表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/52

トエム君2ちゃい 

「ひやぁああああああああッ!」


トエムが転生して2年が経つ。

物静かで聡明。あんよが上手なトエムは

何の音沙汰もなく空を飛んだ。


それを見た母、ニュウ・ノウキーンは泡を吹いて倒れた。

なおトエムはお構いなしに空を飛んでいる


「どうしたッ!何の音だ―――ヴフォッ!!」


空飛ぶ赤ん坊を見たの当主プロティン。

彼が口から噴出したのも無理はない。


「何か憑いてます~旦那様~」と妻が嘆くのも仕方ない

とんでもない2歳児だと聞いていたが

空中を浮遊するのは絵本の中だけにしてほしいのである。


「まっ魔物か⁉正体を現せ!」


プロティンが叫ぶと、頭上の2歳児がプロティンの方向に手をかざし


「【いえ、魔物じゃありません!飛行魔法です】」


と脳内に直接語り掛けてきた


「??」


脳内が真っ白になり、フリーズしていると続けざまに


「【えっ驚いてます?魔法による念話ですよ?歯が生えそろわないので代用です】」


「えっ念話魔法?飛行魔法?両方 失伝魔法ロストマジックではないか?」


「【ロストマジックとやらはよく知りませんが、何か適当にできました】」


「えっ?え――――え?」


語彙力ゼロになったプロティンは思考をフル回転させる


2歳の幼児が魔法?


流暢な言葉遣い(思念)?


王国の最強の嫌いな大魔法使いでもできぬ失伝魔法?


なんだこの幼児は?

戦場でも感じたことのない悪寒がゾワリと背中をなでる。


「き、貴様は何をしている?」


「【テキトーな本を探してます】」


「なぜだ!?」


「【暇だからです】」


「…本を読めるのか」


「【生まれた時からなぜか言葉も文字も理解できてます。なので以前の母上との赤ちゃんプレイもばっちり理解してます。次からよそでやってください】」


「ほっほああああああああ!!!!」


「【あっ!もうすぐ魔力切れるので今日はこれで失礼します】」


トエムの隣に本がフヨフヨと浮いている。

どうやら飛行魔法は対象物にもかけられようだ

よれよれと本と一緒に寝床まで飛ぶと、ゆっくり着地して即おねむ。

ちなみに寝顔は可愛い。


「これか…コレの事だったのか」


その後、目が覚めたニュウと深夜の緊急家族会議を行う。





「あの子を育てる自信がありません…旦那様、私どうしたらよいのですか」


トエムの母親は今にも吐きそうな顔色


「私は元々ビンカーン家(魔を司る公爵家)の生まれです。なので昼間の失伝魔法がどの様な魔法なのか理解しているつもりです…」


「うむ、あの子は本当に何か憑いてるな(確信)」


「何か憑いてるだけなら構わないのです!でも…もし才能だとしたら武人の家系に魔法職を生み出す事に…あぁ!(泣き出す)」


「分家から才能のありそうな奴適当に引っ張って代役にすればいい。ほらほら大丈夫大丈夫!ねっねっ?」

ニュウのギャン泣きにやや憔悴しつつ、

薄暗い室内の片隅に居るもう一人に視線を移す

ザ・執事長のセバス・クンに話を振る


「セバス!他に変わったことはないか」


「失伝魔法以上の事はわかりませんが、庭で奥様と坊ちゃまに付き添い散歩をしたところ、どうやら動物と意思疎通していた形跡があります。小鳥と無言で向かい合ったと思えば、突然小鳥が三回回って「ぴぃ」と泣きました。他にもお昼寝の時間に突然食堂へ現れたり、階段から転げ落ちそうになったメイドがフヨフヨ浮いてからゆったり着地したり、坊ちゃまの部屋近くの大木の形が人型になっていたりと…数えきれないですね」


「そこまでの事をなぜ今まで報告しなかったかッ!」


「まず、プロティン様が公務で忙しいこと。そして坊ちゃまの規格外の行動らしき痕跡は確証がないうえに日常的に起きていて感覚がマヒしていました。誠に申し訳ございません」


「日常的ッ!!?それは…うむ、」


公務で忙しいことを理由におろそかにした自分も悪いと思いつつ、

規格外の実子に頭を悩ます。

しかし公務をおろそかにできない。

隣国の『ケモカンキ帝国』と『ソンシーソンシ教国』の工作員の動きがおかしい事と

魔大陸にて、魔王復活の兆しアリと

国の全軍をになうノウキーン公爵家にとって残業が当たり前の状態なのだ


「本当はわしもニュウと共に子育てを手伝いたのだが、すまぬ」


「旦那様がこの国で一番忙しいことは私が最も存じております…本来は旦那様に気苦労をさせぬことが私の役目なのに、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ――――」


「うげッ!いい!いい!いいってば!息子は大丈夫だから!それよりニュウちゃんはもう大丈夫じゃないよな?」


「プロティン様!差し出がましいですが、このセバスの眼かしてもニュウ様は限界です。どうにか休める時間をお作りください」


「うむ、であるな!あっ―――」


バターンッと机に突っ伏すプロティン。

激務激務ながらも家族の為時間を作った男の体も

また限界なのだ。


「旦那様ァ――――うぅっ、なんで私たちばかりこんな目に…」


「奥様、そのような事を仰らずに…む?そうですぞ!私たちばかりならいっそ奥様の弟様を巻き込みましょうぞ!」


「セバス?あなた何を言って…!そうね!そういう事ね!カシコイ(ニュウの弟)が失伝魔法、しかも飛行魔法と聞いて黙ってる訳無いもの!家庭教師を理由にトエムを任せちゃいましょ、ウフフ」


「魔法に精通するカシコイ様なら、きっといい方法を思いつくでしょう」


「でかしたセバス!すぐに文の用意だ!」


正常な判断なら例え血縁者であろうと子息を他家になど言語道断のご時世。

しかしノウキーン家は夫婦は疲れていた。

もう神にもすがる思いだ。





五日後。


「よく来てくれた!カシコイ殿、いや カシコイ様!!」


「これはこれはプロティン義兄上…痩せましたな?」


すらりと伸びたルックスと顔面面積の少ないイケメン

情熱の赤色の長髪は女性を振り向かせ、

メガネは何か頭よさそうな印象を与える


「(血縁者であれ、他家、しかも足を引っ張りあっている公爵家の当主に実子を預けるなど愚の骨頂と罵ってやろうかと思ったが…これは深刻だ)」


大好きな姉を奪った憎き相手なのだが、

現在プロティンはカシコイが心配するレベルまで痩せこけている


「それで、失伝魔法を使ったという神童様は―――ククク、これは失礼。いえ、親バカもここまでくると呆れますからね。飛行魔法も念話魔法も父上ですら会得できぬ魔法。もし本当ならば岩に噛り付いてでも家庭教師をさせてもらいますが…ですが私とて魔道の研究に忙しい身、まぁ違っていたら姉上に頭ナデナデしてもらってすぐ帰りますよ?」


嫌味を言ったつもりだったカシコイだが、


「そだよね!そうだよねぇッ!!ありがとうありがとう」


泣いて頭を下げるプロティンと言うガチムチ大男に恐怖を覚えた。

トエムの部屋に案内される間、こっそり目の前の大男に回復魔法をかけた。




「ここがトエムの部屋だ」


扉を開けた瞬間カシコイは驚嘆した。

お昼寝の時間と聞いていたが、

そこで行われていたのは『大魔道士』や『賢者』が得意とするサポートスキル『瞑想』そのものだった。


自身が魔法職の上級職『賢者』であるから見間違いはない。

『瞑想』とは己のMPマジックパワーを消費して、周囲の魔素を吸収してMP限界を膨張させる必須スキルなのだ。


「(まだ2歳!?職鑑定もしていない幼児が『瞑想』をしている)」


ノウキーン家ではなぜか見慣れた光景だが

みるみるうちに興奮が隠せなくなるカシコイ


「おい!プロティン!これは『瞑想』だ!魔法職でも限られた者しかなれない上位職のスキルだぞ!わぁ~、すっご~い!」


呼び捨てにされたことに若干の不安を抱きつつ、

プロティンは息子の紹介をする


「これが噂の神童さま?、トエムだ。おいトエム!わしの隣にいる赤髪のイケメンはお前の叔父のカシコイだ。無礼のないように…」


「脳筋野郎ッ(さすがに無礼)!いくら『瞑想』が使えるからって2歳の子が言葉を理解しきれる訳―――」


その時、トエムの手のひらはカシコイに向いており


「【初めまして叔父上様、トエム・ノウキーン 2ちゃいです。以後お見知りおきを】」


「――――!???」


カシコイの頭に声が響いた瞬間、カシコイもまた真っ白になった

次第に冷静になり、意識が戻っていくと

何をされたか理解でき、

魔道を究めんとするビンカーン家のボルテージはMAX!


「んひぃいいッ!!しゅごいぞしゅごいぞぉ♡」


奇声をあげた瞬間、ガンッガンッと鈍い音が響き渡る!

興奮しすぎたカシコイは頭を思い切り地面に叩きつける。


本人的には夢じゃないかと頬をつねる感覚なのだが

周りからは狂乱者にしか見えない


流石に驚いたトエムは飛行魔法で後ろに下がる


「ひょぉんッ!!飛行魔法でぴゅぅんッ!!トエム様ちょごちゅぎぃ♡おいたんを弟子にしてくだしゃぁああいッッ!!」


「カシコイ殿ォ!カシコイ殿ォッ!!気を確かにッ―――」


プロティンがバチィーンと平手で頬をひっぱたくと

「八ッ」として目をぱちくりするカシコイ。


「す、すまぬ義兄上殿。オレハショウキニモドッタ!」


「(目の焦点が合ってないぞ)」


額からあふれる血もお構いなしに空中のトエムにこうべを下げる。


「改めまして、32代目国家魔導士団元帥の地位を授かる公爵家ビンカーン家当主カシコイ・ビンカーンと申します。今後あなた様に家庭教師という名の、師事を賜る予定です。よしなに」


「…ん?家庭教師を」


「そんな事どうでもいいとですプロティン殿!約束通り私を雇うという形でよろしいですな?」


「それは…ありがたい話なのですが、カシコイ殿にも息子と同じ年の女の子が居ましたな?ビンカーンの領土はこの土地からは急いでも片道二日。何時であればよろしいですかな?」


「今からです!期間は私が満足できるまで永遠です!」


「…?、カシコイ殿にも息子と同じ年の女の子が居ましたな?居ますよね?何時であればよいかな?」


「!!私は魔の研鑽の為なら家族を切り捨てる覚悟があります!何なら領土運営の肩代わりもしましょうか?」


「今後ともよろしく(即答)」


この日の夜はノウキーン夫婦は互いに泣きながら抱き合ったとか。


ノウキーン家のメイドが深夜に幼児と赤髪イケメンが見つめ合い。イケメンのほうがよだれを垂らしてニタニタしていたという不気味な報告が後日あがる。


太陽の光が周囲を照らし始めたころ、

馬に乗ったプロティンと、数人の騎士達を見送るニュウの姿があった


「それでは公務の為、王都に戻る…世話をかけるな」


「最近では教国の動きが特に不気味だと聞き及んでいます。何卒お気をつけくださいませ」


「うむ、心遣い痛み入る。では参るぞ!」


ニュウは名残惜しつつ見送る

いざ、王都へと領地の正門が開門しようとしたとき、


「【義兄上ぇ聞こえますか聞こえます?】」


頭に直接声が響いたが、最近聞いた声と違った。

驚いて気配のする上空へ目を向ける。

フヨフヨ落ちてくる目がガンギマリでクマがヤバイ、長髪がぼっさぼさになっているカシコイの姿があった。


「カシコイ殿!?見送りに…それよりその魔法は?」


「トエム様に師事を受け堪りました!!半日ですよ半日!!ひゃー↑まさか失伝魔法がこんな簡単に再現できるなんて思いませんでした!なぜ再現できたかというと、まず念話魔法ですが。これはトエム様の御言葉では「脳から発する電気信号をそのまま相手の脳に送った」との事です!これは脳から電気の信号を送って身体が動くという発見と、雷魔法のコントロール次第で言葉いらずの会話が成立するでしょう!!さらに飛行魔法ですが、これはこの星の重力の―――」


「すまぬがカシコイ殿、王の謁見の時間に間に合わなくなる故、行ってもいいだろうか?」


「―――申し訳ない!興奮して喋りすぎてしまった。とにかく!私が御子息の面倒をしばらくの間みさせていただこう!安心して王のもとへ行ってくれ!」


「うむ、助かる!ではあらためて参るぞ皆の衆!」


ようやく出発したプロティンと騎士達の姿が見えなくなるまで見送った後、

目がバキバキの弟を諫める為に言葉をかける。


「カシコイ、もう今日は寝たほうがいいわ あなたが父上も会得できなかった魔法を得て興奮しているのは解りますが…」


「姉上には解りませんよ。毎日の様に偉大な父と比べられてどれだけ惨めな思いをしたか…同じ魔導士達は決まって父の偉業を称えゴマをする。我が妻も父の存在があってこそ縁談を求めてきた。私は必至で努力しました!だが未だに父の足元にも及ばない…今はもう65歳のジジイに何一つ勝てなかった惨めな私の19年をね!」


「ごめんなさい…そこまで追いつめていたなんて…」


「構いません、大好きな姉上には心配をかけまいと気丈にふるまいました。しかし今日でそれも終わり!父上が一度たりとも再現できない失伝魔法を二つも!父上よりも早く再現しました!もちろん偉業はあなたの息子様であるトエム様の物でしょうが、私はあのクソジジイを出し抜いたと言う事実がもう堪らんのですよッ!!」


「お父様が研究してたのは飛行魔法ですものね…」


「そうだよ!そして姉上はトエム様が使える失伝魔法は2種類だけだとお考えてすよね?」


「え…まだあるの?」


「ヒヒヒ、今はまだ言えませんが…近いうちに魔法の革命が起こる事をお約束します」


「へっ…へぇ~、あなたが来てくれて本当に助かるわ、私一人なら部屋に閉じこもってしまったでしょう」


「トエム様のお世話は今後全てお任せください!…おっと忘れていた、寝る前に姉上にお伝えします。どうやらトエム様はご自身でノウキーンの領地をお出かけしたいとの事です。私がお供いたしますので何のご心配なく」


「あなたを信用して無い訳では無いけど…無理しないようにね」


トエムの部屋に飛んでいくカシコイの表情を見て一抹の不安がよぎったものの、


「あの子のあんな顔、いつ以来かしら」


夫に魔法を説明していた時の顔は、少年時代に魔法を心から楽しんでいた頃のカシコイであった。

そして自分にも、他人に気を回す余裕が生まれたことに気づいたニュウは胸をなでおろすのだった。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ