36 開戦
作戦当日の夜明け前に、300名の戦士はオキデンス平原の防壁後へ着いた。
空はうっすらと明るくなり始めている。
モンスターの大群は今日の昼頃には到着する予定だそうだ。
「まだ時間はあるな、偵察に行くぞ。キリアク達も呼んできてくれ。」
団長のヴィレッタが近くの戦士に言う。
俺たち、天空騎士団のパーティーと豪腕のキリアクのパーティーは、一緒にモンスターの群れを偵察することになった。
馬で目的地を目指す。
「ここからなら馬で崖上に登れます。」
斥候の戦士に案内され馬で岩山を登る。
崖の上に登ると、少し先に魔物の大群が見えた。
こちらに近づいてくる。
「あれが魔物群か、凄い数だ…しかし3000体とはな。」
顔にある大きな傷を歪ませながら、ベオウルフは言った。
先程聞いた斥候からの報告だと、現時点でモンスターの数は3000体になっているとのことだ。
数はこちらの10倍だ。
「想定外の数じゃ。まさかここまで増えるとは。」
「しかし、進行の速度はそれほど早くはないですね。」
俺は言った。
「数が増えたことでスピードは落ちているのでじゃろう。」
「それに思ったほど、ギュウギュウ詰めではないです。」
これなら、隙間を縫ってベヒーモスまでたどりつけそうだ。
「俺たち第一部隊で倒しちまってもいいんだよな。」
横で聞いていたキリアクが野太い声で言う。
「そうしてくれると助かるがのう、そうもいくまい。わしらがベヒーモスを倒したら発光魔法で合図を送る、それまで何とか持ちこたえてくれ。」
「雑魚モンスターの集まりだ。造作もないわ。」
「そうか、戦闘に関してだけは信頼しておるぞ。」
ヴィレッタが言う。
「ふん、まかせておけ。」
高台の下をモンスターが次々と通り過ぎていく。
俺たちはバレないようにこっそりと覗き込む。
デーモンタイプに魔獣タイプ、アンデッド、巨人や亜人。
様々なモンスターがより集まり、一心不乱に行進している。
これだけの数のモンスターに襲われたら、どんな街でもひとたまりもないだろう。
「中央に、ぽっかりと穴があいてますね。」
俺は言った。
群れのちょうど真ん中に穴が空いていて、大きなモンスターの背中が見える。
あれがベヒーモスだろう。
「ハイクラスのモンスターも混ざっています。オーガキングにアークデーモンもいるな。」
ノワールが言った。
「全ては把握しておらんが他にも強力なモンスターが何体か混ざっておるようじゃ。簡単にはいかんじゃろう。」
「おや、あれは…」
「どうした?」
「今、ドラゴンがいませんでしたか?」
俺は言った。
ベヒーモスの巨体に隠れるように一瞬ドラゴンの姿が見えた気がした。
「ドラゴンは他のモンスターと違い魔力がなくても生きていける。魔物群に加わることはないはずじゃが…もしドラゴンとなるとそれなりの準備がないと倒せんぞ。もしあの中におったら大変なことになる。」
ヴィレッタが言った。
「ははは、魔物群にドラゴンなんているわけないだろう。だいたい空を飛べるやつが何で地上の群れに加わるんだよ。これだから素人は困る。」
豪腕のキリアクが言った。
「俺は戦士歴はそこそこあります。素人ではないですよ。」
「うるせえ、偉そうな口をきくんじゃねえ。」
「おいおい、ここまできて揉めごとは無しじゃ。」
ヴィレッタがそう言って話は打ち切られた。
見間違いだったのだろうか、中央に見えた気がしたんだけどな。
「よし、では急いで戻るぞ。」
ヴィレッタが言う。
俺たちは、馬に乗り持ち場へと戻った。
◇
すっかり日も昇り、正午近くになる。
晴天の空に、大きな雲が浮かぶ。
「第一部隊とモンスターの大群の戦闘が始まりました。」
斥候から報告を請ける。
「よし、わしらももうすぐ出るぞ。」
ヴィレッタは言った。
俺たち第二部隊はモンスターの大群の背後をつくため、第一部隊と分かれて、近くの森に身を隠している。
パーティー5組、30名ほどからなる精鋭部隊だ。
「群れの動きが止まったら突撃じゃ。」
ヴィレッタが全員に言う。
「しかし、彼が先頭で大丈夫ですか?私のパーティーには、みなさんご存じの鉄壁のライカールトがいます。交代しましょうか。」
白銀の鎧に身を固めた騎士が俺を見て言った。
別パーティーのリーダーなのだろう。
鉄壁のライカールトはかなり有名な盾役である。
「なあに楽勝じゃい。そうじゃのうタクト。」
「まあ、そうですね。がんばります。」
「ただ、そのアビリティでは、荷が重いかと…」
「助言は感謝するが、タクトは我が天空騎士団の最強の盾役じゃ。そんじょそこらの盾役とはレベルが違う。おぬしらはしっかりと後方をまもってくれ。」
「は、はい。わかりました。そこまで言うなら、お手なみ拝見といきましょう。」
白銀の鎧の騎士は不満げに持ち場に戻った。
「どちらが鉄壁か、見せつけてやれ。」
ヴィレッタは俺の耳元で言った。
「モンスターの進行が止まりました。行きましょう。」
ノワールが言った。
「突っ込むぞ。タクトが先頭じゃ、たのんだぞ。」
俺たちは、後方からモンスターの群れに突っ込んだ。
一直線に中央のベヒーモスへ向かうのだ。
「雑魚は無視じゃ、一気に本丸を落とすぞ!」
天空騎士団のパーティーが先頭である。
その最前列が俺だ。
飛び込むと、周りのモンスターから一斉に攻撃を受けた。
キンキンキンキン…
そのすべてをジャストガードで防ぎきる。
「どうじゃ、タクト。やれそうか。」
俺の真後ろ陣取っているヴィレッタが言った。
その左右をノワールとベオウルフが固め、最後尾にセシルがいる。
「ええ、これぐらいならまあ。」
俺は答える。
「おいおい、ずいぶんと余裕じゃねえか。」
ベオウルフが槍を振るいながらそう言って、にやりと笑った。
「とりあえず、進路を開けないとのう。」
ヴィレッタはそう言うと俺の後ろで呪文を詠唱し始めた。
ヴィレッタは天空騎士団の中で一番の神聖魔法の使い手だ。
「トゥエンティワン…ソーズ…」
呪文詠唱後、そう小さくつぶやくとヴィレッタの回りに多くの剣が浮かびあがった。
白く光る透明な魔法の剣だ。
「攻撃。」
ヴィレッタがそう言うと、剣はそれぞれ複雑な軌道を描いてモンスターに向かって飛んで行く。
魔法の剣は、目の前のモンスターをザクザクと串刺しにして倒していった。
「よし、進むぞ!」
開いたスペースに部隊をねじ込むように進ませる。
またしても、先頭の俺に四方八方から攻撃が降り注ぐ。
キンキンキンキン…
ジャストガードが決まった時の高い金属音が立て続けになり続ける。
盾受けが間に合わない攻撃は剣で弾く。
さすがに数が多い、低レベルのモンスターは剣で弾いた方がいいかもな。
見てから反応したのでは間に合わない。
観察スキルをフルで活用し、攻撃を予測して防いでいくのだ。
「ちょっと、彼なんなのよ、すごいじゃない。」
後ろで戦っている戦士達の声が聞こえてくる。
「ジャストガードって、実践で使えるのかよ。あんなのは見たことがねえぞ。」
「おい、お前ら。見とれてる場合じゃねえぞ。しかしすげえな…信じられん。」
「驚いたか!これが我が騎士団最強のタンクの実力じゃ。さあ着いてくるがよい!」
ヴィレッタが大声で言った。
さらに部隊を進ませると、ベヒーモスの姿が見えてきた。
黒色の硬そうな皮膚は、うっすらと魔法のオーラを帯びて光る。
巨大な体を四本の太い足で支えながら、のしのしと歩いている。
「さすが神獣ベヒーモス、ものすごい強力な魔力じゃ。魔力を吸い取られてしまうので他のモンスターは近寄らないのじゃろう。」
ベヒーモスの周りには空間ができている。
「よし、あと少しだ。」
そう思った矢先、ベヒーモスの真下から何かが飛び立った。
「あれは…」
「まさか…」
「ドラゴンだ!」
折りたたまれた翼を大きく広げ、ドラゴンが飛び立った。
翼と腕が一体になっている。
ワイバーンと呼ばれるドラゴンの一種だ。
「ワイバーンか。しかしなぜドラゴンが魔物群のなかに。」
「理由はどうあれ、これはかなりまずいですよ。」
ワイバーンは、群れの先頭めがけて飛んでいく。
そして、防衛部隊に上空から炎のブレスを吐いた。
「ワイバーンは第一部隊へ攻撃しています。防ぎきれるでしょうか。」
ノワールが戦いながらヴィレッタに言う。
「ドラゴンを倒すにはそれなりの準備が必要じゃ、急に現れても対応が難しいじゃろう。」
前方で魔法や弓の遠距離攻撃で攻撃してるところが見える。
が、ワイバーンは構わずに炎のブレスを吐き続けている。
ドラゴンブレスは鋼鉄をも溶かす灼熱の炎だ。
百選練磨の実力者ぞろいとはいえ、無事ではすまないだろう。
ざっざっざっ…
止まっていたモンスターの群れがゆっくりと動き始める。
ベヒーモスも少しづつ遠ざかっていく。
「くっ、どうやら、第一部隊は突破されたようです。」
ノワールは言う。
「ベヒーモスの正面に回りこめば止められるんじゃないですかね。」
俺は言った。
「いや、無理じゃ。危険すぎる。それにベヒーモスを倒した後に、残りのモンスターを追い払わないと作戦は完了しない。30名ではな。第一部隊が突破され時点でこの作戦は失敗じゃ。」
「しかし…」
「それよりも第一部隊の戦士達を救出せねば。いったん脱出してから合流するぞ。」
ヴィレッタは言った。
後少しのところでベヒーモスは取り逃がしてしまった。
「作戦続行が困難になった場合は、見張り塔跡に集結することになっておる。合流するぞ。」
「中央突破は厳しそうですね、大回りしていきましょう。」
俺は言った。
「そうじゃな、その方が早そうだ。」
俺たちは、モンスター密集地帯を避けながら、見張り塔跡へと走った。
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