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第一王子の務め

 王立魔術学園の入学式は一年生の生徒のみが参加する。そのため、二年生と三年生の新年度は入学式の翌日から始まるのだ。



 馬車を降り校門をくぐった二人の男子生徒が、彼らから遠慮がちに距離を取った生徒たちの視線をかき分けながら、無言で歩いている。

 三年生になったブルノワ王国の第一王子ティモシーと、その従者であり幼馴染のロイスだ。


「残り一年となった訳ですね。さあ待ったなしですよ」


 ロイスは大袈裟に肩をすくめて見せた。ほとんど感情を見せないティモシーの代わりに嘆いてやったぞと言わんばかりだ。不敬である。


「それがなんだというのだ。この国には久しくSランクは生まれていないのだ。有象無象のAランクの中からふるいにかけるだけだろう。あるいは――」



 ここブルノワ王国の建国の祖にして初代女王ブリジットは、途方もない魔力で膨大な土地を周囲から隔絶し、防御壁の中に都市を築いた。


 魔物の侵入を阻む防御壁へは、絶えず魔力を供給し続ける必要がある。ブリジットの存命中は彼女一人で、死後はその力を受け継ぐ王族が行っていた。

 だが代を重ねてブリジットの血が、魔力が薄まってしまった現在では、王族だけではもはや追いつかない。


 百年前からは、国中から選び抜かれた神官たちがその任にあたっている。

 そして、年を追うごとにその人数は増えている。

 個人の力が弱まっている以上に、魔物たちの力が増しているせいだとも言われている。


 第一王子であるティモシーとその妃の子の代には、Aランクの者が不足し、いよいよ危機的な状況に陥るのではないかと危惧されている。


 王族あってのブルノワ王国だったが、今やその地位は揺らいでいる。畏敬の念を持って玉座の前に跪く者たちが、いったいどれくらいいるだろう。




 ティモシーは、新学期になったところで代わり映えしない同級生たちの顔をぼんやりと思い浮かべた。

 そして苦々しく振り払うと、今度は父である現王ドミトリー・リュシオンの顔が浮かんだ。


(力がなければ玉座にはいられないのだ――いられないというのに、父上は……。側近の忠告を無視し、妃を美貌だけで決めてしまった。なんという愚かなことを。父上……)


「次の魔力判定の日にS判定でも出れば、その娘と婚約するさ」

「ひえー。六歳の幼な子と? 畜生ですね。それで十四になるのを待って結婚ですか? 鬼ですか? 獣ですか?」

「……ほざけ」


 ――Sランク。

 マーロー・シュタイン老侯爵を最後に、もう七十年近く生まれていない。もう生まれることはないのかもしれない。ましてや、百年に一人生まれるというSSランクなど、夢のまた夢だろう。


 血は薄まりつつある。弟のエイデンは――表向きはどうあれ――実力はBランク並みという体たらく。

 何より、長い歴史の中で唯一の漆黒だ。髪も瞳も黒い弟。王族の力が(つい)えた証のような黒。


 Aランクの中でも限りなく優良な血筋と結婚し、優良な子孫を残すのが第一王子の務め。


「おやおや。その顔は……。子種が尽きる前に奇跡が起きてSSランクが誕生しないかなあ――なんて考えてます? 助平野郎ですね」

「……お前。自分だけは処分されないと、たかを括っているな? いい加減、この私が誰であるか思い出さねば、痛みを以って思い知ることになるぞ」

「へいへい。仰せのままに。でーんかっ」


 ロイスはどこまでもふざけている。語尾を上げてニヤけてみせた。


 ティモシーとロイスの、このような砕けた会話は、周囲に誰もいないときだけだ。

 ティモシーは公の場所では常に毅然としており、第一王子というよりは次期国王としてのオーラを放っている。


 そんなに気合いを入れなくてもいいでしょうに、という考えを隠す気もないロイスを尻目に、ティモシーは衰退している王族の現状を憂い、歴代の王たちの肖像画を初代から順に思い出すことで、父の面影を塗りつぶした。

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