表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/68

転移の魔方陣ってどんなものかしら。

「城下町まで?」


 妖精の長老は、自身の長い髭を触りながら、こてんと首を傾げた。いくら手に乗るほど小さくても、妖精だとしても、お爺さんの『こてん』は可愛くない。


「そうです。今から1週間ほどここから離れますけど、ちゃんと戻ってきますから行ってきてもいいですか?」


 聖女が現れるのをずっと待ちわびていた妖精達。

 でも私はまだ、ここの土地に来て、この妖精の村に何も貢献していない。そんな中で私が離れると聞いたら、不安がられてしまうだろう。

 だから、ちゃんと戻ってくることに念を押した。


「ふむ、、、まぁ構わぬけど、1週間も必要か?」

「え?でも、ここから城下町だと、片道3日はかかりますよね?」

 私もお爺さん妖精を真似して、首をこてん、と倒して見せたら、横にいたオスカーが私に対して変な顔をしてみせた。


 さすがに私も無理があったか。


「お主ら、知らんのか?城下町には人が集まるように、城下町の門の前に転移の魔方陣が設置されておる。そこに繋がる魔方陣が、各地に点在しておることを」


「ーーーな、、、んだと?」

 それを聞いて、オスカーは横にいる私が一瞬、身体を縮ませてしまうくらいの怒りを表した。


「うむ?知らんかったのか?そこそこ有名な話じゃと思うが」

「、、、、、」


 オスカーの顔を見るのも怖いけれど、私は察してしまった。


 ワイアットの瘴気による病を治すために、オスカーは世界中を駆け回って、エリクサーと、他に治療法がないかを探し続けた。


 オスカーは転移の魔方陣の情報を知らず、必死でそれ以外の方法で移動してきたのだろう。

 その魔方陣がどこの地域まで設置されているかは知らないけれど、知っていればオスカーはもっと時間を有効活用できたはずだ。


 オスカーの瞳はオッドアイ。

 片方の瞳は瘴気に侵されている。『瘴気』自体を忌み嫌う人達は、オスカーに親切にしてはくれない。

 だから誰も、瘴気を持つオスカーにその情報を教えてくれなかったのだろう。


 私はオスカーの背中をパンと叩いた。

「痛、、、!?」

「私も知らなかったんだもの。タイミングが悪かったのよ」

 オスカーに私はにこりと笑う。


 私は田舎で暮らすただの娘。かたや、オスカーは世界中を回るギルドメンバー。

 手に入る情報の量は雲泥の差だろうけど。


「それで、ここから一番近い魔方陣の場所は、どこなんですか?」

 私がお爺さん妖精に聞くと、ふむ、と言って教えてくれた。

「ここから南に下ったところにある町かのぉ。鉱石がよく出る山の麓の町で、鉱石を運ぶのに転移の魔方陣があると助かるからのぉ」


 オスカーはぼそりと呟く。

「、、、、バヤマンの町か」

「そうそう。よく知っておるのぉ」

「行ったことがあるからな」

 眉間に皺を寄せたままのオスカー。行ったことがあるのに教えて貰えなかったって、辛いよね?

 でもかける言葉も見つからない。


「、、じゃ、じゃあ、今からそこに行って魔方陣で城下町に飛べばいいのですね」

 私は気を反らすようにお爺さん妖精に言うと、お爺さん妖精は「ほっほっほっ」と笑い出した。


「実はワシ、その魔方陣を創れるのじゃよ」


「「え、、、?」」

 オスカーと私は同時に声を出す。


 私達の反応が予想通りだったようで、お爺さん妖精は楽しそうに笑った。


「オスカー。お主はすでに5大魔法を使えるし、まだ潜在能力がありそうじゃ。お主なら、もしかしたら魔方陣を創れるようになるかもしれんの。まぁ今回は時間がないようじゃから、ワシがここに創ってやろう。関係者以外は入れない結界も加えてな」


 そういって、お爺さん妖精は家の外にある、昨日焚き火をしたところから少し離れた場所に移動した。


 何かを考えていたオスカーは、おもむろにお爺さん妖精に声をかける。

「、、、その魔方陣を創る姿、俺も見せてもらっていいだろうか」

「ふむ?構わぬよ。秘密にしておるわけでもないからな」


 そしてお爺さん妖精は、オスカーの見ている前で、かなり複雑そうな魔方陣を地面に描き始めた。


 それにしても、そんな魔方陣があるなんてこと、過去に戻る前の私達も知らなかった。

 国王から依頼されて魔王を倒す役目を得た勇者も、稀有な存在である聖女の私もその情報を教えてもらわないということはありえない。

 

 間違いなく、過去に戻る前はなかったのだ。


 いったい何故、、、?

 私が過去に戻ったことで多少の歴史が変わったとしても、私が過去に戻ってからまだ日も浅い。


 すでに転移の魔方陣が各所に設置されているということから、魔方陣を創ったのは何年も前のはずだ。


 私のことは関係なく、別の何かが同時進行しているのだろうか?


 ーーーーわからない。

 考えても、情報量が少なくて、全く予想もつかなかった。


 その頃、両肩に妖精を沢山乗せたマリウスが川から帰ってきた。その後ろにワイアットが続く。

 

 旅立つ前に遊ぼうと妖精達からせがまれて、マリウスは仕方ないなと遊びに出掛けていたのだ。ワイアットはそのお目付け役で付き添っていた。マリウスはどうも自然に触れると精神年齢が低くなりがちのようだ。

 調子に乗って危険なことにならないようにとワイアットがついていったのだけど、マリウスが全く濡れていないのに、お目付け役のワイアットが全身水浸しになっていた。

 

 私はワイアットにバスタオルを持っていき、頭からワシャワシャと拭きあげる。

「何があったんですか?」

「、、、あったん()()()?」

 

 その言い方で、敬語をなくして欲しいと言われていたことを思い出し、私は言い直す。

「ーーー何かあった、の?」

 

 私が言い直すと、ワイアットは茶色の綺麗な髪をバスタオルから覗かせて、にこりと微笑んだ。

「よくできました」


 ワイアットの優しい瞳に、思わずドキリとする。

 普段はそうでもないけど、ワイアットはたまに大人びた目をすることがある。大人びたというか、れっきとした大人なんだけど。

 それが色っぽいというか、なんと言うか。


 マリウスに似た顔立ちで、そういう顔をするのはやめて欲しい。


「これはね、マリウスが例のごとく調子に乗って川の水のギリギリまで近寄ろうとするから、僕が止めようとしたんだ。マリウスは川には入らなかったけど、僕はそのままバランスを崩して川にドボンだ」

 

「まぁ」


「でも、そのおかげで、川の中に沈んでいた綺麗な石を拾ったよ。アグノラにあげる」


 ワイアットは私に、透明な石を渡してくれた。

 石は完全に透明で、その表面は細かくカットされていた。明らかに人工的に細工されたものだとわかる。


 ダイアモンドではないけれど、その石は艶があり輝いてみえた。

「これは、、、水晶、、、?」


「綺麗だよね。この川が妖精の村にしかないものだとすると、こんな人工的な石は、ここに住んでいたという前の聖女様のものなんじゃないかな。それを偶然拾うなんて、ちょっと運命を感じるよね」

 

「私が貰ってもいいのかしら、、、」

 私がその石を強く握りしめた時。

 一瞬、耳鳴りがした。

「?」


 ザザ、ザ、ザザ。

 私は石をもっていない方の左手で耳を塞ぐ。


【、、、ザ】


【、、、ザザ、、、魔王が子供を?】


【そんな、、、ザザ】


【今はまだ大丈夫ですが、100年後には必ず大きくなって世界を混乱に陥れるでしょう】


【そう、、、100年後。では私はその頃はもう生きていないわね。せめてその頃に聖女がいたら、その助けになれるよう、これを】


【っ聖女様!しかしこれは貴女の、、、っ】


【いいのよ。それでこの先の未来も世界が平和であるなら】


 ザザ、ザザ、ザ。


 そして音は途絶えた。


「、、、今の、、、?」

 

 前の聖女の声だったのだろうか。 

 世界の平和を願って、この石を次の聖女である私に残す?

 川の中に入らないと見つからないものを? 

 それをたまたま、偶然?


 そんなことがあるかしら。


 私がチラリとワイアットを覗くと、マリウスが横から声をかけてきた。

「、、、最初、それに気づいたのは俺だったんだ。妖精達もその石を取るようにしきりに言ってくるし。だから川に近づいたんだが、俺の代わりにワイアット兄さんが川に落ちてしまって」

 マリウスは自分の茶色の前髪を掴んで、申し訳なさそうにしている。少し落ち込んでいるのか。


「取ったのは兄さんだ。兄さんがアグノラにあげると言うなら、俺はそれを止める権利はないし、妖精達もそれを望んでいる。ーーー受け取っていいと思う」


 なるほど。そういう経緯があったのね。

 川に落ちたら石を拾ったと言われると疑いたくなるけど、元々、石を見つけて妖精達に勧められて石を拾ったのなら納得がいく。


 見ると、ワイアットはニヤニヤと口元を緩ませてマリウスを見ていた。


「自分が先に見つけたとか、恥ずかしがって言わないかと思ってたんだけど、そこは言うんだな。可愛い弟よ」


 言われた瞬間、かぁっとマリウスの顔が赤く染まる。


「、、、バカなこと言うなよ」

 緩んだ口元のまま、ワイアットは首を振る。

「弟の見慣れない表情が、こんなに面白いとは。あの時死んでたら見れなかったものだ。生きてるって素晴らしいね」

「兄さん!からかわないでくれ」

 まだ赤いマリウスの顔が新鮮だった。

 勇者の旅では、マリウスはひたすら明るくも凛々しく、こうやって落ち込んだり、照れたりする様子なんか見せることはなかった。


 愛する兄のワイアットだからこそ、引き出せる表情なのかもしれない。


 ありがとう、ワイアット。

 マリウスの色んな表情を引き出す技、これからもどうぞよろしくお願いします。


 気づくと私は、ワイアットに手を合わせてお祈りをするポーズを取っていた。


 私の感謝がワイアットに伝わったかどうかはわからないけれど。


 

✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️



「さあ、できたぞい」


 お爺さん妖精が現れて、家の外の地面に描かれた魔方陣の近くまで誘導してくれた。


 転移の魔方陣は、地面に描いただけなのに青白く光を放っている。

「魔力が通っている証拠じゃな。この魔力は魔石から得ておる。たいした魔力ではないから、ワシが入れた魔石ならば半永久的に動くじゃろう」


 魔方陣の大きさは、直径2メートル程度の円たいだった。

「この大きさなのは、万が一敵が急襲でこの魔方陣を使った時のために、一気に大人数では攻められないようにするためじゃ。まぁワシの魔方陣には外部の人間が入れないようにする結界が張られておるから安心じゃがな」

「では、通るにはお爺さんの許可が必要ですか?」

「いいや。ここを通れる人間が『通って良い』と言えばそれで良い。結界の鍵は、頭と言葉の2種類だけじゃ」


 私がお爺さん妖精と話している横で、こそっとマリウスがオスカーに耳打ちした。

「、、、で。覚えたのか?」

 オスカーもマリウスの声の大きさに合わせて小声になり、前を向いたまま答える。

「覚えた。だが、魔石との繋ぎを術者の魔力で固めるんだが、その微調整がまだ俺には難しい」

 オスカーが答えると、マリウスは苦笑する。

「俺にはお前が何を言っているか理解するのも難しいな」


「そこの2人。いいか?話を続けるぞ」

 お爺さん妖精が先生のようになって、マリウスとオスカーに注意を促した。


「この魔方陣に乗れるのは600キロ程度だ。60キロの大人なら10人。鉱石が560キロで、60キロの男1人で乗ろうとしても動かんじゃろうから気を付けるんじゃよ。多少余裕をもって、多くても6~7人くらいにしておくとよい」


「わかった」

 オスカーは頷く。

「移動は簡単じゃ。そのメンバーの中で魔力のある人間が魔方陣と魔力を繋げて、行きたい場所の地名を言う。知らなければ、その土地の詳細を頭に浮かべるといいのじゃが、人の記憶など曖昧じゃからな。地名が間違いなかろう」


「もし曖昧な記憶の場合、どうなるんですか?」

 私が尋ねると、そうじゃのぉ、とお爺さん妖精は髭を撫でる。

「大概は飛べないというだけなのじゃろうが、たまたま記憶と一致する部分があった時に、目的地とは別の、全く知らない場所に飛ばされる可能性もあるな。まぁ今の魔方陣は、主要な場所にしか設置されておらんようじゃから、知らない土地でも大丈夫とは思うがの」


 ほんの少しの記憶違いで、全く知らない土地に行く。

 それはそれで面白いかもしれない、、、と思ってしまったのは内緒だ。


「城下町の門の前の魔方陣は、そのまま『城下町の門』で良かったはずじゃ。無事の帰りを待っておるからな」


 にっこりと笑って、お爺さん妖精は私達を送り出してくれた。


 そうして私達は魔方陣という手段で、城下町の門の前にたどり着いたのだった。




 ーーーさて。

 魔方陣の中に入る前。

 私は男達3人に向けて、こう話した。


『もし誰かが迷子になったら、明日の今と同じ時間に魔方陣の前で待ち合わせしましょう』


 ーーーつまり。

 私は城下町に着いたら男達から離れる気満々だった。


 あの場所にマリウスを連れていくわけにはいかない。

 『あそこ』にマリウスがいるところなんて、私は絶対に見たくないから。

 私は全力で離れてみせるからね。

 全身全霊をかけて。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ