No.19 ハサミ? あります!
携帯とPC両方駆使して執筆に励む、そんな癖がつきました。ちょっと加筆したいことを、すぐに携帯で実行できるのは素直に感動しましたね(ログインは非常に面倒ですが……)。でも、書けないときはちっとも書けない。
今回は執筆期間10日間以上を費やした部分です。もう書いては消して、消しては書いて……一体何回繰り返したことか……。
目の前の人物曰く、「いきなり崎本先輩という人に、担当を代わってくれと泣き付かれたのです。それはもう、真っ赤に腫れ上がった顔も、泣き崩れる先輩のアクションもまとめて痛そ~なことこの上なかったですね。それを見て私はつい同情してしまって、二つ返事で引き受けたという次第です」らしい。
というわけで、俺と一緒に女バスへと乗り込むのは穗村となった。
俺達でここに至るまでの経緯を軽く照らし合わせ、一体女バスはどんな魔窟と化しているのか、顔を真っ青にしながら想像しあって、ようやく落ち着いたのがついさっきのことである。
そして、
「……それでは先輩、覚悟はいいですか?」
「……ああ。そういうお前はどうなんだ、穗村?」
「心配御無用。当たって砕けろのスピッツです」
「……ある意味見習いたい精神だな」
いよいよ体育館に乗り込むときが来た。ちなみに、体育館のローテーションは既に把握済みだ。入ってみて「女バスが居ない!」なんて間抜けなオチにはならない。
心配事は己の命以外何もない。
惜しいものも己の命以外何もない。
「……逝くぞ」
「ええ、逝きましょう」
俺達は腹を括った。……同時に首まで括った気がするのは、ただの思い違いだと心から信じたい。
体育館の固く閉ざされた扉を開く。
「こんにちわー! 新聞部でーす」
「誰かいませんかー?」
フロアの大人数分におよぶ喧騒と、ボールをつく音に掻き消されないよう腹から精一杯声を出す。崎本君曰く「代わりの部員が来ることはちゃんと伝えてある」らしいため、そこまで遠慮する必要はなかった。
そうして待つこと数秒、
「はーい、お待ちしてましたー!」
女バス部員の一人と思しき体操服姿の少女が、こちらに駆け寄ってきた。
「あ……」
「あ……あなたは」
俺と穗村は目を丸くした。よく見てみればあのときの女子部員だったのだ。確か女バス部長間城さんが「カナン」と呼んでいた女子。
「おおっとぉぉ!?」
こちらに駆け寄ってくる最中、何故か芝居がかった口調と共に、進行方向とは逆方向へ飛びのくという器用な真似を、女子部員は俺達に披露してくれた。慣性の法則に逆らった運動である、きっと半端ではない筋力を要求されることだろう……いや、こんなところで貴重な運動量無駄遣いするなよ。
「ここで会ったが百年目!」
ビシーッと、俺達を指差す。
……さて、”来る”ぞ。
「何ですかお二人とも、鳩が豆鉄砲食らったような顔をして。別に百年目とはいってもそれは実経過時間のことではなく、”なんか軽く百年くらい経った気がするなぁ~腰も痛くなったし、歩くのもだるくなってきたし……あ、それとついでに久しぶり! 調子どう?”といった感覚的経過時間の百年ですので、私がまさかこう見えて百歳を越しているなんてことも、皆様方がいつの間にか百年も歳を取ったなどというアンビリーバブルも一切介在していませんので、どうかご安心ください。我々は某童話とは一切無関係の団体にございます」
「いや、そこを疑った覚えはないよ」
「つまり皆さんと再会できる日を一日千秋の思いでお待ちしておりましたという意味です。英国的な表現に言い換えるなら”いつだってウェルカム”です」
「英国的と言いながら日本語を混ぜるなよ」
予想通り、半分くらい意図が掴めない彼女の講釈に、呆然とする以外手段がない俺達。
いや、意味不明なことは別にいい。もう俺も穂村も二度目だから驚かないし、『嗚呼、こういうこともあるさ』と諦めてもいる。ただ、入り口前に立たされたまま頷きトリオの真似事はしたくない。少なくともさっさと体育館に入れてほしい。これじゃあ周りには俺達が説教くらってるみたいに見えてしまう。こちらには全くといっていいほど落ち度がないのだから、余計に居心地が悪い。
「あのーそれで、自分達は体育館に入っていいのでしょうか?」
穂村も同じことを考えたのだろう、女子部員に先を促した。
少女が頷く。
「勿論です。我々女子バスケット部は皆様方と再会できるのを一日千秋の思いで―――」
「うん、分かった。俺達も会えて嬉しいよ」
「そうでしょうそうでしょう」
そして、まさか同じセリフを繰り返そうとしていた。これ、多分放っておいたら無限ループに陥いっていたのではなかろうか……危ねぇ。
「それでは二名様、ご案内でーす! おタバコはお吸いになられますかー?」
「未成年だよっ!」
「ご指名はー?」
「だから未成年だって! 俺もあんたも!」
「未成年などという括りは表社会でしか通用しません。裏では最低何歳くらいの女性が接客業に勤しんでいると思っていますか?」
「知らないし知りたくもねぇしそもそも知る知らないで討論してた覚えもねぇよ!」
「いけませんねー社会情勢を身に付けるということは己の身を守ることにも繋がるんですよ? ワンクリック詐欺というものをご存知ですか?」
「なめるなよ。要はそこで、請求の電話がかかってきてもそれは正規の契約が成立していないから、専門家に相談して解消してもらえるってことを言いたいんだろ?」
「いえ、その専門家さんが実は裏業者に買収されていたら被害者は袋小路になってしまう、ということを言いたかったのです」
「随分酷いこと考えるんだな! じゃあそうなったら被害者はどうするんだよ!」
「最悪の場合心の中にドナーカードを作ることになったりならなかったり―――」
「バッドエンドを語るんじゃねぇよ! 話の流れからその被害者が助かる方法を教えろって言ってるのが、な! ん! で! 分かんねーんだよぉっ!」
「先輩、熱くなりすぎです。抑えて抑えて。はい、深呼吸」
「む…………」
突発的に言われて、反射的に息を大きく吸う。
そして吐き出して気づいた。
「穗村、今の俺の発言は、全国のドナー会員に至極失礼なものだったのでは?」
「はい、もう一度深呼吸!」
「む…………」
突発的に言われて、反射的に息を大きく吸う。
そして吐き出して気づいた。
「穗村、ドナーってドナドナと何処かで繋がってそうな気がするんだけど―――」
「わざとですかっ!? というかわざとでしょこれっ! それ以上抜けたこと言うならもう一度深呼吸させましょうか!?」
「嫌だ、息吸いすぎて喉が疲れた」
これは正真正銘俺の本音であるから、ここいらで思考を現実に戻すことにする。
「そうだ、いつまでもこんなところに突っ立ってられない」
「やっと分かりましたか―――」
「そのためにも早くあの門番を倒さないと」
「門番違う! あれただの一般市民!」
「分かってるって。今のはこの場を和ますジョークジョーク」
「分かりました。じゃあ先輩、こんな元々緩みきった空気をさらに和ます必要があったのかは敢えて聞かないであげますから、たった今瞬時に出てきたそのハサミは何に使うつもりだったのかだけ、サクッと話してもらいましょうか」
穗村が戦慄の眼差しで凝視するのは、俺の右手に握られているハサミ。
「これ? だからちょっとしたジョークだって。はははは…………そういえば、ちゃんと消したっけ……」
「誰を!?」
慶介が撮った画像だけど?
「まぁ、要するに早く話をつけちまおうぜってことだよ」
「その結論に到達するまで、一体どれだけ迂回すれば気が済むんですか……」
ようやく俺と穗村が落ち着いたところで、改めて女子部員に視線を向ける。
「じゃあ君、俺達体育館に入っていいかい?」
「勿論です。我々女子バスケ部は皆様と再会できるのを一日千しゅ―――」
「は! い! る! ね!」
「―――え、あ、はい。それではご案内しまーす。おタバコはお吸いに―――」
「だあぁぁぁぁぁーー!」
今頃気づいた。
何で俺達、こいつが出てきた時点で別の人を呼ばなかったのだろう……。
しばらく更新速度亀状態が続くと思います。だって次話の時点でデリート回数が5回に上っているんですから……書きたいものを書く、書かなくていいことは書かない、というのは実は相当難しいものなんだなと、最近ようやく実感してまいりました。