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ノウキーン領、マジやばくね?

王都テンプレート 王城にて、


「宰相、ビンカーン領はどうにかならんのか?クーデターが成功して独立宣言をしおったぞ!」


ある領土を気にかける威厳のあるおっさん。

彼はこの国の王、ダディン・テンプレート。


「カシコイもマリーンもノウキーン領に滞在とか、あいつらをどうにかするのは骨が折れるぞ」


王の隣で話を聞くのは宰相、スポット・パイオーツ。


「なまじ、権威になびかぬが為に忠誠心がスラム街の民草以下だからな、困ったものよ…」


王が寂しそうにあらぬ方向を見ながらつぶやく。


「そのせいでプロティンを頼らざるを得ない状況にもかかわらず、それが原因で奴らがノウキーン領に滞在している。何という皮肉か!」


宰相スポットの怒りの声が室内に広がる。と言ってもここは王の私室。

男2人きりである。


「だがな…見守りたいという気持ちもある」


「ダディン!気でも触れたか!?」


「!お前は知らないのか?ちょっと地下まで来てくれないか?」


「?」




~王国秘密地下室~




「この…乗り物?らしきものはなんだ?」


そこにあったものは、相当な大きさの乗り物らしき物体。


「名を『電動バイク』と言う。動力源は雷魔石。持ち手を引いて回すと加速し、持ち手の前の取っ手を引くと減速する。乗ると風になれる!」


「…は?」


「馬より早く馬力もある。悪路も走れる。王直属騎士団ロイヤルナイツはその乗り物で崖もくだっている(サスペンション付き)」


「…いや…情報が多すぎて現実感がわかないな。ダディン、俺の言葉を確認してくれ。この乗り物は馬より速く走り、悪路も走れる、崖も走れる、更に動力は雷魔石。旅先で取り換え可能疲れ知らず。そして馬より馬力がある?冗談はやめろ!」


「宰相、一回乗ってみよ」


1時間後、


「ハーハハァ俺は風!風はつまり俺だァ!!」


「な?風になるだろスポット?」


「これマジヤバァ⤴!!っとこんなものどうやってここまで運んだ?」


「バイクに乗ってカシコイとマリーンがやって来てそのまま置いていきおった」


「どうやって帰って…いやそれよりその時王命で領に送りだせば―――」


「うむ、このバイクより便利なモノを開発していると言われたら―――う~む」


「これよりッ!?実物をこの目で見ない限り私は信じぬぞ!」


「私も同感だ!そこでだ影を置いて、たまには2人で出かけないか?例えば…ノウキーン領とかな?」


「懐かしいな!昔も2人で学校をボイコットしてマリーン(当時から魔法学校の校長)に怒られたもんだな。俺達がしっかりしないと自分が怒られるかってなぁ~」


「ようやく教国とのいざこざも落ち着いたのだ、たまには息抜きも必要であろう…何かあれば忠臣プロティンが何とかしてくれるだろう」


「先月呼びつけたばっかでこれだ!そのうちお前切られるぞ?」


「その時はスポットが助けてくれ」


「馬鹿を言うな」


談笑をしつつ変装を始める

お互いの影を呼びヘルメットをかぶり、サングラスをかける。


真昼間の草原をツーリングでかっ飛ばすおっさん2人。


冒険者が驚いて注視したり、


野盗をひき逃げしたり、


途中の宿で温泉に浸ったり、


あまりに快適すぎて、プロティンが2週間かかった道筋を

たった2日で着いてしまった。





「のうスポット君?この領地は王都よりすごくない?」


「いや、いやいやいや…ダディン君?ノウキーン領、マジやばくね!?」


塗装が完了した道路。


配達用にバイク、原付型が走り舞う。


大通りには信号が設置され、


全てのお店に自動ドアとクーラーが配置済み(税金払い)。


ゴミ一つ落ちていない街並みに、


見たこのない食べ物が並ぶ屋台がずらり!


コボルト・リザードマン・ハーピーなどの亜人たちがかっ歩しているにも関わらず


誰一人気にも留めていない異常。


唖然と互いの顔を見つめ合っていると、お腹が鳴り始めた。

温泉宿以外何も口に入れてない。


「うまそうな屋台が多いな」


「手当たり次第回るか!スポット君よぉ!」


もうじき30歳を迎えるおっさん二人は、幼少時代の様に駆け出す。

言葉の通り手当たり次第食べ回る!


たこ焼き、ケバフ、アイスクリーム、ピザ、焼き鳥。

どれもこの世の物とは思えぬ味に舌つづみ。


そして、


「つあああああい!!?このエールはキンッキンに冷えてやがるぅ、あーとまんね!へへへ~」


「このウイスキーとかいう酒!?なんつう濃さだよ!おばちゃんお代わり追加ね~」


当初の目的を忘れすっかり出来上がっていた。

屋台を周り、流れるような動きで居酒屋にIN。


店を出てくることには日はすっかり沈み、暗闇が…広がらない?

街灯の設置済。


「あっかる~い!へへへまだいけちゃうよ俺ちゃん!ね~スポッティはどうなん?」


「うるへ~!お前に負けるかってんだへへへ!む?ここどこなう?」


いつの間にか、ノウキーン領中央通りから離れてしまった。


街灯も少なくなり、辺りが暗くなり、

酔っぱらいは今、夜だと気づく


「んねぇダディちゃん?今日どこで寝るん?」


「知んなーい!どこでもいいじゃんスポッティ!」


ゴテーン!!


誰かとぶつかった。


「あい!ちゅいまてん!怪我はなーです?」


「う、うむ!問題ない…」


「あ~こちらこそすいませんねぇ~」


ダディンとスポットがぶつかった男は、漆黒のローブに身を包んだ絶世の美男子であった。

街灯の光を銀色の長髪がキラキラと反射する。


「おじさん達ももしかしてラーメン三郎に行く途中かい?」


そう尋ねて来た青年もなかなかの美男子だ。

カッコウはTシャツと半ズボンのラフな格好。

髪も銀色で兄弟か何かであろう。


「ら~めん?何ぃ?」


「おい!こんな酔っぱらいなぞ巻けばいいだろう!早くゆくぞ!」


「待ちなって、ジョージはせっかちだなぁ」


ラフな格好の兄ちゃんがスポットとダディンの間にガバッと入ってくる。


「せっかくなんだし一緒に行こうよ」


「にゃんかわかんヶど~イクイクぅ~!!」


「俺を置いてくなよ~」


ローブに身を包んだ兄ちゃんはため息をついた。



10分も歩くと一軒の神々しいお店が目に付く。

看板には【ラーメン三郎】と書いてある。


突然だが、ダディンとスポットは国の権力者として毒などには耐性がある。

幼少から毒を摂取する事により免疫を高めるのだ。


と言う事で、シラフに戻るのも早いのだ。


10分足らずだが、だいぶシラフに近づいて、冷静になるにつれ、

美男子たちの異様な力に冷汗をかく。


「(な、何者ぞ?この者達は?)」


よく見ると目は真っ赤にであり、

口元には牙がはみ出ている。


「(あっこいつら伝説のヴァンパイアじゃん\(^o^)/オワタ)」


ヴァンパイアとは、深淵に生きるとされる上級魔族で、

見た者は必ず死ぬという伝承の生き物。


以前、たまたま遭遇したケモカンキ帝国の一個中隊が、瞬く間に肉塊になったところを宰相のスポットは目撃した事がある。


「(何で!?ノウキーン領に居るの!?)」


「あれ?おじさん達、もう酔いが醒めたの?」


「えっええ!何分酒には強いので!」


ダディンのセリフを聞いたラフな方の美男子は不敵に笑い、


「そりゃあ、幼いころから大変だもんね~」


「「!!」」


この男、知っている?まさか?


「そんな事より、食券だ!」


行列の順番が回ってくるとズカズカと店に入っていくローブの男。


「安心してよ王様と宰相さん。うちのロードがあの調子だから、ここで何かする気はないからね。それより、ここのラーメンは期待していい!!いや、期待は裏切られ、伝説を口にするよ(じゅるり)」


「(ヴァンパイアってニンニク大丈夫なのか?)」


「今は何もする気がないなら、我らもらーめんとやらを楽しもうではないか?」


ロード。まさかヴァンパイアロード!?

逃げたいのだが、ラフな格好のバンパイアが肩を組んでいる。

物凄い怪力だ。


ローブの男が自動ドアを開けた瞬間。


ぶわぁああああ~~~


にんにく、圧倒的ニンニク!!


「ぐわぁ、すごい匂いだ!」


「おい、見てみろダディン、あのどんぶりを!」


どんぶりに山積みになった野菜。

こぶしサイズのえげつない肉。


二人は思わず唾を飲み込む。


隣のヴァンパイアの事を一瞬忘れてしまった。

ローブ男に目線を移すと…


居ない?


「お前たち何をしている?食券機は目の前ぞ!」


食券を買って席に待機している。食券は三枚ある。


「おっと、忠告っす!このラーメンの量は半端ないっす。お二人は食べ歩いていたみたいっすからね~麵少な目を押した方が身のためっすよ」


と言いつつ自分は何かの食券3枚買っている。


戸惑いながらも二人は麺少な目だけを買って席に着く。


カウンター中央ではせっせと働く小太りの中年。

小汚い首にかけるタオルになぜか期待をそそる。


小太りの中年の周りに二人のリザードマンがせっせと動き回る。

無駄なく流水の様に。


三人は一つの生物の様に一糸乱れす動き、

ローブの男の前に止まる。


「ニンニク入れやすか?」


という質問を聞いてくる。

ローブの男は待ってました!と真っ赤な眼を輝かせ


「麺固め、ヤサイタシタシ・アブラタシタシ・カヤクタシタシでッ!!」


と謎の詠唱を唱える。


「初めての方ですかい?初めてがタシタシだときついっすよ?」


「構わぬ!望むところよ!それに我は『ノウキーン食い食い』を読んできたぞ!」


「「(ノウキーン食い食い?)」」


「なら安心でさぁ!―――ほい上がったよ!」


圧倒的重量感!


「ぽぉ~う!何と香しい…」


ロードの横顔はまるで恋する乙女の様に澄んでいた。

美しい所作で、野菜の海からフォークで麺をすくい上げ口にする!


「~~~~~~~~ッ!!」


言葉が出ない。出るのは手だけ


ズリュリュリュウウウ!!


一口食べて、理性を失った獣が如く食べ散らかすヴァンパイアロードのジョージ。

横でドン引きしながら見つめる従者のジョン。無視してすするダディンとスポット。


スープまで飲み切ったとき誰にも聞こえない声で「完敗だ」と呟いた。

店内から拍手が沸き起こる。


「あのイケメン食べきったぞ!タイムは?」


「2分27秒!新記録だ!」


「こりゃあ、俺たちは伝説を目の当たりにしたぞ!」


客の喝采の奥から店主が何かを持ってくる。

それは透明の袋に入ったド迫力の原木糸巻きチャーシュー。


「はいっ5分以内にオールタシを食べきった人にチャーシューをプレゼントね」


受け取る、ジョージ。すぐにジョンに渡す。


「店主!名は何と言う?」


わなわなと震えながら店主のトンデモの手を握り、尋ねる。

紅い瞳を潤ませ、高揚した顔にドキッとしたトンデモ(42歳独身♂)


「あっしはトンデモって言いやすが?チャーシューいらないっすか?」


「いるッ(即答)。それより我が名はジョージ・ヴァレンタイン。魔大陸を統べる四天王の一人にして不滅の王。深淵の覇者である」


ヴァンパイア特有の牙がガッと飛び出し、黒いローブがなびく。

店内の拍手は止まり、困惑が広がる。


この時、残りの3人は無視してラーメンを食べ進む。

美味しい物を共有すると何だか妙に気分が良くて


3人はヴァンパイアと人族の軋轢あつれきを忘れ、会話を楽しんじゃった。


と、次の瞬間、ジョージはトンデモに深く頭を下げ言い放つ。


「我に!トンデモ様のラーメンを伝授してくれ!頼む!トンデモ様に全て捧げる!!」


ラーメンを食べ進める3人が同時に噴き出す。


「全て捧げるはいいっすよ~遠慮しやす。でも、店長候補としてならたぶん雇ってもいいっすよ。まぁこの店経営はトエム坊ちゃんがやってるんで相談しないといけないけど、いずれ歓楽街に2号店造りたいって坊ちゃん言ってましたし…」


「願ったりかなったりではないか!!おいジョン、これより我は千年と言う四天王の席を外し、魔王軍から身を引き、三郎ラーメンに余生をそそぐ事を宣言する!!」


「ばッ!??バカ!この大馬鹿!!魔王軍最強の戦力が抜けたらどうするんすかァ?さすがにそこまではダメっすよ!!魔族による世界の統一の夢はどうするんすか!?」


「我はここで三郎ラーメンを口にして理解した。世界は魔族に支配されるのではなく、このラーメンに支配されるべきだ(歴史的暴言)」


「何て事を…ん?有りっすね!いや最高にアリアリのアリっすよ!!よし!このチャーシューひっさげてヴァンパイア達を説得し尽くしてやるっす!!ククク、タギッてきたぁああ!そこの寸胴のスープの様に!」


「「「その必要はありません!!」」」


ガバッと立ち上がるカウンター最奥の頭からローブをかぶった中が見えないもの達。

ローブを取り、現れたのは美男美女の目が赤く神が銀髪で耳がとがって牙がはみ出ている者たち!


「オリヴァー!ダイアナ!ソフィア!お前らこんなとこに居たんすか!お前ら密偵が消えて心配したんすよ!」


「そんなこと言って自分ばっかり三郎ラーメンを楽しんで、ずるいわ!でもチャーシューは頂戴!っとそれより―――我が親愛なるロードよ!我々ヴァンパイアのほとんどが既に骨抜き状態です。このラーメン抜きでは生きられない体になっております!オスもメスも、閉店後の店に体をこすり付けております!!」


「お前等だったんす!?帰れよ!!」


店主トンデモからの切実なお願い。


「もう既にほとんどの者たちが歓楽街に潜伏して馴染んでおります。にんにくも育たない痩せた土地なぞ捨ててこの土地をヴァンパイアの新しい拠点とする事を具申致します」


「うむ!大儀である(即答)」


「しゃおらっ(美人お姉さん謎の咆哮)!さっそくこの地に入れなかったもの達も迎えに行きます!」


「歓楽街で稼いだお金がたんまりとあるから、関税に関しては安心してください」


「ちょっと、よろしいか?」


ここで口をはさんだのはダディン。

隣でスポットは「馬鹿ッ座れ!」のジェスチャー。


「よい、話を聞こう」


「この土地でヴァンパイアはラーメンを食べる以外何をする気なのだ?例えば領地を裏から支配するような?」


「我々ヴァンパイアは悠久の時を生きる。我らにとって支配やら征服などはくだらぬ児戯にすぎぬ。支配や征服も工程が愉快なのであって、支配したらつまらぬだけだ。貴様ら人族の寿命では理解できぬだろが、そんな事より三郎ラーメンよ!」


「は、はぁ?では人間の秩序に従える…と?」


「このラーメンがある限り…全てのヴァンパイアがそうなるであろうな」


この言葉にダディンは猛烈な衝撃を受ける。


魔大陸を統べる伝説の一柱が人間相手に妥協するというのだ。


確かにこのラーメン、特にチャーシューがうまいがそれほどの物かと考えてしまう。


「あっ今、このラーメンはそれほど物か考えたでしょう?オイラの《思考監視》のスキルは何でもお見通しさ!」


「それで俺達の正体がバレたって訳だ」


「そういう事!つまり心が読めちゃうんだ!とにかく、オイラ達にとって他魔族達を裏切るだけの十分な理由になるさ!トエム神に感謝しとけよ王よ!」


トエム神?そのような神は知らない?


「すまぬが、そのトエム神と言うのは?」


ダディンが困惑した表情でジョンと言うラフな格好の兄ちゃんに問うと、


「この領地の領主、プロティンの息子様さ。う~んそうだね…ダディン君には『女神の使い』と言った方が伝わるかな」


その瞬間、ダディンは瞳孔が開き呼吸が乱れる。

ばっちり伝わった。


「まさか…このノウキーン領の異常な発展も、バイクも、今後作られるであろうそれ以上の乗り物のもそのトエム神とやらが…」


「?ダディン、何を言っている?トエム神などと?トエムと言うのはプロティンの息子なのだろう?さっきそのヴァンパイア殿も言っていたではないか?」


「え、あ~え?え?え~、え?」


色々な事が起こりすぎて遂にダディンの頭はショートしてしまった。


「まぁせっかく国のトップがいるっす。食べながらヴァンパイアの方針について語りまひょ。さあさあ、麺が伸びますよ」


あっそうか、食事の途中だ!ダディンとスポットは手をポンと叩き

残りの食事を済ませる。


その後、先ほどの居酒屋で改めて席を設けると、酒も肴もうますぎて途中からそれどころではなくなった。


三郎ラーメンを食べた後だというのにヴァンパイアも人族も飲むわ飲むわ!

どんちゃん騒ぎは深夜まで続き、図らずしも魔族と人族の歴史的邂逅になってしまう訳だが。




朝起きればみんなで連れゲロをし、居酒屋のおばちゃんにめっちゃ怒られた。

その日の午後は四人でノウキーン領観光を心行くまで楽しんだ。


また、トエムは何も知らない。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

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