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誰だ!こいつに喧嘩売った馬鹿は!?

ロングリバー草原。

ノウキーン領とケモカンキ帝国の中央に流れる大きな川に接する平原。

進行を始め一週間、本軍が川に着いた時だった。


「なっ!?」


バタバタと大きな音を立て、空中に鎮座する巨大な魔道具が100機ズラリと並んでこちらをけん制している。更にノウキーンの騎士達が既に川の向こうに鎮座していた。数にしておよそ2千程。


「なぜノウキーンの連中が既にいる?こちらよりあちらの方が山道を超える時間がかかるはずであろう!!」


怒鳴ったのは総大将・皇帝エダマ。事態が把握しきれていない。


「はっ、それはあの空飛ぶ魔道具で乗ってきたのかと?」


「なっなっ!?あんなものを貧相なノウキーンの連中が開発したと?いやしかし、数の上ではこちらが圧倒的有利。奴らは2000ほどしかいないのだろう?我ら本隊は10000!さらにハーピー先行部隊は2000!どう転んでも負ける事は無いガハハハハ!」


「それが…ハーピー部隊の消息は不明です…」


「不明だと!?空中からの攻撃は我らが圧倒的有利…まさかあの空中の魔道具?」


「解りません、しかしここは引くべきであると具申致します。余りにも不気味すぎます、一度情報を得てから―――」


「黙れ!それでも亜人部隊の斥候か!腑抜けめ!我々は神に愛された唯一の種族なるぞ。軟弱者めッ!!」


次の瞬間、エルフの斥候の首を剣ではねる皇帝。

これには近くにいた宰相や、騎士団長もドン引き。


「ええいっ!?こうなれば数の力を見せてやれ!川に【氷結魔法】をかけ足場を確保せよ!全軍突撃じゃ!!」


その暴挙に声を荒げた騎士団長のエルフ。


「お待ちください陛下、どれほどの被害が出るか解りかねます。あの不気味な空中の魔道具も何も解らないのですよ?ハーピー部隊だって…」


「ええい黙らんかアズキ!貴様わしの気高い血を引いていながら何たる弱腰か!恥を知れ恥を!」


しゅん、と下を向き意気消沈の美人エルフ、アズキ・ジョイ。

彼女はエルフでは若い180歳という年で騎士団長、および大将軍という地位に昇りつめた天才。

その才能は新皇帝である父のエダマよりはるかに高い。


騎士団内部からも住民からも信頼が厚く、

器の小さい父親から疎まれる結果になった。


(せめてこの場におじい様(前皇帝)がいらっしゃれば…)


「「「!!??」」」


その時であった。川を挟んで睨み合いをしていたのだが、

川を挟んで睨み合いをしていたのだが(大事な事なので2回目)?


「申し上げます!ノウキーンの連中、バーベキュー始めましたッ!!」


「見えておるわチックショー!!あいつら舐めやがって!!むぎゃぐ~ッ!!」


バーベキュー。しかもトエム特性の備長炭を使っている。

オーク、ビックベア、ビックホークなどの食用で有名な肉たちをハルヒトが事前に様々な味のたれに付け込んである。


火にかけた瞬間に、にんにくやジンジャー、豆板醬などの香辛料の香りがブワァーと広がる。

川で10メートル離れているケモカンキ帝国の兵士たちにも匂いが伝わってくる。


カピカピの干し肉や、美味しくない乾燥パンなどで一週間歩いてきたケモカンキ集団には堪える。

焼けた瞬間に豪快に口に入れた瞬間、こぼれ落ちる肉汁をケモカンキ騎士団は見つめる。


「何をしている!?奴らを蹂躙せよ!!そしてバーベキューセットごと奪うのだ!!」


「オォオオー!!」と俄然やる気になった騎士団たちだが、どうも魔導士団の連中の様子がおかしい。


「む、どうしたというのだ!?まだ川は凍らぬのか!?」


「恐れながらお伝えします、魔法師団団長のラッカセーであります。どうやら奴らの魔法か魔道具により、こちらの魔法が妨害されているようです。長年魔法に携わっておりますが、こんな魔法は初めてですフヒヒ」


ガリガリの初老エルフがひょっこり現れる。


「何ィ!?奴らは武力でしか物事を解決せぬノウキーンの家系ではないのか!?いや、そもそもノウキーンと言うのは魔導士団を持たぬ唯一の領土のはず?魔道具などどうやって…いや、わしもトエムと言う人族の噂は聞いた事はあるが…」


実はノウキーン家は代々、部門のみで名を上げる事を誇りとして魔導士団を設立しなかったのだ。

現在もその伝統は守って入るのだが、トエムの参入によって騎士団自体が他領の魔導士団を超える魔導士の実力になってしまった。


つまり魔法騎士というこの世界では新しいジャンルで、伝統うんぬんで言うとグレーゾーンではある。


「ガハハハハッ!良いではないか皇帝閣下!敵陣の前でバーベキューなどなかなかに豪胆!嫌いではないわッ!!」


ズシンズシンと音を立てて現れたライオンの亜人は2m50はあろう体躯と、その体格にあった馬鹿デカ大剣を背中に背負い登場。


「ライオネル大将軍!奴らに舐められて悔しくないのか!!」


「悔しいという気持ちはねーな!そもそも今から全員殺すんだから怒ってもしょうがないだろ?」


「ほぉ、さすがケモカンキ帝国に5人しかおらぬ大将軍の地位に居るライオネルじゃ!期待できる!」


ニタニタと下卑た笑いを浮かべる皇帝。


「行くぞオラァ!!」


凄まじい咆哮と共に、大将軍ライオネルは口から猛吹雪を吐き出す。


「《コールドブレス》」


ものすごい速度で川が凍結していく。魔法妨害装置を上空のヘリから電波の様に広げていたのだが、コレにはお手上げらしい。


魔法妨害は体内で練り上げ放出する魔力には意味がないようだ。

以前トエムが見せた【墳勁】という技と同様。


「さて、敵さんのお出ましだ。お前等準備はいいな!!前回はトエム様だけに重責を与えてしまったが今回は後方で衛生班として控えて頂いている!今度は我らの実力を見せるときぞ!ねじ伏せろ!!」


「「「ほぶっ、オオオォ!!(口の中に肉)」」」


ノウキーン領騎士団長アンドサイの声に合わせず、先に肉を食い終わらせようとする食い意地の悪さを発揮し、まばらに行動し始める。


「奴ら完全に舐め切っておるわ!わしら『獣王団(ライオネルの私兵団)』で蹂躙だ!!」


人族より二回りもデカい猫族や犬族コボルトが雄叫びと共にノウキーン騎士団に襲い掛かる。

重力を感じさせないしなやかかつ俊足で瞬く間に河川氷を超え、鋭き爪を振り落とす!

――――――が、


「「「ひゃぁ!?」」」


瞬間、意識を落とされる。

何が起きたか理解できないまま首、あご、人中、耳(三半規管)、目、みぞおち、金的、ことごとく急所に打撃を打たれる。


「なっ何が…一体!?」


ライオネル悪寒が走る。


この世界はスキルに頼り切っているので対人戦術が劣りきっている。

トエムに対人戦術を散々仕込まれたノウキーン騎士の練度であれば、亜人の攻撃を容易く避けつつ、相手の勢いを利用して急所を打ち抜くことなど容易い。


世間一般では、反応速度は亜人に敵わない。鉄をも切り裂く爪は剣より強い。

そもそも体のつくりや自然治癒速度ではるかに人族は劣る。


が…殺す事もない程度の相手であった。


このアドバンテージの差は‟戦術”の差。

見切り、いなし、身体操作、気配取り、致命部位の知識。


これらが圧倒的にノウキーンの騎士達が上。

スキルでどれだけ身体を強化しても、ただ強いだけ早いだけの大振り攻撃は見切りは容易い。


勢いを利用して急所にカウンターを合わせれば、相手は勝手に気絶した。


余りにもあっけないのでノウキーンの騎士同士でポカンと見つめ合っている。

一番驚いているのは今まで実戦の機会が少なかったノウキーンの騎士連中であった。


そもそも彼らはあの地獄のスロートレーニングを今でも続けている。強くなるのは当然である。


運足も打撃の軌道もタイミングも完璧であった。それも眼前に見えた全てのノウキーンの騎士達がそれを成した。英雄でも勇者でもなく全てである。


そのため獣王団総勢2000のうち600が戦闘不能になった。

約3秒の間に。


大将軍ライオネルは生まれて初めて戦場から逃げたくなった。

認めたくはないが自身の実力が高みであるがゆえにノウキーンの戦力を理解してしまった。


しかし猛将とうたわれるライオネルは雄叫びを上げ突っ込んで行く。


「俺の人生後退無し!俺に続け猛者たちよ!!」


残りの1400の軍勢がノウキーン‟1000”に突撃する。

そこでライオネルは気付く


「(2000の軍勢の半分!しまった―――バーベキューの時に分団していたか!?)」


そう、バーベキューをしたのは分団を勘づかせないため。

バーベキューの煙で巻いて亜人12000の軍勢の後ろへ周り挟み撃ちにする。



トエム「俺達に喧嘩を売って、誰一人逃がすな!」



この言葉を聞いたノウキーン騎士達は挟み撃ちを選択。

場所はヘリから見えているし、小型トランシーバーで指示も随時飛んでいる。


「くそ!しかしなぁ俺達が大将首を取ればいいだけ!死にてぇ奴からかかって来い!!」


ライオネルは背中の大剣をまるで木の棒の様に振り回す。

余りの速度に一般の騎士達では避けるのが精いっぱいであった。


「(これだけ密集して誰一人当たらぬ!?ドラゴンすら一太刀で葬る剣速を何だと思っているんだこいつらは!!)」


苦戦している騎士達を見かねた騎士団長アンドサイが前に出る。


「この圧?貴様…この軍の団長か?」


「初にお見受けするライオネル殿、私の名はアンドサイ・アブドミナル。あなたの名声は前当主コブシ様から何度も聞いている。これからあなたの様な英雄と切りあえることを嬉しく思う」


アンドサイも背から大剣を引き抜く。アンドサイは『大剣使い』のクラスである。


「ほぉ!嬉しいねぇ、あのクソ野郎に覚えてもらえてるとは。しかし『獣王』の職である俺がよもや太刀筋を見切られるとは情けない」


「それだけ我々を鍛え上げた‟あるお方”は偉大なのだ。故にあなたはその実力の一端をこれからその眼に見なければいけない」


「ククク、ほざきおる!やって見せよ《獣王フルバフ》」


虹色に体が光りだす。スキル使用のインターバルに首を切り飛ばすだけの実力はアンドサイにはあったのだが、あえて待った。

高名な武将に対して思うところがあったらしい。


「喰らえ!《斬撃》!!」


ライオネルの大剣が上段から真っすぐに振り落とされた瞬間、アンドサイ剣をその場に残したままたいを二寸五分外す。


大剣同士の衝突の瞬間、手首を脱力させ縦の廻剣。

《斬撃》の威力をそっくりそのまま遠心力でライオネルの手首へ持っていく。


ズシャ


ライオネルの右手首から先は大剣を持ったまま身体から離れる。


「いっ―――グハハハハ見事だ!俺の負けだ!!素晴らしい!!相手の力をそのまま利用する発想は無かった!!」


ドシンとその場に座り込み、屈託のない笑顔を見せる。

そして頭を下げ、


「頼む、俺の首で部下の命は助けてくれんか?」


その言葉に対して「フッ」とつい笑ってしまうアンドサイ。


「ライオネル殿、我々は誰一人殺していませんよ?」


顔を上げ、驚いた顔で大きく三回瞬きをするライオネル。

周囲を見渡すと確かに気絶をしている者しかいない。


「ハーピー部隊から事情を聞きました。現皇帝の愚挙であると。「じゃあ殺さずに鎮圧しちゃえよ」と主から許可を得ております」


「待て待て―――いや、それほどの傑物か?プロティンは戦場で見たことがあるがそれ程の何かを感じたことは無いな…」


「手首を切り落としてしまいましたし、どうです会ってみますか?」


「?」


筋肉で手首の出血を止めつつ、切り落とされた手先を回収し言われるがまま衛生班のテントへ向かう。




衛生班テント


「オッスオッス、次の方~…どわっ!でっけえライオン人?」


ライオネルを前にして物怖じしない6歳くらいの死んだ眼をした男の子が回るイスに座っていた。


「何だこのガキ?まさかこいつか?」


「ええ、我らが戦神トエム様です」


「このガキがトエム?魔道具の噂は効聞いて―――のわぁ!?手が繋がってるじゃねえか!!」


一瞬目を離した瞬間に片方の手で持っていた手先を奪われ、おそらく‟回復魔法”で繋げてしまった。

かすかにペタペタ触られた感触と共に、トエムがただ者でないとライオネルの体が理解した。


「俺を殺す前に、できればアンタと戦ってみたい!」


キラキラした目でトエムを見据える。邪心の無い童心そのもの。


「今から?」


「そうだすぐにでも―――」


刹那であった。

もちろんライオネルは瞬きをしていない。


体が完全に床に突っ伏している。

トエムはライオネルの手首を返しながら、肘を床に押し付けている。


こんな少年の細腕を振り払おうにも、完全に極まっていて1ミリも動かない。


「ガハハハハ!もう笑うしかない…誰だ!こいつに喧嘩を売った馬鹿は!?」


自分に対して、皇帝に対しての悪態を呟く。

その眼は既にトエムに対しての羨望に満ちていた。


「どうだ坊ちゃん、俺を奴隷にしてみないか?代わりにたまにでいいから坊ちゃんと戦わせてくれれば文句ねぇぜ!」


「奴隷はもういっぱいいっぱいだからいらね。でもあんたを雇うなら別だ。実は俺の友達にミノタウロスがいて、そいつのとこ人手が足りないんだよね。猫の手も借りたいって(ライオンだし猫の親戚みたいなもんでしょ)」


「うむ、たまに坊ちゃんと戦えるか?」


「いやいや、そのミノタウロスに負けたからね俺」


「なっなっ!?ククク、井の中の猫とは俺の事か!その話本当だったら願ってもねぇぜ!」


バッと立ち上がり、トエムに頭を垂れ、


「我ら獣人は強い者に従う、今後獣王団は坊ちゃんの元につくぜ!!」


「うん?みんなハルヒト行きだけどいいの?ガチで助かるわ!」


後に獣王団の連中は文句を言いながらハルヒトダンジョンシティに行くのだが、

まさかライオネルを胴上げし、銅像を作るほど感謝することになるとは誰も予想していなかった。


最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。


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