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魔力継続時間


 穏やかなこの辺境の地には、穏やかな人が多いと思う。この邸の人たちもそうだもん。もちろんそれはヴィル様も。


 ずっとここにいたい。優しい人たちに囲まれて生きていきたい。だけど働けなくなったら、私がここにいる必要がなくなってしまう。

 ヴィル様はお優しい方だから、動けなくなった私を追い出そうとしたりはしないだろうけど……

 

 だけど、私が嫌なの。今もヴィル様が心に闇を抱えているのは私のせい。あの時、殺されて幸せだったって伝えられなかったから。殺された方が幸せだったって伝えられなかったから。


 言うなれば私は諸悪の根源。


 ヴィル様は本来は明るくて話し上手で、表情も豊かな人だったの。笑うと凄く可愛くて格好良くて、だけど穏やかで、まるで静かに見守るように存在するお月様みたいな人だなって、前世の私はそう思っていたの。


 それが私のせいで、どんより暗い表情しかしなくなった。と言うか、ほぼ無表情。笑いも怒りもしないように見えている。

 だけど僅かに動かす表情筋で、私にはヴィル様がどんなお気持ちでいるのかが分かるの。その度に昔のリノを思い出して、胸がキュンキュンしちゃうの。


 だから昨夜、エヴェリーナ様に告白されたヴィル様が、誰が見ても悲しそうだと分かるお顔をされたのが嬉しかったの。でも悲しくもなっちゃったんだけどね。


 話がそれちゃった。だからこれ以上迷惑は掛けたくない。きっと私は、ヴィル様の幸せを見届ける為に生まれてきたんだと思う。

 死ぬことができないヴィル様。なのに幸せになろうとしないのを、神様が不憫に思ったんじゃないかな。だから私をヴィル様の元へと導いた。

 そう考えると、辻褄が合うよね? 凄い! 私って凄い! そう思わない? 頑張らなくちゃって思うよね! ね!


 決意新たに、私を心配そうに見ているヘレンさんにニコッて笑いかけて、一緒に仕事へと向かう。


 朝食には間に合わなかったから、他の仕事に回った。やることがいっぱいあるからね。

 たまった洗濯物を洗ってしっかり絞り、干していく。今日はよく晴れているからよく乾くよね!

 部屋の掃除に窓拭き床拭き。綺麗なエヴェリーナ様が歩かれる場所は綺麗でないと!


 昼前には食堂へ行って昼食の準備。今日も美味しそうなものばかり。


 昨日と同じようにヴィル様の近くにはエヴェリーナ様が座られていて、そのお綺麗なお顔で嬉しそうに話し掛けている。

 でも、ヴィル様の反応は昨日とは違った。


 体をエヴェリーナ様へ僅かに向けて、お顔も向けて、エヴェリーナ様のお話をちゃんと聞こうとされている。

 その様子は本当に美しい。美男美女だから、何をしていても様になる。羨ましいとも思えない程に絵になってるね。


 私は昨日のようにカゴに入ったパンを配っている途中で、チラチラと様子を見ながら微笑ましく思っていたの。

 そうしたらまた頭がクラクラしてきちゃった。


 足元もふらつく。力が入らない。と思った瞬間に私はその場で倒れてしまっていた。


 こんな大人数がいる場所でなんたる失態。


 ヴィル様の

「サラサっ!?」

って呼ぶ声が耳に届く。その声を聞きながら私は暗闇へと落ちていく……




 体が暖かい。目覚めると、ヘレンさんがそばにいた。私を心配そうにみている。



「あ、ヘレンさん。えっと、こんにちは?」


「もう! サラサちゃん! こんな時まで! もう「こんばんわ」よ!」


「またそんなに寝ちゃってたかぁー。ごめんなさい、またまた迷惑かけちゃったね」


「そう言うことを言いたいんじゃないの! 分かってるでしょ?!」


「うん。分かってる。ごめんなさい」

 

「ご主人様も凄く心配されていらっしゃったわ。あのね、ここまでサラサちゃんを運んだのはね、ご主人様なのよ?」


「え?! それ本当に?!」


「本当よ! それはそれは格好良かったのよー! 真っ先に駆けつけてね、サラサちゃんをお姫様抱っこしてね、まるで王子様みたいだったのよー!」


「えー! そうされてるのに、私にその記憶がないってどうなのよー! でも嬉しいー!」


「素敵だったわー! 私でもそう思ったもの。サラサちゃんなら腰砕けよー?」


「いや、もう既に腰は砕けてる!」


「ふふふ、そうね! さっきまでね、ヴィル様がついてらしたの。だから魔力をサラサちゃんにかけれなかったの。遅くなってごめんなさいね」


「ううん、ありがとう。ヘレンさんがいてくれて良かった」


「こんな事くらい、どうってことないわよ。でも考えなくちゃね。魔力維持の時間は5時間が限度かしら……」


「そんなの……迷惑でしかないよ……」


「そんな事ありません! ちゃちゃっと魔法かければ良いだけでしょ? 何の苦でもないわよ!」


「うん……ありがとう……」


「そんなに落ち込んだ顔しちゃだめよ! らしくないわ!」


「そうだね。うん、ありがとう、元気になったよ!」


「そうそう、その調子よ! じゃあ、今日はこのまま休んじゃいなさい。私は仕事に戻るから」


「あ、私ももう平気だから……」


「ダメよ。私がご主人様に怒られちゃうわ。良い? 仕事なんかしちゃダメですからね!」


「はい! 分かりました、ヘレンさん!」


「よろしい!」



 そう言うとヘレンさんはニッコリ微笑んでから去って行った。優しい心遣いに涙が出そうになっちゃう。あぁ……心の母よ……


 魔法の効力は5時間か……


 早く魔法回復薬を買いに行かなきゃだな。

 

 



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