表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/26

それぞれの思惑

 ロベールが営む農園を抜け王都の目抜き通りに入ると、「ようやく息ができる」と、マーローは緊張を解き、従者の差し出すワインで喉を潤した。


「……それにしても。よろしかったのですか?」


 従者とは長い付き合いだ。言葉がなくとも眼差しだけで言いたいことは分かる。


「ん? ああ。あれはああ見えて天邪鬼でな。無理強いすれば反発するだけだ。それはもう懲りておる。ふん。平民なんぞと結婚して子をもうけるとはな。全く」


 思い出しただけでマーローは口の中が苦くなった。

 それを見取った従者が黙ってワインを継ぎ足す。


「まあ、あの小生意気な平民の娘の結婚話は、今は止めておくに限る。きたるべき日に備えて相応しい教育を始めることの方が先決だしな。時が来れば、いくらでもお膳立てしてやるわ。フフフフ」





 クロヴィス家では、ピスチェが「あははは。んじゃま、そういうことで」と、逃げるように部屋を出ていった後、残されたロベールとマルグリットが、同時にため息をついていた。


「はああ」

「……はあ」


 ロベールは、がっくりと肩を落としたマルグリットの両手をやさしく握った。

 マルグリットは脱力して大きく息を吐く。


「あれほど時間をかけて根気強くあの子の力を鎮めたのに。今頃になって揺り戻すことになるなんて。それに――最低限の魔力を使えるようにうまく加減できるか自信がないわ。下手をすれば、あの子の力を全て解放してしまうかも。ちゃんとお父様の目を欺けるかしら……」

「君なら出来るさ。それにピスチェは魔力に興味がないんだし。あの子が力を望まない限り、全開放なんてないさ」


「ええ。そうね。それに、魔力を制御する術を学んでおいた方がいいのは確かだし。学園に通うこと自体はあの子のためになるとは思うのだけど」

「そうとも。それに貴族だからって、みんながみんな差別的だとは限らないだろう。きっと理解者だっているはずだ。友達がキャメロン一人じゃ寂しすぎるしね。あの子ならたくさん友達を作れると思うんだ」


「そうね。そうよね。ただ、今回の件は、お父様にしては甘すぎる条件が気になるのだけど」

「あはは。確かにそうだね。でも、分からないことはくよくよ考えないって決めただろ。正直なところ、お義父さんの申し出には救われたしね。あの子が辞めたくなったら、そのときお義父さんにいただいたものを全部返せばいいじゃないか」


「あなた……」

「そんなことより、入学前の教育とやらの方が心配だけどなあ」

「ええ。本当に」


 弱々く微笑むマルグリットの肩を抱きながらも、ロベールは成長した娘が学園生活を楽しむ姿を想像して笑みをこぼした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載始めました!
『追放された悪辣幼女の辺境懺悔生活 〜チート魔法と小人さんのお陰で健康で文化的な最高レベルの生活を営んでいます〜』

カドコミで『転生した私は幼い女伯爵』のコミカライズ連載中です‼︎
フォローよろしくお願いいたします‼︎

『転生した私は幼い女伯爵3 後見人の公爵に餌付けしながら、領地発展のために万能魔法で色々作るつもりです』
⭐️⭐️⭐️⭐️アース・スターノベルから3巻が発売中!⭐️⭐️⭐️⭐️
ご購入はこちらからamazon 楽天紀伊國屋書店ヨドバシカメラなど

i988178

『私が帰りたい場所は ~居場所をなくした令嬢が『溶けない氷像』と噂される領主様のもとで幸せになるまで~』
DREノベルスから2巻発売中!
i929017
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ