流星のノクターンから脱線気味
ミノタウロスの集落に来て翌日。
「えっと、シャルロット・アリエスと申します。今日からこちらでお世話になりますよろしくお願いします!」
「「「よろしくー」」」
ミノタウロスの集落の亜人は、日本でよくある求人票に記載されている‟アットホーム”ではなく、言葉通りのアットホームな温かい連中であった。
シャルロットもすぐにキラリン(ゴットドラゴンの人化)やメープル(アルラウネ)と打ち解けた。
一息ついたところで、ハルヒトはシャルロットに頼みごとをする。
「なぁシャルちゃん、実は俺な『ダンジョンマスター』ってのやってんだけど、」
「『ダンジョンマスター』!?なんか凄そう!でも『流星のノクターン』にそんな職なかったはずだけど?」
「え!?『流星のノクターン』知ってるの?そういやサドミちゃんにおすすめしたのってシャルちゃんだもんね!いや~好都合。それも含めてお願いがあるんだけど?」
「何でも言ってください!BOSSの言う事なら出来る限り聞きますよ!」
「BOSS呼びデフォなんだ…まぁいいや。それより、ダンジョンに『ダンジョンコア』ってバカデカ魔石があって、そいつに血を一滴垂らしてほしいんだ。」
「血ですか?一滴ならいいですけど…」
「血をもらうと、前世で触れた物や経験した者なんかを‟創造”出来るって品物なんだけど」
「想像?」
「いや、思ったものを創る方の‟創造”。前世で好きだったコミックとか、『流星のノクターン』がダウンロードされたスマホとか、ね」
「え?それって凄くチートじゃありません?」
一通り説明すると、かなり乗り気のシャルロットを見て安心するハルヒト。
ダンジョンコアで再現できる物がハルヒトとトエムの分だとかなり男臭い物ばかりで、何とか女物も欲しいと思っていたのだ。
早速ダンジョンマスター権限の《階層移動》でダンジョンコアの部屋に連れてきた。
「あっ、主様おかえり~カモ」
すっかり馴染んだちょび髭二足歩行のカモノハシ魔人『カモネーギ』が出迎えてくれた。
「よぉ~す。シャルちゃん、こちらダンジョン経営の代行をやってもらってるカモネーギだ」
「よろカモ」
「(かわいいカモ!?)私はシャルロット・アリエスです。早速ですが触ってもいいですか?」
「は、恥ずかしいカモ~」
短い脚をパタパタしてから、赤面してうずくまるカモネーギにほっこりした二人。
「とりあえず、あそこの―――中央のバカデカ魔石が『ダンジョンコア』なんだけど、血を一滴もらっていい?」
「えっと、ナイフか何かあります?」
「女の子にナイフは危ないカモ!?DPで注射器創るカモ」
ダンジョンコアにカモネーギが触れると眩い光を放つ。いつの間にか手には注射器が握られていた。
早速血を取った後、一滴垂らす。
「おおお!?いっぱいリストに加わったカモ!!」
「ほぉ~、思わぬ副産物として病院の緊急施設らしき物もあるな!あ、シャルちゃんも見る?このさ‟ステータスオープン”とか言って出てきそうなタブレットみたいなやつ。スマホの要領で操作できるよ」
「うわ~…チート…。あっ好きだった服とか下着とかもある」
「俺に言ってくれれば片っ端から創ってやれるよ!それはそうと『流星のノクターン』のスマホなんだけど…」
「えとー、あっこれですこれです」
眩い光に包まれてあっさりスマホをとりあえず3台創った。ちなみにS級指定魔獣の10倍のDPが必要であるが余裕でまかなえる。
「スゴ…へ?一台いいんですか!?ありがとうございます!―――あっ、本当に前世のスマホだ。これやばッ!異世界なのにヤバ!……」
しばらくその場の三人一台ずつ黙って操作する。一時間したところでようやく、
「おっと、この『流星のノクターン』をプレイしたら時間がいくらあっても足りないな。シャルちゃん、もうすぐこのダンジョン一般開放するんだけど…よかったらこのダンジョンスタッフとして働いてみない?」
「え?面白そう!やりますお願いします!あと、もしかしたら私の職がお役に立てるかも!」
「そっか!こっちに来る時にチート職もらうんだっけね、ちなみに俺は『料理全能』だぜ」
「やっぱりそうなんですか。ちなみに私は『建築全能』です!もともと前世のお父さんが一級建築士で興味があって―――」
「え!すげえ!よかったらさぁ地上スペース魔改造しようぜ!?」
「ぜひぜひ!でもその前に、ダンジョン見回ってみたいです」
と言う事でダンジョンエリアを冒険者迷宮区間以外全て回ってみた。広すぎて全て回るのに3日かかってしまった。
「絶対おかしい!これって前世より居心地いいですよ!?流ノク(流星のノクターンの略語)の世界って中世が舞台なのに、こんなの…やばすぎる」
シャルロットは大満足。地下1階から4階まで続く『春夏秋冬エリア』を遊びつくした。
「そういえば漫画喫茶に少年漫画しかなかったですよね?わたし少女漫画入院中いっぱい読んだ(スマホの電子書籍だが、なぜか単行本として創造可能)のでよかったらコアで創ってください」
「それよ!助かるねぇ。ダンジョンって人が滞在すればするほどDPが加算するから漫画喫茶とかほんといい施設なんだけど女の子用の漫画が少なかったんだよ」
「お役に立てて光栄です。地上の施設の殺風景も私にお任せです!」
「頼もしいね!」
「フフフ、まっかせて下さい!」
意気揚々と地上で『建築全能』のスキルを使いだすシャルロット。しかし…
「うう~頭痛くて体だるい~なんで?」
「こりゃあ魔力枯渇状態だな」
すぐに魔力枯渇してしまう。いままで家族に内緒にしていたため初めて自由にスキルを使ったのだが、魔力が少なく、すぐ枯渇してしまったのだ。
「うーん、”近藤流丹田練り”…じゃなくて《瞑想》でもやる?」
「《瞑想》?確か魔法職のスキルですよね?でも私、魔法職じゃないから使えないと思います…」
「へ?スキルってただの‟魔素コントロールの補助輪”みたいなもんだから、方法さえわかれば誰でも使えるよ。例えばさっきの《土台作り》って『建築全能』のスキルだっけ?ホレッ」
ハルヒトがそう言うと、先ほどのシャルロットよりはるかに大きい規模で地面がもぞもぞと動き出す。
「……私役立たずタダ飯食いですね。」
「いや!?ちょちょとんでもない!この流ノク入りスマホもそうだしさ、そもそも魔素コントロールは一度スキルを見ないと目途が付かないんだよ。だからシャルちゃんがいなかったらダメだって。自分を卑下しないでさ、まぁ暇な時に《瞑想》でもやって少しずつ慣らしていけばいいって。ここの『ハルヒトダンジョンシティ』の地上スペースを自由に使っていいからさ」
「が、頑張ります!(フンス)」
半年後、現在。
「よくも…まぁ…」
そう言葉をこぼしたのは、先ほど荒くれオジサンに絡まれた凄腕ゴブリンの『ゴブ乃助』は地上スペースの異様な光景に改めて感嘆の意を示す。
某関西のテーマパークや千葉のテーマパークをごっちゃにしたような物凄いテーマパークが地上に生まれていた。
半年間、《瞑想》を続けたシャルロットは自由にスキルを扱うまでに至り、中世の文化レベルの世の中に最新鋭のテーマパークをぶち込んだ。
「ゴブ之介さん?どうかした?」
すっかり馴染みつつあるシャルロットがゴブ之介に尋ねる。
「シャルロット様の能力に息を呑んだ所存でございます」
「もー、ゴブ之介さんは私の先輩なんだし、様なんてなくてもいいのに~」
満更でもないシャルロットの頭上、全長20mの巨大ジェットコースターを楽しむライオンの獣人が乗ってる最中に声をかけてきた。
「おう、シャル嬢!楽しまねぇのか!?ヒャッホーーー」
ノリノリでアトラクション(主にジェットコースター)を楽しむ183歳元大将軍ライオネル。
その姿を見てご満悦のシャルロット。
「ふぅ~この達成感、前世でも味わった事無いわ~」
今やダンジョンに入らずとも、多くのどこかから領民や貴族がはしゃぎ回っている。娯楽の少ない中世の時代に、異世界人最先端のアトラクションは劇物であろう。
毎日長蛇の列。
スズメの涙ほどの入場料でも大儲けできるほどだ。
と、ドヤ感情に浸っていたシャルロットのスマホにメールが届く。
もちろん電波など異世界にはまだないが、そこは魔力でカバー。
「‟前世の記憶持ちのダチが来たので地下4階のギルドまで来てほしいです、オナシャス”って…同じ転生者って事は…?」
そこでピーンと思い出す。サドミお姉ちゃんの…あの生理的に受け付けない兄がコチラの世界に来ていたと。
病室で嬉しそうに四つん這いになり、猿ぐつわを加えて「ワンッワンッ」と満面の笑みで私を背中に乗せて猛スピードでハイハイされてからクッソトラウマであったが、姉の上客であったらしいのでぎこちない笑顔で対応。
その嫌そうな顔で余計に喜ぶサドミ兄は正直会いたくないのだが…
「(BOSSに言われたからには…面会はするけど…)」
大きなため息を一つしてから、地下四階『春エリア』に向かうのだった。
ハルヒトダンジョンシティ 地下四階層『春エリア』 冒険者ギルド
「失礼しま~す…あっシバリさん、今BOSSってどこに居ます?」
「あ、シャルロットちゃん来てくれてありがとう。BOSSとトエム様なら客室に居るから。そこの階段を上って右手の部屋よ」
ギルド長のシバリの話に従って階段をのぼり部屋に向かう。
「(トエム…まぁ、そっか…。まぁニュウさんに会った時点でなんとなく想像はついたけど…)」
あの『流星のノクターン』最大の害悪、‟黒豚”がサドミお姉ちゃんの兄、マゾ豚なって転生したのようだ。醜くて権力を笠に女にセクハラし放題の‟黒豚”が痩せたとは…想像がつかない。
ノックを二回した後、意を決して部屋に入ると、
そこに居たのは死んだ眼をした冴えない男の子が、スマホをいじっていた。
何だが普通過ぎて、一瞬その男の子があの‟黒豚”と呼ばれ、ユーザーから圧倒的嫌悪を総なめにした‟トエム・ノウキーン”だと気づけなかった。
「ん?誰だこいつ?あ、俺はトエムな。よろしく」
「トォッ!?ふぇ…あ!えっと、シャルロットです。よろしくお願いします」
「あっそっか!お前さんが噂の転生者か。ん?今『教国ルート』ってのをやってんだけどさ、お前主人公の姉貴じゃねぇか?何でこんなとこに居んの?」
「それは…主人公が転生者で、すっかり騙されてしまって…」
「あ~よく聖女とか悪役令嬢とかの女物異世界転生でよくある理不尽追放パターンとかか?大変だったな。まぁ俺も同じ日本出身だし、何かあったら力になるぜ」
無気力な感じはするのだが…何というか‟まとも”だ。
以前会った時のあの嫌悪感が感じられない普通の人だ。
何気なくハルヒトの方を見ると、
「まぁ彼女は‟俺達とは全くの接点は無い”が、まぁよろしく頼むぜシシド」
「んだよしゃらくせぇ、当たり前だろ?」
どうやらシャルロットが行きつけのSM令嬢の妹であることは伏せてくれたらしい。
「(私がお姉ちゃんの妹って解からないとこんな普通の人だったんだ…今後も黙ッとこ)」
シャルロットの密かな決心はともかく、引き続き『流星のノクターン』をプレイするトエム。
『流星のノクターン』
シュミレーションRPG
20XX年発売、世界累計3300万ダウンロード達成の大人気ゲーム。
『王国ルート』『教国ルート』『帝国ルート』から選び、最終的にラスボスの大魔王『セラフィ・ゴッドハルト』を倒すゲーム。
『王国ルート』。これは主人公のヤリサァが成長していき、仲間と共に魔王を倒すドラ〇エっぽい王道ストーリー。
『教国ルート』は主人公のメアリが各攻略キャラとキャッキャウフフして強くなる乙女ゲーチックなストーリー(悪役令嬢もいるよ)。
『帝国ルート』は主人公のアズキがダンジョンをクリアしたり、素材で武器を作ったりで強くなるローグライク的なストーリー。
どのルートも最終的にはセラフィ倒してちゃんちゃん♪なのだが、各ルートで強力な敵が味方になったり、逆に味方になったりでなかなか面白いゲーム…なのだが
「あ~『王国ルート』最強の強敵ライオネル大将軍がもうこのダンジョンのスタッフだし、そもそもセラフィは俺の奴隷だしなぁ~」
「…え!?今、大魔王セラフィが奴隷って言いませんでしたトエムさん?」
「あートエムドームでメイドやってる」
「トエムドーム!?メイド!?何の事ですっ!?」
と、ここで今までの生誕7年と半年及ぶトエムの半生をシャルロットに説明する。
《植物全能》で世界樹がそこら中に生えてる事。
【失伝魔法】を色々使える事。
ヘリとかバイクが出来てる事。
そんなこんなしてたら、いつの間にかセラフィを奴隷にした事などなど。
途方もない話にとりあえず聞いてるフリのシャルロット。
「へー凄いですねー」
「あのさぁ…せっかくだからトエム、いやシシド!お前に相談したいことがある」
「おーん?何?お前の目にクマが出来てるのと関係あるのか?」
現在ハルヒトの強靭なミノタウロスの瞳の下にくっきりとクマができている。
「実は、ヤマーダさんに極秘で聞いた話だが…『教国ルート』の悪役令嬢が…」
どんより影を落とすハルヒトの重たい口から
「サドミちゃんらしいんだわ…」
その言葉を聞いた瞬間、トエムより驚いたシャルロットは眼を血走らせ口をパクパクする。
「今俺さ、とりあえず『教国ルート』クリアしたけど、要はこの悪役令嬢…えと『イザベラ・サジタリウス』って奴がそう?このゲームみたいな展開で処刑とか追放とかされないか心配って事?バッカだな!サドミがこのお花畑にちょっかい出さないだろうし、そもそもこのイケメン王子に興味ないって。そもそも俺やお前の影響でこの世界ぐちゃぐちゃでそうはならんだろ。とは言えメアリとか言うヒロインが転生者ってのは気になるか…まぁあいつはそんなヤワじゃねぇけどねぇ~」
「サドミちゃんはなぁッ!!健気で可憐で抱きしめたら壊れてしまうような病弱な女の子だぞ!!」
「いや、結構たくましいぞ。美化しすぎだろ?」
「くそ…せめてミノタウロスじゃなく人族だったらすぐにでも会いに行くのに!ほあ~ッ!!」
「会いに行って何かできんの?それにこのゲームの舞台が7~8年後だろ?まだ時間あるじゃん」
「トエムさん!メアリの転生者は凄い性悪女です!じっとしてたらその人どんな目に合うかわかったもんじゃ無い!私は教国に行ったら捕まるかもしれませんが最悪潜入して―――」
「あ~も~心配性だな~。まぁそこまで言うなら領地に戻ったら‟草(工作員)”を放っとくから。んで情報掴んだら随時報告してやんよ」
「おう頼む!俺もゴブリン達や獣王団を向かわせたいが、教国って亜人絶対許さマンだから、歯がゆいぜ」
こうして、元妹の転生先を図らずしも知る事ができたトエム。
ちなみに邪神ヤマーダは上司のアマテラスに、サドミの事は秘匿事項だとこっぴどく怒られたらしい。
最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
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