ルトウドにある屋敷からの招待
国境近くの町。ルトウド。
草木は育たず、赤い土ばかりに覆われた人の寄り付かない土地だったはずの場所。それが、訪れてみるとなぜか大きく発展していて、大通りは祭りがあっているかのように賑わいを見せていた。
驚きつつもケイレブに呼ばれて目的地に向かうと、そこは高位貴族が住むような屋敷だった。広大なのに雅さもある庭園。ガサツで気品のヒの字もないようなケイレブの屋敷ではないことだけは、容易に推測できる。
これだけの屋敷を構えられるなんて余程の人物だろうと考えながらその屋敷の敷地内に足を踏み入れると、屋敷の大きな入口の扉前に馬車が止まっているのが見えた。
そしてその馬車に乗り込もうとしている人物を見て、私の足は硬直した。金色の艶のある短めの髪に整った顔立ち。すらりと伸びた身体は人の目を惹き付ける。
この国の第二王子エイダン。
かつて、私に求婚してきた唯一の人。
「エイダン様が、、、なぜここに、、、」
「アグノラ。知り合いなの?」
「、、、、」
エイダン王子に見つかりたくないという、全身全霊の拒否反応で私の身体全体が硬直してしまっている。
ベリルはそんな私に気づいて、視線だけエイダン王子に向けた。
「ーーー高貴なおぼっちゃんという感じだけど」
エイダン王子は王位継承者候補第二位とはいえ、兄が王になることが決定している以上、厳しく帝王学を学ばされる第一王子とは違って、甘やかされて育った。
その恵まれた容姿と、何でも自分の思い通りにできる環境が相まって、稀に見る我が儘な王子に育った。
欲しいと思ったものは必ず手に入れる。
そのためには王国の国庫も空にする勢いで使うし、非人道的な方法だって容赦なく使う人だった。
聖女という立場になっても、マリウス命でマリウスにしか目に入っていない私に、本気でぶつかってくる人はいなかった。
勿論、近寄ってくる人達は『聖女』を手に入れたいという魂胆は見え見えで、そういう人達は私が早々にはね除けていたからでもあるけれど、このエイダン王子だけははね除けられなかった。
うんざりするほどの執拗な求婚。
目的を得るために手段を選ばないその方針のせいで、私だけでなくマリウス勇者パーティー全員が迷惑していた。
エイダン王子は、ただ『聖女』というコレクションを自分の手元に置きたかっただけだろうに。
それまで受けた数々の妨害は決して忘れることはできない。
『人を知らず、道を知らず』
エイダン王子をそう言った人がいた。
自分の欲のためには、人道をも外れることを厭わなかった。彼のために潰れた町さえあるという。実際、エイダン王子によって1日で何百人という命が失われたこともある。あれは、エイダン王子の欲しがった宝石を売るのを断ったという理由だけで、その大きな商店に火をつけて、そこで働くすべての人が焼け死んだという、無惨な事件だった。
王子に売ることができなかった宝石は、すでに別の買い手がいたからだという、至極正当な理由だったにも関わらず。
エイダン王子とは、私がマリウスと共に勇者パーティーの旅につきまといだして1年くらいしてから出会った。
私が聖女であると世間で周知されだした頃、『聖女』に興味を持ったエイダン王子が、国王に謁見した後の私に、呼び出しの手紙を寄越してきたことが始まりだった。
王族からの招待を断ってはいけない。
そう言われて、のこのこと王宮に出向いたのが失敗だった。エイダン王子に関わったことが最大のミスだとは、その時は想像もしていなかった。
でも今は違う。
まだ私はエイダン王子とは知り合っていない。
私はまだ聖女と認定されていない。
今の状態でエイダン王子に会ったとしても、エイダン王子から執着されることはないのだろう。
けれど。
ベリルの後ろに隠れているのに、肌の毛、一本一本が彼を拒否しているのか痺れるように痛み、身体が凍るように冷たくなった。
エイダン王子が馬車に乗り込むのを確認し、馬車が通りすぎて、ようやく身体が動いた。
「震えてるわよ」
ベリルが自分の後ろに隠れた私を覗き見て、呟く。
軽口ばかり私に叩くベリルも、私のその様子を冗談にはできなかったらしい。
「大丈夫?あんたとさっきの人がどんな関係か知らないけど、もう行ったから安心しなさいよ」
「う、うん。ありがと、ベリル」
その一連の流れを見ていたワイアットが、ようやく思い出した、と大きめの声を上げた。
「今のお方、どこかで見たことある気がしてたけど、まさか第二王子様じゃないか?」
「第二王子?」
高貴な人とは見た目で理解できるけど、まさかそこまでの大物と思わずベリルも目を見開く。
なぜワイアットが、と聞きそうになって、先に気づいた。
「ワイアットは騎士団にいたんだったわね」
ワイアットは破顔する。
「僕が騎士団にいた頃はまだエイダン王子ももっと若かったからすぐ気づけなかったけど、大きく立派になられたものだ」
「立派に?ーーーえぇそうね。見た目はとても立派ね、、、、」
確かにエイダン王子は見目麗しい。
輝く美貌と、生まれ持つ最上の高貴な血によって、エイダン王子は第二王子でありながら、エイダン王子を国王にと望む人も多かった。
真面目だが頭が固く、平凡な容姿、平凡な才能であるという第一王子よりもエイダン王子の方が華はある。
その華やかさ故に、王宮で開かれるパーティーでは、エイダン王子だけが主役であるかのようだった。
第一王子ジュード様は、よくいえば控え目。
内向的で、自己主張をするお人ではなかった。
挨拶以外に他人と会話をしているところも見ない。
エイダン王子に虐げられた従者を不敏に思う気配もなく、ただただ、死んだ魚のような瞳でそれを『見ていた』だけだった。
そこに何かしらの感情は感じられなかった。
エイダン王子に対する恐怖とはまた違う怖さを、私はジュード王子に抱いていた。
どちらかがこの国の王になる。
そう考えるだけで幾何かの不安が胸の中を蠢き出す。
善良な人達ではないとわかっていた。
だから私は、王宮にはできるだけ近寄りたくなかったのだ。
華やかな中に、混沌とした闇があるから。
「でも私は見た目より、熱さと穏やかさと、芯の通った心を持った人の方が絶対いいわ」
私が言うと、ベリルもワイアットも、私が『誰』を示しているのかを瞬時に理解して、困ったやつだという顔を浮かべた。
「バカね。一般人を王子様と比べるなんて、頭がイカれてるって思われるわよ。私達以外のところではそんなこと言わないようにね」
私はベリルの言葉にむっとする。
「思われたって別にいいもの。間違ったことは言ってないし」
「あらあら。救いようのないやつだわ、コレは」
「でも何でこんなところに王子がいるんだろう。王宮からはここは随分離れているのに」
「来るだけなら、私達みたいに転移の魔方陣を使って来れるでしょうけどね」
「そりゃそうだけど」
ベリルとワイアットと一緒に話をしていたら、少しずつ強張った身体が解れてきた。
ここにきたのが1人でなくて良かったと心から思う。
予定通り、目の前の大きなお屋敷の玄関フロアに向かい、普通の何倍もある扉を前にして、金の呼び鈴を鳴らした。
その音で屋敷の扉が開いて出てきたのは、頭に黄色のバンダナを巻いた若い青年だった。服は制服というよりは簡易的な戦闘服に近い。
「お戻りですかーーーあれ?王子じゃない?」
まだ幼さ残る顔立ち。
私達3人を視界に入れて、動揺を隠せていない。
「ど、どちら様でしょう。ここは関係者以外、立ち入り禁止のはずですが、、、」
鮮やかな緑の髪を揺らしながら、ベリルが一歩前に出た。
「ここに来るように言われたのよ。知ってるでしょ、ケイレブって男のこと」
「ケ、ケイレブ様のお知り合いでございましたか。し、しかし何か書状や証拠はございますか?」
「あぁ、いい、いい。間違いなく俺がここに呼んだんだ」
青年の後ろから現れたのは、熊のように大きく、ライオンのようなボサボサの髪をした大男だった。
「ケイレブ様」
ケイレブは砕けた態度で青年の肩をポンポンと叩いた。
「こいつらを広間に案内してくれ。お茶と菓子も頼む」
「は、はい。わかりました」
青年はまだ不信そうな表情をしながら、それでもケイレブに言われるまま、広間の方に私達を案内してくれた。
屋敷内は外観のイメージを損なうことなく、洗練された趣味のよい内装をしていた。
使えるものなら家具なんて何でもいいというケイレブでは、絶対にこうはならない。
思い浮かぶのは、さっきの第二王子の姿。
中央にある大きな一枚板のテーブルの席に勧められる。
これだけ大きな一枚板のテーブル。それだけで相当の金額になるだろう。
「すぐにお茶をお持ちいたします」
ペコリと頭を下げて、青年は広間から出ていった。
どっかりと椅子に座ったケイレブは、相変わらず飄々とした様子で、私とベリルとワイアットを眺める。
「ーーーあんたが、マリウスの兄のワイアットって奴か」
ワイアットは茶色の髪と瞳で、ケイレブと向き合う。
元騎士団団員だけあって、ケイレブの異常ともいえる圧力に怯むことなく普段通り微笑んでいれるのは流石だ。
「そうです。初めまして、ですね。ですが私は貴方のことはよく存じておりますよ。戦場の英雄、ケイレブ。もう何年も前になるのに、すでにその頃から騎士団の中でも話題にあがっていました。傭兵だというのに、騎士団の中の誰よりも強いと」
それを聞いてケイレブは鼻で笑う。
「は。そう思い上がっていた時期もあったな。お前さんの弟のマリウスにこてんぱんにやられてからは、謙虚になったんだ」
よく言う。全然謙虚になんてなってなかったけどね。
ワイアットはケイレブの言葉に違和感を感じて首を傾げる。
「マリウスにこてんぱんに?マリウスが貴方と対峙したことがあったのですか?」
「あ」
しまった、とケイレブは自分の言ったことに気づくが、少しも悪びれた様子はなかった。私は慌ててケイレブを諌める。
「ケ、ケイレブ!!」
ケイレブとマリウスが戦ってケイレブが負けたのは、過去に戻る前の未来の話だ。
だからこの世界では、まだマリウスとケイレブは一度も会ったことがない。
しかし、私とケイレブの態度から、察しの良いワイアットは気づいてくれたようだ。
「まさか貴方も、アグノラと同じように?」
驚いた顔のワイアットに、ケイレブは頷いた。
「なんだ兄ちゃん。あんたは聞いてんのかよ。それなら話は早いじゃねぇか」
「ちょ、ちょっと待って。でもまだベリルは、、、あっ」
ここまで言ってしまったら、私がワイアットに話していることをベリルには話していないことがバレバレだ。
私がチラリとベリルの顔色を伺うと、ベリルは全くといっていいほどに平然とした顔をしていた。
「、、、ベリル」
ベリルの綺麗な形の紅色の唇が小さく開いた。
「何よ、私は変な顔でもしなきゃいけなかったの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「あんたが何かを隠したがってたのは、前から気づいてたわ。あんたの行動は変なことばかりだったしね。さっきの王子様と接触を避けたのも、そういうことなんでしょう?」
ベリルは私の動揺する瞳に確信を持って、小さく息を吐いた。
「別に秘密にされたくらいで私が怒ることも悲しむこともないわよ。私の回りには秘密なんて腐るほどあるし。ーーーでも、これ以上隠し続けはしないでしょう?」
ベリルの極上の美幌は、圧を持って私に向かった。
否と言えず、私は意を決して、ベリルにポツポツと真実を話し始めた。
私は過去に戻ってきたこと。
マリウスが本当は勇者だったこと。
そしてベリルとケイレブ、オスカーは勇者パーティーのメンバーだったこと。
私はそのパーティーに付きまとっていたら、いつの間にか聖女として能力を発揮していたこと。
勇者パーティーが力をつけたから魔王に挑んで、あっさりと敗北し、全滅してしまったこと。
「僕は、マリウスが勇者になる前に病気で死んでしまったらしい。実際、死にかけたところをアグノラに助けられたんだ」
ワイアットが私の話を補足してくれる。
はじめ、信じられないという顔をしていたベリルも、私が過去に戻る前にベリルから聞いた、ベリルの身の上話を話すと、信じてくれたようだ。
私は、それでもマリウスの背中にナイフを誰かが差した話は、ベリルにはすることができなかった。
マリウスを刺した犯人はケイレブだと思っていたけれど、もし本当にケイレブが犯人だとしたら、マリウスがまだ鍛えて成長していない今がチャンスのはずだ。
なのに、ケイレブはマリウスではなく、私だけを呼んだ。今のところ、マリウスに害を成そうとしていないということではないのか。
となると、また犯人がわからなくなる。
ケイレブでないなら、オスカーかベリルしかいない。
ベリルには未来の記憶はないのだから、言ったところでどうしようもないのだし、もし犯人がベリルなのかもしれないと思うと、安易に口に出せる話でもなかった。
「勇者パーティーは鍛練を重ねて本当に強くなったの。だから魔王の根城に向かったのに、魔王には全く歯が立たなかったのよ。それなら、もう、あえて魔王に挑まなくていいでしょう。頑張って頑張ってその結果、倒せなかったんだもの。それなら、マリウスは自分の幸せを追いかけていいはずだわ。ーーーだから」
必死に話す私の言葉を、ベリルが受け取った。
「マリウスを勇者にはさせない。自由に生きてほしい、ってことね」
はぁ、とベリルは呆れるようにため息をついた。
「あんたが、私のところに急にきて、やけに親しげにベラベラ話しかけてきた理由がようやくわかったわ。さてはあんた、マリウスにも同じことをしたでしょう?」
ぎくりと私は身体を強張らせた。
過去に戻ってマリウスに会って。死んだはずのマリウスが生きていることで感極まり、自分がした行動は。
「、、、、泣いて、マリウスに抱きついた気がする。しばらくはマリウスは私に冷たかったわ」
ベリルは頭を抱えた。
「最悪ね。見知らぬ女に急に抱きついて泣かれたら、警戒するわよ。特にあのマリウスでしょ。頭が固くて頑固者のひねくれ者に」
ベリルのマリウス批評に異論を唱える。
「そんなこと。マリウスは強くて優しくて、さわやかで」
「そこよ、アグノラ」
ぴしゃりとベリルは私の言葉を遮った。
「何故、あんたがあのマリウスをそう言うのか、全くわからなかったけど、未来の記憶の影響だったのね。優しくてさわやか?あのマリウスが?そんなわけないでしょ、それはここにいるマリウスの兄の特徴だわ。マリウスはそんな性格じゃない。あんたが未来にマリウスの何を見てきたかは知らないけど、今のマリウスはそんな奴じゃないわよ」
言われて私は黙る。
これには否定できなかった。
ーーーそんなの、わかってる。
私がマリウスをそう思い込んでいたこと。
死んだ兄を真似した勇者マリウスを、ただ盲目的に愛していたことも。
過去に戻って、マリウスと一緒にいて。
あの頃と全然違うマリウスに驚きを隠せなかった。口は悪いし意地悪だし。
だけど、勇者マリウスに命を救われて、彼を愛してずっと命がけでつきまとったあの日々を否定もしたくなかった。
何度、告白しても私を受け入れてくれなかったマリウス。それなのに、魔王に倒されて息を引き取る時に私に「愛している」と言ってくれたマリウス。
あの、私を愛おしそうに見てきた彼を、私は『偽り』にしたくなかった。
「、、、、、っ」
唇を震わせた私を見た後、第三者であるケイレブが、さも可笑しいとばかりに声をかけてきた。
「ベリルの姉ちゃん。そう言うがな、未来から戻った俺から言わせれば、あんたも随分と違うぜ。俺の知っている『大魔法使いベリル』は、本物の聖女であるアグノラと並んでもどっちが聖女かわからないくらい、大層な淑女だった。じゃああれは、あんたじゃなかったのか?」
ベリルが明らかにむっとしてみせる。
「、、、私はその『未来の自分』を知らないもの。でも、これが私なんだから、淑女のような人間に見えていた私は自分を隠していたんじゃないの?あんた達とは素を出せないような間柄だったってことでしょ」
ベリル本人にそう言われて、私の胸は更にヂクリと痛んだ。
「そう、、、なのかな」
落ち込んでいく私の向かいで、ケイレブがベリルと静かな火花を散らす。
「その割には、あの時のベリルの姉ちゃんは楽しそうにしていたぜ。このチビちゃんといつも笑ってた。あれが偽りとはとても思えんが」
「私は接客のプロなの。愛想笑いで楽しそうに話すことなんてお手のものだわ」
「ふぅん」
「私が淑女?ありえないでしょ」
「ほう、そうか」
「愛想笑いかどうかも見抜けないなんて、英雄の貴方も見る目ないのね」
「そうなんだろうな」
ケイレブに軽く受け流されて、ベリルの眉間の皺は深く刻まれる。いつも余裕のある態度のベリルには珍しい姿だ。
「あんた、さっきから何が言いたいのよ」
ベリルはケイレブに声を強めて吐き出した。
「別に俺は思ったことを言ってるだけだからな」
ケイレブはそれも嘲笑うかのように片目を歪めてベリルに向き合った。
「ただ、人間の本質ってもんは、取り繕ってもそんなに変わらねぇんだよ。好きとか嫌いとか、楽しいとか悲しいとかな」
ケイレブは親指を立てて、自分の胸をトントンと叩いた。
「あの勇者の坊っちゃんは確かにスカしてたけど、奴の『思い』の強さは俺も認めてた。今のあいつの姿がどうかはよく知らんが、あいつをなめてたら痛い目にあうぜ、ベリル」
ケイレブはそういってにやりと笑う。
私は呆然として、そう言ったケイレブを見ていた。
驚いてしまった。
まさかあのケイレブが、マリウスを庇うとは思わなかった。
マリウスを背中から刺した人だと思っていたし、そもそも、勇者パーティーにいてもケイレブはマリウスと一定の距離を置いているように見えた。
マリウスに負けて、勇者パーティーに入ったのは、ただ自分の負けを認めたくなかったから。再戦する機会を見計らっていただけじゃないかと思っていたのに。
少なくとも、ケイレブには世界平和とか、他人のために魔王を倒そうとする人間ではないと思っていたんだけど。
その驚いた私の表情にケイレブが気づいた。
「なんだ?その顔は」
「い、いや。もしかして私、ケイレブのことを勘違いしていたのかなって。勇者パーティーにいたのも、マリウスをいつか倒す機会作りなのかなとか思ってたけど、本当はちゃんとマリウスを勇者と認めて信頼関係で成り立っていたのかなって」
ケイレブは呆れた顔をしてみせた。
「そんなわけねぇだろ」
ーーーーですよね。
「だが俺は、あいつとはちゃんとした形でタイマン張りたいんだ。あんな終わりは望んじゃいねぇ。だから過去に戻れたのはありがてぇことなんだ。もう一度、あいつとタイマン張らなきゃ死んでも死にきれねぇ」
ガハハとケイレブは明るく笑い、大きな身体を揺らした。
そうだった。ケイレブはこういう人だった。
声は大きいしがさつだし、威圧感はあるから苦手だけど。
戦うということに関しては常に真っ直ぐな。
私はやっぱり、ケイレブを誤解していたのかもしれない。
「それで?」
私とケイレブの会話にしびれを切らしたベリルが、話を切り出した。
「戦いの英雄様が、こんな辺境の地まで呼び出した理由を早く言ってもらってもいいかしら。私も暇じゃないんだけど」
明らかに機嫌が悪そうなベリル。
夜の仕事が終わって、そのまま寝ずにこの地に来ているベリルは、早く用件を終わらせたいのだろう。
無駄話なんてしてる暇はないと、暗に瞳が語っている。
「あぁ、そうだったな」
ケイレブは悪い悪いと悪びれなく笑って、改めて私達に向き合った。
「ここまで来てもらったのはな。俺達が過去に戻ってきた理由が、少しわかったからなんだ」
「理由がわかったの?」
「あぁ。ーーー少し、話は長くなるがな」
そう言って、ケイレブは話し始めた。
私達がいなくなってからの、混沌とした未来の話を。




