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寿司食いねぇ

ミノタウロスの集落 ハルヒト要塞


「うおおおおおん!!わさびだぁあああ!!わさびだぁ…(感涙)」


喜びの舞を踊るハルヒト。

未だ片手のトエムからこっそりプロティンに《植物全能プラントマスター》でいくつか作り手渡す。


わさびというものは非常に育てるのが難しく、魔の森で群生することは無く、ハルヒトがずっと探し求めていたが手に入らなかった食材である。


「よーし!!今日は握るぞ~」


寿司を握れると張り切るハルヒト。

前世ハルヒトの先代はなんと銀座有名店での修行をしたこともあるのだ。


先代の寿司への愛は強烈で、寝てる時でさえシャリを握っていたという。

そんな先代からの情熱を引き継いだ春人、もといハルヒトはワサビが無いまま握る事は出来ないと我慢していたという。


嬉しそうに準備を始めるちっちゃなミノタウロスを呆然と見守る一家+α。

プロティン、ニュウ、ヒンニ、シルバーウルフのバンジョーが広場らしきところに案内された。


ちなみに、玉握り殴り合いの騒動が終わった後、トエムの巨大【虫食重力場ワームホール】によって騎士団や冒険者は一旦ノウキーン領まで帰された。


魔法を見た他領から来た冒険者には「なにこれ!?なにこれ!?」とかなり驚いていた。

中にはA級冒険者クラスの大ベテランでも気絶する者が出たらしい。


その後トエムが「せっかくだし!なんか食わせろよ!」と負けたにもかかわらずくっそ失礼な事を言ったにもかかわらず、ハルヒトは快く集落へ案内してくれるのだ。


トエム一人に行かせるのも心配なので、残りのみんなでついて行くことになった。


「ほーう、これがミノタウロスが作った砦か。なかなか壮観である」


「我のハルヒトが作った故、当然じゃ!!」


「え~と、私早くトエム君に話したいことがあるんすけどいいっすか?」


後ろからヴァンパイアロードと邪神、女神がトボトボとついてきた。

広場に置かれた宴会用の大きな円卓と椅子に座る。


「おっ!?これ3メートルくらいあるのに、中心が中華テーブルかよ!回る回る~」


「こらトエム!はしたないですよ!」


「アーシもやる!兄貴代わるし」


「む…(すでにここは魔物の中心地、トエムは問題ないと言うがほんとに大丈夫なのか?しかし住民は見当たらぬな…)」


プロティンは不思議に思い周りを見渡す。しかしいるのは家畜らしき魔物のみである。


「あ!安心してください。集落の者たちは皆ダンジョンに居ますから。皆さんが帰るまで戻ってきませんよ。魔物がたくさんいるところで食事なんて怖いですよね、人族ですから」


「うむ、心遣い感謝する。しかしダンジョンとは危なくないか?」


「へ?いやぁ~そのダンジョンの主が僕なんで魔物も階層も思い通りですからご安心を」


「う、うむ(げぇ~伝承にのみ伝わる《ダンジョンマスター》!?本物か?)」


「そういえば皆さんは生魚は食べれますか?」


「安心しろよ、うちの領で散々刺身とか食ってるから。でもお前の寿司が食えるなんてラッキーだぜ父上!こいつの作る料理はとんでもなく旨いから食える時に食っといた方がいいぜ!あっそうういえばシャークカンパティの冷凍保存が俺の世界樹の葉袋に入ってたかも?」


「シャーク?カンパチ!?マジか?見たい見たい!」


「うむ…それにしても2人はやはり知り合いなのだな…」


「ええ。皆さんは知っているかもしれないですが、そこにいる羽の生えた方達にこの世に連れてこられた…いわゆる『異世界人』です。前世では僕とシシド~じゃなくてトエム君は幼馴染で、あと同じ流派の武術を習った同門でした」


ため息を吐きつつ、続けて話しかけるプロティン。


「なるほど…その流派の師範はさぞお強いのだろうな」


「ええ。僕やトエムが束になっても師範には結局死ぬまで敵いませんでしたね」


「ん?その言い方だとまるでトエムや君が勝てないと解釈してしまうなハハハ」


「父上、俺達じゃ近藤師範には勝てねぇよ?師範がこの世界に転生したら俺達じゃ手も足も出ねぇさ」


「「「ブブゥッ」」」


緑茶を飲んでいたニュウとカシコイとサトナカは同時に噴き出した。

この化け物二人より上がいるのか?


「もしかして俺やハルヒトが最強だと思ってねぇ?甘い甘い…上には上がいるっての。俺達なんて高く見積っても中の上くらいだよな!」


「ちげぇねぇ!」


「「ハハハハ」」


(いや、笑えねぇよ)と困惑するプロティンをよそに無駄のない動きでシャリを準備しだすハルヒト。

米は《料理全能クッキングマスター》のスキル《食材加工 LVMAX》で数秒手をかざした瞬間、寿司桶の中にあったただの精米が数秒でふっくら炊き上がった状態になる。


作り置きの寿司酢を適量ずつ加えていき、‟風魔法”を桶内に発生させる(うちわの代わり)。

シャリをかき混ぜるそのしゃもじ捌きの美しさたるや。


「これば、ビネガーかしら?お米に混ぜるの?」


「この米の上に生魚を乗せるんですよ奥さん。酢の酸味と魚の脂身が相まって、見事な調和が生まれます」


「楽しみねぇ~」


「へぇ~楽しみだし!」


「あっそうだ!実は握りという調理法は手でじかに加工するんで、そういうのダメな方はいらっしゃいますか?」


「うへぇ~私はきついっす…」


ここで苦言をしたのは女神であった。邪神は訝しい表情で女神を睨む。


「じゃあ漬け丼にしますよ。このサメみたいな魚もらうぞ?」


「シャークカンパティな。見た目3メートルのサメだが、味はまるっきしカンパチだったぜ」


「そいつぁ楽しみだ!内陸で海まで遠いから魚はあんまり手に入んないんだよ…そい」


ハルヒトがカンパティに触ると一瞬で解凍される。

カシコイが小声で「身はただれてないのかい?なんて魔力コントロール…」と呟いた。


魚をまな板に載せた瞬間、


ヒュヒュヒュン


目にも止まらぬ包丁さばき。

頭は落ち、骨は分けられ、皮は剥がれ、身が分けられた。


「こいつは兜焼きにしてと…解凍したってのにすげえ身のハリ!」


大きく分けた身を一定のペースで斜めから包丁を入れる。


「なるほど、こうしてお刺身ができるのね~」


いつの間にかハルヒトの調理に見とれるニュウ。

刺身の何枚かを木のボウルの中にいれ、醤油の薄めた様な液体につける。


ご飯を盛り付け、しそ(トエムのスキルで生成)の千切りとのりをまぶし、

ボウルに手をかざしたらすぐ先程の刺身をとりだす。


刺身は先程の手をかざした時に《食材加工》で超短時間で身の中にタレがしみ込んでいる。


丼の上にかざり、ウズラらしき鳥の黄身を真ん中へ落とし、ワサビを添えて完成。


「ほいっ、〈カンパチ漬け丼〉おまち!」


一番近くのトエムの前に置いたかと思うと、中央のテーブルを回し女神サトナカの手元で止める。

酢と醤油の香りがサトナカの鼻腔を撫でる。


「まぁ、せっかくだし貰おうっす はぐっ」


スプーンで一口食べた瞬間であった。


強烈なカンパティの食感と魚の旨味とが醬油や出汁、みりんが加わった奥深いたれの味が濃厚な味わいとなって口の中を駆け巡る。

更に黄身の甘さが漬け刺身と絡まり、しそとのりの香りが後から後から追いかけてくる。

最後にワサビの香りが鼻から抜けると、言い表すことのできぬ満足感が女神サトナカを満たす。


「はぐっはぐっ、にゅぐにゅぐ!」


旨過ぎて全力でスプーンをかき込む。

いつの間にか近くに置いてあったシャークカンパティのつみれ汁とおしんこがいい仕事をする。


「あれっ!?」


気が付く頃にはがっつり一人前が無くなっていた。


「う…旨過ぎて、旨過ぎっす…」


呆然と空のどんぶりを見つめる女神の姿に、周囲の者たちの期待が膨らむ。


「ほれぇ!早うわしにも何か出さんか!」


「言わずとも握ったよ!へいカンパティの握り一人6貫お待ち!」


中央の回るテーブルに、木皿の上に寿司と醤油用の小皿が人数分積まれていた。


「よっしゃ!回すからみんなとれよ~」


トエムがテーブルをクイクイと回す。

順次自分の分の木皿をとり、小皿に醤油を垂らす。


「おっとこれをそこの可愛いワンちゃんに献上するぜ」


カンパティの巨大握り2貫。全長50センチあろう超ビッグ寿司。

これにはラーメン作りの巨匠、ヴァンパイアのジョージも目を見張る。


「どれ、早速頂こうか?」


パクッと一口。ジルバーウルフのバンジョーも一口でいった。


「ふぅ⤴!うめぇ!また腕上げたじゃねぇか!」


「へへ、どうも。…あれ皆さんお口に合いませんでした?」


沈黙。まずいのではなく旨過ぎて言葉が出ない。

ほろりと‟溶ける”シャリと、十分に脂ののったカンパティ。

脂が濃いと感じた時に鼻に抜けるワサビ。苦みは無く、ただただ爽やか。

そしてハルヒト自家製醤油(スキル使用)が全てを包み込み、一つの料理へと完成させる。


ただ刺身を米に乗せただけの料理、所詮魔物かと侮ったプロティン。

完成されている…刺身の切り口もワサビの量もシャリの柔らかさも全てが高水準。


シンプルゆえに奥深い…これが『寿司』。

うるさいヴァンパイアも邪神も黙々と食べ進める。


ペットのバンジョー(3メートル)も幸せそうな顔をしている。

それを嬉しそうに眺めるハルヒトというミノタウロス。動物が好きなのであろうか?


6歳のヒンニでも食べられる、すりたての本物ワサビは醤油と出会うと未知の実力を発揮する。

一足早くどんぶりを片付けた女神がうらやましそうに見つめる中、全員が食べ終わる。


「う、旨過ぎた!?」


「我は満足だ」


「いやぁ、ハルヒト君すごいんだねぇ~」


「美味かったし!」


「領に戻っても食べたいわね~」


「さすがわしの認めたハルヒトじゃ!もっと握ってたもれ」


満足した様でほっとしたハルヒト。ここでトエムに違和感に気付く。


「ん?俺の腕の切り口…うねうねしてね?」


「あーそれは俺の料理で細胞が回復してんだよ(?)。カシコイさん、さっきのトエムの腕ちょっとくっつけてくれない?」


「えっ?そうかい?よいしょ」


ヌポン!


変な音と共にトエムの腕はくっついた。


「あー動く動く、これってお前の『職』?」


「あーそんな感じ」


さも当たり前に腕がくっついた。プロティンとサトナカはポカーンと口を開けていたが、ほかの者たちはつみれ汁に舌鼓していた。


「さてさて、俺の腕も元に戻ったところでそろそろ本題いいか?」


ギッと女神と邪神を睨むトエム。周りの者がハッとした。


((あっそういえば神様いたじゃん!?))


「そうっすね、何が聞きたいっすか?」


「まず、俺は何で異世界に来たのか聞かずに来たから理由をな」


「そうっす!6年もかかったっす!実は―――」


「実験のためさ。あたしにも寿司握ってもらえる?できればいなりがいいわね」


突然女神サトナカ隣に現れて、平然と座っている漆黒のおかっぱロリがオーダーを頼む。

突然現れた豪華な和服の様な法衣を着た少女に場は困惑する。


「へ?実験?知らないっす…?」


「ど、首領ドン!?なぜここへ?」


「最高位神の一角…」


「あっいなりなら作れるぜ」と何の困惑もなくいなり寿司をしこむハルヒト。

トエムも淡々と質問する。


「実験場?それはスキルを使うときに抜き取られる心の奥にある‟何か”と関係あるのか?」


「な?な?な?何で知ってるっすか?」


慌てるサトナカを横目にお茶をすするアマテラスと呼ばれた女の子。


「よくそこまで感知したもんだ。やはりあたしがトラックで3回も襲わせただけの事はある。おっと、今は異世界トラックはしてないからね、勘違いしないでよね♡」


突然のツンデレ口調、この黒髪の女の子が向こうの世界の知識を持っている様だ。

そして、転生時に聞いたトラックの張本人はこの女らしい。


「で、あんたは何なんだ?どうして俺をこっちに連れてきたかったんだ?」


「あたしは邪神の首領という役割のアマテラス。君らには『天照大御神アマテラスオオミカミ』って言った方が早いかな?「幸集める犬の元ネタ」って言えばちょっと前までよく伝わってたし」


トエムとハルヒトは驚いた。


神話というのは基本的に為政者による民心を掴むものでありフィクションであると思っていたからだ。話が本当であれば日本で最も有名な神様である。


「おやおや?神は幻想とでも思った?おるよ。そもそもそこの『ダビデ』も昔サタンからめっちゃちょっかいかけられて、なんやかんやであたしがこの星に転生させたんだし…ん?言ってないの?山田ちゃんや里中ちゃんが元転生者で『管理者』に迎えられたこととかも?」


「…なんすかそれ?」


「わしが元人間?」


「アマテラスよ、お主に転生させてもらったこと、このジョージ感謝している。しかし原初生物やこの星の遺産を奪わんと戦争を吹っかけてきたこと、そのままスキルだの職だの面倒を増やしおったこと、千年経とうが許せん。我は貴様らが嫌いだ。サタンのあの横柄な態度を思い出す」


なんかすごい話をしているので、カンパティのつみれ汁をすするノウキーン一家。

とそこへ、


「なんか話長くなりそうだね~アジの握りといなり寿司、それとシャークカンパティの兜焼きお待ち」


「ほほ~!待っておったぞ…むぐむぐ…うまい!!絶品じゃこのいなり!狐共が味を覚えてしまったせいでなかなか食えんのよ~。おっそうだ、アンタたちがこの地に来た理由だっけ?早い話スキルを使わせて戦争をさせ、魂を抜き、生体情報を管理し、賢者の石―――この世界ではダンジョンコアだったっけ?それとユグドラシルから出る未知のエネルギー‟魔素”の研究の糧にするため。さっきスキルで何か抜かれると言ったよね宍戸恵夢くん?それがたましいと呼ばれるものであり、生命が生命として存在するための情報って感じのなんかモワンとしたもんだよ」


「そ、そうだったっすか?私の聞いてた事と違うっす?」


「う~ん、性の神エロースさんの秘蔵っ子『テクノ』ちゃんはちょっと野心が強いんだよね~。ぶっちゃけ研究って第三次ラグナロクっていう神の戦争準備のためのでさぁ、でも関係なしにテクノちゃんの自分の力にしたいらしいのよ。あ~めんどくさ。女神組は面倒上司のせいで情報が来てないんだろうね~ごめんね里中ちゃん」


ひきつった笑いを見せる女神サトナカ。


「…つかぬことを申してもよろしいか?」


ここでプロティンがアマテラスに質問。


「あ~別にそんなへりくだった態度じゃなくていいよ」


「失礼する。わしは―――」


「プロティン・ノウキーン公爵でしょ?あたしとテクノちゃんはスキルを一回でも使ったことのある生物のデータは全て頭に入ってるから」


「お―――恐れ入ります。では…テクノ様とは創造神テクノ様で間違いないですか?それにしては邪神の首領であるあなたと何か親密な関係であるような…?」


「あ~勇者と魔王が戦えとか真の字平和とかの奴?あれただのマッチポンプだから」


「は?」


「強力なスキル程魂を取れる量が増えるわけね。強力なスキルを使わせるには戦わせるのが一番な訳。そして魂というのは魔素と同様のすごいパワーがあって、それを回収すればするほど神々の争いの役に立つって訳。転生者や転移者に強力なスキルが使えたらさらに争いは激化する…てな感じ」


「な…では人は、神に使われるためだけに争っているではないか!!」


「そういう事。でもスキルや『職』いう何だかわからない物に頼って考える事もしない畜生共にあたしは同情わかないねぇ…それに比べてアンタ達は最高だったんよ!」


「へ、俺?」


「今デザート作ってるから後で聞く!」


「前世の連中ってのは自分の知ってる世界で、中世並みの文明とかでアドバンテージがあると知るとすぐに調子に乗る。それで神々の思惑通りのスキル人形になる。その点アンタ達は自分の力で世界を理解し、理にそって強くなった。スキルというくさびに頼りすぎないから神の想定を超え、今回星破滅寸前まで追い込んだ。さっきのテクノちゃんの顔ときたら…ギャハハッ!クッソ笑えた!」


ギャハハと笑いながら飯を食う黒髪少女。正直汚い。


「しかし、お主らがもっと成長してぶつかり合ったら星が持たないんよ。んであたしが説得に来たって訳ね。つー事で、今後魔力の自制をお願いできる?インフレ許すからおねが~い?」


「別に俺はいいぜ!ダチにも会えたし、何より第二の人生くれたしな!」


「俺は料理さえできれば何でもいいや。それより兜焼き冷めちゃうぜ?」


「はっ!すぐ食べるし!うめーし!」


「ほんとね~塩の塩梅がちょうどいい~」


「この状況で平然と食事するってすごいっす…」


「うん、いい子たちね!よーしそれじゃあ異世界マニュアルを無視していい事を教えちゃう!」


「ふえっ!?ちょっと?い、いいすか?」


「さすが頭領!やりますねぇ!」


トエムとハルヒトの近くに行く、二人にだけ聞こえる声で、


「実は君たちの知り合いの西村佐渡美ちゃんと近藤武蔵師範代もこの世界に転生して、しかも同じところにいるよ!はいっ教えるのはここまで~」


……? は??

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