【過去に戻る前】勇者マリウスとの出会い 残酷な描写あり
残酷な描写があります。ご注意下さい。
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私の名はアグノラ。
あれは私が17歳の頃。
住み慣れた村から離れて、1人で生きていくために、馬車に乗りこんだ。
好きでもない男の嫁になんかなりたくなかった。
なのに村では皆から、すでに私の結婚相手が決められているような言い方をされる。
私の光の魔法目当てに、私と結婚したいという人がその噂を広めたようだ。
噂された人は、嫌悪するほどの悪いところもなければ、良いところもないような人だった。少しお金持ちなだけで、会えば自慢話が延々と続く。自分より下のものは小馬鹿にして、そこにわずかに施すことで自己満足し、また自慢に繋げるような人だった。
もしかしたら、そんな人とでも、一緒に暮らしたらそれなりに穏やかな生活があったのかもしれない。
でも私は嫌だった。
村で「ヤードターナの太陽」なんて呼ばれていたからか、少し調子に乗っていたもころもある。こんなところで終わっていい人生じゃないような気がしていた。
私は世間でも珍しい光魔法を使えるし、周りの人は美人だと言ってくれる。
街にでたら、もっと素敵な生活が待っているような気がした。
ーーーもっと素敵な男性と巡り会えるような気がして。
だから私は馬車に乗り込んで、馬車に揺られながら、この先に広がる鮮やかな未来を夢見ていた。
そんな時、その馬車が襲われた。
町に続く森の中だった。襲ったのは、その土地でも有名な山賊だったらしい。
10人近く馬車に乗っていた人達は、悲鳴をあげる前に半分が殺された。
私の目の前にいた私と同じ年頃の女の子は、気づけば首から上がどこにもなかった。
私の身体は彼女の首から激しく吹き出るもので血塗れになり、初めて、異常であることが起きたのだと気が付いた。
生き残った人が逃げ出す中、命で遊ぶように1人、また1人と殺されていく。
私も悲鳴を喉で抑えながらできるだけ遠くに逃げようとして、いきなり右足の腱を斬られた。
ブチンと激しい音がして、気付けば森の地面の土に顔を埋めていた。
ゲハハと汚い笑い声が背中側から聞こえる。
「お嬢ちゃん。あんたが最後だ。今日はついてなかったな」
首の後ろの服を掴んで身体を持ち上げられた。
顔は汚すぎて、歳がいくつかもわからない。とにかく臭い男達だった。
黄ばんだ歯と、洗濯や風呂という言葉も知らなさそうな汚れた服と肌。
男が近寄るだけで吐き気がした。
「泥まみれだが、ベッピンさんじゃねぇか。連れて帰って売り飛ばすってのも悪くねぇな」
「おいおい。また面倒が起きるぞ。予定通りここで皆殺しだ」
「まぁ、それもそうか。ははは。じゃあ殺すか」
あっさりと私の命が奪われることが決定した。
でも私は死にたくなかった。
必死で頭を下げてお願いした。
殺さないで下さい。殺さないでくれれば何でもします。お願いだからーーーー。
私の必死な願いを聞いて、売り飛ばすと言っていた男が、私を連れて帰ることを決めた。
彼らの中では発言力のある人だったのだろう。
彼らの住む砦に着くと、早々に私は何もしていないのに叩かれて蹴られた。
そうやって、逃げる気力を失わせるのだと、あとで他の人に聞いた。
私は右足の腱を切られ歩くことも出来ず、殴られて顔は腫れ、蹴られて肋骨は折れた。
街を夢見て飛び出したその日に、地獄に引きずり降ろされたのだ。
牢屋に入れられて、私はしばらく意識を失った。
目が覚めると、牢屋の鍵が開けられる音で、中に入ってきたのは、さっき私を売り飛ばそうと言った男だった。
男は、見てわかるほどに私に欲情していた。
動けない私の手を引っ張り、私の足を無理やり開かせる。
「何でもするんだろう?」
と臭い息で私に囁いた。
嫌だ。気持ち悪い。
私はまだ世の中がわかっていなかった。こんなことになるなら、いっそあの時に死んでいた方が良かったと血の涙を流すほど後悔した。
だから、死ぬつもりの渾身の力で叫んだ。
「『サンシャイン』!!!!」
太陽代わりにされていた私の、唯一使える光魔法だった。
男は激しい直射日光を受けた状態になり、目を押さえて悶えた。その間に、私は自分のこれ以上ない力を振り絞って、その男の頭を男の持っていた牢屋の鍵で突き刺した。
男は悲鳴さえあげなかった。
そのあと彼がどうなったかは知らない。
私はその鍵で牢屋を出て、激しく痛む折れた肋骨を庇う余裕もなく、動ける左の足と両手で這いながら、奇跡的に砦から逃げ出すことができた。
仲間の山賊達に見つからないように息を潜めながら、激痛に耐えながら、私は森から抜け出した。
私は痛む身体で、這い続けた。
何日もその格好で夜を迎えた。
喉が渇き、どうしても我慢できない時は泥に浮かぶ水溜まりの水を啜った。
空腹と、激しい口渇と、恐怖に苦しみ続けて辿り着いたのは、有名なギルドのある町だった。
血塗れで泥だらけ。顔半分は腫れ、右足の腱は切れている。栄養と水分不足で、死人に近い顔をしているかもしれない。
「、、たす、、、助けて、、、」
喉が渇いて声も嗄れ、声にならない声で助けを求めても、誰も私に手を差し伸べてくれなかった。
汚いものでも見るように、眉を潜め、助けを求める私にかえって距離を置いて素通りしていく。
唾を吐いていく人もいた。
惨めだった。
辛くて悔しくて。そして何より悲しかった。
私はこの人達に何か悪いことをしただろうか。
泣きたいのに、もう流れる涙もない。
私は誰にも相手にされることのないまま、こんなよくわからない土地で死んでいくのだろうか。
悲しくて悲しくて悲しくて。
そんな時、私に手を差し出してくれた人がいた。
マリウスだった。
鍛えてガチガチになった彼の手のひらが、私の頭を撫でた。
泥だらけで血塗れなのに、それも気にせず、私の身体についた砂を払った。
「大丈夫か?」
にこりと笑うと白い歯が見えた。
茶色の短い髪はサラサラと風に揺れ、少し垂れている瞳が私を真っ直ぐに見つめる。
それは、眩しい太陽のようだった。
太陽の代わりをさせられていた私より、彼はずっと太陽だった。
「俺達もさっきここに来たばかりでよくわからないが、あんた、大変だったようだな。立てるかと聞きたいけど、その足じゃ、とても立てれそうにないな。腱が切れてるだろ」
そう言って、マリウスは隣にいた長い黒髪のオスカーに手を伸ばす。
「ん」
何も言わず、オスカーに手を出したが、オスカーはすぐに理解したようだ。
無表情のオスカーは、眉を寄せてみせた。
「今から俺達も強力なモンスターを退治にいくんだ。ここでこれを使うのはーーー」
「ん」
有無を言わさず、マリウスはオスカーに手を差し出し続ける。
諦めたオスカーは、マリウスの手に1つの小瓶を手渡した。
「サンキュ」
と言って、また明るく笑うと、マリウスは私にそれを渡そうとする。
「エリクサーがあれば一番いいんだけど、どうしても見つからなくてな。これで我慢してくれ」
小瓶に入っていたのは、濃いオレンジの液体だった。
エリクサーは赤。
そこから段々色が黄色くなっていく。
初級回復薬は黄色。
中級回復薬は薄いオレンジ。
濃いオレンジは上級回復薬だ。
普通の一般成人が1ヶ月働いて稼ぐ給料の3倍はする代物。時期や場所によっては、その更に数倍することもあるという。
こんな高いものを見知らぬ私が貰っていいかと私が動揺していると、マリウスが少し怪訝な顔をしてみせた。
「飲まないのか?」
是とも否とも言えず、私は目を伏せてしまうと、マリウスは、はぁ、と小さくため息をついた。
「これを飲んでくれないと、この薬はこのまま捨てる。高かったのに。残念だ」
本当に残念という声で呟くと、私の動揺する顔を見ながら、すぅと目を細め、本当に小瓶を開けて地面に溢した。
「、、、なっ、、、!!!」
私が慌てて顔をあげると、マリウスの笑顔がまたそこにあった。
手は、オスカーに向けて伸ばしている。
「ん」
オスカーは、それには驚きながらも、マリウスの性格を知っているからか、もう何も言わずにさっきと同じ濃いオレンジ色の液体をマリウスに渡した。ため息は漏らしていたけれど。
マリウスは私にもう一度、上級回復薬を差し出した。
「さぁ。どうする?あとはあんたの気持ち次第だ」
私は。
生きたかった。夢を見たかった。
でも、はじめの一歩が辛すぎた。
もう帰りたい。帰って好きでもない人と結婚して。
それでもいい気がした。
ここで死ぬくらいなら。
でも。
太陽が、私を照らしてくれていた。
私の道を。
その存在が私を救ってくれた。
この人の傍なら、生きていけそうな気がした。
これが一目惚れなのだと思った。
そして私は回復薬を受け取った。
味も気にせず飲み干したら、枯れていたはずの涙が目から溢れてきた。
ボロボロと。
口に入った涙は血の味がした。
もう誰の血なのかもわからない。
「あ、、、ありがとう、、、っ」
私は小瓶を両手で握り締めて、何度も何度も頭を下げた。
「ありがとう、、、ありがとうございます。ーーーありがとうーーー」
何度言っても、その気持ちを全てマリウスに伝えることはできなかった。
上級回復薬は、失った肉体と瘴気に侵された病は治らないが、それ以外のものは回復する。
私の切れた右足の腱は元に戻り、折れた肋骨も痛まなくなった。見えないけれど、腫れ上がった顔も本来の顔に戻っているだろう。
身体が泥だらけで血塗れなのは、そのままだけど。
そして私はその時に決めたのだ。
どんなことがあっても、どんなに足手まといになっても、このマリウスという人についていこうと。
どんなに苦しい道であっても、絶対に離れないと。
彼のために生きたいのだと。
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余談だが。
マリウス達は、この日からしばらく、節約のために極貧生活を強いられたらしい。




