俺が教えるの?
1年A組 教室
「はいちゅーもーく、わたしはこのAクラス担任のゴールド・エイトです。皆さんよろしく!」
黒いわかめみたいな長髪のマッスル老け顔先生が教卓に立っている。
家族と別れて一人で暮らし、寝れなかったであろう子達が半数ぐらいいた。
トエムとトーストはぐっすり寝て、ばっちりの体調である。
「それではまず皆さんの実力を図るために実技場で先生と木材の武器で立ち合ってもらいます。もちろん槍や弓も準備がありますので好きな物を使ってください」
ゾロゾロと実技場に向かう1年A組の一行。デチチ、ヤデレ、トースト、ヤリサァ、みんなA組だ。
途中でトエムを転ばそうとヤリサァが足をかけてきたので、トエムはわざと引っかかり前転受け身をとる。
たまたま見たゴールド先生が小声で「スゴッ」と漏らしていた。よどみなく流れるような受け身であり、地に背が付いた瞬間に音がしなかった。とそんなこんな30分歩いてようやくたどり着く。
「で、でかい!」
東京ドーム3個分あろう圧倒的大きさのコロシアムを前に委縮する一同。
殺風景な廊下を抜けてこれぞコロシアム的な空間が広がっていた。
「よし、では武器を持って、どのタイミングでもいいから好きな時にかかってきなさい」
剣、弓、ヤリと、事前に7歳でも扱えるであろう大きさの木工武器が用意されていた。
次々にゴールド先生めがけて生徒たちが襲い掛かる。
しかし全ていなされ、手加減された威力で頭や腕などにこつんと当てられていく。
7歳では泣く者も後を絶たず、意外と大変な実技テストである。
「しねぇ!トエム!」
思い切りトエムにヤリサァが突然襲い掛かる。トエムは見向きもせず半歩下がる。
するとトエムの髪が当たる程度でヤリサァの木刀が空を切る。
交差時に、誰にも見られないように顎にデコピンを入れ、ヤリサァは脳が揺れ失神して地面に倒れる。
横で見ていたトーストはぽかーんと口を開けてトエムを観察しながら訪ねる。
「なっ何で避けれたの?」
「あんな大振り寝てても避けれますって。それより俺達の順番みたいですよトーストの兄貴」
「(兄貴?)」
「なるほど。しかし相手を見ずに避ける技術、相手の攻撃の最中にあごにデコピンで意識を取る。そんな器用な真似卒業生でも難しいだろうに。流石プロティン先輩のお子さんだ!」
「へ?父上のこと知ってんすか先生?」
横からひょっこり現れたゴールド先生。周りを見渡すとヤデレやデチチを含む1年A組の生徒は全員地面に転がっていた。40人近くいたはずだがこの短時間で方が付いたようだ。
「ああ、戦場でかなり助けてもらった。俺が生きてるのはあの人のおかげと言って過言ではない。さて、鷹の子は鷹だとわかったし、ちと本気でやらせてもらうぞトエム君?」
上段に木刀を構えた瞬間、鋭い殺気をトエムに向ける。
その殺気を横で一緒にもらってしまったトーストは足がすくんでしまった。
しかしトエムはいつもと変わらない様子で‟脇構え”。
「(絶妙…。明らかに前へ出た肩で剣を誘っている。しかし、身長差があるから肩へ到達する前に潜り込まれそうだ。それとも単なる格好付けか?よし…)」
ゴールドは上段から正眼へ構えを降ろす。するとトエムはゆるりと剣を前にだし目付の高さにとる。
「(剣の距離と構えの有用性を理解して構えを取っている!?この歳で!?上段から剣を振り下ろしていたら身長差でこちらの剣が到達する前に何かされていたな…。末恐ろしい、これが噂のノウキーンの神童か!)」
ゴールドの額に冷汗するりと落ちる。
鼓動が早くなり、期待と興奮が高まっていく。
「勝負ッ!!」
7歳の少年に対して全力で踏み込み、突きを放つ。
身長差も考え、構えから最も効率の良い攻撃を選択した。
無論寸止めするつもりではある。しかし―――
ゴンッ
鈍い音が自分の持ち手から聞こえた時、痛みより困惑の方が大きかったゴールド。
刹那の瞬間を頭の中で再考する。
踏み込んだ瞬間、突きを放つ前に何故か軌道を見切っていたトエムが、突き軌道すれすれの位置取りで踏み込んで来る。
ゴールドの腕の内側にトエムの木刀が入り込み、ゴールドの踏み込みの力を利用するように持ち手に狙いを定め振り打つ。
痛みで反射的に握りが甘くなった瞬間に、そのままゴールドが持つ木刀の柄をこすり合わせながら捻り弾く。
木刀がゴールドの手から完全に離れた瞬間、トエムの刃先はゴールドの喉元に今まさに置かれていた。
そして身動きが取れなくなるほどの殺気、トエムの強烈な‟残心”。
「ビューティフォー!まごう事無き天才だ!いや神童だったなガハハハハ!!」
7歳に負ける羞恥心より、自らの敗北を認めトエムに賛辞を贈るゴールド。
先程まで泣いていた同級生たちやヤデレやデチチもトエムに拍手する。
「すごすぎだよトエム君、先生に勝っちゃったじゃないか!?」
「いやいやトーストの兄貴、それはゴールド先生が手加減してくれたからですよ」
そう言うと木刀を腰に納める。納刀の動きが洗練され過ぎて、頭の位置が一切ブレない事をゴールドは見抜いた。
「残念だが手加減はしていない、完敗だ。」
「いやいやいや?アレだと寸止めになったと思いますし、何よりスキルを使ってないじゃないですか?実戦では負けてますよ」
「(寸止めを見切っていたのか!?)完敗だ。本当に素晴らしい。どうだろうトエム君、今度特別に剣術を教えてくれるというのは?」
「?先生おかしくないっすか?‟俺が”稽古を受けるんですよね?」
「いや、私の目測だがもうトエム君に教えられる技術は無いな。是非私が習いたい、習わせてください!お願い致しますトエム大先生!!」
「ええ?やだよ。でもどうしてもって言うなら、寝る前に3時間くらい自主トレしてるからその付き添いぐらいならいいよ。7歳に教わるなんてプライドは無いんですか?」
「やったぁ!プライドで感動したことはないが、プライドを捨てて学ぶことで感動したことは多々ある。教師なんて人に教えて自分が学ぶための人種さ。俺はもっと強くなりたいんだよ!」
「人に教えて自分が学ぶ、近藤師範も同じこと言ってたなぁ。ここまでやる気を見せられたら断れないっすね!俺の通ってる宿舎の裏側で19時から開始って感じでどおっすか?」
「よし!約束だからな!」
童心に戻ったかの様にはしゃぎだすゴールド先生をみて呆れる生徒たち。
こうして、なぜか軍事学校で後に歴史となる〈放課後トエムトレーニング〉が幕を開けた。
19時 トエムの宿舎裏
「あれ?先生この人数なんすか?」
噂を聞きつけて集まったのはゴールドの教師仲間10人と、その話を盗み聞きした生徒30人。
更にトエムの宿舎のアーノルドを含めた先輩10。計50人が集まってしまった。
「申し訳ありませんトエム君。私の話を鵜呑みにした生徒や先生方が集まっちゃいました」
ゴールドのキラキラした目を遮り、その周りの人たちにトエムは問いかける。
「…ええと、7歳児がやる‟ありふれた鍛錬”って解かって参加ですか?」
「いえいえ、7歳児は普通、鍛錬自体やりませんよ」
「巷で噂の伝説を確かめたいし」
「ゴールド先生の抜け駆けずるいっす」
生徒も先生を期待に胸を膨らませる様だ。何がどう伝わればそうなるのかトエムには理解できなかった。
よく見まわすと生徒の年齢はまばらだし、女の子もチラホラいる。
「じゃあまず準備運動がてら俺に襲い掛かってください。あったまるまでやりましょ」
そう言うと何も持たずにボクサーとるスタンダードな構えをとるトエム。
「おや、トエム殿は武器を持たないのか?」
ゴールドと仲の良さそうな中年の先生が問いかける。
「俺は徒手が最高の武器なんで。まぁこういう事です―――ちぇいやぁっ!!」
その辺に転がっていたレンガ(先日壊した宿舎の残骸)を宙に投げ、落ちる瞬間に手刀を振り落とす。
ガキンッという明らかに金属音のような音の後、レンガは真っ二つに割れ落ちる。切断面は月夜の光を反射するほど綺麗であった。
「「「……」」」
さっきまでお遊び半分で集まっていた集団が全員が言葉を失う。
「はいっ、じゃあ適当にかかってきてください。あっ、木刀や木槍じゃなくて真剣で来てくださいよ?俺の練習でもあるんですから」
この言葉を最後にトエムを普通の人間扱いする人間はいなくなった。刃引きした剣さえ嫌がり、キレッキレ真剣をほしがるトエムに恐怖を感じる。
四方八方から囲んで攻撃をするのにトエムに一切当たらなどころか、刃先や槍の持ち手を取られた瞬間、何かしらの技をかけられ地面に転がされた。
見向きもせずあごと肩で腕を取られ投げられたり、身長差を利用した頭での足をすくい取られたり、一文字立ちや三戦立ちなどの立ち方ひとつでいっさいトエムの体が動かなくなる現象、更には体の中まで攻撃が浸透する謎の打撃などなど、
短時間の乱取りであったが数多くの未知なる技術とご対面した。
十分後、
生徒も教師もぜぇぜぇと息を切らし、汗を流し、仰向けで寝転ぶのだが、
トエムは汗一つかくことなくストレッチをしていた。
「ば、化け物…」
「すげぇ…ぜぇぜぇ…桁違いだ」
「さすが…トエム様…」
トエムの乱取りは脳髄まで貫くような鋭い殺気を感じながらの立ち合い。
通常の立ち合いの何倍も疲労する。
そして誰一人休む間もなくトエムと向き合うインターバルで50人を回された。
だのに当人は退屈そうにあくびをしている。
格の違いを見せつけたばかりだが、本番はこれから。
「じゃあ体があったまったところで‟型”やってきますか~はいまず正拳突きから―――」
トエムの本領は‟空手”、つまり徒手。
正拳突き・手刀振り落とし・肘打ち・裏拳・下段払い・回し受け・膝蹴り・回し蹴り・横蹴り・後ろ蹴り・縦蹴りを10回3ループした。
汗は滝のように流れ、倒れる者まで出てきた。
「まだ基礎のなんだが?まぁ疲れたら休んだり好きな時に帰ったらいいって。授業じゃないし~」
しかしこの場に集まった全員が休む気配も帰る気配もはない。汗を滝のように流しながら楽しそうに笑っている。
そう言う…変態しか居ないという事だろう。
「じゃあ次は徒手の‟通し”やるぞ」
‟通し”と呼ばれる打撃を受けた瞬間、ゴールドの常識は覆った。
「トエムッ!?これは…身体の内部まで響いてきます。普通打撃は表面だけ痛いはずですが?」
「手の握りに空洞を作って殴る。その時拳と手首と腕の骨のラインは揃える事。殴るときに握らず脱力して殴ると相手の硬直反射が少なくて済むから、殴った威力がそのまま内部へ浸透する。これを‟通し”って言うんだ。内臓や心臓を直接狙えるから便利だぜ!よっしゃ、ペア作って互いにやってみな」
練習を始めてみたが、ほとんどの者が手の脱力をしながら殴る事ができなかった。
当たると解かっていて脱力するのは難しいのだ。
「やっぱり脱力は難しいか~」
「当たった後、手首を痛める者が多いですね…」
「あ~拳と手首の骨が揃ってないか打撃の角度が悪いか…とりあえず手首痛めた奴は俺が‟回復魔法”で見てやるよ」
「ッ!?へっ?トエム大先生は…まさか一部の限られた高僧にしか扱う事の出来ない‟回復魔法”が使えるのですか?」
遂に腰を抜かしたゴールドが驚きつつもトエムに尋ねる。
「まぁ、我流だが靭帯の再生ぐらい朝飯前だ。あ、そうだ!面白いモノ見せてやるよ」
さくっと手首の負傷者を回復してからトエムは手から火の玉を創り出した。
「これは火の初級魔法【火炎玉】だ」
「ふああ、魔法学校でも習得に早くても一年はかかりますよ?」
ゴールドのぼやきを無視して、近くの地面に放り投げる。
地面は黒くなり、焦げた匂いが充満した。
「結構な威力ですね…(この人魔法学校でも逸材だろうな~)」
「さて、こっからよく見とけよ―――」
今度は地面に向かって拳を打ち込む。手の内はやや空洞を作っている。
「【火炎玉通し(ファイヤーボールスルー)】」
すると地面の中から爆発が起きる。
「…これは?つまり先程の‟通し”と【火炎玉】を掛け合わせたのですか?」
「さっすがゴールド先生話が早い。戦術と魔術を同時使用して掛け合わせる事ができるのが魔素造形戦術【MAZO】だ。俺の‟回復魔法”は‟通し”を利用してるから効果が高い」
「それでぺたぺた触っていたのですね!」
「せっかくだし魔術もやってみないか?より効果的な戦術はどっちもできた方が楽しいぜ!あ、魔力を高める不随筋の練りと臍下丹田の練り…えっと《瞑想》ってのも教えておく。言っとくけどスキルじゃないからな!」
魔法のトレーニングのアドバイスを、マ〇リックスとか言う腹を上に向けながら腰の位置よりも低い体勢で出すトエム。
しかもその体制のまま高速で動き回る姿は凄くキモいし、そのあまりにも度を越えた体勢の辛さを理解しできる者は恐怖を感じた。
一夜明け、何と魔法を使えるものが軍事学校で現れた。
生徒だけでなく教師まで。
校長は教頭から報告を聞いた瞬間、驚きすぎてぎっくり腰になった。
そして今日も‟謎の集会”は行われる。
最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
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