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No.8 食欲>性欲

 最近やたらと1Pあたりの文字数が多くて大変申し訳ありません。この前初めて携帯で執筆作業してみたのですが……よ、読むのめんどくせぇ……。これからは文章の長さにも気を配る必要がありそうです。

 今回は閑話的な位置取り。忙しいなら、読み飛ばして全然OKです。

 それから間もなくして、体育館から出てきた女バス部長との交渉が始まった。

「へぇ……定期的に各部活に訪問するんだ。それって平日全部ってこと?」

「いや、俺達の人手の問題もあるから、多分週に一回程度になると思う」

「で、取材の内容を今度の学際で公開……」

「あくまで部活のことに関して。個人的なことは絶対公表しない。レジュメとか広報とか、媒体は分からないけど、完成したら確認してもらうから、そこは安心して」

「分かった。……大会とか合宿には、やっぱりついてくるの?」

「そこは……ごめん、まだ分からない」

 俺にしては、随分と流暢に話せているように見えるが、実際は取材活動の要綱をお互いに見ながら話しているに過ぎない。依頼する側の行為として失格だが、俺に物事を簡潔に説明する能力が無いため、止むを得ない。もう一度穗村に任せようとも考えたが、いくらなんでもそれでは上級生として立場がない。それに、先ほどは大人が相手ということで重圧感があったが、今回は女子とはいえ同年代だ。おまけにクラスメイトということもあり、ある程度緊張は払拭されている。これならいけるかもと思ったのだ。というか、これで出来なかったら、俺は人としての自信をこんなに若くして失うところだった。

「可能なら混じって練習、ボール拾いとかの手伝い、邪魔にならない程度のインタビュー……ざっとまとめると見学って感じなんだ?」

「そうなるかな」

「あー良かった。取材なんていうからずっと質問攻めされるのかと思った」

「それは流石に、そっちに迷惑が掛かるよ」

「そうだね。とすると、そう堅苦しいものでもなさそうか」

 そう言うと女バス部長―――間城さんは要綱を折り畳んだ。

「じゃあ明日にでも、顧問と部員みんなで話し合ってみる。まぁ、これなら反対する人は――――あっ」

 間城さんが言葉を切った。ここで今更何かを思い出したような、そんな感じだった。

「え、何? 何かまずいことが?」

「え、いや、それ程のことでもないんだけど……」

 さっきまでの竹を割ったような口調が一変して、歯切れの悪いものになった。

「あのさ……」

 間城さんは若干俺と距離を詰め、声を抑えた。これはつまり、出来れば人に聞かれたくない話、ということだ。

「さっき、華南に呼ばれて来たんだけど……」

「カナン?」

 しかしまず出てきたのは、聞き覚えの無い固有名詞だった。

「きっと最初に会ったあの人ですよ」

「ああ、あの子」

 さっきまで気を遣って黙ってくれていた穗村の補足で、ようやく合点がいった。

「間城さん、ひょっとしてこれくらいの背で―――」

 自分のあご辺りに手を当てる。

「よく舌が回る女子だったりする?」

「ああ……多分それで合ってる。ていうかそれ、うちの部じゃ華南の代名詞になってるくらいだし」

「なるほど……」

 そんな気がしました。

「で、その子から……何かされなかった?」

「へ? 何か?」

「例えば……物ぶつけられたり、噛み付かれたり、殴る蹴るとか」

 彼女の例えは酷く暴力的だった。

「いや、特にそういうのは」

「ほ、本当に?」

 間城さんはさらに詰め寄ってきた。まるで、本当に予想だにしていなかったように。

 そこまで鬼気迫る表情で言われたら、気軽に答えてしまった身としては、どこか申し訳なく思ってしまう。

「ま、まぁ。強いて言うなら、軽い冗談に付き合わされただけというか……」

「軽い冗談?」

「うちの部に入らないか? みたいなこと言われてさ。他にも、わけの分からないことズラズラと」

 そこまで説明すると、間城さんはさらに疑惑の表情を深めた。「そう、まさかあの子がそんなことを……」という彼女の呟きが、わずかに聞こえた。

「あの、もしかしてそれ不味いことだったり?」

「ううん。そういうことなら何も心配ないの」

 俺が改めて尋ねる頃には、間城さんはすっかり最初の表情を取り戻していた。思わずホッとする。

 何も不都合が無いなら、もう俺たちがここに留まる意味はない。

「それじゃあ返事は後日で。多分明後日にはまた部員が来ると思うから」

「分かった。なるべくいい方向に話を進めてみるから」

「いや、無理しなくていいよ。駄目なら駄目でいいんだから」

「そう言ってもらえると気が楽かな」

 微笑を浮かべてそう答える間城さん。別にその顔が見たくて言ったわけではないのだが、不快に思われていないのならよしとする。

「それじゃあこれで。お邪魔しました」

「練習中、失礼致しました」

 俺と穗村で軽くお辞儀して、その場を離れた。

 そして、しばらく歩いたところで、先ほどの己の立ち振る舞いについて思い返した。

 人と面と向かうときの、あの狂いそうなほどの緊張感は為りを潜めていたおかげで、ある程度流暢に話せた。それに、相手方の質問にも滑らかに答えられた。そして何より、今回は穗村のサポートを一切必要としなかったことが一番大きい。一人だけで成し遂げたのだ。

「陸上部のときとは大違いだ」

 実際に言葉に出すことで、さらに実感が高まる。これなら残りの演劇部と吹奏楽部も、無事乗り切れる。

「そうですね。さっきの先輩はいい感じでした」

 穗村も、その点に関しては素直に褒めてくれた。

 確かに予想外のことはあった。特に最初、あのカナンとかいう部員が絡んできたときはどうしようかと本気で心配になったものだ。しかし、その辺りの考えを改めてみると……

「俺があそこまで緊張しないで話せたのは、あの子のおかげなのかも」

「あの子? ひょっとして最初に会った”カナン”という人のことですか?」

「ああ。ほら、あの子の話を延々と聞かされてただろ。きっとあれで気疲れしたおかげで余計な力が入らなかった、というのもあるかもしれない」

「なるほど。そういう見方もありますねー」

 だとすると感謝してもし足りない。

 最初こそ『変な奴』という印象しかなかったが、決して嫌ったわけではない。むしろああいった気力に満ち満ちたタイプというのは好感が持てる。確かにあんなのの相手をするというのは楽なものではないが……そういう損得勘定抜きで仲良くなりたいと思える、そんな子だった。

 だからこそ気になる。

(何かワケありみたいだったなぁ)

 それは最後の間城さんの言葉だった。「気が楽」。「ありがとう」ではなかった。俺にはこれが、どうにも彼女の本心をそのまま表しているように聞こえてならない。

 ただの杞憂なのかもしれない。だが、もし俺の感じたとおりなら、俺達新聞部が女バス……正確にはカナンと関わるという行為にはなんらかの責任が伴うのではないだろうか。「物を投げたり、殴る蹴る……」とも言っていたのだ。あまりの突拍子の無い表現で、その時はただの冗談だと思っていたのだが、それが実際に起こり得ること、否、過去実際に起こったことなのだとしたら……。

 しかし、いくら考えたところで行き着く答えは、最初から決まっていた。

(結果次第……だな)

 俺達の依頼を受けてくれるなら杞憂だし、断るならそれだけ深刻、近寄らないほうがいいということになる。

 つまりここまでの俺の思想は無駄に終わったということだ。

「先輩」

 呼ばれて顔を上げる。気づけば、既に校舎の中庭まで来ていた。

「ああ、悪い。ぼーっとしてた。それで、どうした?」

「あ、はい。次に備えて、今度こそちゃんと休憩取りましょう、と思いまして」

「休憩? ああ」

 思い出した。女バス訪問前の休憩は、カナン襲来によりその目的を微塵も果たすことなく終わってしまったのだ。飲み物もお預けだったから、喉がちょっと痛い。

「そうだな。じゃあせっかく部室棟まで来たんだし、部室に戻るか」

「いえ。それは遠慮しましょう」

「どうして?」

 首を傾げる。

「……万が一、矢伊原先輩がいたら……」

「罵倒と文句がBGMだね……」

「部長が帰ってきてたら……」

「飲み物が卑語色に染まっちまう」

「そして一番あり得るのは部室に誰もいないという可能性です。狭い空間に男女二人だけという状態ですから……」

「落ち着かねー」

 いろいろと納得した。

「というわけであっちに座って休みましょう。ちょうど近くに自販機ありますし」

 そういって穗村が指差したのは、中庭に一つだけあるベンチだった。確かに今は無人、そしてベンチは二人が座るくらいなら何の問題もない大きさである。

 しかし……

『カップルで使うのが暗黙の了解』

 このローカルルールが俺の判断を曇らせているのだ。

「なぁ穗村、ここを選んだところで、結局男女2人だけの空間になることは変わらないんじゃないか?」

「いえ、ここは部室内と違って屋外です。鍵が掛けられなければ、人を呼ぶのだって簡単です」

「その発言、明らかに俺のセクハラ警戒してるよね!?」

「当たり前です。だって先輩、今精神的に弱った状態なんですから。理性が剥ぎ取られるのなんてそう難しいことではないでしょう」

「人を万年発情期みたいに言うんじゃねぇ! それに俺は理性が無くなったら『おはぎ愛好家』になるだけだ! お前なんか見向きもしねぇよ!」

「おはぎに負けた!? 先輩、それはいくらM気質のない私でも聞き捨てなりませんよ! いくらなんでもおはぎよりは魅力あるはずですよ私!」

「おはぎ馬鹿にすんな! 舌触りのいい餅肌、ほんのり感じる温かさ、そしてかじった瞬間全身を支配するかのような甘ったるさ。全てにおいて、女なんかじゃ比較の対象にすらならねぇよ!」

「そんなだから先輩は小食系とかポークとか言われるんですよ!」

「だから小食関係ねぇって! あとポークには”弱虫”とかいう意味は無いっ!」

「そこまで言うなら試してみましょう。異性よりおはぎをとる先輩なら、私が何しようと欲情しないはずです」

「ほう。やれるもんならやってみろ。だがな、仮にお前が勝ったとしてお前が得るものは何も無いぞ。何故なら、お前の勝ちは俺に貞操を奪われることでしか成立しないんだからな」

「く……まさか、どっちに転んでも先輩に負けは無い!」

「さぁどうした? いつでも掛かってきな。俺がじっくり、おはぎと食べ比べしてやるよ」

「発言がエロオヤジだっ!」

「でもどうせだったらオレンジソーダも一緒に飲みたいな」

「あ、じゃあ私アイスティーで」

「決まりだな」

 しかし恋人同士の真似事をしてみるのも楽しそうだったため、結局穗村の提案を受け入れることにした。

「はー……生き返りますね」

「世のしがらみなんか忘れそうだ」

「明日の補習、ボイコットしちゃいましょうかねー」

「明日の三者面談、仮病で休んじまおうかなぁ」

「ああ……息するのも面倒でしょうがないですよー」

「皮膚呼吸、覚えたいよなぁ」

「光合成が使えたらなぁ……」

「ビックリ超人の道も一歩からってやつだねぇ」

 だるさ全開、怠惰全開の休憩時間は、10分ほどに及んだ。

 凡人の凡人による凡人のための小話、いかがだったでしょうか。……うん、灯君のキャラが若干崩壊しているように見えたのは気のせいです。だって彼は凡人であることが存在意義なのですから。穗村や慶介に感化されてるなんてことは絶対ありえません。

 次回、さらに凡人追加(予定)。少なくとも次回だけは凡人でいてくれるはず……。

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