No.3 J以降ってぶっちゃけ化け物でしょう?
サブタイ決定時間2秒。多分これ以上の記録はもう出ないことでしょう。
慶介タイフーン注意報。卑語が嫌いな方は回避して全然オーケーです。ここ、大して重要な話じゃないし。
だがせっかくのおはぎ補正も、昼を経過し、放課後、部活の始まる時間になった頃にはすっかり消え失せ、逆にプレッシャーと倦怠感が綯い交ぜになって自身を蝕む、という状態に陥ってしまったのだった。
「うう……腹がキリキリと痛い……胃炎っぽい」
帰りHRが終わり、ぞろぞろと教室から出て行くクラスメートの中でただ一人、机にぐったりと頭を乗せている男子生徒。それが今現在の上月灯、つまり俺だった。
「なんか、大変そうだな……」
そんな俺を、前の席の椅子に逆向きに座って覗き込む男子生徒が居た。彼こそが、クラスメイト兼新聞部部長、明石慶介である。その慶介が、何を思ったのか俺に耳打ちしてきた。
「……おはぎ」
「洗面器」
「反応がリアルすぎるわっ!」
それを聴いた瞬間、強烈な嘔吐感に襲われ、その通りに言ったら慶介に怒鳴られた。心外も甚だしい。気分悪がっている相手に、普通食べ物の話なんてするだろうか。
「慶介、先行っててくれ。俺はもうちょっと気分落ち着けてから行く」
「ああ、そのほうがよさそーだな」
慶介は頷いた。
「…………」
明石慶介という人間は、学業成績も運動神経も学年トップクラス、気さくで大らかな性格もあり人望も厚い。容姿も爽やかでまさに好青年、周りの女子だって彼をほうっては置かないくらいだろう。
はっきり言って、俺とは正反対、格の違う人間。何故俺なんかと仲良くなってくれたのか理由が思い当たらない。否、当たらなかった。
……こいつの本質を目の当たりにするまでは。
「そういえば昨日の電話のことなんだけど」
「……ん〜?」
気だるげに、慶介に視線を向ける。そうしてやつから出てきた言葉はとんでもないものだった。
「俺、やっぱりどっちも同じくらい大好きだ!」
「……どっちもって、何と何?」
「でかいのも、ちっちゃいのも。熟したのも青いのも。俺にはどっちかを選ぶなんてこと、出来ねぇ!」
「…………」
これが、本当はくだものの話であると信じたいところだが、残念なことに昨夜はくだものの話なんてした覚えが無い。
「昨日はつい晴菜をちらつかされて体裁を気にしちまったけど、俺、やっぱり自分に嘘をつくのは間違ってるって気づいたんだ。久しぶりに幼性シリーズのDVDを再生してみてようやく!」
「あれ、シリーズものだったのかよ」
「おう、今度お前にも貸すからな!」
「謹んでお断りします」
人間の底辺みたいな俺だが、流石にそれ以上堕ちるのは死んでも嫌だ。
「一度くらい見てみろよ、どうせ減るもんじゃないんだし」
減ると思う。社会適応度と、人間としての信頼度が。
「嵌ったら抜けられねぇぜ。いや、抜けっぱなしっていうべきか?」
俺の前で下ネタ吐くんじゃねぇ。
「何がたまらねぇかって、何といってもあのプニプニ感だな。ほら、小さい子のほっぺって柔らかそうでつい触りたくなるってあるだろ? それが全身に対してそうなんだぜ」
「慶介、頼むからもう止めろ」
俺のために、お前の社会的地位のために。そして何より、世の男性が保育園に近寄っただけで逮捕される、なんていう理不尽なことのない将来を作るために。俺が優江を保育園まで迎えに行けなくなっちまう。
「ああ、思い出したらまた見たくなってきた。よし、今日は帰ったらシリーズ最新巻『幼性カーニバル(謝肉祭)』を見ながら―――」
「さぁ、今日も張り切って部活行こうぜ」
「ぐむ、む〜〜!」
これ以上声を大きくされてはたまらないので、片手で慶介の鼻と口を塞ぎ、もう片方の手で鞄を持って席を立った。この際腹が痛いとか、胃炎っぽいとか言ってる場合じゃねぇ。
「久々に真面目に活動するからなー。気張って行かないと」
「む、む、ぐーー…………」
教室を後にし、廊下をある程度歩いたところで慶介が大人しくなったのを見計らって、慶介を解放してやった。
理由はさっぱりだが、慶介は俺と話しているとき、唐突に壊れだす。しかも卑猥な単語をまくし立てるという壊れ方であるから手に負えない。俺も最初これを目の当たりにしたときは、驚きのあまり全身を硬直させてしまったものだ。そしてさらに厄介なことに、慶介のそんな発言の大半は本音で出来ているところだ。多分青い果実発言とか、プニプニ感とかのくだりは正真正銘本心だ。キラキラと輝かしい笑顔で語っていたから。
「―――っはぁ! はぁ!」
心底苦しそうに荒呼吸を繰り返し、少し落ち着いたところで慶介は俺をキッと睨み付けた。
「いきなり何するんだよ灯!」
「悪かった。でもあれ以上しゃべったらお前いい加減クラスから見放される―――」
「苦しさのあまり、俺の如意棒が伸びちまったじゃねーか!」
「欲情!? 嘘だろ!?」
「嘘じゃねーよ! なんなら直に見てみるか!?」
「こら、ベルトに手をかけるんじゃねぇ!」
落ち着いたと思ったのに、逆にヒートアップした模様だ。
「この野郎どうしてくれんだよ、俺が鼻と口を塞がれるのが好きになっちまったら!」
「なるわけないだろ」
「いいや、お前は知らないんだ。世の中にはそういうマニアックを好むやつだっているんだ!」
「俺を説得したいなら一般レベルでものを言え」
マニアック。それはいかなる超常現象をも肯定する魔法の言葉。引き合いに出すのは反則だ。
というかこれ、学校の廊下でする会話の内容として、著しく間違っている。周りが見ず知らずの生徒なだけに、余計に怪奇な印象を与えかねない。
「まぁそれはともかくとして」
俺はこの危険な会話を脱することを決めた。同時に、いい加減部室へ歩を進めることにした。男同士で立ち止まりながら話すというのも、どこか不自然で居心地が悪い。慶介もそれに倣って隣を歩く。
「お前昼休み職員室に呼ばれてただろ。あれって、部活関係か?」
「おう、まぁな。何だ、主に性関連の生活指導を受けてたとでも―――」
「そーかそーか。で、何話してたんだ?」
「あ、うん。ごめんなさい……反省してます。だからどうかその指引っ込めてください、眼球潰れます……」
危うく、再び禁忌の領域に引き戻されるところだった。
慶介は今度こそ真面目に、俺の質問に応じてくれた。
「基本的には昨日お前が言ってたことと同じことだ。一応確認しときたかったんだろーな。で、それだけじゃ退屈だったから、例の矢伊原って女子のこと根掘り葉掘り聞き出してた」
「矢伊原について?」
「おう。矢伊原乃絵。本日付けで我が見影高校に転入。ちなみにクラスは2年5組。親の転勤でこっちに引っ越してきた。あと数分と立たないうちに隠れファンクラブを結成させちまうほどの絶世美少女らしいぜ。俺も早く会いてぇ!」
これで真面目に答えているつもりなのが、明石慶介という人間の本質だ。というか、その情報源、うちの顧問だよな。あの人、何でそんな隠れファンのことまで知ってるんだろう……彼女の周りを注意深く観察してなきゃ、まず分からないぞ。だが、それをわざわざ聞くのも馬鹿馬鹿しいので、まったく別のことに反応してみせた。
「へぇ……あいつ2年だったんだ」
「なんだ、そう見えなかったのか?」
「とんでもない威圧感だったから、つい年上に見えた」
もっとも、それは俺に相当のびびりが入っていたからに過ぎないのだが。その証拠に、そもそも俺より年上の制服女子なんて、学校にいるはずがない。だって俺が最高学年なんだから。
「へぇ……大人の魅力たっぷりの年下タイプか。なぁ、やっぱりSかMかで言ったらSだよな、そう思うよな?」
「顔も知らない相手を、卑猥なアルファベットでカテゴライズするのは止めろ」
「どう考えてもMはあり得ねぇもんなぁ」
しかも聞いてないし。
「S、Mといえば、俺最近Mサイズだとブカブカ、Sサイズだと窮屈だから、服選びに結構悩んでるんだよな。なぁ慶介、お前だったらどっちのサイズに寄ったほうがいいと思う?」
「―――へ、サイズ? そうだな……Mのほうがいいんじゃねーか? 新品の服できついのはいけねーよ」
「だよな」
無事、卑猥ルートへの驀進を防ぐことに成功したのだった。
「ちなみに、俺はAからZまで、全部大歓迎だぜ!」
「…………」
防ぎきれていなかった。
(……このグダグダ、いつまで続くんだ?)
もっとも、これから待ち受けるであろう苦痛を前にしている身としては、こういう気の抜けたやり取りはありがたいものなのだが。
―――部室は、どんどん近づいてくる―――
二人しか出て来てない……。学校の中だというのになんとも閉塞的なお話だこと。
正直な話、慶介君はわりと気に入ってます。動かしやすいことこの上ない。
次回新レギュラー登場。