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新たな拠点

「うおおおおおおおおい!!トエムッ!!」


ノウキーン屋敷にて、朝っぱらからうるさいプロティンの声を聴いてゾヒストの隣で目を覚ます。

脳筋協定から2か月が過ぎた。


「おまっお前ッ!!なんでセイジュン君連れてきちゃったの?リンカーンの奴に滅茶苦茶せびられたんだけど?」


「へー」


「へーじゃなくて…一言相談しろ!そういえば最近、滅茶苦茶に奴隷の数が増えてるが…気のせいではないな?」


「はい、14歳未満の奴隷は全て俺が管理してます。たしか10万人くらいですかね?」


「うお~~~い!?ノウキーンの元の人口より多いじゃねぇか!!領地はどうすんだ?そこまでの人口を入れられるほど壁内は広くないぞ!?」


「ええ、魔の森の近くにもう住める場所確保してありますから」


「げぇ!よりにもよって魔の森!?」


魔の森


魔界と呼ばれる魔素濃度の高い地方であり魔族の納める魔族領とノウキーン領の境に存在する超危険領域。

ドラゴン、フェンリル、ギガスズメなどのS級指定魔獣が跋扈ばっこし、植物すら襲ってくるという未開の地。


「なぜ、その様なところに…奴隷を皆殺しにするつもりか?」


「そんな訳ないですよ。魔の森は未開の地ってことは資源が山盛りなのはわかります?」


「資源が山盛り?お前入ったのか?」


「ええ、一通り見ましたし、ダンジョンやS級以上の魔物もいましたね。今の俺じゃ五分五分ってとこだったので戦わなかったですけど」


「なにぃ!?お前と同じ戦力?どんな怪物じゃ…」


「以前話したバンジョー(シルバーウルフ)の母親フェンリルを今、魔の森拠点を守らせています」


「あのヒンニに頭を垂れた謎のフェンリルが!?…そうか、あれだけの人数であっても殺す気が無いならそれでよい。奴隷とて誰一人殺す出ないぞ」


「もちろんです。何なら来ますかヘリで?」


「へっ」


ヘリで移動し30分もしないうちに見えてきた。

プロティンは高所恐怖症なのか、めっちゃビビってた。


工房の様な建物がずらりと並び、

ヘリの高度からでも見上げる、巨大な大木が四か所に鎮座している。





ノウキーン領土国境 魔の森拠点 通称トエムドーム


「な…壁が無い…いや透明な結界が確かにある…しかしなぜ結界が維持できる?結界は巨大な魔石を駆使しても一日が限度であろう?」


「それはユグドラシルですよ。結界石を組み込ませました!」


「本当に世界樹…昔庭に生えたって聞いた時はさすがにないわって思ったんだけどなぁ~」


「今回は時間が無くて、とりあえず世界樹を植えただけになった…本当はラーメン屋にしたかったのに…」


「余計な事せんでいい!それより中に入れるのか?」


先程から透明な結界が鳥や魔物をガンガンに弾いている。

弾かれた鳥や魔物は息絶えていた。


「ええ、今から配る世界樹の葉を持っていれば何事もなく通れますよ。配りますね」


葉を持って入れば、難なく通り抜ける。

そこに広がるのは超工業地帯。


「ほぉ~建物のほとんどが工房や工場だな?」


そう声を漏らしたのはプロティン。その答えをトエムが答える。


「そうです。ここ『トエムドーム』の一番の目的は部品の加工や食品の製造です。加工されたものはノウキーン壁内に持ち込んだり、ここで作ってしまったりしてます。やはり工場工房の数に限界があったので、ならここで各専門の製造ラインを作ってしまおうというコンセプトです。奴隷の中にはドワーフやエルフなどの器用な連中も多かったですし、順調ですよ」


「十万人が…この短期間に機能するモノなのか?」


「十万人全員俺の奴隷なので、命令すればその通りにしか動けないんです。逆に言えば初めから教えなくても細かく命令さえだせば思った通りに動ける訳です」


「もう何でもアリじゃん?」


そのおかげて、短期間にインフレ整備が整ったのだ。

元々、隕石で更地にしただけの土地であったが、


一週間で路面はコンクリートも下水も引いている。

円形十キロメートルにも及ぶ巨大な空間が、である。


これにはトエムも、奴隷当人たちもたまげた。


最近できた電動バスで街を走らせながら、

格区画の説明をしていく。


食品加工、農地、建築、衣服、錬金、魔道具、そして冒険者ギルド。

最近サクッと作ったと聞いていたのが、話を深堀するとよくできている。


そして中央の執務を兼ね備えた冒険者ギルドにつく。

中から犬耳の絶世の美女がトエム達を出迎える。


「ようこそおいでくださった主の父上様よ。このトエムドームのギルド長兼責任者、『ゴウリ』と申します、よしなに」


「は、はひぃ」


古風な着物の様な服装に、ガツンと露出した胸元。

銀色の長髪がなびき、鋭く妖艶な瞳がひかる。


フェンリル『ゴウリ』の人化の姿であった。


胸元に釘付けのプロティンを見てくすくすと笑うゴウリ。


「おんや、そんなにお気に入り申したか?触ってみはる?」


「是非にも(キリッ)」


「父上?母上に言いますよ?」


「あーう!?すまんがそれだけはやめてくれ。最近イイ感じなのに…ね?」


「ね?じゃねーですよ。まったく…さてここに来たのはうまく回ってるかどうかの確認だったが…良さそうだな?」


「はい!それはもう皆主様に感謝しておる。温かい食事と寝るだけでも奴隷はありがたいのに、個室とトイレと風呂がついてるなんて信じられん。わが人化した眷属たちちゃっかり使っておった際には「もうここでの生活を覚えてしまったら森に帰れません」と言っておった。小さく働けぬ子たちには〈寺子屋〉で勉強と運動をさせておる。皆楽しそうじゃと眷属たちは張り切っておったぞ。食料については魔の森が近いせいか作物も信じられぬ速度で育つし、結界に勝手にぶつかって死におる魔物のおかげで肉にも困らん。後、例のオークの養殖も成功したとセラフィから聞いておるぞ!」


「あの魔族の娘か。最近屋敷に居ないと思ったがこんなところに居たのか…」


「じゃが、魔の森の鉱物についてはまだ着手できんのじゃ。わしとセラフィで森に出向くこともあるのじゃが、敵が強くてのう…」


「無理はしなくていい。まぁ今のところは大丈夫だ…何か足りないものはあるか?」


「無い…のじゃ。まだ2か月という若い土地だというのに全くないのじゃ!?休めというても休まず働くやる気の高さと、主様の魔術理論によって誰しもが形成できる莫大な生活水と、世界樹によって生み出されるなんらかの物質によって得られる健康で…ここは既に楽園じゃ!どうなっておるのじゃ!?」


「無いならいいじゃん。じゃ、俺帰るわ。父上、今からワームホール形成するからちょっと下がって―――」


「【ワームホー】」


「大変ですにゃ!」


突如入ってきたのは猫人族の奴隷少女であった。


「ギルドマスター!山が…山が動いてるにゃ!?」


「なんじゃ落ち着いて話すのじゃ…」


「山…ねぇ、とりあえず【虫食重力場ワームホール】を開くんで父上先に帰ってください」


「ぬっ?トエムは帰らぬのか?その山とやらが気になると?」


「うーん…亀の魔獣だと思うんですけど…大人しそうだったから何かにせっつかれてる気がするんですよね…んで、そのせっついてるのが俺と五分のミノタウロスじゃないかと?」


「ミノタウロス?山ほど巨大な魔物をC級程度のミノタウロスが?言っておくがトエム、ミノタウロスというのはトロール程度の実力しかないぞ?S級の魔物を従えるお前と五分の実力とは思えんがな?」


「父上、そのミノタウロスは俺と同じ子供のミノタウロスでしたよ。何が言いたいか解りますよね?」


「魔物にも、お前と同じようなイレギュラーな存在がいると言いたいのか?」


「まぁ前世の記憶を持っていそうでした。魔の森のミノタウロスの集落だけコンクリートジャングルでした。ほぼ間違いないですね」


「なっ!?それは…魔物だぞ?そんな連中が本当にいたとするなら魔物大進行スタンピートを起こしかねん」


「すたんぴーと?魔物とかワーって押し寄せてくる奴ですか?」


「そうだよ!高い知恵を持つ魔物がいると発生する天災なのだ」


「やばいっすね!尚更父上帰った方がいいじゃないですか?【虫食重力場ワームホール】!王都の出張店に繋ぎました。ダディン閣下にお伝えください」


「うむ!いつも言っておるがトエム!無茶するなよ」


「わかってます!」


いそいそとゲートをくぐるプロティンを見送った後、そろりと外に出る。

東京ドーム程の大きさの亀がこちらに突進してきていた。


「主様、あれはギガントタートルじゃ。わしの様なフェンリルでも傷つけられぬ頑丈な甲羅に守られた厄介な相手にございます」


「へー、好都合だ。俺はあの亀を殺す気はない。いまからあの亀に突貫してくるが、その間にセラフィを呼んできてくれ。魔物の話を聞いてみたい」


「安心してくだされ主様、わらわも魔物の言葉を理解―――」


「ギルドマスターはこのトエムドームを守るべきでは」


後ろからひょっこり褐色ダークエルフメイドこと、セラフィ・ゴットハルトが現れた。


「お主がトエム様に付き添いたいだけじゃろう?」


「そうですよ!ご主人様ご来訪と聞いて急いで飛んで来たんですから!お久しぶりですご主人様!」


「オッスオッス!まぁ長話してる暇ねぇから、どっちか後で来いよ」


「「はい!私が!?ア”ァッ」」





ギガントタートルは恐れていた。

木々よりも小さな牛族の少年を。


その小さな腕から放たれる拳撃で飛散する己の肉塊。

目にもとまらぬ速度と、押しつぶしても涼しい顔をする胆力。


桁違いの化け物にギガントタートルは逃走した。

世界樹のある結界のもとへ。


「『超平手落とし』!」


バチコォオオオオオン


その言葉を聞いた瞬間、甲羅の背中に物凄い衝撃が広がり、東京ドームほどある亀の体がバウンドした。

ギガントタートルは何をされたかわからないまま気絶したが、その時確かに感じた。


牛族と同じように、まだ幼い人族から桁違いの化け物の気配を。




「[おーい起きれるか~]」


直接脳に響く声に驚くギガントタートル。

先程の怪物らしき少年の手のひらから思念のこもった魔素が送られてくる。


「[キミが話しかけてきたんかい?]」


「[おう!言葉が通じてんな。俺はトエム・ノウキーンだ。亀さん名前は?]」


「[おらに名などありゃーせん。好きに呼ぶとええ]」


「[そう?じゃあキッコウ・シバリ。シバリって呼ぶな!]」


「[で、おらが生きとるって訳は何か聞きたい事あるんだろう?]」


「[そうだ!あんた小さなミノタウロスから逃げてきたんじゃねぇのか?どうしても気になってな]」


「[そうだ!あのバケモノに突然襲われてな、世界樹のある方へ逃げてきたんだ]」


「[あっ逃げてきただけか、じゃあトエムドームを襲うとかは無いんだな?]」


「[襲いなどしないよ。むしろかくまってほしい。フェンリルの気配がしたからね、会話しようと思ったが…人族に【念話魔法】の使い手がいるなんて驚いたよ。魔素コントロールがとても繊細だからね]」


「[2歳の頃には使いこなせたけどな~]」


「[へ~(ドン引き)。まぁ…とりあえずおらを保護してほしい。頼めんか?]」


「[まぁ~あの土地のギルドマスターに相談しておく。でもその大きさじゃ入れねぇからな?]」


「[安心してくれ、《人化》が使える]」


「じゃあ《人化》してから来いよ!あ~アホらし」


「[あ…]」


まばゆい光が亀を包んだと思ったら、中からロリ巨乳短髪緑髪のおっとりした女の子だでてきた。


「すまない、おら迷惑をかけてしもうた」


「もう過ぎた事だ…おっ来たな?」


喧嘩をしながら近づいてくる2人の美女に目をやった。

セラフィとゴウリである。


「ご主人様~ご無事ですか!?」


「ええいお主のせいで出遅れたではないかっ!ぬう?そこがしの女子、亀ではないか?《人化》などできたのかえ?」


「犬さん久しいね。早速だがおらを保護してほしいんだ。魔の森に2年ほど前から現れた猫の手のミノタウロスから―――」


「―――!!‟猫の手”!?そのミノタウロス猫手突きの使い手か?」


「猫手突き―――が猫の手をかたどって打ち込んで来る打撃であるなら、それで間違いないよ?」


「そっか…そりゃあ俺が来たならお前も来るか…‟猫手の春人”!」


死んだ魚の目をしたトエムに、普段感じられない業火の炎が目に宿る。





「そういうこって、‟手刀の宍戸”!」


トエムの位置から5キロほど離れた魔の森の大木の上で不審にニタニタ笑うミノタウロスの子供が一人。

“水魔法”のレンズの様なものをかたどったモノを覗いている。


どうやらこの距離にして読唇術により、トエムの言ってることを理解しているようだ。


「まさか…お前もこの世界に来たなんて…だが先程の強烈な‟風魔法”の張り手打ちも強烈だったぜ。こっちに来てもお前も鍛え上げてんねぇ!」


‟猫手の春人”の名を知っている自分と同じころに死んだ男を、このミノタウロスは一人心当たりがあった。それが宍戸恵夢である。


話もしていない人族に、一目見た瞬間からなぜか…確信めいた物を感じている。


ミノタウロスは立ち上がると50メートルはあろう大木の上から突然倒れこむように落下する。


「あいつ、最近できたあそこの結界ドームにでも住んでんのか?へっ、大群でちょっかい出してやろうかな~」


背のままに地に着いた時、柔道などでやる基本的な受け身をとると、何事もなかったかのように立ち上がり森の闇に消えていく。


最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

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