絶対に会いたくない男
暑い日差しの時期を越えて、少し日光が優しく当たるようになった頃。
私達は城下町に来ていた。
マリウスとオスカーと離れた場所で私は肩を叩かれる。振り返って、その顔を見た瞬間、私は固まってしまった。まさかこんなところで会うなんて。
絶対、会いたくなかった人。
会ってはいけない人が、そこにいた。
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妖精の村に住み始めてから、もう3ヶ月ほどの月日が流れた。
ベリルは相変わらずマリウスの部屋で毎日寝ていて、自分の部屋で寝れなくなったマリウスが自分の部屋を出る形になった。
しばらくマリウスは、オスカーとワイアットの部屋で夜を過ごすようになったけれど、ベリルが城下町にある宿から自分の私物を持ってきて、完全にマリウスの部屋を自分の部屋として稼働させてしまったので、マリウスの部屋を他に作ることで丸く収まった。
新しいマリウスの部屋にベリルが行かないところを見ると、始めはマリウスと私への嫌がらせだったのだろうけれど、時間が経つとベリルはその部屋に愛着のようなものができてしまったのだと思われる。
「いい迷惑だ」
というマリウスも、別に本気で怒っているわけでもなさそうで、それからというもの穏やかな生活は続いていた。
ワイアットの育てている牛や鶏は、日に日に数を増やし、家畜小屋も賑やかになってきている。
マリウスの育てている畑も、元々質のよい土壌であったのに、更にマリウスが色んなところから農業の知識を増やして土を改良していくことで、様々な種類の野菜が実る、豊かな畑が広がりをみせている。
オスカーは相変わらず、妖精の村長と魔法の研究に精を出していて、部屋に籠ることが増えた。
怪しい魔法に手を出さなければいいけど、と思わずにいられないほどに、オスカーは生き生きと作業に没頭している。
かつてのオスカーは、魔法は自分の力で探し研究するもので、師匠のような存在も、同じく同等以上の魔法の知識を持って魔法の本質を語り合える人間もいなかった。
それが妖精の村の村長という、自分よりも膨大な魔法知識と、魔法に対する深い考察力を持つ相手がいることで、水を得た魚状態になっているのだ。
好きなことに没頭できるのはいいけれど、さすがに数日姿を見ないと心配になる。
ある日、昼近くにようやく食事の場所に顔を出したオスカーを見て、私は「これはまずい」と思った。
目の下にはくっきりとしたクマを作り、顔色は悪く、唇は乾燥して皺を浮き上がらせている。綺麗なオッドアイだけが際立って見えて、まるでホラー映像になっていた。
「何よ、オスカー。その顔」
「、、、何がだ」
「鏡を見てないの?ちょっと、村長、オスカーの寿命を縮まらせるようなことはしないで貰えますか」
オスカーの後ろから、艶々とした顔で翔びながら出てきた、手のひらサイズである妖精の村長を私は睨み付ける。
杖を持ってはいるけれど杖をついているわけではなく、背中の羽で飛んでいる村長は、へにゃりと笑った。
「いやいや、すまんのぉ。この男の魔法への熱意を見ると、わしも自分の若かりし頃を思い出して、つい加減を忘れてしまう。魔法は奥が深いからのぉ。例えば、今ある魔方陣へ魔法を付加することで強力にしようとする。そうするには、まずはその魔方陣の構成を解体して、それに一番相応しい形で入れたい魔法を、、、」
私はその村長の口に、用意していた花の蜜を押し入れた。むぐ、と口を塞がれて村長は黙る。
「村長。そんな話をして、私がわかるわけないでしょ。時間の無駄なのでやめて下さい。あと、楽しいからってオスカーは妖精と違うんですから、睡眠と食事はしっかりさせて下さい。この肌の調子は、水分もまともにとっていないんじゃないですか?このままじゃ死にますよ?」
オスカーの腕を覗くと、唇だけでなく腕の肌もかさついている。20前後であるオスカーの年で肌がかさつくなんて、どれだけ水分を不足したら、こんなことになるのだろう。
村長は口封じの蜜をゴクンと飲み込んで、「すまんすまん」と頭を掻く。
「そうじゃったのぉ。オスカーのやつがそこらへんことを何も言わんから、つい忘れてしまうわ。ということは、わしだけじゃなく、何も言ってこないオスカーもまた反省せねばならんのじゃないかと、むぐっ」
私はまた村長の口に蜜を突っ込む。
妖精の村長は、悪い存在ではないのだけど、とにかく口数が多い。止めなければいつまでも話を続けるので、村長対策として、村長の大好きな蜜を口に入れる作戦が実行されるようになった。
キッチンのテーブルについて、生気のない顔でモグモグとサラダを食べるオスカーは「別に」と口を開いた。
「無理しているわけじゃない。自分の限界は自分がよくわかっている。まだ大丈夫だから続けているだけだ」
何かに熱中しすぎて中毒状態になっている人がよく言う言葉じゃない。
大丈夫じゃないくせに大丈夫というやつ。
風でも吹けば飛ばされそうな顔をして、何を言うんだが。
「オスカー。その言葉は鏡を見てから言って。この食事をとったら、すぐに眠る。そして明日の朝になったら一緒に城下町に行きましょう。太陽の下に出ないと不健康で死んでしまうわ。良質な食事、充分な睡眠。そして太陽の光。それが健康の秘訣なんだから」
「なんで俺が」
私から指示されて、不機嫌を顔に顕にしたオスカーは、じろりと私を睨むように視線を向けてくる。
私は妖精の村長にそうしたように、オスカーの口に飴玉を入れた。
「今の弱ったオスカーに睨まれても全く怖くないわ。ほら、前に言ってたでしょ、この前、マリウスが倒した魔物の素材を売るって。それを明日、行くことにしたの」
そう、今、決めました。
オスカーは、私が入れた飴を噛み砕いて、ごくりと飲み込んだ。
「、、、あぁ、この前、マリウスがくれた魔石の魔物か」
オスカーに渡された魔石はかなり濃い色をした魔石だった。それだけでもマリウスの今の強さをオスカーは理解しただろう。
そう、と私は頷く。
「あの魔石の持ち主の素材よ。ドラゴンタイプだったから、爪や心臓、皮が高く売れるんでしょ。マリウスが一緒に行ってくれるって言うんだけど、マリウスはほら、あの性格だから」
「値切られ放題だな」
「そういうこと」
マリウスはあまり金に頓着しない。
売りに行って、そこで金額を提示されたら疑問を持たずに了解するだろう。
かといって、私もそんなに素材の金額に詳しいわけではない。ドラゴンタイプの魔物の素材が一般的にどのくらいなのか、どのくらいなら交渉成立として良いかは判断つかない。
魔法だけでなく、様々な分野で優れた知識を持つオスカーの出番というわけだ。
「オスカーも一緒にきてくれたら、すごく助かるわ。身体を全く動かしてないオスカーの体調管理のためにも、お願いしたいんだけど」
私が両手を合わせてお願いすると、オスカーは眉を寄せながらも否定はしなかった。
「、、、仕方ないな。了解した」
「お願い」に弱いオスカーは、普通に良い人だった。
過去に戻る前はそんなことを知らず、オスカーに何かものを頼むようなことをしたことがなかった。
あの時でも、頼めばオスカーはしてくれただろうか。
考えて、いや、と頭の中で首を振る。
勇者パーティーの時のオスカーからは、理由はわからないけれど私は嫌われていた。
他の人からならともかく、嫌いな人からお願いされて、素直に了解するとは思えなかった。
目の前のオスカーは、別人であるかのように私に対して普通に振る舞ってくれる。
これが本来のオスカーなのだろうけれど。
「ありがと」
と私が微笑んだ時、オスカーの視界がぐらりと揺れた。
「!?」
オスカーは歪んでぼやけた目を擦り、表情を険しくさせた。しかし急激に襲われた『睡魔』に抗うことはできず、ガクリと身体を屈ませる。
私は微笑んで、オスカーの倒れそうな身体を優しく支えた。
「おやすみオスカー。起きたら約束通り、城下町に付き合ってね」
その言葉を聞いたか聞いていないかという辺りで、オスカーは意識を失った。
どのくらいかわからないが、かなりの睡眠不足な上に、妖精の村長お手製の『睡眠』の魔法を付加した飴を食べたのだ。効果は絶大だろう。
ふむ、と妖精の村長は顎の髭を撫でた。少し不服そうだ。
「強力な魔力の持ち主であるオスカーには効かんと思っておったのだがな。わしの読みもまだまだということじゃな」
「普通にオスカーは寝不足ですから。村長、ほんと、いい加減にしてくださいよ?オスカーは村長のオモチャじゃないんですからね」
私は力の抜けたオスカーが倒れないように、ゆっくりとテーブルにオスカーの身体を前に倒す。
オスカーは顔だけ横向けて、俯せの形になるようにして眠りについた。
「なんじゃ、オスカーを寝かせにいかんのか?」
わざと言ってるんじゃないでしょうね、と私は苦笑する。
「大の男を担いでいけるほどの力は私にはありません。オスカーのベッドには、マリウスかワイアットに連れていってもらうようにお願いします」
「力増強の補助魔法を使えば良いではないか。持っておるじゃろ?お主なら」
「私がその補助魔法が使えることは、マリウスは知らないんです。もしそこでマリウスに見られたらどうするんですか」
「お主をものすごい怪力の持ち主だと思うじゃろうな」
くつくつと楽しそうに笑う村長が憎らしい。
「それはそれで絶対嫌です」
「ほっほっほ。マリウスのやつなら、そのような些事は気にせんと思うがの」
「マリウスが気にしなくても、私が気にするんです」
怪力と思われたくないわけではない。
本当は力がないのに、偽りで力があるように見せるのがよくない。
マリウスは力のある人が好きだ。
偽りの力を見せて、好意的に思われたくなかった。
マリウスには。
ちゃんと本当の私自身を見て好きになって欲しい。
それは今も昔も変わらない思いだ。
「お主は本当にあやつが好きなのじゃのう」
「そうですね」
私は即答する。その心に偽りはない。
「オスカーもよい男じゃろう?わしはこやつが気に入っておるがの。魔法に対する灼熱の探求心が好ましい」
「灼熱って」
熱すぎでしょ。
「村長が誰を好もうが構いませんが、むやみに人をくっつけようとするのはやめた方がいいですよ。あと気に入っているからと、相手にしすぎるのはやめてください。オスカーは人間で、妖精とは造りも寿命も違います。オスカーが死んだら村長も嫌でしょう」
私が冷めた口調で妖精の村長を諌めると、村長はへにゃりと眉を垂らした。
「このくらいで死ぬとは、人間は弱いのぉ」
「その弱い人間に助けを求めたのは、どこの妖精ですか。あんまり度が過ぎたら、この妖精の村を『助ける』のはやめますからね」
「ほにょ、、、」
村長は項垂れる。
妖精の村に私自身がしてやれることは、実は何もない。
聖女がこの地域にいることで自然界のバランスが整い、本来の生物や環境が持つ力を最大限に発揮できるらしい。
つまり『助けない』ということは、私がこの村から去るということだ。
マリウスもオスカーもワイアットもこの土地を気に入っているから、私だってここから出たくはないが、妖精の村長に反省してもらうには、このくらい強く言って丁度いいだろう。
でも、あまりに村長が淋しそうな顔をしていると、小さい子供を苛めたみたいで罪悪感が湧いてくる。
「、、、まぁ、村長には、この『睡眠』の飴を作ってもらって助かったので、今回だけは許してあげます。次からは気をつけて下さいね」
私がそういうと、村長はパァっと表情を明るくして笑った。
「わかった。気を付けようぞ」
本当にわかっているんだろうか。村長にうまく転がされている気がしないでもないけど、と思いながら、私はマリウスを呼びに庭に出た。
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そういうわけで、翌日、予定通り、マリウスとオスカーを連れて、私は城下町に辿り着いた。
ベリルはその場にはいない。いずれ城下町に来るだろうけれど、夜の仕事があるのでそのための睡眠をとらないといけないと言って、1人家に残った。
ワイアットはというと、城下町まで一緒にきたけれど、以前世話になった騎士の団長に挨拶に行くといって、城下町まで一緒に来てから、私達と離れた。
「オスカー。昨日はゆっくり眠れた?」
私が尋ねると、昨日よりだいぶ目の下のくまが取れたオスカーは、なぜ昨日急に寝てしまったのか納得できない様子に眉を寄せながら、自分の長い黒髪を撫でた。
「あぁ。話の途中で寝るなどと、あまりに不甲斐ない姿を晒してしまったが、頭は随分とスッキリしている」
「そう。それは良かったわね」
私は微笑んで何度か頷いた。
マリウスはまだ、ワイアットには自分が騎士になりたいということを伝えていないようだった。
騎士団長という存在に個人単位で会いにいけるほどの兄を持っているなら、そこから多少のコネが作れそうだけど、きっと変なところで真面目なマリウスはそれを良しとしないだろう。
騎士を募集する時期になるのを待って、正々堂々と合格するつもりだと思う。
騎士団募集の時期は、冬がくる前の時期にある。
期間としてはあと三ヶ月。
勇者の素質のある人間が、毎日努力して身体を鍛え、元騎士である兄に修行をつけてもらっているのだから、騎士試験に合格するのはわかりきっている。
むしろ、最優秀で合格して、国王の覚えめでたく、、、なんてことになったらと思うと不安でいっぱいになる。
マリウスは本当は人前に出たらいけない人だ。
強さが突出しているから目だってしまう。
またマリウスが勇者に選ばれたら、どうしようか。
何かが起こる前にマリウスだけ連れて逃げる?
いや、マリウスは騎士になりたいんだから、私と一緒に逃げたりはしてくれない。
騎士になってしまったら私が手を出せなくなってしまう。だから騎士になるのを諦めてもらうしかないわけで。
あと三ヶ月。
マリウスが騎士への道を諦める方法はないだろうか。だからといって、マリウスが『したい』と言っていることを辞めさせることはしたくない。だから、『他にもっとしたいこと』を見つけるのだ。
騎士ではなく。勇者でもなく。
地味で目立たず、強いことで目をつけられることがない職業。
「、、、難しいわね、、、、」
ポツリと呟いた私の言葉に、オスカーが同意する。
「そうだな。ギルドに売りに行くのが手っ取り早くはあるが、長い目でみると商会との繋がりを作っておくのも悪くない。ドラゴンの素材は、誰しもが喉から手が出るほど欲しいものばかりだ。値段だけに囚われずに、大きな視野を持って売る場所を選ばなければな」
オスカーは私の呟きを、随分と誤解して受け取ったようだ。そんなつもりで言ったわけじゃないけど、とは今更言えない。
「そ、そ、そうよね。未来のことも考慮しなきゃね」
私はオスカーの話に無理やり合わせると、オスカーの横にいたマリウスは「売れればどこでも良さそうだけどな」と身も蓋もないことを言う。
「そうだ、商会といえば、オスカー。魔剣って商会にも売っているんだろう?商会に行くならついでに、魔剣で良いものがないかも見てくれないか」
「魔剣?マリウスにしては珍しいな。常に正々堂々、本来の力で戦いたいからって、いつも普通の、何の付与もついていない剣を買っていただろ」
常に正々堂々戦いたいって。マリウスらしいといえばマリウスらしいけれど。
殆どの剣士は魔剣を持っている。実際、強い剣士は強力な魔法を付与した魔剣を使用しているのだ。
魔剣を使わずに『最強』になれたマリウスは本当にすごい。
マリウスは、はは、と明るく笑う。
「もっと強くなるために、好き嫌いはしないようにしようかと思ってな」
好き嫌いって、子供の野菜的な言い方で剣を扱うのはどうだろうか。
「商会だけでなく、どこかオススメの武器屋はあるか?城下町は店が多すぎて」
マリウスはあまり情報収集は得意ではない。やや行き当たりばったりのところがあるから、情報管理が得意なオスカーがいつもフォローしている。
「、、、噂の武器屋がちょうどこの近くにある。商会より先にそっちに寄るか」
マリウスとオスカーは動き始める。
武器屋か、と考えて、私は足を止めた。
「私、ここで待ってるね。ちょっと疲れちゃった」
マリウスが私を振り返る。一緒に行くつもりだったようで、少し困った顔をしていた。
「近くだというし一緒に行かないか。もし変な男に声をかけられたらどうする」
「声なんかかけられないから大丈夫よ」
私が苦笑して言うと、マリウスは納得できなさそうな顔をしながらも、そうか、と呟いた。私が武器屋に行きたがっていないことを察知したようだ。
「本当に、変な男は相手にするなよ?」
繰り返された言葉に、私は小さく手を振ってマリウス達を見送った。
私は元々、武器屋があまり好きではない。
魔物だけでなく人を殺すための道具が並ぶ場所だ。
店を埋め尽くすように並ぶ武器を見ていたら、少しずつ気分が悪くなってしまう。
そしてあの事件。
魔王の前で、マリウスが背中から刺されていたあの日から、その感覚が強くなってしまった。
単体だけならまだ我慢できるけれど、武器が並ぶとダメだ。
マリウスのあの死は、今でも私の身体を蝕んでいる。ーーーそれはまるで、呪いのように。
あの日。
魔王の場所までやってきて、そして私達はすぐに、その実力差に愕然とした。
でも、引き返せないわけではなかった。
皆で協力して逃げる方に全力を尽くしたら逃げられたかもしれない。
それができなかったのは、誰かの裏切りがあったせいだ。マリウスの背中に、見知らぬ剣を突き刺した誰かの。
勇者パーティーメンバーはとても少ない。
私以外にマリウスとオスカー。ベリルと、そして剣士のケイレブしかいない。
そのうち、刺されたマリウスと私を除外すると残りは3人。オスカーを始めは怪しんでいたけれど、こうやって2人の関係を改めて見ていると、オスカーがマリウスを殺す理由が見つからない。
オスカーは何でもできるし、誘惑に流されるタイプでもなさそうだ。クールながらもマリウスを家族のように大切にしていることは、ここ数ヶ月一緒にいるだけでもよくわかる。だから犯人はオスカーではない気がしている。
ベリルはというと、私が思っていた人とはちょっと違ったようだけど、それでも彼女がマリウスを殺すことなんて考えるとは思えなかった。
だから、残るは1人だけ。
多分、あの人が犯人なのだろう。
大剣士、ケイレブ。
かつて、戦場で英雄と称えられた怪物。
マリウスに似て非なる存在。
マリウスが選ばれなければ、ケイレブが勇者として選ばれたのではといわれていた人物だった。
多少とはいわず、性格部分に多大な難があったために単独行動を好んでいたけれど、ケイレブもベリルと同じく、自分から勇者パーティーへの参加を希望して入ってきた。
豪快といえば豪快。小さなことを気にしないのは褒め言葉としても、無神経といえばそうでもある人だ。身体はそこまで大きくないのに、傍にいるだけで威圧されるような圧迫感が私はあまり得意ではなかった。
食事で向き合って食べているだけで、腹を空かした熊と対峙しているような気分になる。
はっきり言って、苦手だった。
犯人がケイレブだとしたら特に、私は絶対に彼には会いたくない。
彼をマリウスに会わせたくないし、会わせる気もない。彼は今頃はまだ、他国との境で行われている戦に行っているはずだし、彼の故郷も城下町からは遠く離れていたはず。
マリウスが勇者にでもならない限り、ケイレブとの接点はない。
マリウスを勇者にさえしなければ、もうケイレブと関わることはないだろう。
ケイレブのことを思い出すだけで胸がザワザワと波打つのが分かる。かなり不快を伴う不安感が、血管を逆流するように私を蝕もうとする。
「、、、考えたらダメよ。大丈夫。もう、あの人とは会うことはないんだから」
私は自分の頭を抱えて、僅かに息苦しささえ感じだしながら、大きく息を吐き出した。
もう関わらない人だ。こんな嫌な感情。さっさと消えてしまえばいいのに。
そう思っていると、突然肩をポンと軽く叩かれた。
マリウスとオスカーは、さっき私と別れたばかりだ。
私の肩を叩いたのはその二人ではない。
まさかマリウスの言うように、軽薄な男が私に声をかけてきたとでもいうのだろうか。
誰だろうと振り返ると、私はある意味、視界を奪われた。
目の前には、山男のような男の姿。
誰と聞くまでもない。
その男の不敵に歪んだ笑顔。
明るい茶色の髪は、ライオンのようにごわついて逆立っている。
そんなに身体が大きいわけではないのに、まるで岩山が目の前を塞いでいるような。
決して美男ではない、太い眉と大きめの鼻に大きめの口は、顔の大きさとのバランスが悪くて、やや動物寄りのイメージがある。
私は完全に身体が固まってしまった。
なぜここに、この男がいるのか。
決して会うことはないと思っていたのに。
「、、、ケイレブ」
その名をつい呟いてしまった私に、ケイレブは片目だけ細めてニヤリと笑った。
「ーーーよお。久しぶりだな、聖女さんよ。その様子だと、あんたは俺を覚えているようだ。心から嬉しいぜ」
悲鳴を上げてダッシュで逃げたかった。
絶対会いたくない人だったのに、まさかこんなところで会うなんて。
信じたくなかった。
それから、、、、今、私のことを『聖女』って呼ばなかった?




