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賢者との思わぬ再会

 ライラックの花が咲いていた。紫と白の小ぶりな花が繁って良い香りが鼻をくすぐった。

 遠くの山は新緑色に染まっていて、その季節が初夏であることを知る。

 16歳の初夏。

 私ははっとした。

「急がなきゃ」

 

 村にある自宅に戻って、まず私がしたことは、聖女の力が使えるかどうかの確認だった。


 聖女とは聖魔法という回復系の魔法が使える人のことを言う。


 私は小さい頃から、光魔法を使うことはできていた。レベルは低かったけれど。


 この世界は魔法を使える人が多く、五大魔法、つまり火、水、風、土、雷の魔法のどれかを1つ使えることが一般的だ。

 その他の光、闇、聖、毒などは特殊魔法と呼ばれ、稀有なものとして重宝される。


 私は光魔法が使えただけで、村ではものすごく大切にされて育った。気候が悪くて太陽が出ない時に光魔法を使うと、太陽を浴びた時のように田畑の植物が育つからだ。

 『ヤードターナの太陽』と呼ばれたのは、そのままの意味で、光魔法を使って日光代わりをされていた経緯がある。


 そして聖魔法は、植物を成長させる太陽光にも似た光魔法のそれとは違う。

 成長を促すだけじゃなく、植物が枯れても普通の状態にまで回復させられる。それは生物も然り。


 氷魔法が水魔法の上位魔法であるように、聖魔法は光魔法の上位魔法だ。

 ただし、光魔法自体が使える人が少ないので、聖魔法が光魔法の上位魔法であると証明できた人が今までいなかった。

 それがわかっていたら、私はもっと早く聖魔法を会得できていたと思う。まさか自分が聖魔法を使えるなんて思ってもいなかったから、確認さえしなかった。

 もしかしたらずっと前から聖魔法も使えたのかもしれない。


 そう思って、今回、確認のために『聖魔法』を使うつもりで枝が枯れた木に魔力を注いだ。

 すると、枯れかけていた枝が回復しただけでなく、先から折れたはずの枝までが元々そうであったかのように生き生きと伸びた姿になっていた。

 私がしようとしてたのは『治癒』なのに、これは『再生』の魔法だ。


「こんなに私の聖魔法って強かったっけ?」

 私は首を捻る。

 正直、実力不足は否めなかった私の魔法。

 枯れた枝が復活するとか、かつて見たことなかった。

 この腕が切れても元に戻せるという『再生』の魔法は確か、聖魔法レベル10あたりのやつだ。

 私、魔王と対峙した時でもレベル5くらいだったような気がする。あの頃18歳で、今は16歳くらい。魔王と戦ったのは、旅を続けながら訓練した後の話なのに、まだ旅立ってもいない今の方がレベルが上ってどういうこと。


 考えてみるが、結局、レベルの高い聖魔法が使える理由はわからないので「まぁいいか」とその疑問は頭の端に追いやった。


 聖女は100年に1度程度しか生まれないという超希少人物であり、それは歴史の教科書に乗るレベルで注目される。


 だけど私はもう『聖女』をやる気はない。

 聖女でないなら、聖魔法がどんなに高レベルだろうが強力だろうが関係ない。


 私は勇者になる前のマリウスを見つけて、マリウスも勇者にはさせず、お互いただの一般人として、普通の恋をして、結婚して幸せに暮らすのだ。

 もう皺々の老人になってから、どちらかの最期の日に、二人で手を握って「あなたに会えて幸せだった」って微笑みたい。


 それが最終目標。そして最高目標。


 そして私はその第一歩を踏み出すために、独り暮らしをしているヤードターナの家から旅の支度をして飛び出した。


「待っててね、マリウス様っ!ーーーいいえ、マリウス。私の愛するダーリン」


 私は走り出した。

 私の住む村から、マリウスの生まれた町は100キロ近くある。

 早くマリウスに会いたかったし、理由あって早く行かなければならなかった。


 マリウスの町には馬車で行けなくもないけど、ここからなら最寄りの港から船で渡った方が間違いなく早い。

 だが最寄りの港からマリウスのいる町までの船は1日1回しか出港しなかった。


 もう太陽の高さは頭上を越えた。

 時間がない。

 明日になれば明日の船には乗れるけど、今、この時、この日の時間はもう戻ってはこないのだ。

 また次も過去に戻れるかどうかなんて、誰にもわからないのだから。


 私は港まで走っている最中に、村の横を流れる川に気づいた。この川を下れば海に辿り着く。

 川の流れは早く、そして深そうだ。

 

「、、、背に腹は変えられないわね」

 きょろりと私は辺りを見渡し、側に誰もいないことを確認する。万が一、誰かに見られても私だとバレないように、頭からスカーフを被る。


 そしてちょうど良い大きさの木を見つけて、手のひらをそこに垂直に向ける。

「シャイニングカッター!」

 それは光魔法レベル7の攻撃魔法。

 私がその手のひらを横に振ると、太い大木が輪切りになって倒れた。

 光魔法の威力も増している。

 

 私は少し得意気になりながら、その木をあと数回シャイニングカッターを使って縦長の板状にした。

 

 そして大人二人分くらいの大きさになった板に手を乗せると、手を乗せた部分から幾重もの枝が生えてきた。

 板にバランスよく枝をつけることで、板は簡易的なボートになる。

 ボートを川に浮かべ、私はそれに乗った。

「さぁ、愛の架け橋ラブちゃん1号。私をマリウスのところまで運んでちょうだい」

 私はボートを漕ぎ始めた。


 頭上の空はどこまでも青く澄んでいて、白い雲はぽっかりと優しく浮いている。鳥は楽しそうに歌い、追い風は優しく私の背中を押す。

 素敵なことが起こる予感しかしなかった。

 そしてラブちゃん1号は、即席ボートにしては順調に川を下ってくれた。

 

 たまに大きな岩にぶつかってボートが欠けそうになることがあっても、ボートに聖魔法をかけると治ってくれる。 

 聖魔法ってこんなにも便利なのね。


 川が海と合流すると、あっという間に港についた。

 さすがに港にでると人に見られてしまうので、光魔法『陽炎』で自分の姿を隠す。『陽炎』は光の屈折を利用して人や物の姿を本来のものと変化してみせる技だ。

 上手く使えば姿を消すことも可能なのだ。

 ちなみに『陽炎』の魔法の存在は知っていたけど、使うのは初めてだった。なぜならレベルが低かったから。やってみたい魔法の1つだった。


 岸についてから『陽炎』の魔法を解いた時、誰かと目が合った気がした。でも辺りを見渡しても誰も私の方を見る人はいなかった。


 聖女として、人に見られ続けた日々だったから、どこか自意識過剰になっているのかもしれない。


 私は独りで照れ笑いをして、船の方まで足を運んだ。

 船はすでに出港の準備に入っていた。

「待って。その船に私も乗ります」

 駆け寄ると、碇を扱っていた船員が私を上から下からと眺めて、変な顔をしてみせた。


「お嬢さん、あんた1人かい?連れの人はいないのか?」

「あっ」 

 しまった、と私は口元に手を当てる。

 船に年齢制限はないが、決して安全とは言えない。いざとなると船員が助けてくれることもあるけれど、海の上での戦闘は危険なので、基本的に見て見ぬふりをされることが多いのだ。

 そのため女子供が船に乗る時は、同乗者がいるか、護衛を雇う。船員も余計なトラブルは困るから、一人きりの女子供はそもそもお断りされるケースがあることを失念していた。


「困ったわ」

と私が呟くと、後ろから低めの声の男の声が聞こえた。

「雇われてやろうか?」


 振り返ると、私の見知った顔がそこにあって、私は盛大に顔をしかめてしまった。

「!?」

「なんだその顔は」


 黒くて長い髪を1つに括った長身。

 小さい頃に魔物の瘴気(しょうき)にあてられてオッドアイになっている彼の瞳は、片方が澄んだ青色で片方が深い緑色だった。


 彫刻のように整った顔立ち。暗い印象はあるものの、悪人ではない。マリウスの幼馴染み。


 その男はマリウスと共に町を出て冒険者になった。

 マリウスは今、故郷である町にいるはず。

 だから彼も今はまだその町を出ていない頃であり、なぜここにいるのかわからなかった。


『オスカー』


 その名をうっかり呼んでしまって、私は自分の口を硬く閉じる。

 私が今の段階で彼を知るはずがない。

 

 オスカーは勇者のパーティーの1人だ。

 いずれ賢者と呼ばれるようになる彼は、マリウスの親友だった。

 同じ町に生まれた2人の英雄。

 それでも2人は諍い合うことなく、助け合い、励まし合って魔王のところまで辿り着いた。


 全く気が合わなさそうで、とても仲が良い2人を、私はいつも微笑ましく眺めていたのだけど。

 あの時。

 魔王と対峙したあの時間は、私にはまだ、数時間前のように感じる。


 魔王の絶大な力に敗れて倒れた仲間達。

 そんな最悪な状況の中で、信頼で結ばれたパーティーの中の誰かが、マリウスを背中からナイフで刺した。


 マリウス自身では背中に刺せないのだから、そうとしか考えられない。魔物がナイフを使うはずもない以上、そういうことになる。


 私を含むパーティーメンバーは5人しかいない。刺されたのはマリウスで、私でもないとしたら、残るメンバーはたった3人のみ。

 オスカーはその1人なのだ。


 私は、よっぽど恨めしい顔をしていたのだろう。オスカーは困ったように顔をしかめた。

「そんな顔をされるほど、俺が怪しい人物に見えるか?」

 

 言われて、私ははっとする。

 オスカーはマリウスの親友だ。

 裏切り者かどうかはともかく、マリウスからしたら、親友を睨み付ける女なんて感じが悪いに決まっている。

 彼の親友とは仲良くしてこそ。

 将を射んと欲すればまず馬を射よ。

 別にオスカーが裏切り者と決まったわけでもないのだし、敵意をぶつける必要はないのだ。


 私はにっこりと笑った。

「いいえ。ちょっと知り合いに似てたから驚いただけなの。護衛になってくれるの?すごく助かるわ」

 私は素直にオスカーの護衛を受け入れ、船の護衛の相場である銀貨3枚を渡した。


ちなみに銀貨3枚は、そこそこお高い。

 質素なパン1個が銅貨1枚。

銀貨は銅貨の100倍に値する。

 銀貨20枚が、成人男性の1ヶ月の平均給金といえば、なんとなく想像つくだろう。


 なぜ16歳の私がそんなお金を持っているかというと、亡くなった私の両親の遺産だった。

 以前の私は、そのお金を後生大切にして保管していた。

 でも結局、過去に戻る前の私はそれを使わないまま死んでしまった。ーーー死んだかどうかわからないけれど、多分、死んでしまったのだと思う。


 大切にしまいすぎて、折角の親の私に残してくれたものを捨てたようなものだ。

 今度の人生はちゃんと計画的に使っていこうと思って、この旅に持ってきた。


 マリウスのもとに行くためのお金。

 こんなところでケチって計画が崩れたら元も子もない。


「銀貨3枚?これだけ出せるのなら、もっとちゃんとした護衛が雇えるんじゃないのか?」

 オスカーは私を訝しげに見つめて、その手に渡した銀貨を2枚、私に戻した。

「1枚でいい。もしここの連中が襲ってきたとしても、そのくらいどうにでもなる」

「随分と余裕なんだな」

 話を聞いていたらしい船員の1人がオスカーの言葉に近づく。それを別の船員が止めた。 

「おい。やめとけ。そいつは町でも有名な『穢れ』だぞ。関わるとろくなことにならん。とばっちりを食らうぞ」


 穢れ。

 私はその言葉に激しく不快感を覚えた。

 

 そういえばオスカーは、その端正な顔立ちと優れた才能と共に、『穢れ』として町の人から距離を置かれていたらしい。

 口さがない人達によってその悪い噂は歪められて広がり、オスカーの周りに人は近寄らなかった。

 ーーーマリウスとその兄、ワイアット以外は。


 そう聞いてはいたけれど、オスカーはいつも淡々としていて、そういう部分を素直に表に表す人ではなかった。本人も「他人から何を言われようが気にしない」と言っていたし、私もオスカーならそうなんだろうなと、何となく聞き流してしまっていた。


 でも海上にいるただのゴロツキにまで、こんな扱い。それならば、小さな町ならもっと酷い光景が繰り広げられていたのではないだろうか。


「穢れって何ですか」

 ずいっと私はオスカーを罵った男に詰めよって、心の底の怒りを思いきり表情に示した。


 私はオスカーを裏切り者かもしれないと疑ってはいても、他の人がオスカーを悪く言うのは気分が悪かった。

 矛盾?いいえ違う。


 オスカーはクールな人で、言い換えれば愛想がない。けれど、本当は優しい人であることを知っている。マリウスと違って困った人を困った時に素直に手を差しのべられる人ではなかったけれど、その後で裏手に回り、結果、人を救う人だった。

 少なくとも、オスカーによって幸せになった人は数多くいた。間違っても、穢れだなんて罵られるような人ではないことは確かだ。


 ただ人と少し違う瞳をしているだけ。

 ただ魔族の瘴気にあてられただけだ。


 私は船員に詰め寄る。

「彼に謝って下さい。それは人を侮辱する言葉です」

「、、、おい」

 私の後ろにいるオスカーは、私の行動に驚いて私を止めようとしたけれど、私はその手を払って更に男に顔を寄せた。


「この人が貴方に何かしたんですか?その穢れとやらで迷惑でもかけた?そうでないなら、ただの噂でこの人を貶すようなことはやめて下さい。この人は、、、っ!」


 むきになって怒鳴ろうとして、私は慌てて自分の口を閉じた。 

 これでは、私がオスカーを知っていることをバラしてしまうようなものだ。

 そうでなければ、オスカーのことを何も知らないくせに知ったかぶりをする人間だ。

 まだ私の事を知らないマリウスに、『変な女』だと告げ口をされてしまうかもしれない。


 一瞬にして冷や汗をかき、おずおずとオスカーの顔を見ると、オスカーは私の顔を凝視していた。


 やっぱり変な女だと思われている。


「、、、なんだ?この女ぁ?」

 男はむっとした顔で私に手を伸ばそうとして、それをオスカーが退けた。

 私の腕を引っ張り、自分の後ろに私を回す。


 こういうところ。

 こういうスマートなところ、流石、マリウスの親友なだけあって、形になるっているか、格好いいっていうか。

 ーーー憎たらしくなるのよね。

 オスカーが目立つと、横にいるマリウスまで女の子の視界に入ってしまう。

 クールな人は目立たず大人しくしておけばいいのに。まぁオスカーは顔面偏差値が高過ぎて目立たないでいることは不可能だろうけど。


「今の無礼は俺が謝る。この女は大人しくさせておくから、この船に乗せてくれないか。頼む」


 自分が罵られたというのに、私の代わりに男に頭を下げたオスカー。その行動に、船員達も水を差されたとばかりにため息を漏らした。


 彼らはオスカーには謝りはしなかったが、私に対して怒ることもなく、素直に船に乗せてくれた。

 厳つい顔だしオスカーのことは知りもせず罵ったりしたけど、ここの船員も心から悪い人間ではなかったということだろうか。

 

 船は動き出し、港を離れた。


 船員達はそれぞれの場所に散らばり、必死に働き出している。

 魔王を倒す私達の旅の終わりの方は、危険過ぎて船を出してくれる人も見つからず、パーティーメンバーで船を動かしていた。

 船を操縦するという作業は、見るよりずっと複雑で、かなり体力を消耗する。

 風を読み、帆を張り、舵を取る。


 私は男達の動きを見ながら、船のデッキの船側にもたれかかって昔を思い出していた。


 賢者であるオスカーが、無風の時に魔法で風を吹かせて船を押したこともあったっけ。

 風が吹き出すまでのんびりしておこうと言っていたマリウスが、船が急に動き出すものだから慌てて操縦席に走ろうとして、床が濡れていることに気付かず思いきり尻餅をついた時のことを思い出した。


 あの時のマリウスの顔ったら。


「ふふ」

 私が思い出し笑いをすると、横から声がかかる。

「何が面白いんだ?」

 少し離れた場所から不可解なものを見るような目で、オスカーは私を見ていた。

「ただでさえ、さっきのことで目をつけられているんだ。働いている姿を見て笑っていたら、海に突き落とされるぞ」


 オスカーの頭の根元で結ばれた黒くて長い髪が、海風に吹かれてなびいている。

 まっすぐ私を見てくるオスカーを、珍しいなと思った。


 オスカーはとてももてるが、子供の頃からの村の差別によるトラウマのせいか、あまり人をまっすぐに見る人ではなかった。特に私には目を反らしていることが多くて、オスカーとあまり目を合わせた記憶がない。

 私がマリウスばかり追いかけていたから、バカな女と思われて呆れられていたのかもしれない。

 今はまだマリウスバカであることをオスカーは知られていないから、普通に私と目を合わせてくれるのだろうか。それでも見知らぬ人をオスカーがまっすぐに見ることは珍しい。


 ふと、ある可能性が浮かんで、私はオスカーに聞いてみた。

「、、、私とどこかで会ったこと、ある、、、?」


 私だけ過去に戻ったものだと思っていたけれど、もしかしたらあそこにいた皆も一緒に過去に戻っている可能性があることに気づいた。

 最後にいたのは魔王の作った時空の(はざま)

 時間を超えた理由があの空間にあるとしたら、考えられない話ではない。


 しかし、それは違ったようだ。

 オスカーはとても不思議そうな顔をしていた。

「それは、、、ナンパか?」

 私は慌てて手を振った。私がオスカーをナンパするわけがない。私はマリウス命。他の人に目移りすることは決してない。


「そんなわけないじゃない。知り合いに似ていたから、聞いてみただけよ」

「そうか。では違うな。俺は一度出会った人のことは間違いなく覚えている」

「、、、そう。じゃあやっぱり、違うのね、、、」

 オスカーは過去から戻ってきたわけではなさそうだ。オスカーの返答を聞いて、どこかほっとした自分がいた。


 同じパーティーメンバーの記憶がないのは寂しいけど、最期のマリウスへの裏切りは許せない。

 マリウスに短剣を刺した人物がいること。つまりはマリウスへの裏切りの気持ちを誰かが持っているかもしれないと思うと、すごく嫌だった。


 過去に戻ったなら、まだ間に合う。

 勇者でなければ、皆と一緒に旅をしなければ、誰かがマリウスへの悪意を持つことなく、不意打ちを食らってマリウスが死ぬようなことを阻止できるかもしれない。

 そうなればいいなと心から思う。


 私はにこりとオスカーに笑った。

「ーーーじゃあ『はじめまして』ね。私の名前はアグノラ。さっきは助けてくれてありがとう。この船に絶対乗らないといけなかったから、本当に助かったわ。私ったら、すぐむきになるからいけないわね」

 私がオスカーに手を伸ばすと、オスカーは拒否することなくその手を握ってくれた。

「、、、俺はオスカー。そんなに急いで、どこに行くんだ?」

 オスカーに聞かれて私は正直に答える。

「船が着いた先にあるハタカンの町よ」

 マリウスとオスカーの生まれ故郷。

 そして、この年の初夏に滅ぶ町、ハタカン。


「そうか。俺も一度、その町に戻るつもりだった。それなら港だけでなく町まで護衛しよう」

 オスカーの魔力は、小さい頃から天才的だったと聞く。私も光魔法があるから多少は戦えるけど、オスカーがいたら道中は間違いなく安全だろう。

「助かるわ。よろしくね」


 そう言う私を見るオスカーの目が、少し眩しそうにしているように見えた。

 太陽でもみるかのように。


 私が『ヤードターナの太陽』だからかな。

 なんて、自分自身で突っ込んでみたりして。


 だって、オスカーが私をそんな風に見る理由が全くわからない。

 オスカーって、私のことを嫌っていたでしょう?

 ーーー違ったのかしら。



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