始終見ている。

 期待させるだけさせておいて、一度口を閉じると、「ふむ、、、」と唸った。


「魔王は倒せんのじゃよ」


 はっきりと言い切った妖精の村長にーーーいや、この世の超越した存在である妖精王にそう断言されて、エイダン王子の顔から一気に血の気が失せた。

 言葉さえ出せなくなったエイダン王子の代わりに、私が村長に尋ねる。

「魔王は倒せないんですか?方法が全くない?」

 村長は持っている杖をゆらゆらと揺らす。

「ーーー魔王はこの世の悪そのもの。この世から悪を取り除くなど、不可能じゃろう?」

 この世の悪そのもの?

「で、でも、さっき、魔王に呪いをかけられたのなら、まだ可能性はあるって、、、」

「悪は悪じゃからな。何万、何億年前から悪は存在しておる。繋がっておるのじゃ。じゃから魔王も永遠に生きておる。魔王ならば、その呪いを解けるやもしれぬ。ーーー魔王にその呪いを解く『優しさ』があればの話じゃがな」


 村長が口を閉じると、しん、とした空気が流れた。

 村長は魔王は悪の根源と言った。

 魔王が優しいはずがない。


 エイダン王子の呪いは解けることはない。

 ーーーそう告げられたも同然だった。


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