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長期休み


この世界では学校の休みは半年に一度。

5か月通って一か月休んでを2回で一年。


一年が337日一日26時間である。

地球とはちょっと違うのだ。


アマテラスとかいう和服ロリ(神)の話だと『流星のノクターン』とか言うスマホゲーがベースの世界らしく、

なんちゃって日本文化や、冒険者や魔物のランクを現す謎ローマ字などのご都合主義も存在する。


そんな世界で何の問題も起きず、トエムの学校生活が5か月過ぎた。

毎日の恒例となった夜のトエムトレーニングはあれからずっと続いている。


とにかくこの世界の武道はスキルに頼りっぱなしで脱力がへたくそかつ身体稼働領域がすくないので、ストレッチに力を入れ、鍛錬時間の半分を占める。


体が柔らかいだけで怪我をしなくなり、脱力の質が向上し姿勢も良くなる。

すると自然と技や動きのキレが良くなるし、鍛錬が楽しくなる。


すると実戦成績や技術が目に見えて上昇し、トエムトレーニングの噂が噂を呼ぶ。

今や校長やデチチやヤデレ、トーストも含む校内の半数約250人程参加していた。


ちなみにヤリサァはプライドがどうとかで不参加である。


「ちょっと多すぎィ!」


「こうなってもしょうがありませぬ。この講習(?)を受けた者共が明らかに実力を増しておりまする。校長であるわしをもってして、どの授業より有意義と言わざるえませんなぁほっほっほ」


最前列のセンターでトエムの鍛錬にしれっと参加している校長が楽しそうに返答する。


「そんな大した事してないけどな~」


いつも通りストレッチをしていると、参加者たちの表情が暗い。


「なんだなんだ?やっぱつまんねぇだろ?無理に参加しなくていいんだぜ?」


「逆ですよ!トエム師範の鍛錬が楽しすぎてこれから一か月長期休暇を挟むと思うと億劫で…」


「軍事学校では絶対習えない魔法まで習えるし、しかも解かりやすくって最高なんです!今年で卒業だから一分も無駄にしたくないのに!」


「1か月この鍛錬ができないなんて、まるで牢獄ですよ!」


「…えぇ」


あまりにやる気の高さに若干引き気味のトエム。

安請け合いで始めた鍛錬が、もはや主軸になりつつある。


「7歳…いやもう今年で8歳だけど、クソガキ訓練ってそんなに大事か?」


「「「大事ですよ!!」」」


特に上級生たちはこぞって参加している。いいところへの就職は成績で決まり、成績はトエムトレーニングで目に見えて伸びている。


更に魔法を使えるようになったら、今まで散々コケにしてきた魔術師達にマウントがとれるので良い事ずくめなのだ。


「そういえば休暇が終わったら‟交流戦”があるね」


「へっ、交流戦?」


‟交流戦”とは、

トーストの話によると、魔法学校と軍事学校の交流戦の事で、各領地の貴族やお偉いさんが身に来る異世界就活なのだ。


年に一度の開催なのだが、ここ3年間なぜか圧倒的に魔法学校に軍配が上がっている。

なんでも校長の魔素鍛錬法が画期的らしく、激ツヨなのだ。


「へぇ~じゃあ休暇が終わったら対魔導戦術でも教えようか?」


「「「オオオオオ!!」」」


女も男も野太い歓声を上げて、上半期最後のトエムトレーニングは幕を下ろした。





翌日。


「~~~なので疲労回復には鶏肉や豆とかがいいので自主練の後に食べてみてください。ストレッチを忘れずに。じゃあの!」


「「「トエム!!トエム!!トエム!!」」」


なぜか校長の話ではなくトエムが挨拶をする羽目となり、3分にも満たない非常に簡素な挨拶なのだが、謎のトエムコールが起きるほど熱気がヤバいのであった。


思えば学校の半数がトエムに何故か教え受けているので、もはや学校でも宗教的な人気を誇っていた。


「チッ!あの陰キャ野郎、金で買収でもしたのか?」


舌打ちをして領のメイド達に癇癪かんしゃくを起こしながら帰っていくヤリサァ。

それを横目に物凄い睨みを向ける黒髪ポニーテールの美少女。


「あのゴミ留め、トエム兄様に向かってなんて口を!叩き切ってやる!」


「んあ~落ち着いてよ~真剣は危ないよ~」


ロマンに打ってもらった脇差『筋守病妹すじのかみやまいも』は抜き身の状態。

仲良しのデチチが止めに入っている。


「あーめんどかった。トースト兄貴!俺が魔法ワームホールで実家まで送りやす」


「あぁうん。出来たら迎えに来てくれた馬車の人も一緒でいい?」


「合点承知の助!」


するとトエムは自分たちの宿舎の前で【虫食重力場ワームホール】を開く。

中を覗くと、そこはトーストが見慣れたハムエッグの屋敷であった。


「うひゃあ…いつ見てもすごいね。もう何でもアリって感じ」


「ささ、どうぞどうぞ」


王都からかけ離れたハムエッグ領からとぼとぼ馬を走らせてきた業者のおじさんは、驚きすぎて腰を抜かして立てなくなってしまった。


業者おじさんを馬車に乗せ、ワームホールをくぐろうとすると後ろから、


「兄様ーーー私もお供いたしますーーー」


「面白そ~~~デチチも行く~~~」


と元気な女の子二人が駆けてきたので一緒にハムエッグ領に行くことになった。

デチチは宰相の娘なので王都住まいだがいいのかな?とトーストが目でトエムに合図を送ると、


「大丈夫大丈夫!どーせ宰相は‟バブミ亭”に来るから」


とトエムに諭された。


「バブミ亭?」


トーストの困惑をよそに、一行はハムエッグ領へ。





ハムエッグ領


農業・商業・工業が盛んな領地。すべて領主ローストの手腕によるもの。

商人への納税義務を廃棄し、流通が活発で、経済もどんどん成長している。


ノウキーン領の様な急激な成長は無いものの、ここ十数年成長し続けている好景気都市。


「トースト!会いたかったぞ~」


「父上!抱きしめないでください!みんなの前で恥ずかしいですよ~」


突然ワームホールの中から門前に現れたというのに落ち着いて対応するロースト伯爵。

実はトエムのユグドラシルで出来た二の腕くらいの大きさの釘を門前近くの庭に打ち込んであり、ワームホールで来たのは今回が初めてではない。


いつの間にか業者のおじさんは執事からお金をもらって帰っている。

仕事が本当に早い。


「いや~よく来てくれたね。おや?初めて見る顔の子もいるね。初めましてロースト・ハムエッグと申します。いつもトーストと仲良くしてくれてありがとう」


温和な笑顔を見せつつ、上品なお辞儀をトエム達にした。

伯爵と言えば結構な家柄なのだが、子供に対しても礼を欠かさない。


「デチチ・パイオーツです~よろしくお願いです~」


「トエム兄様の右腕!ヤデレ・ハンニ―――ヤデレ・ノウキーンです。ロースト様の事は常々兄様から聞いております。お会いできて光栄です!」


「こちらこそよろしくお願いしますね(宰相家のパイオーツ!?コネが少しでもできればと思っていたがトーストは優秀だな)」


トーストの頭をローストが撫でやると、恥ずかしそうに下を向いた。

そこにドタドタと遠くから人影が走ってくる。


「トーストちゃんおかえりなさ~い!」


「ちょっとママ!トーストが苦しそうじゃん!あ、トエム君おひさ~オッスオッス!」


ハムエッグ婦人とトーストの姉のウィッチが出迎えてくれた。

どちらも黒髪ボブカットの平凡な顔つきである。


「婦人!ウィッチ姉御!オッスオッス。いや~半年ぶりっすね。そういやグルジャン商会の皆さんは元気っすか?」


「もうめっちゃ元気よ!レモネーゼの長女なんてまだ4歳なのに、そこの庭を4週走ってたわよ」


グルジャン商会。以前トエムが護衛を引き受けたサイドンが所属する大商会。

ハムエッグ伯爵家とは長い付き合いで、この領を裏から支えていると言っても過言ではない間柄。


「せっかく来てもらったんだからご飯でも食べていきなさい。ちょうど最近ノウキーンから取り寄せた美味しい小麦やレシピがいっぱいあるから楽しみしてくれたまえ」


一流のメイドや執事に出迎えられ、客間に案内される。




「おいしい~これも~これも~バブミ亭よりおいしい~」


「ははは、それはいい事を聞いた。あの王族すら通うという伝説の食堂に肩を並べられるなんて。後で料理長には労いの言葉をかけておこう」


デチチはそれはもう食べる食べる。ピザ・ナポリタン・肉まん・お好み焼き・ワッフル・パウンドケーキ。

ノウキーン領とは交流が深いので、レシピの再現率は非常に高い。


ローストは料理長を呼ぶと何かを小声で伝える。すると料理長の顔が満面の笑みで軽い足取りで退室していった。こういった人をやる気にさせる心配りこそトエムがローストを尊敬する理由の一つである。


「それにしてもノウキーンにはいつもお世話になるっているね。この料理に使われている小麦は、他の領地と比べて1/3の値段で買い付けさせてもらっている。優遇がありすぎて恐れ多いな」


「そんな事は決してありませんロースト閣下。今は少しだけ魔道具で豊かになりましたが、閣下の支援が無ければ、当時の領民の1割は餓死で死んでいたでしょう。これでも閣下に買い付けてもらうには高いくらいです。ノウキーン公爵家の者として閣下に受けた礼は生涯忘れる事は無いでしょう!」


「いやはや参ったね。私がこうして生きていられるのはプロティン殿に戦場で守っていただいた経緯があっての事だといつも言っているのだが…今や投資より見返りがはるかに大きい。知っているかい?電動バイクや電動ヘリコプターと言う人知を超えた魔道具が我が領に破格のノウキーン領内の値段の半額で納められているよ?…ありがたいのだが、ありがたいのだが君は私の事を確実に買い被り過ぎているぞトエム君」


「いつも言っておりますが無料で謙譲けんじょうすべきだと思っています。正直王家よりハムエッグ家を重んじる必要があると思います」


「やめてぇ~↑…宰相の娘ちゃんもいるんだから~ゴボボ」


「ああっパパ!また胃を抑えてる。トエム君ダメでしょ!王家より重んじちゃパパの胃が破裂しちゃうわよ!」


「あっ、ウィッチ姉御すんません…」


そもそも公爵家の次期当主が何を言ってるんだ?首が飛ぶぞ!

と頭の中で反芻はんすうするローストの言葉はトエムに届くことは無い。


そのやり取りを横目で見ているトーストは親近感を感じていた。

父上も同じ苦労をしている。親子でもあり共有仲間でもある。



食事があらかた終わり、女性陣がお風呂でキャキャウフフしている。

今日は泊まりになるそうだ。


「って訳で今日はハムエッグ伯爵閣下のご配慮でお泊りになりました。母上とゾヒィ、それからサードちゃんによろしく伝えてください」


「うむ了解した。すまんなロースト殿、ヤデレとトエムを頼む」


「もちろんです閣下、お任せください」


ワームホール越しに喋るトエムとロースト。ワームホールの向こうにはプロティンが居た。

程なくしてワームホールが閉じる。普通にやり取りをしていた面々にトーストはため息をこぼす。


「異常だよ」


「わしもそう思う、じゃがトエム様と今後付き合っていくなら‟この程度”の事で驚いていては体がもたないぞ」


「うへぇ~(ドン引き)」


小声で話し合うハムエッグ親子。そこでふと真剣な目でトエムを見るロースト。

トエムが何かと目をぱちくりしていると、重い口を開く。


「トエム君…厚かましいお願いがあるんだが話を聞いてくれるか?」


「お受けします(即答)」


「いや…とりあえず聞いて(懇願こんがん)。実は最近野盗の被害が増えていて、冒険者に護衛や討伐を頼んではいるんだが…これと言って成果が無くてな。B級・A級冒険者に頼んでいるのにだ。もしかすると…」


「裏で繋がってるかもしれませんね?お受けします(即答)」


「ちょっと待ってください父上!いくら何でもトエム君に野盗の討伐を頼むなんて危ないじゃないですか!僕は友達として納得できません!!」


流石にトーストはトエムを庇う。至極真っ当なのだが、対象がトエムとなると話が別である。


「今から言う事は冗談ではない。いいかトースト、ドラゴンを単独で討伐できる存在が野盗程度に負けるか?」


「そんな…おとぎ話じゃあるまいし…」


「…地下室に来てくれるか?」



ー地下室ー



「この…巨大な骨は…うっそだぁ…」


地下室の奥に眠る巨大な骨。鋭い牙と壮大な翼の骨、高さ10メートルはあるであろう巨大な生物だったものはトーストの眼前に飾られていた。


「あー!これってグルジャン商会に納めた青トカゲの骨っすか?こんなとこに置いてたんすね~。青トカゲくらい生身のまま標本にしてプレゼントするのに~」


「え!?まってまってトエム君?青トカゲってブルードラゴンの事だよね?ちょうちょを標本にするみたいなトーンで喋んないでよ!?」


「ああ、あんなトカゲ魔の森では珍しくないよ。もっと生きのいい奴いっぱいいるし」


「へ~そうなんだ。今後ボクの事兄貴って呼んだら殺すね(錯乱)」


「いへぇ!?…何かごめんなさい」


こうしてトエムがドラゴンを納めた事を知ったトーストはなんだか野盗の心配をするに至った。

トエムのハムエッグ領土大掃除が始まる。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。


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