追放してくれ①
普段小説は書かないので、文章壊滅的ですがヨロシコ。
「…トエム様のスキルは……《植物全能》!支援職ですッ!!」
都市中央の巨大な教会。
中央の台座に置かれた水晶を覗く、身なりのいい司祭の男が放った言葉。
近くに群がったギャラリーはざわざわしだす。
トエム様と呼ばれ青年、『トエム・ノウキーン』
テンプレート王国を支える4つの公爵家の一つである武門の要ノウキーン家の長男である。
歳は今年で14。
下町で神童と呼ばれ
短髪の黒髪
お世辞でもイケメンとは言えない甘くないフェイス
死んだ魚のような瞳
筋肉隆々マッチョマンの変態ボディで長身
いかにも武門な男。
そんな男が職鑑定の儀式で神から授かったスキル
『植物全能』
「プラントマスター?聞いたことありませぬぞ!」
「まさか…武門の要であるノウキーン家の子息が戦闘職ではない?」
「これはノウキーン家始まって以来のスキャンダルでは?」
このテンプレート王国という国は戦闘職 排外主義の趣向が広がっている。
要するに「戦闘職以外はゲロチクビ、さっさと死ね」である。
「ソ、ソンナァ?マサカセントウショクジャナイナンテ…」
絶望に身をすくめ、その場に膝をつくトエム。
その後ろで先に儀式を終えたであろう同じ歳くらいのパツ金美青年が顔をゆがめてトエムに声をかける。
「イヒャーハッハァッ!!ざまぁねぇぜ神童様よぉ~ このたび俺は『勇者』でした~」
「ゆ、ゆうしゃ様!?」
「この国に勇者が誕生しただと!」
「勇者様万歳!ヤリサァ・セイビヨ様万歳!」
法の番人セイビヨ公爵家長男『ヤリサァ・セイビヨ』。
トエムと同じ歳であり、幼少から「神童だ!」「神の依り代」ともてはやされていたトエムが気に入らず、何かと因縁をつけては返り討ちに合っていた。
しかしお世辞や作り笑いがうまく、人の感傷にも敏感。
そして何より顔がいい!
中身が大事とかクソ!世の中顔だ!
「お前は今日でお終いだ!!ククク…後の事はまかせな親友 デチチもヒンニもお前の義妹も全員魔王討伐の旅でたっぷり可愛がってやんよ二ヒヒ」
トエムにだけ聞こえるように耳打ちしたかと思えば踵をかえし、先ほどの醜悪な顔は嘘のように思える慈愛の笑顔でギャラリーに答える
「ああ…なんて事だ…我が親友トエム・ノウキーンは事もあろうに戦闘職ではなく特に不遇な支援職だ!クソ支援職だッ!!しかし彼を責めないでほしい…彼は僕のかけがえのない友なのだ!彼の果たせぬ魔王討伐の役目はこの僕ッ勇者ヤリサァが果たして見せよう!!」
「おお!」「さすが勇者様!」「勇者様イケメーン!ぷっ」と歓声が沸き起こる!
満更でもない、ご満悦どや顔のヤリサァ。そこに
「貴様ァ!色ボケチンカス風情で兄様に失礼だ!」
凛とした顔立ちに艶やかになびくポニーテール。
すらりと均整のとれた体。
誰もが振り向く美少女がそこにいた
「おや、君はトエムの義妹のヤデレちゃんじゃないか、少し見ない間にまた綺麗になったね♡」
ヤリサァはヤデレと呼ばれた美少女の肩にさりげく手をかけるが、その手首をひねり肘を持ち上げ、関節を極める
「きたねぇ手で触んな!てめぇの股にぶら下げた貧相なブツ、輪切りにして野犬に食わすぞ」
「ひゅっ」
美少女の顔とは思えぬ般若の剣幕にみるみる顔が青くなるヤリサァをよそに、膝をついた義兄にぬるっと近づき、打って変わって優しく声をかける
「兄様!分家であるわたくしが『剣聖』の職を賜りました!これでもうノウキーン家は何の心配もありません!兄様は安心して身も心も体も血肉の一遍まで私に捧げてくだされば結構です!」
ヤデレの血走った目と漏れる吐息をよそに、トエムはブツブツと何かをつぶやきながら立ち上がる。
そして振り向きざまにヤデレの両肩をガシリとつかむ。
何かを察知したヤデレは妖艶にうつむき、色の混じった視線を義兄に送る。
「そ そんな兄様!こんな人の多いところで————」
「公爵家の跡取りは俺ではなく、お前だというんだな?」
その言葉が甘言でなく、ハッと冷静になったヤデレは咄嗟に
「ち、違います!けして兄様をないがしろに————」
「俺が邪魔で家から追い出したいんだな?」
「ちょっ!ないですないですッ!!」
「そのためにも父上と結託して追い出す感じだな!?」
「なんだっそらッッ!?お願い兄様話聞いて?」
「チクショウ!バカニシヤガッテー!ウワーン!ママー!」
「あっ兄様ッ!あにさまぁぁああああッ?」
トエムは無様に走り出した
教会の頑丈な入り口をサイドキックで粉砕し
止めに入る騎士たちのあごを裏拳で揺らし
横から急に飛び出てきた馬車馬に当たっても受け身をとり
真っすぐ自らの領へ走る
「自由ッだぁああああッッ!!」
時は十四年前に遡る————
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「む・・・ここは?」
床も天井も何もない白いだけの空間に、俺の体だけが存在した。
俺は先程まで『女王様倶楽部』2時間コースを満喫してはず・・・
「まさか⁉」
「そのまさかです…あなたはSM専門店女王様倶楽部で鞭の締め付けにより28年という生涯に幕ををおろしました」
突然目の前に現れたのはボンキュボンの緑髪のねーちゃん。
JKくらいの見た目だがいい眼で俺を見ている。
「ふむ!その汚物を見る目から唾もはいてもらいたいのだが?」
「うげぇ、勝手に話さないでっす、ぎもちわる」
「ぬひっ♡お許しください女王様!床舐めますッッ!!」
「違います!ここは都内で有名なSM店じゃないっす!「まさか⁉」ってそれコース延長の事っすか!アンタ死んだって言ったでしょ!しかもプレイの最中に死んだんですよ!トラックとか病死とかいじめとかでの転生する主流的昨今の流れが台無しっす!こんなはしたない死に方の魂をよこすなんて地球の神はなにやってんすか⁉」
「つまり、俺は死んでる?そんで?」
「そんで⁉疑問とか…まあいいっす…」
薄布で、SM倶楽部顔負けのスケベな格好をした緑髪ねーちゃんはため息をついた後話を続ける
「わたしは異世界の女神サトナカっす」
「里中女王様!やっぱりここは女王様く」
「あなたの殺したお気に入りの嬢とはたまたま同じ名前なだけっす。いい加減話進めていいっすか?」
女神と名乗る頭の弱そうな緑髪ねーちゃんサトナカさんが目を細め睨む
まぁ話ぐらいは聞いてやろうブヒヒ
「いいすか?いいっすね?じゃあ異世界転生マニュアルに基づいてまずはあなたのプロフィール確認から…『宍戸恵夢』28歳男性。趣味は筋トレ…へぇフルコンタクト空手黒帯でしかも古武道もやってんすか!やりますねぇ!」
「フルコンタクト空手なら合法的に女の子に殴ってもらえるだろ!古武道も最近女の子達に人気らしくて、合法木刀プレイだ!」
「はぁ…?まぁいいや。それでえーと…高校の時に…ファッ⁉ヤンキー校を赤門御用達神学校に変貌⁉大学の時代は未知の抗体の発見⁉社会人になったら2年でブラック企業がホワイト企業に⁉何者なんすかアンタ?もうチートスキル持ってるっすか?」
「高校の時はヤンキーうざかったから脊髄適当にぶっ叩いてたら因縁つけられて「どうしたらてめえに勝てる?」って聞いてきて「俺はあんまり頭よくないから日本一の大学行ったら完敗だぜ!」ってあしらったら、マジで勉強しまくって何か合格ラッシュだったぜwww」
「すごすぎっすヤンキー!」
「大学の時に献血行ったら、俺から未知の抗体が出てきてね!刺激がほしくて真冬に外でパンイチで寝ても風邪ひかなかったもんなぁ」
「人体の神秘っすね」
「会社の先輩が目つき悪い美女で、パワハラを期待して入社したら一人で抱え込むタイプの幸薄姉ちゃんでさぁ、何とか目ぇつけてイジメてもらおうと新入社員のくせにマニュアル作りまくったら社長が気に入っちゃってあれよあれよと大改革。そのせいでホワイト企業になっちまった。寝ることもできないようなキリキリする毎日が遅れると思って入社したのに…しかも美女の姉ちゃんが上目遣いになってさぁ、キモくて会社辞めたよ。唾はいて罵倒してくれりゃいいのよぉ…」
「へ?何でキモい?」
「女って生き物は男を蔑すんで好きかっていたぶって家畜扱いがいいんだよ!男に媚を売るとか股開く事しか考えてない売女だろッ!!」
「何か…どこかで壊れたんすね…生きるって難しいっすね。それはともかくアンタがある意味優秀ってことは確認したっす!あっ…アンタを殺そうと地球の神がトラックぶつけてたみたいっす…三回も…」
「ほぉ…アレはそうだったか、一か月で三回もぶつけられて呪いだとワクワクしたが…つまらん!それとトラックはやめろ!トラックの運ちゃんが日本の流通と経済を支えてるんだ!もっと感謝しろッ!!」
「あ~そおっすね、地球の神に言っとくっす《こいつ三回もはねられてピンピンっすか⁉本当に人間っすか⁉》」
「で、俺はどうなるんだ!」
「そうっす!そこっす!話が脱線したっす!要は死んだから転生して、異世界を救ってほしいっす!」
「よしわかった!転生してくれ!」
「はやっ!疑問とか無いっすか?」
「無い」
「はぇ~(器が)すっごいおっきぃ~、んじゃさっさと16種類のチート職業を一個選んで転生するっす」
「よし!これだ!」
「はやッ!なになに・・・『植物全能』?・・・これ異世界だとかなり生きずらいっすよ、戦闘職・魔法職・技術職・支援職ってあるんすけど、支援職は・・・なんか生きる価値無しゲロチクビ死ねって感じっす」
「ほぉ~冷遇されるのは好きだからいいぞ♡いいぞ♡」
「…ちなみに何でこの職を選んだっすか?」
「まず、戦闘職の勇者・戦狂者・拳聖・剣聖と魔法職の賢者・聖者・死霊使・大魔導士だが、戦闘に関しては空手と古武道で得た術理で何とでもなりそう」
「(普通はなんともできねぇっす)」
「技術職の鍛冶全能・家事全能・農業全能・建築全能はDIY得意だし、家畜を飼うより家畜になりたい」
「(はぇ~)」
「最後に支援職、能力全能・料理全能・調教全能だが、デバフはボッチだからいらん!家事はできる!調教は————」
「はいはい、なんでプラントマスター?」
「詳しいスキル内容は見てないが、薬草や果物、野菜なんかが該当するだろう?」
「うーん、規則で詳しく喋れないっすけど…そんな感じっす」
「いくら俺が我慢強くても、空腹だけは無理だった。逆を言えば空腹を満たせば、人間ある程度幸福に生きられるはずだ!」
「なかなか理に適ってる気がするっす!じゃあ異世界に転送するっす!はぁああ…何か長かったっす…」
すると、体が光に包まれてゆっくり消えてゆく。
ここで一つ疑問が残る
「異世界を救うって具体的には?」
「~~ハガッ!!?」
口を開けて馬鹿みたいに慌てだす。
その間にも俺の体は半分消えている。
「待つっす!待って!まっっってぇえええええ————あ…ダメっすコレ」
何か言っていたようだがよく聞こえなかった。
意識が途切れ、次に目覚めたときは全身が痛くて目が開けられなかった。
自意識が目覚めるのは3歳くらいだと思ったが、股から出た直後とは…
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現在。
屋敷に走りつくと辺りはもう暗くなっていた。
不遇職をとった自分はきっと今日で追い出されるだろう。
これから起こるであろうテンプレ展開に胸を躍らせる
冒険 出会い 苦難 勝利 深夜の露出散歩
「(よくある追放ものの黄金パターン入りましたコレ!
いやぁ~貴族とか本当めんどくさかった。)」
思えばオムツが取れたときにはもう勉強
5歳から領地の管理デビュー
7歳から5年間学校という名のコネづくりをし
気付いた時には築いていた神童という格
「はい!今日でお終い!おちかれチャーン!」
もう見ることが無くなるであろう屋敷の門に別れを言いつつ
意気揚々で執務室に乗り込んでゆく。
ノックをする時に、首を全力で力み、
意図的にチアノーゼを起こしながら顔色を悪くして室内に入る
「ち、父上ただいま戻りました…」
俯き申し訳なさそうな雰囲気を出して近づく
いかにも何か不手際があったような感じだ
「うむ、で、いかがであった職は?」
ケツ顎ダンディーなエム字ハゲマッチョな大男が椅子をクルリと翻す
彼の名は『プロティン・ノウキーン』。
ノウキーン家現当主である。
「実は…その…」
首に緊張と脱力を高速で行い、震えているように見せる
わざと一息ついてから小声で答える
「『植物全能』…つまり支援職でしたッ」
「ふむ、残念だったな。自室でゆっくり休むとよい」
あれ?聞こえてなかったのかな?
「支援職でしたァッ!!」
「聞こえておるわ!自室で休みなさい」
その瞬間トエムは大きく瞳孔を開き、
父親のひげを思い切り引っ張り
「支援職でしたァ!何か言う事があるでしょうッ!!」
「痛い痛い!バカ離せ!!」
「ちちうぇい!やばいっすよ支援職!貴族や司祭達から上げ足とられ、王族には蔑まれでしょう?いや~これは一族の恥だわ↑公爵家の膿は追放しちゃおッ!!」
おかしなテンションの息子に深いため息を付き、粛々と答える
「支援職というだけで己の息子を追放などと馬鹿げているぞ!その様な非常識…それこそ王族や貴族の信頼を落とす。わしの考えはおかしいか?」
極めて真っ当な意見にトエムは天を仰ぐ
思えば父はノウキーンなどという割に今までずっと有能
テンプレのような愚を犯すわけがない
今更気付いたトエムはとりあえず父親の横っ面を殴る
打たれた父はキョトンと乙女座りで息子を見上げる
「俺を追い出せよッ!!」
最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。