陞爵ーしょうしゃくー
軍事学校厩舎 トエムの部屋
とりあえず長期休暇が終わったトエムは入学式三日前には軍事学校の宿舎の自室で《瞑想》をしていた。
だが、今回練り上げるのは筋肉でも魔力でもない。
「やべっ!手が‟ズレ”て飛んだ(直喩)」
手が紙のデフォルメの様にヘラヘラと歪み、プチッと千切れた瞬間肉付きが元に戻りはじけ飛んだ。
欠損した手を傷口にこすりつけ、ペタペタと傷口に【回復魔法】を‟通し”、元に戻した。
トエムが今取り組んでいるのは『魂』の操作、つまり《魂トロール》である。
以前、ちんたまデスマッチで敗北をきしたトエムは顔は平常だがバチクソ悔しかった。
人知れず手刀でモグラの様に地面を掘り進め大きな岩に当たるとそのまま噛り付いた。
このままではいけない。
かつてトエムを並の武術家に育てた近藤武蔵師範はこう言った。
‟頭を捻り、体を捻り、常に成長を促せ”
頭を捻り、知恵を絞りだす
体を捻り、筋肉の駆動領域を増やす
成長を促し、現状に満足しない
これが理念であり極意である。
これをもって完全な『魂トロール』を磨き、次こそはハルヒトに勝利する!
と、そこへクラスメイトで同じ部屋をシェアするハムエッグ伯爵家長男のトーストが部屋に入って来た。いきなり腕が飛んだので顔が青くなった。
「いぎゃあああああ!??ッ何?何…え?もう怖いよ?何してるのトエム君?」
「ふぁああ↑!!トースト兄貴オッスオッス!お早いご到着で!…あっそうか、ロースト閣下が陞爵なされるんですよね!めでてぇ!うちの領からも最大限の祝いの品を用意してありますから!」
「はぁ~胃液が上がってきちゃう…本当…怖いよ。何回も言うけどノウキーン公爵家の方が権威が上だからね、ちゃんと解ってね?」
「形だけの権威などお飾りですから。はっきり言って他よりちょっと強いだけですよ父上。それに比べてロースト閣下の手腕!今回の件はきっとテンプレート王国四大貴族の空いた席に抜擢ですよ!」
「僕の家は伯爵だから侯爵だよ!?公爵にはなれないはず…だよ?」(男爵→子爵→伯爵→侯爵→公爵、爵位は後の方が偉い)
しかしトエムが四大貴族と言うのであれば否定ができない。この友人の発言力は国王に匹敵すると非凡なトーストは考えている。
翌日、王の間 ハムエッグ家 陞爵の儀
無駄に広くて無駄に豪勢な圧巻の王の間には、四大貴族(現在一つが取りつぶし中なので三貴族)をはじめ、名だたる貴族が大集結。
ニークン侯爵、ソチェン侯爵、ファッケ伯爵、ティン伯爵、パーンケッキ伯爵など名だたる貴族が集合。
とはいえ、みな上っ面だけ良くして足を引っ張り合う権威主張型のダメ貴族ばかりなのだが。
帝国や教国と違って平和が続くので内ゲバが多いのだ。
「ハムエッグ伯爵 ロースト・ハムエッグ様入場~!入場~!」
国王を守るエリート騎士集団『ロイヤルナイツ』に囲まれて入場してきたのは普通系ビール腹おじさんのロースト伯爵である。
「おもてを上げよ」
「ハッ」
久々に聞いた国王ダディンの威厳のある声に反応して顔をあげるロースト。
「お主の領地に蔓延る盗賊の一掃、さらに娘の命を助けた功績を鑑みて公爵の地位を与え四大貴族ハムエッグ公爵家とする」
「はっ―――?(打ち合わせと違うじゃん!?)…ハッ!」
一瞬明らかに無いわぁの顔をしたローストであったが、謹んでお受けした。
先程の名だたる貴族たちがざわつきだす。
「お待ちください陛下!侯爵を跨がず陞爵など言語道断ですぞ!王家の後光を蔑むおつもりですか?」
声を上げたのはハムエッグ公爵家に何かと勝手に因縁を向けるパーンケッキ伯爵家領主、シロア―リ・パーンケッキであった。
「なるほど、我が決定に不服か?(ギロッ)」
「うひっ!?とんでもございません、ただハムエッグ家に良からぬ噂があるのをご存じでしょうか?」
「ポォーウ(察し)、聞こうか?」
「そこのローストは、何と盗賊団と内密に手を組んでいたのです!それが証拠に最近の異常な発展と流通、そして証拠となる証文をコチラに!」
「私もです!」「この私も有ります!」「とくとご覧ください!」
シロア―リ伯爵を皮切りにニークン侯爵、ソチェン侯爵、ティン伯爵、ファッケ伯爵が我先にと証文を持ち出す。
「なるほど、拝見しよう…これは!!何という事だ!許せん!」
国王の怒号に俯きにやける名だたる貴族たち。それを見た瞬間リンカーン・ヤリサァ公爵はなぜかため息をついた。
「(脳無し共!またしても足を引きずりおって…すべて筒抜けと言う訳か!!クソガキド畜生のトエムめ―――)」
次のダディンの言葉にその場の全員が呆気にとられる。
「パーンケッキ、ニークン、ソチェン、ティン、ファッケはローストを貶める逆賊だ!すぐに捕まえよ!」
すぐさま捕らえられる馬鹿貴族たち。
「陛下!?ご乱心であられますか?何の証拠に―――」
「この証文はな、ある‟影”の協力により我が魔力を浴びると本当の文面に変わる特殊な魔道具となっている。これを見よ」
‟盗賊たちとの癒着、お疲れチャーン By『T』より”
「はぁあああああん!?」
そう!この貴族たちは有能なハムエッグを潰すために盗賊(一部工作員)を使って嫌がらせしていたのだ。それを察した『T』がダンジョンに行く前、盗賊狩りの段階でわざと一部逃がし、証文書を【誤認識】によって仕込んでおいたのだった。
「くっくそ!せめて貴様だけでも!」
シロア―リ・パーンケッキがそう叫ぶと魔法をローストに向けて飛ばそうとする。
だが事前にロイヤルナイツに守らせている。
更に言うなれば近くに忍ばせていた魔法使いが魔法発動前にレジストしていた。
「なっ―――貴様ビンカーンの…カシコイ!?」
「ダメですね~陛下の前でおいたをしたら?」
「そうか!あの証文は―――貴様が一枚噛んでおったかッ―――!!」
言葉にならない叫びをしながら騎士に連れ去られていく白アリたち。
膿が出せてダディンと隣のスポットはご満悦だ。
「見事なりカシコイ!余は満足ぞ!」
「じゃ、帰りますね~【重力魔法】の研究が残ってるんで。じゃ、おじさん先に帰るねトエムきゅーん」←【虫食重力場】
「おいちょ…自由過ぎだろビンカーン一族。ごほんっ、では改めて今抜けた者たちの替わりに陞爵する者達をここへ―――」
「はぁ~~~胃が…胃が」
城の廊下を歩きながら、いきなりの公爵昇進と先ほどの貴族連中の領地をもらった事で、責任やら緊張で腹の中がグルグルするロースト・ハムエッグ公爵。
とそこへ
「パパ~おめでと~私のお小遣いアップよね?」
「父上、おめでとうございます…」
娘のウィッチと息子のトーストに声をかけられた。
「ウィッチのお小遣いは上げない(無情)。とにかく…帰ろうか」
疲れた顔をしながらも城の廊下を歩き、出口へ向かうロースト、
そのまま帰れるはずもなく。
「ロースト閣下~おめでとうございます~」
謎のへこへこムーブGの様にヌルヌル近づいて来たのは激ヤバ7歳児トエムであった。
振り向いた時のしぐさや陰りがローストとトーストも一緒でちょっと面白いかったと後日談のウィッチ。
「早速ですが、陞爵祝いをお持ちしました~。オイッ‟例の物”をここへ!」
「かしこまりっ!」
その瞬間トエムが【虫食重力場】を開く。その中から側近のノウキーン騎士団長が4mのゴーレムを引っ張って出てきた。
? ?? ???
なぜ?その疑問は周りにいたダディン、マーザ、スポットも思っていた。
「これがトエム工房の技術を総動員して作り上げた最高傑作!『総攻樹兵ゴレムズ ハムエッグカスタム』!!つまりロースト閣下専用機です!!」
総攻樹兵ゴレムズ ハムエッグカスタム
特別製ユグドラシルフル装甲 全身真っ青、3倍の彗星マザコン惑星落とし大好き野郎に対抗するスタイル
宇拳実用型アームパンチ(ワームホールを創りだせるのでワープも可能)
両足に魔素&魂 反作用エンジン搭載のローラー
コックピットに反重力対応コントロールストーン(魔石)と人をだめにするロングクッションを設置
ターレットレンズはそれぞれ赤外線(魔素感知型) 近眼 遠眼
各関節部に埋め込まれた魔石から光属性の熱線ビームが出る(鉄も一秒で溶ける)
以前、「YESジョン。そもそも兵器なんて不毛な物作ったって血を流すだけだよ。それに魔法があるしね」などほざいていたが、工房に夢と男のロマンを満たすため、きっちり兵器を造ってるトエムである。
綺麗事並べてもやっぱり生物は闘争!はっきりわかんだね。
「という訳で、これさえあればたぶん国を転覆できます(爆弾発言)!ちなみに以前ロースト閣下から頂いた髪の毛からDNA情報をコントロールストーンにインプットしてあるので閣下の遺伝子情報を持たない者には扱えません。国王からハムエッグを陞爵するには戦力的に危ういと意見をいただいたので作らせました!」
ゴーレムと言うのはそもそも魔導疑似生物という物で、魂の無い石や岩の魔物に近い存在である。
高位の錬金術師などが操る事ができるという認識で、人が意思で動かすなどおとぎ話や神話の中の出来事である。
まして人が搭乗して中から動かすなど想像すらして無いので、ローストは口を開けてポカーンとしていた。
「オイッあれって3年ぐらい前に見た例のゴーレムだよな!?いいないいな~ロースト公爵うらやま~」
「ほぉ~?余を差し置いて最新鋭の魔導兵器とな~?」
「宰相!国王陛下!うお~んトエム君?私はいいからお二方にこの魔導兵器を―――」
「いえ、ロースト閣下の方が優先順位上なんで!」
「「じぃ~…」」
「そっそんな目で見ないで~ウ”ッッ…お腹が…ストレスでマッハがやばい…」
「ロースト閣下がお困りなら国ごとこの二人始末しますよ?」
「だぁ~もう冗談でもやめて…あれ?目がマジじゃないの!?落ち着いて落ち着いて―――セイセイセイ、ちょっとぉ!そんなところで見てないでプロティン殿止めてください!」
しかしプロティンが助ける事はしない。
専用機と息子からの信頼がうらやましいからだ。
「もぉトエム君いい加減にしなよ!父上がげんなりしてるだろう?」
「あっすいません、冗談ですよ冗談。いたいけな子供のいたずらですって~ははは」
「(目がマジだったな)」
「(やりかねんな、余は王だがローストにはゴマをすろう)」
「(赤子の頃から冗談なんぞ言った事無いだろうが)」
「(うちの息子、すっげぇ~)」
一週間後、ハムエッグ新領地、農村近辺
「ひえ……」
『ゴレムズ ハムエッグカスタム』を並の魔導兵器として運用を試みたロースト。
とりあえず荒れている新領地の野盗に向けて関節部から出る拡散ビームを試してみたのだが…
先程まで数百居た野盗の集団の1/3が数秒でチリと消えた。
誇張表現ではなく、さっきまで居た人の存在が死んだとか潰れたとかちゃちな表現ではなく消滅したのだ。
足が残ったまま胴と顔が無くなって傷口がドロドロ溶けている残骸の仲間を見て、速攻で降伏する野盗達。
ちなみに射線上の山にトンネルができました。高さ3mの長さ3キロの海に続く道ができたため、後に漁業も発展しました。
「ふええ、新領主様…わしらをどうするおつもりで?」
怯え切った目で見つめてくる村長とその仲間たち。
盗賊退治に意気込んだ屈強な男達であったが、中には股を濡らす者まで出る始末。
「村長殿、皆さんも大丈夫だから…たぶん、」
ノウキーンから送られてくるヘリや電動バイク、電車などただでさえオーパーツだというのに…
今回の品物は格別にヤヴァイ!
自分の器を遥かに超える兵器に恐怖しながら、それでも着々と盗賊や間者を始末していく優良領主様であった。
最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
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