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No.4 "By the way"の使いすぎには注意

 By the way…「ところで」という接続詞。まったく無関係な話題に切り替えるのには便利ですが、やりすぎるとくどいです。

 それより……やっちまった。

 今回、なんと6千文字オーバー、今までの約2倍の文量です。多分ものすごい長いです。ここにきて設定を一気に明かした感があります。いや、それ以上に灯君、モノローグ長いよ……。

 ついに新レギュラー登場。灯君のモノローグが長い大半の理由は、彼女にあったりなかったり。


 しかしそこにたどり着く前に、通りがかった職員室から出てきた先生が、慶介を呼び止めた。どうやら、今日の部活に顧問が参加出来ないから、今日の分の伝言を頼みたいということらしい。

「はーい、分かりやしたー」

 ちっとも気乗りしない慶介だったが、「ちょうど矢伊原さんも来てるわよ」と先生が言って聞かせたら、

「灯、悪いな! 俺ちょっと、いや、結構遅くなるから!」

「…………ああ」

 まぶしい笑顔を俺に向けて、揚々と職員室に入っていった。

「…………」

 結局、今日も一人で部室へ向かうことになった。

 普通教室のある棟を進むと、上履きのままで通れる外通路がある。そこは教室棟と部室棟をつなぐための通路である。

 途中でこの両棟の間のわずかなスペースに造られた中庭を横切ることになる。当初一体どういった意図の下造られたものかはしらないが、事実として、そこに一つしかないベンチはカップルが使うことと半ばルール化されている。現に今も、幸せそうな男女2人組みが人目に触れにくい場所であることをいいことに……。

(あ、そういやのど渇いたな。帰りにオレンジソーダ買ってこう)

 いや、俺視力いいほうじゃないから、こんな距離からあいつらが何やってるかなんて分かんねぇよ。ただ、ペットボトルのようなものをお互い持っているのだけぼんやり分かった程度だ。

 真っ先に俺の好物が頭に浮かぶ。体の調子的にはほぼ全快だろう。胃もいつの間にか痛みが引いている。

 その2人を結局無視して(というか割って入る理由も度胸もない)、部室棟へと入る。部室棟という名前から誤解が生じるかもしれないが、運動系の部活の部室は体育館近くだったりグラウンド近くがほとんどであるため、この棟にあるのは全て文化系の部活である。大きさにして普通教室6つ分の2階建て。部費によってはエアコン導入も許可されるというのだから、うちほど優遇された文化部もそうないというのが近所、近隣学校の評価である。

 部室棟に入ると真っ先に階段を目指す。2階に移動し、その突き当たりの左側のドア。そこにはプレートが一枚ぶら下がっており、「新聞部」と一言記されている。

 ここが目的地である。

「こんにちはー」

 部室のドアを開ける。

(あれ……?)

 そこで疑問に思ったことがあった。それは部室にいる人数である。この新聞部には、慶介の彼女さん始め、部外者が数人来ることがあるが、しかし……。

 いくらなんでも、20人以上いるのは疑問しかわかない。

 しかも、ほぼ全員がまったく見慣れない男子生徒女子生徒……いや、一度くらいは見たことがある。おそらく彼らは幽霊部員だ。数人ずつのグループを作って、何か神妙な顔で談話しているのも、どこと無く不気味だ。

「なんだなんだ、お祭りでも始まるのか?」

 首をかしげたとき、「慶介だったら『乱交が始まった』とでも言うんだろうなぁ」とか思った俺には、間違いなく人間としての黄昏が近づいてきている……。

「あ、先輩どーもー」

 見知らぬ面々の中から、唯一見知った顔が俺の目の前までやってきた。俺より一回り小柄の女子生徒である。

「おうどーも、穗村」

 穗村理莉。一年にして今年の新聞部新入部員。入部理由も俺たちに漏れず「のんびり出来そうだから」という、俺の同類といって差し支えない人物。なのだが、俺と違ってコミュニケーション能力に欠陥があるわけではない時点で、人間としての出来はこちらのほうが断然上である。

 普段部室では俺と二人でいることが多いため、何かと会話する機会があるわけだがどうにも小ざっぱりとしたやつで、人どころか女子と話すのが苦手な俺が、いつの間にか普通に話せるようになってしまったのだ。

「これは一体?」

 要点を省きまくって穗村に尋ねる。

「あー、これは多分例の新入部員が関係してるんじゃないでしょうか」

 しかし穗村は「これ」だけで俺の意図を察することが出来たようだ。

「矢伊原とかいう? そりゃまたどういうこと」

「矢伊原? ああその新入部員さんのことですね。さっきあの人たちの話を聞いてると、その矢伊原さんという人の名前がしきりに出てくるんですよ。しかも恨みがましい声と表情付で」

「恨み?」

「どうやら、矢伊原さんに脅されるなり文句言われるなりされて、嫌々来たみたいですねー」

「……矢伊原って、そういう奴なのか」

 第一印象からそんな感じはしていたが。

 それにしても考えただけで怖気が走る。だってここにいる幽霊部員は1,2,3年と学年に偏りが無いのだから。おそらく矢伊原は、学年の違いとか一切関係なく脅迫活動に勤しんだのだろう。つまり、万が一俺がサボっていたら、上級生とか関係なく俺を散々貶した挙句ここに引っ張ってこられたのだろう。一体何を言われることになったのか。軽く俺のトラウマの一部になっていた可能性大である。

「あ、それより穗村。これから部活救済措置の説明があるって、ちゃんと連絡網で回ってきた?」

 今更のように、穗村に尋ねる。

「はい。というか、私にそれ回したのって、先輩じゃないっすか」

「そういやそうだったな」

 穗村の「しょうがない」といった感じの言葉に、俺は苦笑で答える。

 昨日、顧問のところへ「密着取材」とやらについての確認を取りに行ったとき、その顧問に言われたのがこれだった。「これは部活救済措置の一環である」と。

 部活救済措置。それは、成績不振、素行不良などの理由から廃部、あるいは同好会などへの格下げの対象となった部活にとある条件を出し、それを満たすことが出来れば不問、今後も部活として続けられるという、この学校特有のシステムである。

 まぁ、あえて明示する必要もないだろうけれど、我が新聞部は、そのうち、来年度の同好会への格下げ対象となっている。

 新聞部と聞けば「スクープ大好き、どこまでも追いかけます」「面白い広報に命賭けてます」「私とカメラは一心同体」といった活発でクレイジーな印象を持つだろうが、うちにはそういった精神は雀の涙ほども無く、定期発行の新聞制作以外は、活動してるんだかしてないんだか怪しいものである。それはもう、活動一日を音楽雑誌を読み耽って終える事だって出来るし、サボって帰ってしまっても何のお咎めも無い(幽霊部員が20名以上いるのはそのせい)。肝心の新聞作りだって、図書室で適当な本、雑誌を見繕って写し書きしている程度に過ぎない。

 こんなやる気のない部活である、学校側から目をつけられてもなんら不思議は無い。

 それじゃあ部活を守るため一肌脱ぐか―――となるのが普通なのだろうけど、うちはそれとはまったく無縁だ。何故なら、新聞部にそこまで固執する部員はうちには一人もいないからである。基本的に参加しているのが、俺と穗村と慶介であとはみんな幽霊部員。穗村は暇つぶし目的で、俺は音楽雑誌を読んでいるだけ。そして肝心の部長である慶介は、他の運動ぶへ助っ人参加する(単に遊んでいるともいう)のが常であるため、部室には全然来ない。

 そもそも、格下げとなるのは来年度からであり、俺たち3年生はその前に卒業するためほとんど関係ない。よって、この残された1年間を相変わらずだらだら過ごして、部活を終えるはずだったのだ。

 矢伊原乃絵が乗り込んでくるまでは。

「何で矢伊原はここまでやる気になったのか」

 矢伊原がこの部活に顔を出したのは昨日が初めてだ。ならば、格下げ対象になっているという事実だって、昨日知ったに過ぎない。たったそれだけの人間が、こんなつまらない部活のために尽力しようとする理由なんて果たしてあるのだろうか。

「そうですよねー。こっちに越してきたばかりで部活のことだって何にも分かってないはずなのに……」

 穗村も、そのあたりは同感である様子だ。

「学校に来て真っ先に新聞部を気に入ったとか?」

「まさか。そんな一目惚れ的な要素がこの部活にあると思います?」

「……だよなー」

 だいたい、彼女が一番最初にこの部室で見たのは、俺が堂々と音楽雑誌を読み耽っている姿だ。惚れる理由がないというか、惚れたらいっそオカルトだ。

「ところで先輩?」

「ん?」

 穗村が改めて言ってきた。

「一目惚れといえば私最近、ご飯を炊くことに興味を持ち始めたんですよ」

「…………うん?」

 今、どこで何がここに繋がった?

「現在は白米と混ぜると合いそうな意外な食材を目下研究中です。卵とかのりとか、そういった定番食材ではなく、誰も試したことにない未踏の地に一足を投じようというのがこの企画の方針なんです。先輩にもそれ関連でいいアイデアがあれば遠慮せず言って下さい」

「え、あ、ああ。思いついたらな」

 研究とか、定番とか、一足を投じるとか訳の分からないことを言われても、俺は唖然とする以外選択肢がない。ないのだが、ある決定的な事柄に気づき、俺は正気に戻った。

「それと穗村、お前があまりにもそれっぽく自信満々に言うからつい見逃しそうになったけど、一足を投じるなんて慣用句この世に存在しねぇよ。自分の足を千切って投げるつもりか。それ言うなら一石を投じるだ」

「一隻を投じる? 馬鹿だなー先輩。いいですか、慣用句って人間の習慣行動が語源となるものが大半なんですよ。一体どこの世界に行けば、船をポイポイ投げまくる習慣なんてものがあるんです?」

「それ以前に、船を投げるとかいう発想そのものがおかしい」

「あ、でもそれはそれで見てみたいものですよね。冬になったら船合戦、親子一緒にキャッチボート、休み時間はクラスメイトとドッジボート」

「うわ、どいつもこいつも気軽に遊べねぇ」

 確実に、片づけが面倒くさそうだ。そして、重傷者続出は、まず免れない。

「そして昨今でも問題になっている船のポイ捨て」

「そんな社会現象だけはまず起こらないだろうよ」

 だって普通の人は、捨てるより先に売るはずだから。数百万もするような代物ただで捨てるとか、この不況でどんなブルジョア精神だよ。

「ポイ捨てってなんだか心ときめくものがありますよね。いつどこで誰に見られてしまうか、そんな非難の目を掻い潜ってまで成し遂げるその行為の先に、一体私は何を発見するんでしょう」

「荒んだ社会と、汚れた自分程度が関の山だと思う」

「ポイ捨て、一度でいいからしてみたい」

「したことないのかよ」

「ええ、残念ながら。私、上月先輩ほどではないけど結構チキンですから」

「そーかい」

 悪かったな、どうせ俺はチキンカイザーですよ。ついでにゴミのポイ捨てだって、一度たりともやったことありませんよ。

「やってみようと日々努力しているんです。でもゴミ一つ落ちてない通路を見ると、つい手に持っているゴミをポケットやバッグの中に押し込んでしまうんですよねー」

「あ、それは分かる」

 というか、それが当たり前である世の中になってほしい。

「おかげで後で荷物見てみたらいろいろ入ってるんです。空き缶とか、ビンとか、ガムの包み紙とか、オムツとかカーペットとか増毛剤とか」

「うん、流石の俺でも、後半あたりのお前の気持ちは分からない」

 こいつ、どう考えてもポイ捨てそのものより、その後の周囲の反応を楽しもうとしている。すっげぇ性質悪い。

「ところでオムライスって、最後にケチャップで装飾するのが一般的じゃないですか」

「……へ、ああ、そう……だね」

「私は思うんです。ケチャップの代わりに、カルピス原液じゃ駄目なのかって」

「気になるならやってみればいいじゃん。俺は絶対嫌だけど」

 というか、何でオムライス? 今それを匂わせるセリフがあったっけ?

(……まさかオムツのオムからオムライスへ……?)

 呆れる以外、俺の取るべき手段は無かった。

 穗村は確かに俺より優れた人間といえる。なのだが……若干、学力について問題ありだ。昨日も、小テストで赤点を取ってしまったため、放課後ずっと居残り補習だったとか。本人曰く、「中学の時、唯一皆出席だった授業は補習です」らしい。よくそれでこの学校受かったな、と常々思う。

 そして何より、言動が極めて突発的であることもまた頭を悩ませる。いきなり理解できない話題を振ってくるかと思えば、次の瞬間にはまた別の話題に移っているなどということは当たり前、今日はまだ大人しいほうだ。これに永遠の5歳児並の誤植が混じっているのだから、話すほうとしてはかなり疲れる。

 それでも、ある程度親しく出来る数少ない後輩であるから、投げ出すなんて真似はしないが。

「―――先輩、聞いてます?」

「え、ああ。聞いてる聞いてる。えと……オムライスとケチャップについてだったよね」

「はい? そんな話しましたっけ? 今はカトリック教徒は断食で死なないのか、という命題について議論しあってたんじゃないですか」

「……そうだったね」

 というか、断食はイスラム教である。根本的な部分からこの命題は破綻していたりする。

「ところで先輩、私はつい最近、クエン酸というものの存在に気がついたのですが」

 今頃かよ。そして俺はもう疲れてきた。

「うぃーす、今戻ったぜー!」

 そんなところでグッドタイミングにも、部室に我らが新聞部部長である明石慶介が入室してきた。ようやく職員室から開放されたみたいだ。

「慶介、一体職員室で何やってたんだ?」

 至極当然の質問をぶつける。

「なんつーか……」

 珍しく歯切れが悪い。

「ほら矢伊原のやつがいろいろ勝手に決めちまっただろ。本来は俺の承諾が真っ先になきゃいけないもんだから……」

「つまりさも最初からお前が承認してたように、今してきたわけか」

 部長もいろいろ大変だ。

「あれ、てことはお前がその話自体を白紙にすることも出来たんじゃないのか?」

 部長が申請するかしないか、を問われていたはずだから。「しない」という選択肢は、確かにあったはずだ。

「う……」

 その指摘に、慶介は何故か気まずそうに目を逸らした。

「お前だって、そこまで新聞部に固執してるようには見えないし。救済措置、受けたいわけじゃないんだろ?」

「いや、だってさ……」

 とても気が進まなさそうに口を開く慶介。嫌なら言わなければいいのに、とも思うが部長の部員に対する責任感のようなものがそうさせるのかもしれない。普段から部室の留守番を俺に任せている、という気負いと、そのせいでこんな事態を招いてしまったという負い目もきっとある。なんだかんだで義理堅い、それが明石慶介という人間なのだ。

「矢伊原ってさ……」

「うん」

「すっげぇ綺麗なんだもん!」

「死ねこの色欲魔!」

 義理堅いなんて言った自分が情けなくなった。

「男ならフツーそうだ。綺麗な女の子の頼みなんか断れないもんだろー。それが正常な反応ってやつだろ?」

「お前が正常だと思ったことなんて、生まれてこの方一度もない」

「人格否定!? え、その域まで俺落ちぶれてる!?」

 ショックを受ける慶介。

「あのー部長。つまりその救済措置、引き受けたってことですよね」

 穗村の助け舟に、

「おう、男らしくズバーッとな!」

 サムアップとウィンクなんて小粋な真似まで付け足す。

『…………』

「へ、あれ? お前ら、なんで俺にそんな熱い視線を送って―――」

『ズバーッとやるなぁぁぁ!』

「おわーーーー!」

 まぁ、その末路は幽霊部員全員によるジェノサイド協奏曲だったのだけれど。皆ここに来るまでの経緯はきっと愉快なものではなかったはず、こんな責任者のぺらぺらした態度を拝めば、そりゃ誰だって癇に障る。

 ちなみに俺と穗村は蚊帳の外、出遅れたとも言う。

「……ひでぇな」

「……壮絶ですね」

「お前ら! 呆然としてないで助けろー! いて、いててて! 殴らないで蹴らないで、引っ張らないで千切ろうとしないで! くそぅてめぇら、おかげでちょっと気持ちよくなってきちまったじゃねぇか! どうしてくれんだちゃんと責任取れぇぇぇ!」

「変態が何か言ってる」

「あーあー聞こえませーーん」(←耳を塞ぎながら)

 叫ぶ慶介は、幽霊部員に囲まれてて手しか見えない。きっと荒波に飲まれる人って、あんな感じなんだな。

 直後―――

 後ろのほうから大きな音が。

 これは、何か硬いものを掌で打ち付けるような、そんな音だ。

 それに反応して振り向いたのは俺と穗村二人のみ。ホワイトボードの横に立っている、見慣れない女子生徒を見て、穗村のほうはただただポカンとしているだけだったが、俺はある種の戦慄を覚えた。

(あれは……間違いない、昨日の……転入生)

 曖昧だったシルエットに色が付いていく感覚。やがてその姿が、目の前にいる女子生徒のものと合致すると、特に意図したわけでもないのに、一つの固有名詞が頭に浮かんだ。



(矢伊原乃絵!)



 ラスボスっぽい登場の仕方ですがラスボスじゃありません。そもそも彼女はヒロインです。

 ちゃんと個別ルートも存在する(かもしれない)ヒロインです。

 いつの間にかデレデレちゃんに生まれ変わる(かもしれない)ヒロインです。


「か、格好いいと思ったのはほんの一瞬だけよ! ……ほんとに、ちょっとだけなんだから……」


 うーむ、私としてもちょっと言わせてみたい気が……。

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