追放してくれ②
「わかりきっていたと思っていたが…ふぅ、何から説明すべきだ…」
腫れた横っ面を濡れタオルで冷やしながら
目の前の平凡な顔立ちの獰猛な猛獣に頭を抱えるエム字ハゲ。
「まぁせいぜい納得させてくださいよ父上」
挑発的な態度の14歳を前に38歳の大男は深いため息を付き
言葉をかみ砕きながら話し出す
「ふむ、まずは2歳の時だ、既に飛行魔法で空を飛んでいたが覚えているか?」
「まだオムツも取れてない時期ですからね。立って歩くのも至難でしょう?だから行動圏を広げるには浮遊が一番だと思い、当時は空中をうろうろしてましたね」
「まず言いたいのは飛行魔法は〝失伝魔法”であること。まだ自意識も無いような幼児が扱えるものではない!しかも武門の家柄の!」
「父上、それは学校に通っている時に論文をだしたでしょう?」
「ああ…〝騎士学校”に通っている際に提出されたな。後に魔法学校の校長がお前の事を師事したいと私の靴をベロベロしてたぞ」
「うへぇ~あの枯れ木ジジイそっちにも行ったのですか~」
「その枯れ木ジジイは、我が国最強の魔術師だが…まぁいい次は4歳になった辺りだ。言葉も流暢に喋りるようになったある日、お前は自分が別の世界で生きた記憶があると話してくれたな」
「ええ、気味悪がって追い出してくれる的な」
「残念だが、あの時は夫婦揃ってこの上なく安堵したさ。言葉遣いも食事のマナーもすでに一流、飛行魔法以外の失伝魔法も多数使っていたお前に妻はノイローゼだったぞ!」
「それは⁉申し訳ありません、母上には大変なご迷惑をかけてしまいました」
「父上にもだッ!!まぁその後の「俺は公爵家を引き継ぐつもりはないんで、世継ぎを早く作ってください」とニュウ(母上)に言った時は肝が冷えた。おかげで今は妻とは良好で、お前の兄弟が二人もできた訳だが…へへっ///」
「お盛んな事で~」
「うおっほん!とにかくお前には感謝している。そして世継ぎ作りの時間稼ぎのために領地の改善に尽力してくた事にもだ。おかげで10年前は四大貴族の中で最も貧乏なこの領土が、今では神の楽園と呼ばれるまでに発展した。私の眼から見ても明らかに隣の領と文明レベルが違いすぎて逆に怖い…」
「あれ?俺なんかやっちゃいッ⁉ヴォ”エ”ッ」
「む?またよく解らない発作か?」
「はい父上、『俺なんかやっちゃいましたアレルギー』発病の発作です。気にせず続きを…」
「そうだな、ではお前が起こした領地改革をおさらいする。まず食の改善、次に軍事体制の見直し、生活基盤の向上、流通の緩和、不遇職の待遇、雷エネルギーの開発と発展、魔物大行進での大活躍、テンプレート王国王女との縁談と…。もはや神の所業だ」
「前世の知識があるのでこのくらい当然です。まだ前世の世界より遅れていますから、魔法技術を成熟させていき、ゆくゆくは前世の世界では到底追いつかぬ文明を築きけると思っております。神の所業などと、神をないがしろにする発言はお控えください不敬ですよ」
「お前に不敬という概念があるッ⁉…とりあえずこれだけの事をしたのだから、領民から見ればわしよりもお前のほうが慕われている…と言うより崇拝されてるし、ここで追い出せば家族から指をさされるだけでなく領民からも刃物をさされてしまうのだ。頼む…もう少し、せめてゾヒズム(次男9歳)が成人する14歳まで領土を頼めぬか?」
「嫌です」
「…とお前ならそう言うであろうな…一体お前はなぜそこまで家を出たいのだ?」
「私が貴族というゲロベンどもとこれからも戯れろって?やーですよやー!さんざんマウントはとるし、揚げ足とるし、陰口ひどいし、暗殺者来るし、縁談来るし、王族うぜーし、家族を人質にするし、俺に自由はないんですかってなもんだ!」
「王族の不敬は首が飛ぶからやめろ!」
「俺は自由が―――いえ、本当の愛がほしいんです!」
「愛?えっ愛なの?だったら王女様とか最高だ!地位もあるし!!おや?清楚で男を知らない純朴っぽい理想のすけべを形にした様な人から縁談きてるね~?ん?ん?」
「ふぅぅうう~~(クソでかため息)。父上はあの可憐な少女に俺の性癖を満たせると思います?」
「無いな(即答)」
「生前、死ぬまで愛してくれた女性がいました(鞭攻め)。彼女を通して愛の何たるかを初めて理解したつもりです。そんな前世の経験から死ぬ間際のプレイじゃないと満足できない俺に、結婚して1年セックスレスだったら陰で浮気して、現場を押さえたら「寂しかったの」なんてお涙頂戴でどうにでもなるとか思ってそうな、人生ゲロアマ小娘に俺が満足できますかッ!!魔法を使って大気圏燃焼自慰や隕石直撃自慰など試しても満足できない俺に小娘風情が一体どんなプレイをしますかねぇッ!!しかも今生は回復魔法があります!今の俺の技術なら首がはねても自動で元に戻せます!生半可は効かんとです!性欲は 自由で 豊かで 救われてなきゃダメだッ!!」
「…へぇ~」
「まぁそういう事です父上、俺の求めるものは領土の中には無い。外に出してください!」
「……なぜ領を勝手に飛び出そうとしなかった?お前なら簡単だろう?」
「前に勝手に出ていったら領内のヴァンパイア達が一揆したでしょう?あれで凝りました」
「お前に反省という感情があったのか⁉今日は驚く事ばかりだ」
「2週間に一回は〝転移魔法”で帰ってくる予定なので安心してください!」
「お前ッ!!ソレ早く言え!ふぅ~、2週間で帰宅した際に領民にも顔を見せれば…追放を許可する(あれ、追放って許可するもの?)」
「やった!マジか!ブヒヒ~そうこなくっちゃ!じゃ父上さいならッ!」
「ちょっと待て!今から!もう行く……もう行った~~」
執務室を意気揚々と飛び出す。
広間の階段を下らず三階から飛び降りる。
着地と同時に前転でいなし玄関へ前欲疾走
が、玄関には二人の美少女が仁王立ちで待ち構えていた
「セラフィ!ヤデレ!…そこをどいてもらおう」
「ご主人様…私を置いて出ていくの?」
顔を潤ませる褐色の美少女
彼女はセラフィ・ゴッドハルト。
見た目は17歳くらいの美少女
高めの身長ととがった耳
この世の物とは思えぬ美しい紅い瞳
張りのある褐色の肌と
男好きする妖艶な体
彼女は震える声でトエムに問う
「当たり前だ!お前はこの土地と家族を守ってもらう!お前は俺を攻撃できないんだ!用はない!」
「そんな事!勝手です…私はご主人様と離れたくありません!」
「ちょっと!魔族風情が兄様に馴れ馴れしすぎ!」
「奴隷は寝食いつも一緒ですから、当然ですお嬢様」
「一緒の部屋で寝てるくせに一度も手を出してもらえないとか、カワイソ」
「ア”」
「はァ”」
勝手に喧嘩を始めたのでその隙に通ろうとすると
「兄様⁉ここは「二人とも落ち着いて」とか言っいさめて、〝ヤレヤレ”では?」
「興味ないし」
「はぅっ 冷たいご主人様しゅきィ///」
「うっぜぇ発情黒豚!いいから私にバフをかけろ!アンタは兄様に手を出せないから」
「奴隷紋さえなければ…しょうがない、ご主人様をお止めするためだ!『スピードアップ』!『パワーアップ』!」
「兄様!私は今日『剣聖』の職を得て、更にバフものってますよ?支援職の兄様に勝てますかね」
「お前に剣術を教えたのが誰~ん~、誰だっけ?お前解る?」
「兄様ですよォッ!」
腰の真剣の鯉口をきるヤデレ
一瞬のうちに間合いが詰まる
逆袈裟の居合から袈裟切りの切り返し
しかし紙一重で当たらない
「流石です兄上!しかし力づくでもここで止めます!大怪我してダルマになったら一生私が面倒見ますから♡」
「残念だがこの程度ではなぁ~」
「ここからですよ!」
そういって剣聖のチートパッシブスキルを使おうとしたその刹那
『ドゴッ!!』
ヤデレは瞬きをしてはいない
だがいつのまにか距離が詰められ投げられた
本人は何をされたかわからず気絶
実際はさほど早くない速度で接近し投げられ後頭部を打った。
「スキルを使う瞬間、例外なく1秒のインターバルが発生するって口を酸っぱく教えたのにこれだ!それこそ、お前を異性として魅力を感じていない!」
スキルを使う瞬間は、宣言も体が光るなどの目安はない。だがトエムは見切っている。ある決定的な弱点がある。
「(瞳孔が突然開き、呼吸が止まる。更にそこから一秒停止。こんな解りやすいデメリット単体戦で使える訳あるか脳筋め)」
スキル主力の戦術をトエムは9年前に改善してるのだが、それは別のエピソードである
ため息を吐いて、セラフィに向く
「〝セラフィ・ゴッドハルト!我が家族を死守せよ”」
問い掛けと同時にセラフィのうなじに奴隷紋が発現する。
するとセラフィの動きは完全に止まり、
その場でこうべを垂れる
「はっ!承りました!」
「頼むわ!じゃあの!」
意気揚々と消えてゆく背中にセラフィは涙する。
気が付けば辺りは暗くなり、夜の静けさが際立つ
獰猛な変態豚野郎の旅立ちはこうして始まる
最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。