48 束の間の平和
王都の中心には巨大な王宮がそびえ立つ。
ここはその王宮内の大広間である。
魔物群の討伐クエストの大成功を祝して、王国主催のパーティーが開催されているのだ。
広い会場には、正装した多くの人がいる、
真っ白な大理石の床。
高い天井には豪華なシャンデリアがいくつも釣り下がっている。
俺はノワールとヴィレッタ団長と一緒にテーブルにつく。
「しかし、せっかくのパーティーなのにいつもどおりの服装だのう。」
団長のヴィレッタがノワールに言った。
「いつ何があるかわかりませんからね。騎士のたしなみです。」
ノワールはいつも通り天空騎士団の制服姿である。
「タクトもノワールのドレス姿が見たかったであろうに。」
「そうですね。」
「なぜ、タクトが私のドレスなど見たがるのだ。」
「いや、そりゃ、まあ、俺も男ですから。」
「私のドレスとタクトの性別となんの関係があるのだ?」
ノワールは首をかしげていった。
やはり男としては見られていないのだろうか…
「おい、ノワール…そういうところだぞ。」
「何がですか?」
「わからんかのう、タクトはノワールを女として見ていると遠回しに言っておるのだ。」
「ふむ?」
「つまり性的な、目でみているということじゃ。」
「な、なんと、性的ですか。」
「いや、その言い方は語弊があると思いますよ。」
俺は慌てて言った。
「つまりノワールに欲情しているということじゃな。」
「よ…欲情ですか。」
ノワールの顔が真っ赤になる。
「団長も真面目な顔して何をバカなことを言ってるんですか。ほらノワールも怒ってますよ。」
「よしドレスを用意しろ。着替えるぞ。」
ノワールは側にいたメイドさんに言った。
「え、なんで?この流れで、そうなりますか?」
「無理を言うな。パーティー用のドレスは準備に日数がかかるものじゃ。残念じゃが、急には無理じやろう。」
ヴィレッタは言った。
「団長、お待ちください。ノワール様がドレスを着るのですか?」
メイドさんの一人が言った。
天空騎士団のおつきのメイドだ。
「ああ、そうじゃが、急に言われても無理であろう。」
「いや、何とかいたしましょう。天空騎士団メイド部隊、集合願います。」
メイドさんが少し大きな声でそう言うと、10人を超えるメイド達が集まった。
「何かありましたか?」
「一大事です。ノワール様がドレスを着られると。」
「なんと…」
「まさか、そんなことが…」
「それでドレスは?」
「これから用意するのです。」
「今からですか…」
「できます、街中の針子をあつるのです、手段は選びません!」
「はい、やりましょう!」
メイドさんたちはお互いの顔を見てうなづき合った。
「さあ採寸です!こちらへ。」
「いや、ちょっと待て、お前らどうしたのだ。」
「私たちは、ずっとノワール様のドレスを用意したいと思っていたのです…」
「けれどノワール様はいつも制服でよいと…」
「この日を待ちわびていました。天空騎士団メイド部隊の名誉にかけて、最高のドレスを用意いたします!」
「いや、まて、お前ら落ち着け。」
「いいから、こちらへ。」
そうして、ノワールは大勢のメイドさん達に連れて行かれた…
「なんだか大ごとになってますね。」
「面白そうじゃし、まあよかろう。」
◇
ノワールはメイドさん達に連れていかれて戻ってこない。
俺は団長と、二人で話をする。
「タクトは王宮は始めてか?」
ヴィレッタが言った。
団長は薄紫のきれいなドレスを着ている。
「はい、騎士団の本部もおどろきましたけど、何倍も大きいですね。」
「我が国はかつて、この大陸の大半を支配する大帝国であったからな。その名残りじゃ。今はモンスターに食い荒らされて領土は全盛期の半分もない。このままでは、いずれこの国もなくなってしまうかもしれんのう。」
目の前では、着飾った貴族達が生演奏をバックに踊っている。
優雅な光景だが、そう思うとなんたか虚しく見えてくる。
俺たちの力で食い止めことができるのだろうか。
「暗い話をしてすまんな。しかし、今回はタクトのおかげで助かった。礼を言うぞ。」
「いえ、そんな。今の俺がいるのも全部団長のおかげですから。役にたてたなら嬉しいです。」
「嬉しいことを言ってくれるのう。ただ、ギルドの連中からは散々と文句をいわれたがな…勝手に騎士を出動させたのがよほど気に食わなかったらしい。まいったわい。」
「そうでしたか。ただ、団長の判断は間違えてないと思いますよ。」
「なら、いいのじゃが…」
「どうじゃ、わしと踊って見るか。」
少しの沈黙の後ヴィレッタが言った。
「いえ、その、やったことないので。止めておきます。」
「なんじゃい、せっかく誘ってやったのに。」
「すいません。」
「まあよいか、ノワールにやきもちをやかれてもつまらんからな。」
「ん、なんですか?」
「なんでもないわ。」
「これはヴィレッタ様、お久しぶりです。」
着飾った初老の紳士がヴィレッタに声をかけた。
「おう、久しぶりじゃな。」
「彼がタクト様ですか。」
「ああそうじゃ。」
「たいそうご活躍たったそうで。」
「はい、ありがとうございます。」
俺はペコリと頭を下げた。
「こちらはローラン公じゃ。タクトは戦闘しかしらんやつじゃ、あまりちょっかいは出さないでくれ。」
「ええ、わかっていますとも…」
「わしは少し離れるぞ、楽しんでいてくれ。」
ヴィレッタはそう言うとローラン公と共に席を立った。
しかし、楽しんでくれと言われても、どうすればいいものか。
◇
「タクト君、こんばんは。」
一人で座っていたところ、ニーナさんに話しかけられた。
ギルドで働いているお姉さんで、俺の友達だ。
きれいな青いドレスを着ている。
「ニーナさんも来てたんですね。」
「ふふ、今日はお父さんの付き添いなのよ。」
ニーナさんのお父さんはアドノア・アルシア。
伝説の戦士であり、ギルドのトップである。
アドノアはニーナさんの後についてやってきた。
「タクト殿、この間は大活躍だったそうだな。」
アドノアは言った。
言葉とはうらはらに、その口調はどこか厳しい。
「いえ、それほどでも。」
「タクト殿と話がある。ニーナは少し外してくれ。」
アドノアが難しい顔をしてニーナさんに言った。
この間の戦闘の件で、なにかお叱りでもうけるのだろか。
いや、かまうものか。俺たちは精一杯やったのだ。
絶対謝ったりはしないぞ。
「お話とは、なんでしょうか。」
おれは強い口調で言った。
「決まっているだろう。」
「はい!」
「ニーナのことだ!」
「はい?」
「ニーナにボーイフレンドができたと聞いて、誰かと思えば、タクト殿だというではないか。」
「ボーイフレンド?」
「私になんの挨拶もなく。」
「いや、たまに本の貸し借りをするような間がらでして。」
「男女のつきあいに口実はつきものだ。」
「わりとガチな本友達なんですが。」
「ニーナはまだ子供だ。」
「きれいなお姉さんだと思いますよ。」
「なんだと!」
「いや、すいません。」
結局、謝ってるし…
「いや、なにもタクト殿のことを責めているわけではないのだ。」
「はあ。」
「立派な戦士だと思う。しかしそれにおごって勝手なことをして欲しくないのだ。」
「ええ、そうですね…」
「古来、英雄色を好むと言う。わしも若いころは色々と悪さをしたものだ。ふふふ…」
「ん?」
「いやいや…とにかく。ニーナを泣かせるようなことはしないでくれ。くれぐれも頼んだよ。」
アドノアはそう言うと俺の肩たたいて席を立った。
ニーナさんが戻ってきて俺の横に座る。
「仕事の話だったんでしょ。タクト君の活躍ぶりはギルド内でも評判よ。」
「そ、そうだね。」
「そうそう、この前貸して上げた本はどうだった?」
「すごく面白かったよ。まさかの展開で。」
「でしょう、やっぱりタクト君とは趣味が合うな。続編もあるのよ。今度貸してあげるわね。」
ニーナさんは嬉しそうに俺の手を両手で握って言った。
後ろからアドノアが怖い顔でこちらを見ている。
俺はなるべくそちらを見ないようにした。
「じゃあね、またね。」
ニーナさんは手を振って去っていった。
◇
「おう、タクトじゃねえか。一人で何やってんだよ。」
真っ赤なドレスを着たベオウルフが現れて言った。
ドレスはベオウルフの褐色の肌によく似合っていた。
「ずいぶん酔ってますね。」
呂律が回らなくなっているし、目が潤んでいる。
「あたり前だ。タダ酒ならいくらでも飲めるぜ。」
「ほどほどにしておいた方がいいですよ。」
「よし、タクト踊るぞ。」
突然ベオウルフは言った。
「嫌ですよ、俺は踊れないんです。」
「心配するな、俺が教えてやる。」
「いや本当に無理なんです。人前で踊るなんて恥ずかしいですよ。死んでも嫌です。」
「うるせえ、俺の言うことがきけねえのか!しっかりとエスコートしてやるぜ、ぐへへ。」
「うわ、完全に酔っ払いだ、めんどくせえ。」
結局、断りきれずにダンスをすることになった。
何でこんなことに…
「ほら腰のところに、手をあてろ。」
「はい、こうですか。」
「動きは俺のステップをみて、曲にあわせてな。」
「はあ、ステップと言われましても。」
俺はベオウルフの腰に手をまわして、ただゆらゆらとただよっていた。
本当にこれでいいのだろか…
周りから笑われている気がする。
早く終わらないだろうか…
踊っていると、ベオウルフの大きな胸が俺の体につんつんとあたる。
大きく胸元の開いたドレス、つい目がいってしまう。
「ふふ…タクトだったらいいんだぜ…」
ベオウルフは、俺に顔を近づけて耳元でいった。
息が耳に当たる。
「な、何がですか…」
「俺たち戦士はいつ死ぬかわからないだろう。だから、やりたいことは生きているうちにやっておくんだぜ。」
「そ、そうですね…」
「この後、少しだけ抜け出すぞ。二人きりになれるところがあるんだ。」
「それはまずいかと…」
鼓動が早くなる。
「おいおい、ずいぶんお固いんだな。」
ベオウルフは俺に太ももを、押し当てながら言った
「別に、そんなことは…」
ベオウルフの顔が近い。
髪からいい匂いがする。
唇が触れそうだ。
「こらー、もう、何やってるんですか!」
後ろから、大きな声が聞こえた。
セシルだった。
薄いピンク色の可愛らしいドレスを着ている。
「もー、ベオウルフさんはお酒を飲むと見境が、なくなるんだから。」
「なんだ、セシルかよ。いいところだった
のに。うおっぷ。」
「飲み過ぎなんですよ。それに、タクト君もその気になっちゃって。本当に男の人ってダメなんだから…」
「いや、そんなことは…」
「うー、気分が悪いぜ。」
「ちょっと夜風にあたったほうがいいですね。」
セシルがベオウルフをバルコニーに連れて行った。
俺たちのパーティーって、実はセシルが一番しっかりしいるのかもしれないなあ。
◇
「タクト様、お久しぶりです。」
一人でソファに座っていたところ声をかけられた。
振り返ると、タイレルの領主の令嬢のエリスさんがいた。
「お久しぶりです。エリスさんも来てたんですね。」
「はい、たまたま王都に用事がありまして、お招きいただきました。」
「そうですか。元気そうでなにより。」
エリスさんは、薄い緑色の胸元の大きく開いた大人っぽいドレスを着ている。
以前よりもさらに美人に見える。
「ところで、その…タクト様、せっかくですから踊っていただけませんか?」
「いや、俺踊れないんですよ。人前で踊るのなんかとても無理というか。」
「え…そんな…私とは…」
「いやいや、エリスさんどうこうではなくてですね、本当にそういうの苦手といいますか。」
「そうですよね…私なんか…う…」
エリスさんは、なんとしゃがみ込んで泣き出してしまった。
どうしよう…
そんなにきつい、言い方してないよな…
「なんだ、どうした。」
あたりがざわついてくる。
冷たい視線が俺に注ぐ。
「タクト様、なんとかお嬢様と踊っていただけませんか。一曲だけでいいので。」
お付きの騎士に頼まれる。
「はい、わかりました。踊ります…」
俺は言った。
こうなったからには、しかたあるまい。
「タクト様とダンスができるなんで夢のようです。」
ダンスを始めると、エリスさんは嬉しそうに言った。
「そうですか、悪夢にならないといいんだけど。」
俺はそう言ってエリスさんの腰に手を回す。
そして、音楽に合わせてよたよたと体を動かした。
それに比べ、エリスさんは優雅な身のこなし。
さすが領主のご令嬢だ。
曲がだんだんゆっくりになっていく。
俺の背中に回したエリスさんの手にぎゅっと力が入る。
ずいぶんくっつくんだな、タイレル流なのだろうか。
「見事なご活躍です。タクト様のお名前は、王宮中に響きわたっております。」
エリスさんは言った。
「そうなんだ。」
「はい、これからどんどん有名になるでしょう。そして、それを良く思わない人たちも、出てくるでしょう。」
「そんなもんですかね。」
「ええ、そのお力を称賛する一方、恐れられてもいるのです。」
「恐れるって、そんな大げさだなあ。俺なんかに。」
「タクト様、貴族たちの権力争いを甘くみてはいけませんよ。」
「はい、すいません。」
まだ女の子だと思っていたけど、しっかりしてるんだなあ。
「もしなにかあったら、タイレルを頼って下さい。必ずやお力になります。」
「ありがとう。そうさせてもらうよ。」
「またお会いできる日を…」
ダンスが終わると、エリスさんはそう言って俺の口に軽くキスをした。
急なことで、かなりビックリした。
「タイレル流の挨拶ですよ。そんなに驚かないでくださいまし。」
エリスさんはそう言うと、かわいらしく笑った。
◇
エリスさんと分かれまた一人になる。
しかし、まさかこの俺がダンスをすることになるとは。
しかも2回も。
思い出すと恥ずかしくなってくる。
じっとしていられなくなり、少し歩き回る。
場内をうろうろとしていると、急に歓声が上がった。
みなの視線の先をみると、大きな階段からドレスを着たノワールが降りてきているところだった。
真っ黒な綺麗なドレスだった。
「頑張ったかいがありました。」
メイドさん達が満足した表情でノワールに付き添っている。
ハンカチを目に当てているメイドさんもいる。
ノワールが、階段を降りると、多くの貴族達に取り囲まれた。
「なんと美しい。」
「素敵ですわ…」
「ノワール様、ぜひ一曲ダンスを。」
ノワールは群がってくる貴族達の相手を笑顔でする。
立ち振る舞いはとても優雅で、Sクラスのモンスターをバタバタと倒しているノワールとは別人みたいだ。
俺とは違いノワールも貴族の令嬢なんだよな。
少しすると、ノワールはきょろきょろとあたりを見回し始めた。
「ちょっと道をあけてもらえますか…」
ノワールは言ったが、人だかりになっていて通れないようだ。
「あの、通りますので道を…」
やはり人だかりのまま、通れない。
「道をあけろ、吹き飛ばすぞ…」
ササッ
ノワールがそう言うと、一瞬で道が開いた。
さすが、着飾っていても漆黒のノワールである。
ノワールは人だかりを抜けると俺に向かって、まっすぐに歩いてくる。
その姿は、ここに集まっているだれよりも美しい。
そして、俺の目の前で立ち止まった。
「どうだタクト、その、おかしくないか?」
ノワールはドレスの裾をつまみながら俺に言った。
始めて会った時と同じ。
なんてきれいなんだ。
まるで絵画の中の女神様みたいだ。
「はい。凄くきれいです。」
俺はそう言うと、ノワールは嬉しそうに笑った。
「よし、タクト踊るぞ。」
「いや、それはちょっと…」
「むむ、なんだと。」
「いや俺は踊れないんですよ。人前で踊るのなんて恥ずかしいです。死んでも嫌です。」
「人にここまでさせておいて…つべこべ言わずに来い。」
ノワールは笑いながら言った。
ノワールは俺の手を強く引く。
その手は、歴戦の戦士のものとは思えないくらい柔らかく、温かかった。
長らくのご愛読ありがとうございました。
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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直なお気持ちで結構です。
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