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勇者を勇者にしない方法

 パニックになりながらもエイダン王子に言われたように、私はエイダン王子が毒を飲んでから五分後に解毒の魔法をかけた。いや、我慢しきれずにもう少し早く魔法をかけたかもしれない。


 第二位王位継承者の暗殺未遂という事件に、勇者を決める大会が中止になった。会場にいた全ての人が容疑者として会場に留まらされたが、とある男が犯人として捕まり一件落着となった。

 エイダン王子の自作自演なのに、犯人が捕まるというのはよくわからない。エイダン王子があえて偽の犯人役を仕立て上げたのだろうけど。


 エイダン王子はすぐに王宮に運ばれて治療を受けた。私がすでに解毒と回復魔法をかけていたので治すところはないに等しかったけれど、彼がしばらくの間、激痛に耐えていたのは間違いない。


 王子の部屋という特別に部屋にいれてもらった私は、用心のためにベッドに横になるエイダン王子に、私は本気で腹を立てていた。


「一体、何を考えているんですか!自ら毒を飲むなんて」

 

 広い部屋の中。何人が一緒に寝れるのかと思うくらいに大きなベッドに一人寝ていたエイダン王子は、ゆっくりと半身を起こした。


「いいじゃないか。どんな猛毒でも、私が死ぬことはないんだから」

「それとこれとは話が別です。しかも、飲んだのは即死してもおかしくない毒だったというじゃないですか」

「あのくらい派手にしないと、さすがにあの大会が中止になることはなかっただろう。あの毒が一番わかりやすいんだ。触れた場所を数秒で溶かすから」


 だからあの出血量か。

 不死身でなければ100%死んでいたに違いない。

 エイダン王子が不死身と知らない医者は、あの出血量を見て、何故エイダン王子が生きているのか驚いていたくらいだ。

 最高級の回復薬を使ったと言い訳したけれど。


「エリクサーなんて、そう簡単には手に入らないんですよ。エイダン王子がそれだけの立場だから納得してくれましたけど」 

「エリクサーを使ったということになっているのか。いいね、気前が良くて」

 今や完全回復しているのは、私が聖魔法の使い手だからだ。そしてエリクサーと同じ効果の魔法が使えるようになっているからだ。

 過去に戻る前は使えなかった。

 当時の私はまだ未熟で、完全回復の魔法が使えないことをエイダン王子も知っていただろうに。

「私が未熟のままだったらどうするつもりだったんですか。身体を溶かす毒を一気飲みなんて、普通に考えて有り得ませんよ?」

「いいじゃないか、予定通り大会は中止になった。マリウスは勇者にならずに済んだだろう?」

「、、、それはそうですけど、、、」


 確かにマリウスのあの強さでは、間違いなくマリウスは勇者に選ばれただろう。エイダン王子の作戦がなければ、今頃、マリウスは国王の前で任命式を受けているはずだ。


「それでも」

「いいんだ。実は私が不死身なのを知らずに、何度も暗殺を企てていた連中がいるんだ。死にはしないから怖くはないが、とにかく目障りでね。あの日も私を殺しにやってきていたから、ついでにその連中を犯人に仕立て上げさせてもらった」

 エイダン王子は悪そうな顔で笑う。

 この顔久しぶりに見たな、なんて、暢気にも思ってしまった。

「私が死なないし、使う暗殺道具も地味なものばかりで犯人として検挙もできなくて。一石二鳥だったんだ。あれくらいやらないと、王宮の警備隊はなかなか動いてくれない」

 卑下するような言い方に、私は首を傾げる。

「なぜですか?エイダン王子は、あくまでも王子なのですよ?僅かな毒が入れてあるくらいでも大騒ぎでしょう」

「ところがそうでもないんだ。私の命を狙っているのが第一王子でね。むこうは王位第一継承者なんて肩書きがあるから、たちが悪い」

「第一王子が?」


 第一王子は良くも悪くも噂の少ない人だった。

 エイダン王子のことは誰もが知っているのに、第一王子については名前も知らない国民が多い。


「それこそ、私が目障りなんだろうね。過去に戻る前は私の評判が悪かったから、兄も暗殺までは考えていないようだったのだけど、私が心を入れ換えてしまうと国民の人気は私が独占してしまった。どんなに頑張っても私を越えられないことを知ると、陰湿な悪意を見せるようになった」

 死なないのだから無駄なのに、とエイダン王子は困ったように笑う。

「暗殺のはずなのに、第一王子が私を狙っているのは有名なのだよ。だから多少のことでは大事にならないんだ」

「、、、それは頭の痛い話ですね」


 想像するだけで面倒くさそうだ。


「さすがに今回、暗殺未遂のせいで国王が主催の大会が中止になるという大規模な事件に発展したんだ。しばらくは身を潜めてくれることを願うよ」


 本当にエイダン王子の言うことが真実だとしたら、第一王子は暗殺のために毒を盛ったが、まさかあんな猛毒をエイダン王子自身にすり替えられるとは思ってもいないから、まさかの事態に戦々恐々としていることだろう。


「エイダン王子を敵に回すなんて、第一王子も愚かなことをするものですね」


 エイダン王子を敵に回したらどうなるか、私が身をもって知っている。

 自業自得とはいえ、可哀想にと思ってしまう。


「本当に、以前はここまでなかったんだがね。過去に戻ることを繰り返すことで兄の陰湿さは増しているから。まぁ、それもあと数年の我慢なのだけど」

「数年したら何かあるのですか?」

 

 例え第一王子が王になったとしても、嫉妬や恐怖というものは消えないだろう。エイダン王子が生きている限り、第一王子はエイダン王子という存在が不安要素であるに変わりはないはず。


 私の質問には、少し悲しい顔でエイダン王子から返された。

「あと数年したら世界が滅ぶ。だから兄もこの世にいなくなるということだ。私への嫌がらせもできなくなる」

「あ、、、」

 そうか、と私もようやく思い至った。  


「父ーーー国王も、最近では弟の暗殺に躍起になっているのに失敗ばかりしている長男より、私の方を国王にと思ってくれているようなのだが、私が国王になることはかつて一度もない。父が王位を譲るまでに魔王が降臨するからだ」


 確かに、数年世界が滅ぶとしたら、国の跡継ぎ問題など意味をなさない。


「ちょ、、、ちょっと待ってください」

 私はまた混乱しかけた自分の頭を整理するために、エイダン王子の会話を中断させた。


「国王が勇者を探すのは、魔王が必ず現れると知っているということーーーですよね」

「そうだ」

「なぜ国王は魔王が来ることをご存じなのですか?国王が過去に戻っているわけでもないでしょう」


 国税を使ってまで勇者を探し雇う理由。


 魔王という存在によって被害が出たから、勇者を探しているものだとばかり思っていたけれど、私が過去に戻ってきてから、魔物こそ出てはいるけれど、魔王による大きな被害という話は聞こえてこない。


 魔王の被害からの勇者探しではないーーーということなのか。


 エイダン王子は私の質問に、平然とした表情で返事をした。

「それは簡単な話だ。予言者が、いつ頃に魔王がやってきて世界を滅ぼすと予言書を書いているからだよ。でも、あの予言書を読むと、予言というよりは『過去に戻った人間が書いた日記』としか言いようがなかった。推測でしかないが、あの予言書は時空を越えて過去に戻ってきた人物が書いたものだろうな。予言にしてはあまりに詳しすぎた」


「予言書を読んだのですか?」

「勿論さ。むしろ、この王宮にある蔵書で私が読んでいない本は一冊もないと言っていいほどだ。この世に一人になって、無限のような時間が私にはあったのだからね」


 たった一人、この世に残されたエイダン王子。

 地上では凶悪な魔物が跋扈(ばっこ)し、自由気ままに生きることもできない。

 その苦しみを思うと、胸が締め付けられる。


「だが私は断言する。勇者では魔王を倒せない。少なくとも魔王を倒すためのピースが足りていない。魔王の姿は変わるのに、魔王が降臨する時期はいつも同じである理由。ーーー何かあるはずなのだが」


 エイダン王子は眉を寄せて考える。

 それを見ながら、私も一緒に悩んでみた。

 エイダン王子が長い年月、悠久とも思える年月考えても見つけられなかったヒント。

 私の生きた時間は短い。

 でも。

 だからこそ、むしろ、考え付きやすかったのかもしれない。


 私は『可能性』というものを二つ、あげてみた。


「、、、エイダン王子は、この王宮の蔵書は全部読んだーーーと仰いましたよね?」

「そうだな。国内でこの王宮ほど本を多く保管しているところもないだろう」

「実は、エイダン王子が読んだことのないだろう蔵書を思い出したんです」

「私が読んだことがない本?王宮の蔵書がどれだけあるかも知らない君がそんなのーーーどこにあると言うんだ」

 王宮の蔵書の数に余程の自信があるのだろう。

 でも、多分、エイダン王子でも読めない本があることを私は知っている。


「一つは中央教会です」

 私が言うと、エイダン王子は私の顔を見てすぐにピンときたらしい。僅かに目を見開く。


「ーーー聖女の記録か」

「はい。あそこは『聖女』にしか読めないという蔵書がいくつかあります。厳重に保管されているので、いくら国の王子といえど、あの記録は読むことを許されていないはずです」

 聖なる魔法を感知して解除される扉の中に、その蔵書はあった。聖魔法を使えるのは100年に1人しか現れない。

 私以外にあの蔵書を観覧できる人はいないはずだ。


 エイダン王子は小さく唸る。

「そうか。聖女の記録、、、。確かに盲点だった」


「もう一つは」


 私はエイダン王子に微笑んでみせた。


 もう、大丈夫。

 エイダン王子を見ても怖くない。

 エイダン王子は、彼らに危害を与えることはないだろうという自信があった。


「私の住む家にいます」

「、、、います、、、?」

 

 『あります』ではなく『います』という違和感。

 エイダン王子は不思議そうな表情で私を見つめる。


 私の家にいるもの。

 それは人ではない。


 滅多に人が立ち入ることができない、隠された場所。妖精の村。

 そこには生きる辞典とも言える、博識の長老が住んでいる。ーーー妖精の村長が。


 彼ならば、何か知っている可能性はあった。 

 私はエイダン王子を真っ直ぐに向いた。


「ご案内します。ーーー私達の家に」

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