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生後半年

まだ二十歳ぐらいであろう見た目

優しい薄赤の髪色

豊満な体の持ち主である美女はため息をついた


「あれは何かしら?」


まだ生後半年の赤子の寝返り

だが、ただの寝返りではない


「あぅッ!あぅッ!」


ビュン!ビュン!と風切り音がする。

寝返りの際、胴体をひねり

足を空蹴りしているのだ


この異常な寝返り幼児こそトエムである。

トエムはじっとすることに対して特に苦ではないのだが(放置プレイ)、

身体を痛めつける事に対して喜びを感じるやんちゃ幼児。


体に痛みがないというだけで物足りないのだ。

下半身が終わると、次は上半身。


「あうあうあうあうあうあうあうあう」


高速の空打ち、いわゆるラッシュである。

一打目は顎、二打目は首、三打目はみぞおち、四打目は腹

と想定をしながら四打目で左右入れ替えて一打目という繰り返し。

これを満足するまで行う。


そんな事とは知らず、生後半年我が子の奇行を見つめる美女ニュウ・ノウキーンは

苦悩の色を隠せない


「私は…忌み子を産んでしまったの?」


彼女が我が子にその様な事をぼやくのは二つの理由がある。


一つ目はトエムの異常さ。

転生者であるトエムは母親に気を使っている。


オムツに漏らしたときは低音で泣き、お乳が欲しいときは高音で泣く。

夜泣きは無く、日が差せば起き、日が沈めば寝る。


これは育てる側からして楽は楽だが異常であり、恐ろしいのだ。

加えて先程の異常な行動がある。


二つ目は実家を追い出されるように嫁いだのである。


ニュウの実家は夫のプロティンと同等の公爵家であり

そして魔道の名家でもある。


ニュウは幼少から魔力がほぼなく、

使える魔法は生活魔法と呼ばれる簡易魔法しか使えず

孫ほど年の離れた父親から目に見えて冷遇されてきた。


4つ年の離れた弟が生まれてから一切見向きもされなかった。

引きこもりがちだったせいか、この世界の婚姻適齢期である14~18という年齢を過ぎ

実家では腫れもの扱いに拍車がかかった。


二十歳の時に3つ年上の筋肉男と見合いをした際に

まさかの一目惚れ(筋肉フェチ)

相手も惚れたのか二つ返事でプロポーズ

あれよあれよと結婚した。


このノウキーン領に嫁いでからはお姫様の様な扱いと夫の熱烈な愛情に

この世の春を味わっていたそんな矢先に…なのだ。


もし世継ぎに問題があれば別の女に愛情が向くかもしれない。

自分はこの先帰る場所は無くなるかもしれない。

ニュウが背負う重圧は計り知れないのだ。


そんな事を毛先も感じることもなく自主トレに投じるトエムは

インナーマッスルを動かすためのトレーニングをしていた。


手を合わせ、目を閉じ、足を組む。

一回の呼吸をできるだけ長くし


吸うときに力み


吐くときに脱力


これを全身くまなく、身体の奥の奥、骨の周りにまで巡らせる

そんなある日、違和感を感じる


「(何か最近、腕や足にモヤのようなものがへばりついてくるな…気持ち悪!)」


〝離れろ!離れろ!”と念じるとモヤはその時だけ離れ、念じなくするとすぐ纏わりついてくる。


「(シッシ!何で追っ払ってもすりついてくるかね~まるでSMプレイの時の俺みたいな奴)」


今度は〝離れろ”ではなく〝回れ”と念じる。

すると足や手にまとわりつくモヤが足と手の周りを回りだす

そしてモヤは物質を貫通していることも気づく。


「(間違いなく〝俺の意識に反応”している…一体どういう性質だ?)」


次は〝指の周りを回れ”や〝足の指先に球体で集まれ”など念じると

その通り動く。


「(思念を感知するということは脳の電気信号に関係している?)」


そう思った瞬間だった


バチィッ


「ふえっ?何の音?」


うたた寝していたニュウは何が起きたのか見逃していた


「きゃああッ!!トエムちゃんッ!指がやけどしてる!まさか侵入者⁉」


母が半狂乱になっている事さえ気にならない程、トエムは焦っていた。

まさか指先から〝電気が飛び出す”とは!


「(電気信号…電気?まさか…魔法とでもいうのか?)」


とするとこのモヤは…


「(魔法の元…『魔素』?)」


熟考しているとなぜか猛烈な眠気が襲い

そのまま眠ってしまった。






目を覚ますと、目の前で目を腫らして自分と添い寝する女性を見る。

この母親という生き物に対してどこか信頼がおけない。

前世で不倫をし、自分を置き去りにした〝あの女”を思い出す。

突然一方的な暴行を自分に加え、

疲れたら自分が泣き出す最低の生き物。

以後、女という生き物はそういう物だと刻まれた宍戸恵夢の記憶。


「(この女…いや、母上はとても俺を大事にしてくれる、時よりこの胸を包む暖かな温もり…これが俗に言う『バブみ』なのか?)」


前世と合わせて初めての『バブみ』を確かに感じる

胸が高鳴り、心は高揚し、自他ともに赤ちゃん!

その勢いでニュウの太ももの間に顔を突っ込む


《ふともも、楽園をも寄せ付けぬ絶対の聖域(性書22節、ムチムチ人妻の昼より抜粋)》


胸より脚!トエムは前世より脚フェチである!

至福のふくらはぎに包まれてトエムは思う。


「(赤ん坊とはいえ、これ大丈夫かな)」


しかしトエムはやめない。

男とはこういう生き物である。

それはさておき、


「(『魔素』。仮にこんな物がある世界なら無限に近い可能性があるぞ!イメージを具現化する元素?もうこれがチートじゃね?)」


前世の知識を宿す自分はコレでいったい何がしたいのか?

世界を救えなどという、女神のセリフも気になるが…

ふくらはぎに挟まれ、研ぎ澄まさた頭脳で

自動で翻訳されるこの世界の言葉を整理する。


「(このお屋敷はノウキーン家とかいう家柄の屋敷、そしてこの太ももがムチムチ女性の身なりを考えると、俺は跡取り息子…といったところだろう)」


未だどれほどの文明レベルか知らないが、なろう系とかの中世ヨーロッパレベルであれば自分の知識レベルでいくらでも稼げるだろう。

貴族にしろ、商人にしろ、自分ができる範囲は広い。


「(『魔素』の無限の可能性、俺に与えられた時間をフルに使って文明を発展させればいずれ…)」


トエムが目指すのは遥か彼方、前世で敵わなかった夢!










《《《宇宙空間・無重力SMプレイ》》》




密かな野望を抱き、赤ん坊らしからぬ邪な笑顔をみせる。

その邪悪な気配を察して起きたニュウは、

自分の股ぐらを見てすぐ気絶した。



翌日、

彼女の必死の講義を受ける夫、当主のプロティンは

自分が最も信頼を置いている初老の執事長を付ける。

彼の名はセバス・クン


以前は共に戦場を駆け抜けた事もある男

育児ノイローゼと判断したプロティンは誰か信頼できる者を置いたほうがいいと判断。

その判断のおかげで公務に追われる日々も何とか過ぎる事が出来た。



月日は流れ、トエム2歳の誕生日。

誕生日会が終わった後の妻との寝屋。


「旦那様!トエムは何かに〝憑かれて”おります!忌み子を産んでしまいました!な死んでお詫びします!」


久しぶりの我が家、愛する妻との寝屋。

当然そういう事をするであろう期待とは裏腹、

妻のネグリジェからナイフが取り出され

首元へ突き付けたのを見て


「ファッ―――何してんだいこの女ァ―――」


すぐさま手首をつかみ、ナイフを落とした

泣き崩れるニュウに


〈プロティン公務頑張ったの~ママほめてほめて~〉


など言えるはずもなく、内心地団駄を踏みながら冷静を装ってご乱心の妻に問う


「先ほど…〝憑かれている”と言ったが…何故だ?」


「トエムは異常なんです…ううっ…うあ~ん」


〈あっ泣いてる顔もいいじゃん❕〉などとのろけをかましつつ

泣いてる妻を慰めてつつその日は明けた。


翌日、腹心のセバスに事の詳細を聞く。


〝正中線に一切のブレなく歩く異常な2歳児”


〝生まれた時以外ほとんど泣かない2歳児”


〝転ぶと受け身をとる2歳児”


〝お昼寝の時間にあぐらで瞑想らしき事をする2歳児”


「…ふざけている様に聞こえるのだが…真か?」


「ふざけているのなら奥様はノイローゼにならんでしょうな」


「ううむ…」


現在、国は戦争間近と言われるほど逼迫ひっぱくしている。

軍の総責任者である自分が動かない訳にはいかない。

ただでさえここ最近は魔物が活発だというのに


「誰か…助けてはくれぬかな」

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

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