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魔素造形戦術、略称『MAZO』 ~地獄編~

子供の頃だろうか?(前世)


何時からか腕立てをし続けると筋肉が痙攣することを覚えた。


ずっとひりひりして思うように動かない腕に性的快感に近い物を覚えた。


何千、何万とこなしていく。


時には真っ白になり、意識が飛んだこともあった。


しかし体が大きくなるにつれ、筋トレでは痙攣しなくなった。


重りや飛び運動、回転などを加えても体が悲鳴を上げてくれない。


岩を叩き骨が砕けても、何も感じなくなってしまった時期があった。


そんな頃、俺は出会う事ができた。


低速筋力負荷スロートレーニングに―――――





そして現在、ノウキーン領訓場にて。


「ほんごごご…ぬぎぎぎ…」


「はぁはぁ…ぬぬぬぬ~~~」


「ふううう…あっ――――(バタァッ)」


トエムの基礎トレ強化週間、絶賛開催中!


参加者は甘い餌(フルーツ盛り合わせ)につられた老若男女1500人。


メニューは腕立て10回、腹筋10回、徒歩20メートル。


初心者にもやさしいメニュー♡


一回につき1分間かけてゆっくりトレーニングできます!


徒歩は一歩1メートルまでで、1分かけてゆっくり歩いてもらいます!


早くに足がついたり一回をこなす人には、トエム君特別の電撃魔法を与えます!


もちろん既定の高さに到達してない人にもビリビリです。


さぁやってみよう!



「くっそ…こんなん…ふざけおって…」


メロンの誘惑に負けた28歳、頭皮が気になり始めたおじさんこと当主プロティンもなぜか参加している。

恰好は〈ジャージ〉という、最近領地でできたクソダサファッションを採用。


トエムのトレーニングの際は1500人、皆クソダサファッションである。


とは言っても最初の腕立ての段階(8回目)で1/3がリタイアしている。

むしろ、2/3は残っている事こそノウキーン公爵家騎士達と言わしめているのだが、


「ほっほっほ~皆だらしないぞ~がんばれ♡がんばれ♡」


元領主による灰色の声援が騎士たちのやる気を低下させていく…

ちなみにコブシも参加している。

元気な爺さんだ(笑)。


「へへ…一回分くらいサボっても―――グギャギャギャギャァアアア」


「(あーあ、あいつ電撃喰らったよ)」


「(何でか知らないけど、トエム様は体制を逐一把握している…余計な事を考えるバカはビリビリッて事だろう。しかし、どうやって把握してるんだ?)」


説明しよう!


ヘビなんかが所持しているビット機関。

熱を感知して、熱で形をとらえるという物。


ようは赤外線センサー。


この理を落とし込んでできた【捜査サーチ】と言う魔法。

トエムは既に半径1キロを逐一把握できるレベルに達しているのだ。


「きゅ~う!あと一回気合入れろ~!」


トエムの怒号が聞こえる。

自分も同じ腕立てをしながら、たまに姿勢を維持しつつ片手で腕時計を見ながら、更に【探査さーち】と‟雷魔法”の『二重魔法ダブルスペル』をしている。


観客に回ったフルーツ盛に釣られなかった連中は苦笑い。

アノ生き物は、既に神童と言う段階を超えている。


と、そんな中でトエムの眼を見張る人間がいる。


「ふぅうう、ふぅうう、ふっ♡ふっ♡」


鼻から息を吸い、口から大きく吐く。

簡単なようで、筋トレの様なストレス過多の状態では難しい。


腕立ての姿勢もじーちゃんを除くピカイチで美しい。

かかとから後頭部までが一直線までに伸びている理想のスタイル。


そして何より楽しそうなガタイのいい大男なのである。


「(さすが騎士団長、アンドサイ・アブドミナル。他を寄せ付けない…それに俺と同じ側の人間だな)」


そんなこんなでようやく腕立て10回は終わった…しかし、


「はい!じゃあ次!腹筋やりましょ!」


腹筋が始まった。


腹筋は30秒持ち上げて。30秒沈めるというシンプルな形。

でも沈める際は頭の位置は平行に近づけるけど、お尻より上を地面につけちゃダメなのだ。


先程の腕立ての際に腹筋をすり減らした者もリタイア。

スキルバフをしていた者も魔力枯渇でリタイア。


1回目から500人近くがリタイアという状況。


「ぐがあああすッ(何で尻から上は地面についちゃダメなの)」


プロティンはもう口にする余裕すらない。

先程腕立てで消費した節々が痛む。


老若男女ところどころから悲鳴の様な雄叫びの様な、むしろ獣じみた声が鳴り響く。

汗も涙も相まって、リタイアする時の電撃が何も感じられないもの達。


腹筋10回が終わるころには100人小まで減っていた。


既に「俺達乗り越えたんだ」とか、「生きてるってすごい」など言っている騎士が一定数いたが、

トエムが思う本当の快感、もとい地獄はこれからである。


歩く、という事を。安易に考えすぎている。


徒歩に関して言えば一歩50センチ~1メートル以内ならどれだけ進んでもOK。

ただし、一つ歩く歩行はスムーズに動く事。


つまり、59秒間足を持ち上げただけで残り1秒でポンッと歩くはダメ!

歩く距離を決めて、60分割して足を運ぶこと。


ちなみに足は必ず腰の位置までは上げてから下げる事。


それを20メートル。

もはや拷問の領域である。


説明を受けて理解した者の中にはその場で失神した者もいた。


今までの疲労の蓄積により、20キロ走るより辛い、20メートル徒歩が始まった。


騎士達はただただ無心で歩く。


股と尻の痙攣は収まらず、汗をかきすぎて失神寸前。

腕は持ち上がらず、腹筋は既に死んでいる。

もはやフルーツ盛などどうでもいい、

自分の力がどれほどの行けるのか試している。


何かの変な幻覚と共に膝を上げ進もうとする残った騎士達。


3メートル地点でもはや60人も残っていない。


自身の心臓の音、周りの声、風の音、大地の香り。

神経が研ぎ澄まされていくヤバイ時の状態。


目のあたりにするギャラリー達、いつの間にか涙を流し声援が巻き起こっていた。


「がんばれ!がんばれ!がんばれ!」


20メートルの白線を踏み越えた者は全員で23名のみ(コブシとプロティンを含む)。

その猛者たちに訓練場全体から割れんばかりの拍手が起こる。


一足早く終わったトエムは、ヤバそうなリタイアをした人の手当てをしている。


拍手が終わった時、トエムから一言。


「じゃあ明日からは全員強制参加で、一か月続けてみよー!」


絶句。




それから一か月か過ぎようとしていた。


逃げ出そうとするもの、身体の異常が起きる者が続出したが、

トエム君によってトレーニング用の寮に強制送還される。


すると、精神的にまいる者も一定数現れ、

部屋の隅でブツブツ言ったり、親指を嚙んだりしていた。


そう言う人たちにはトエムスペシャルメニューを与え、

次の日から喜んで受けるようになった。


しかし悪い事だけではない。


1か月の期間の為に無料大浴場を作り、

疲れた体を大いに休ませ、


男性用、女性用の専属マッサージスタッフを完備し、

鍛錬終了時にマッサージとストレッチを一日ごとに行った。


そして、トエムお披露目会で出したような料理が毎日食べられる。

マッサージも料理もスタッフは冒険者ギルドの紹介とヴァンパイア達が引き受けてくれた。


2週間くらいで体つきがみるみる変わっていき、

自宅にある鏡にむかってポーズを取るもの達まで出てくる。


3週間が経つと慣れてきたのか楽しむものまで現れ、


一か月経つ頃には顔つきも体つきも変わった5千人が訓練場に集まる。

ちなみに、フルーツ盛を1年間送られるのは、


じーちゃん、プロティン、騎士団長、その他6人だけである。


「みんな!本当に…本当にご苦労様!俺は皆が頑張ってくれた事、誇りに思います!!」


「「「(よく言う!このクソガキ!)」」」


「では、『MAZO』に必要な《瞑想》の仕方を教えます!この《瞑想》はリアルスキルです…後は解るな?」


みーんな、笑っちゃったよ!




更にどちらの練習も続ける事2週間!


ようやく魔素造形戦術の下地ができたところで

騎士たちの中でも優秀だったフルーツ盛保持者(プロティンとコブシを除く)にトエム的基礎戦術を教えに入る。


騎士団長アンドサイ・アブドミナル。28歳の男性でプロティンの幼馴染。同じようにガチムチマッチョの典型的筋肉ゴリラ。


副騎士団長サイリ・チェスト。金髪ポニーテールのくっころ系お姉さん24歳既婚者。真面目でプライドが高いオークが好きそうな女騎士。


騎士団員オニオン・ドレッシング。トエムに突っかかって来たキザ男。お調子者だが実力は確か。実は教国の間者だったのだが、最近のノウキーン領の居心地の良さに心酔し、酒の勢いで騎士団長に喋っちゃったお茶目さん。


騎士団員セップス・ダブルバイ。おっぱい大きい目つきの鋭い短髪女18歳。男も女もいける口の彼女だが、寂しがり屋の一面があり、寮生活がホームシックになってトエムスペシャルメニューを味わった一人。


騎士団員キュラー・モストマス。ド真面目で融通が利かない男19歳。以前酒浸りだった父親をノウキーン工房にスカウトしたトエムを崇拝しており、トエムの為なら命すら投げ出すやべー奴。トエム教幹部。


騎士団員スプレット・フロントラット。トンデモの後輩でラーメン店に顔を出し、トエムやヴァンパイア達と一番交流のある分家筋の男26歳。温厚な性格で誰からも愛される騎士団の癒し枠。


騎士団員ポース・オリヴァー。マッチョ褐色系の女の子17歳。顔見知りで喋るのが苦手の陰キャ系。天然なところもあって、見た目とのギャップにやられた男性がたくさんいるだとか。


後に‟果実の7騎士”と他国を絶望のずんどこに陥れる7人はこの日を境にトエム流戦術を学ぶ。

体術、剣術、氣の操作、声の発し方などなど、


どこで習ったのか、そこそここの世界の物なのか?

疑問はあるが、聞いてみるとどれも合理的で実戦的。


これまでの鍛錬とは違い、とても楽しいのだ。


異色を放つ技術の数々。


様々な状況に応じた歩き方『歩行術』。

相手の目線や筋肉の細かな硬直を見抜き‟せん”を奪う『氣』。

相手を自分の有利な状況へ音や動きを使って誘う『誘い』。

自分の動作と相手の動作の最中に、体を変化させ割って入りカウンターにする『割る』。

相手との距離や動作の把握戦術『見切り』。

そしてこの中で最も大事な『脱力』。


これらは『MAZO』体得の前段階らしい。


これらを前世の古武術、空手両面の知識、

独自の研鑽も含めて教えていく。


特に『脱力』に関しては、スキルに頼りがちなせいか児戯に等しい。

リラックスに速度がある事さえ知らないのだ。


全ての身体操作の祖となる『脱力』を中心にトエム直々に技を仕込んでいく。

遠目で見ていたプロティンも「あいつ、もう当主でよくね」とぼやいていた程の練度である。


そして‟肉体言語”や”魔素浸食”の魔導技術も順々に取り入れていく。


教わったことを7人は他の騎士達に教えていく。


そうして魔素造形戦術、略称『MAZO』の技術は浸透していき…


2か月過ぎた頃には5千人全員が見違えるほど強くなっていた。


そんな矢先、プロティンに風雲急を告げる。


「―――はぁ?ビンカーン領のクーデター連中が我が領地に進行中?」


見張りのヘリ部隊から連絡が届いた。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

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