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潜入ノウキーン領

「え…何ココは?」


ホウチプレ公爵に雇われた。闇組織、暗殺ギルドの実力者は震える声でノウキーンの外壁を覗く。


外壁が淡い光で光っているのだ。夜なので淡い光がはっきり見える。

蛍の様な温かみのある蛍光。しかしそこから凄まじい魔力を感じ取れる、


「(俺の『アサシン』の索敵スキル《魔眼》で魔力の大小がわかるが…あんなもんドラゴンの竜麟並じゃん?)」


商人風の恰好をした眼光の鋭い男はため息をつく。

落ち目と聞いていたノウキーン領の得体のしれない恐怖を、アサシンの勘が伝えている。


「(あのガリ(ハンラー公爵)俺に嘘をつきやがったな!この暗殺ギルド『悪魔の手』第13席のシュー・クリン様によォ―――)」


と言っても引き受けてしまったからには失敗は許されない。

暗殺ギルド首領直々の推薦なのだ。


「(んで…今回のミッションは―――神童トエムの誘拐、もしくは暗殺ねぇ…)」


シュー・クリンの眉間にしわが寄る。

5歳になる少年を殺せと密命書には書いてある。


「俺にガキ殺せってのかい…」


悪党顔のシュー・クリン。しかしその実稼いだ金を自分の元居た孤児院に仕送りするほど律儀な男。

子供と遊ぶこともしばしば。


そんなシューは子供を手にかけるなどできる訳もなく。

誘拐一択に絞った。


まずは情報がいる。


検問所に差し掛かったところで打って変わって営業スマイルのシュー。荷台に乗って現れる。

商人という形での潜入である。


「とまれ!名を名乗れ!」


「へいっ、あっしはジョーと―――」


「ふぅ、また間者か。しばし待て」


え?いまなんつった?

間者…え?うそ?なんで?


と軽いパニックになるシュー。

逃げようにも『アサシン』にも探知できない気配で背後に回った一般警備兵。


「(ちょちょちょ!?レベル高すぎだろ?)」


「荷台の確認をする」


シューはニヤリとする。暗殺道具は強力な幻惑魔法と結界によって隠され―――


「先輩!なんか怪しい暗具見つけちゃいました」


「ファッ!?」


優秀過ぎる―――まだ何もしてないじゃん!俺は暗殺ギルドで13番目に強いんだけども―――


「ふむ、暗殺者っぽいな?地下班呼ぶか?でもあいつらやりすぎて廃人にするから嫌いなんだよね~」


「そっすよね~…ん?トエム様飛んできましたね!放り投げちゃいますか」


ト、トエム?何言ってんだこいつら、別に何も―――

いや?今引っかかった!俺の《気配感知》に!?


超高速で―――それこそドラゴンの類のスピードで飛んでくる物体がいる。

なんでこいつら俺より早く気付くの!?


ズガンッ!とシューのすぐ近くでコンクリを砕いて着地する5歳児。

シューの直感は一目見て‟死”を明確に予感させる。


「(こいつがトエムでまちがいねぇ!何が神童だ!?こんなもん神だよ神!人間が敵うはずねぇ~~)」


《魔眼》というスキルを持っていたばかりに、トエムの実力の一端に触れてしまったシュー。

がくがく震えている。


もはや誘拐や暗殺などという思考は持ち合わせていない。

どうやって生き残るかだけ考えている。


「オッスオッス!検問ご苦労さん!この目つきの悪い奴間者だよね?【探査サーチ】にひっかかってさぁ」


「オッスオッストエム様。相変わらず流石ですね。いまでは邪心も見抜けるとか言う感知魔法の【探査サーチ】ですか、そりゃあ雷だってくらいますよねぇ~」


「先輩!あの地獄の一か月の時ガンガンくらってましたよね~」


「まぁみんなあれから自主的に―――ってそれよりこいつか~そこの目つきの悪い兄ちゃん!」


「ふぁい!?」


「ちょっと俺に付き合ってよ!断ったら―――そこのボロの鎧俺に投げてくれん?」


「おっ!トエム様の居合ですか!ここで見れるとかラッキー!じゃあ投げますよ~」


先輩と呼ばれた方の憲兵は使い古しの鎧をトエムに投げる。


すると―――


キンッキキンッ


刃が変化する音が聞こえたと思った時には、トエムは脇差の〈筋守惡冥大域すじのかみあくめいおおいき〉を腰で納めていた。


そして鎧は地に着いた途端、


「(六つに割れてる―――)」


『アサシン』の眼にも見えない斬撃にシューは背筋ピーンする。


「断ったら首をはねるから…俺についてくるよね?」


シューはブンブンと首を縦に振るのであった。



バブみ亭 宴会用個室


「この…黄金に卵が輝く食べ物はいったい?」


「かつ丼だよ。取り調べって言ったらかつ丼でしょ?まぁいいや冷めないうちに食べなよ」


落ち着いた藁を引き詰めた床の部屋に通されたシュー。

厳しい拷問が待っているのかと思ったら、通されたのは居酒屋。


事前に調べた時に見た〈グルメボン〉なる物の〈ノウキーン食い食い〉によると、

星五つ(最高)で王族すら通っているという居酒屋。


「(王族は誇張しすぎだと思ったが…これ一杯で銅貨5枚(日本円換算約500円)!?貴重な卵とオーク肉を使ってるくせに安すぎィ!!)」


シューに迷いはなかった。長旅でお腹減ってたし、どうせ殺されるだろうと腹をくくっていた。

毒が仮に入っていても食べたい、そんな気持ちにさせるどんぶりだった。


「う…うまし!!卵の柔らかな味わいと、油で揚げたであろうオーク肉の豪快な歯ごたえ、そして濃い目の味付けと下にひかれたご飯の相性が良すぎる。そしてとなりに添えられたこの半月型の漬物、オーク肉の脂身を上手に調和する。そしてこのスープ、魚介だし海藻だしをふんだんに使っていて恐ろしい程奥行きがある…。これを食べきったならこの世に悔いはない」


「いやいやバブみ亭で普通に食べれるから。俺の質問に答えたらだけどな(こいつすごいグルメだな)?」


「また食べれる!?何でも聞いてくれ(即裏切り)」


「誰が何のためにお前を雇った?」


「ホウチプレ公爵家の長男がトエム殿の暗殺の為に暗殺ギルドに依頼をして誘拐、もしくは暗殺を命じられました!」


「はぇ~、脈拍に異常ねぇし嘘じゃなさそう。おばちゃーん!チョコレートパフェ追加ね~」


「チョコレートパフェ…とな?」


〈ノウキーン食い食い〉によると、チョコレートなる苦みと甘みを調和した最高の菓子を余す事無くに使い、深々と底の深いガラスコップにスポンジ、マシュマロ、ムースなる菓子を贅沢に引き詰め、生クリーム(食べたことがある)をふんだんに使い、最後に氷菓をトッピングしてチョコソースをぶちまけた甘味究極の形の一つ『チョコレートパフェ』。

一杯銅貨6枚。


「(安すぎんだろがぁ!!王都なら金貨だ金貨(万円)!!くそ…解ってやがるこの小僧、俺が大の甘味好きと。その上で目の前でお預けか―――)」


「あっ言い忘れてたけど、このパフェはにーちゃんの分な、潔く喋ってくれたからさ。爪はいだり鞭に打たれたりするより話したくなるだろ?」


「なりゅなりゅなりゅうううう!!神童様ッ!!全部全部!骨の髄までじゃべりやすぅ!!」


「あっはい(引き気味)」


そこからシューはマシンガンの様に喋った。普段は無口な男であるのに。

ホウチプレ家のキモ親子がニュウを手籠めにする話や、魔道具の設計図を奪ったらトエムをあえて殺す事。そして聞いてもいないのに孤児院の話なんかも勝手に話し出す。


「と、まはひょうひゅうほほへふ(もちゃもちゃ)」


「いや、せめて食ってから喋れや…しかしホウチプレ公爵家ね!覚えた。‟お礼参り”行きゃなきゃ(使命感)」


「しかし、このチョコレートパフェは言葉に出来ない素晴らしさだ。スポンジとマシュマロの触感にチョコレートソースが流れ混ざりあってゆく。チョコムースのダーディーな苦みの後にはホイップに優しく包み込まれている…そしてこのチョコレートアイス。氷菓など初めて口にしたが口の中で踊り続ける妖精の様でしたよ!」


「滅茶苦茶に言葉にしてるじゃん!もうさ、ノウキーン出版社で働きなよ、〈ノウキーン食い食い〉のネタが無いって編集長困ってたからさ、俺が推薦状出しておくよ」


「へぇッ!!マジッッ…すか!??え、俺暗殺者だけど、いいんすか?」


「暗殺者なら諜報もお手の物でしょ?生かしなよ…グルメに!」


「ゆ、夢か…いでで(頬つねった)、夢じゃない!FOOOOO↑!!神様女神様トエム様!!今日よりシュー・クリン!トエム様に命を捧げます!」


「重いよ、」


ジト目でシューを見るトエム、せっかくなので先輩に挨拶しといた方が印象がいいかと、ある人物を呼び出すため懐からトランシーバーを取り出す。


「むっ?トエム様、その面妖な角の生えた魔道具は何ですか?」


「トランシーバーといって、遠くの人物と会話できるんだよ。今から出版社の人間呼ぶから、本気なら全力でアピールしろよ?」


「呼ぶ!?遠くの相手と会話…そんな物…はぇ~」


シューは呆けるしかなかった。



30分後



「お待たせしましたトエム様!ゼンラ―です!」


短髪の好青年が宴会室の中に入って来た。


「おう!待ってたぜ!ここに座ってんのがさっき話したシュー・クリンってやつ。なんかすごいグルメなんだわ、見てやって。おばちゃーん!バニラシェイクちょうだーい!」


注文の間にゼンラ―に向かって挨拶をするシュー。


「初めまして!シュー・クリンと申します。〈ノウキーン食い食い〉見ました!でもこの領限定の雑誌ではなく全国に発信すべきです(圧)!!」


「は、はい、編集長と相談します。僕はゼンラ―、『絵師』の職を持ってます」


「俺は『アサシン』の職です!でも味覚なら誰にも負けないつもりです!!」


「アサシン?冒険者ギルドが欲しそうだけど…もし一緒に働けるなら体力のある人はあすかるなぁ~」


「本当っすか!是非!是非にお願いいたします!!」


「うん…でもまぁ決定は編集長がやるから…でもほぼ確実に内定かな、うちは僕を含めて4人しかいないからね~」


「うっす!俺が全力で働きます!力仕事は任せてください!死体運びとかやってましたから!!」


「死体!?(なんか物騒だなぁ~でもトエム様の推薦だしいいか)」


話がいい方向に纏まりつつあるところでトエムはこんな質問をする。


「なぁ?ホウチプレ公爵って知ってるかゼンラ―?」


「ブブゥッ!?し…知ってますよそりゃあ…トエム様と同じ公爵家ですもの」


そこから冷汗だらっだらのゼンラ―。


「実はさ、そのホウチプレ公爵が暗殺者寄こしてきたんだよ」


「ブッ!なんて横暴な!あのガリハゲほんとクズ!」


「おっ何か知ってんのか?記者って顔が広いだろ?なんか教えてよ」


「えと…トエム様に隠し事はできませんから正直に申しますと…僕の名前が、ゼンラ―・ホウチプレ…なんですが?」


今度はその場にいた二人同時に噴き出した。


「ゼンラ―!?そういえば聞いた事ありますよ!三年前にホウチプレ家を追放された次男がいるって」


補足説明乙なシューさん。


「恥ずかしながら…当人です。母が無理やり犯されたメイドであったことと、僕の職が『絵師』だった事で疎まれてましたから…ほんとクズヤローなんですあのガリハゲ!!」


温厚な好青年が怒るんだからよっぽどだろう。


「じゃあ、仮に俺が‟お礼参り”に行ってそのガリハゲをぶっ潰すって言ったらお前どうする?」


「そりゃあ、今まで以上にトエム様を信仰しますよ。支援職である僕にこんな好待遇をしてくれた神にも近しいお方が、恨みつらみのある相手を潰してくれるなんて…童話の世界ですよ!絵本にします」


「へぇ~そんなに…でもまぁ絵本にしなくてもいいんじゃね?そもそも絵本が作れる技術があるなら漫画にした方が売れるんじゃね?」


「まんがとは?トエム様詳しく!」


「え?食いついてくるの?漫画ってのは、一ページにコマ割りを何個か作って、セリフや擬音や陰影何かを使ってわかりやすく伝えられるもの…かなぁ?」


「ほう、おもしろそうですな!」


「ええ?シューも?うーん…紙持ってる」


漫画談議が居酒屋で静かに行われた。

後に芸術の都ホウチプレの布石になろうとは誰も思うまい。



最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

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