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No.15 ”PV祭典”のアレです

 途中○が大量発生します。規制は入れなくてもいいのかもしれませんが、このほうが気分が乗るのです、私は。

 またもや灯君が暴走気味。前回の憂さ晴らしを企んでいるように見えるのは、多分気のせいです。

 部室に来る途中の校内放送曰く、

『2年5組明石慶介君。部活動について話があります。至急職員室まで来て下さい』

 である。

 というわけで、今日もまた、部室のドアは俺一人だけで開けることになった。

「ちわーす」

 部室の中に入ったところで、俺はいつもとの相違点を発見した。部屋の一角にある教員用デスクに座って、ペンを走らせている男子生徒の姿がそこにあったのだ。

 学ランのカラーの色から、彼が2年生、つまり俺より一つ下であることが分かるが、それにしてはあどけなさといえるものが全くない。

「…………」

 彼は無言だった。それどころか、入ってきた俺に見向きもしなかった。

 内気な性格なのか、と一瞬思ったがそうでもなさそうである。

 彼の第一印象を一言で表すとしたら「刃」だろうか。表情に喜怒哀楽と呼べるものは微塵も張り付いておらず、どころか何事にも無関心であるかのようにすら見える。その姿は人が近付くことを拒んでいるようにも見え、まるでいつでも周囲に牙を剥いている、そんな感じだ。まさに、常に刃を首筋に突きつけられるような感覚。怒りより暴力より、無のほうが恐怖の度合いが濃いのだと、改めて実感した瞬間だった。

 だが、俺は彼から距離を取ろうという気にならなかった。それは、俺が彼の素性を知っていることに関係する。

 確か……

「ええと、迫神君っだったよね」

「はい。こんにちは、上月先輩」

 そう尋ねたら、意外にも彼は応えてくれた。

「あ、うん」

 どうやら俺の記憶に相違はなさそうだ。

 迫神航さこがみこう。体験入部期間中すら一度だって顔を出さず、唯一歓迎会に参加して、以降一度もこの部室に現れることのなかった生徒。幽霊部員の一人である。つまり俺が彼を見たのはわずか一度である。ほとんどの幽霊部員の名と顔を忘れていたにも関わらず彼に限って覚えていたのは、きっとこの、普通とは違う雰囲気が印象的だったからだろう。そして、彼のほうもまた一度しか聞いたことがないであろう俺の名前をしっかり覚えていた。確かに社交的ではないが、他人への礼儀と呼べるものはしっかりしているようだ。

 それにしても気の毒である。

「まさか今日に限って来るなんて……」

 部室の隅に重ねられている椅子を引っ張り出して座り、俺は彼にそう言った。

「すみません」

 唐突に迫神君は謝罪を述べた。きっと俺の言葉が責め句のように彼には聞こえたのだろう。すぐさま言い直す。

「いや、責めてるんじゃないんだ。ただ、よりによってこんな面倒な時期に来るなんて、君も運がないなぁって」

「運が無いのなんか今更です。それに、こんな時期だからこそですよ」

「はは、まさか俺と同じようなこと言う奴がいるなんて―――ん?」

 言いかけて、彼の言い回しに違和感を感じた。”だからこそ”? ということは……

「ひょっとして、今の新聞部の状況、知ってる?」

「ええ、一通りは」

「じゃあ知っててわざわざここに来たって事? それこそ一体どうして?」

「…………」

 そう尋ねたとき、彼のペンを動かす手が止まった。そして、その表情には苛立ちが浮かび上がっていた。まさに、「思い出しただけで腹が立つ」とでも言わんばかりだった。そして数刻の後、彼はその固く結んだ口を開いた。

「……あの野郎と同じクラスでして」

「? あの野郎? それって―――」

「あの野郎、です」

「…………」

 それだけで、迫神君が誰を指しているのか分かってしまった。

 矢伊原乃絵。彼女以外にありえない。

「ああ」

 同時に、彼の経緯も察することが出来た。

「つまり、最初は自分が新聞部であることを隠してたけど、それが今朝になって即刻でバレて、それでも必死でかわしていたけどついには彼女の脅迫に折れて、結局こうして手伝う羽目になってしまった……と、こんな感じ?」

「その通りです。失礼ながら『ストーカーですか?』と聞きたくなるくらい間違いがなさ過ぎです」

「俺だったらそうするかな、と思って」

「ということは先輩も?」

「いや。俺は普通に部室にいるところを訪ねられた。転入手続きを終えて直後のことだったらしいよ」

「……随分と破天荒な野郎に目をつけられましたね、俺達」

「はは……」

 今分かったことだが、迫神君が矢伊原のことを「あの野郎」とか言うときの声にだけ刺々しさが混じっている。どうやら、彼は矢伊原のことを快く思っていないみたいだ。少なくとも、「無理矢理つれてこられた」ということ以外にも彼女を気に入らない理由があることは間違いではないだろう。

(それにしても……)

 彼は終始表情を変えることはなかった。口調だって淡々としている。なのだが、こうも話が弾んでしまうのはどうしてなのだろう。

「それは宿題?」

 教員用デスクに積まれた紙の束を見て、俺は彼に尋ねた。

「いえ、違います」

「じゃあ何? 結構な量みたいだけど……」

「見ますか? というか見たほうが早いです」

 言われて、迫神君の手元にあるプリントを覗き込む。すると、言われたとおりすぐに分かった。

「これは―――」

「ほぅほぅ、学際にかかる予算を出しているみたいですねぇ」

 ……俺の真横になんかいる。

「……上月先輩、そいつ誰ですか?」

「今年の新入部員、穗村っていうんだ。そして穗村、来たなら来たとちゃんと言ってくれ。条件反射で裏拳が炸裂しちまうとこだったぞ」

「いやーすみません。一度でいいから、気づかれないように人の背後まで近寄ってみたいと常日頃思っていまして、つい」

「相も変わらずくだらないことに情熱を注ぐ奴だね、お前は」

 先を越されたが、その通り、それは学際時の予算申請の書類らしい。部活一つ当たり、クラス一つ当たりに割り振れる予算額、それらとは別で用意することになる装飾品の費用、その他雑貨……また、それらを余らせて有名人をゲストに招こうという試みもあるようだ。

「とすると……迫神君って、生徒会役員?」

「はい、不本意ながら」

「意外だなぁ。とてもそんなキャラには見えない」

「HRサボってたらいつの間にかこんなことに」

「驚くくらいキャラ通りの経緯だっ」

「言うと思いました」

 なるほど……他とは違い、これは幽霊部員となってしまった正当な理由だ。

「失礼かもしれませんが、新聞部は何の仕事もない楽な部だと聞きまして……入部はそれが動機です」

「いや、失礼なんてとんでもない。俺だって、この穗村だって同じ動機だよ。というか、俺達以外皆幽霊部員という時点で、真面目な理由で入った奴なんていないよ」

「それもそうですね」

 今まで聞いた中で、もっとも柔らかい口調だった。少なくとも俺を煩わしく思ってはいない、と受け取って良いかもしれない。

 俺はさらに続ける。

「折角新聞部に入ってのんびり出来るってところで、生徒会役員なんかにされて。忙しいったらないでしょ?」

「ええ。うちに帰って仕事を片付けなければならないほどです。もっとも、あまりに腹が立つので、そういう雑務は全部授業中にやると心に決めていますが」

「おお、すげぇ。なんか格好良いね」

「俺を役員に推薦した奴の名前、教えられなくて良かったです。きっと全身全霊かけて恨みの念を送り続けていたことでしょう」

「怖いことをさらっと言うね! 俺にはとても真似できない」

「いえ、真似されても困るんですが……」

 話せば話すほど、彼の思想の端々は俺と類似しているということに気づき、なんだか楽しくなってくる。

「あの!」

 さっきまで大人しくしていて痺れを切らしたのだろう、穗村が俺の半歩前に出た。彼女の視線は迫神君を捉えていた。

「生徒会の人ということは、ゲストに誰を呼ぶのか決められるんですよね!」

「……まぁ提案ぐらいはするが」

 迫神君のその答え方には、「そんなに強い決定権はない」という意も含まれていた。

「そこで一つお願いがあるんですが」

 それを知ってか知らずか、穗村はこんな要求をした。

「今年のゲストは高橋正○さんにしてもらうことって出来ますかね?」

「…………」

「あ、ズ○さんで名が通っていて、ジー○ン先生とも呼ばれていたラジオDJさんです」

「いや、知らないから絶句してたわけじゃない……」

 迫神君は、俺がどこかで言ったようなセリフを吐いて、項垂れた。

 ……いや、俺だって疑問でしょうがない。その人物名はともかく静○県民でもないお前が、なんでそんなローカル番組の存在を知ってるんだ?

 代わりに俺が穗村に応対する。

「穗村、それはつまり放送室にお招きするってことなのか? それだと、普通にラジオ聞くのと大差ないぞ」

「まさか、せっかく学際に呼ぶんです。体育館ステージに立って、全校生徒相手にライブパフォーマンスしていただくに決まってるじゃないですか」

「それ、ラジオDJに要求するには無理ありすぎだろっ! というか、何故ステージに立つという発想から、劇団とかミュージシャンとかじゃなく、真っ先にラジオDJが出て来るんだよっ!」

「そんなにズ○さんは反対ですか?」

「ズ○さんに反対じゃなくて、お前の意見に反対なんだよ!」

「分かりました。ならば、山田○さしさんはどうですか? こちらも知名度は負けません」

「だからなんでお前はラジオDJから離れられないんだよっ! いくらや○さんでも、一人でステージ丸々一個はきついってさっきから言ってんじゃねぇか」

「まさか先輩ともあろう者がM○Aをご存じないのですか? ブドウ館で何万人という観衆を、見事なトーク力で盛り上げていたじゃないですか」

「お前ブドウ館の潤沢な設備とうちのボロっちい体育館を一緒にするなよ! それと俺を馬鹿にするな、M○Aなんて一般常識だろうが! 自慢じゃないが俺はゴゴ○チのときからあの人の存在を知ってるよ! 理事長と聞いたってピンとこないような奴が、俺に喧嘩売るなんて10年早い」

「上月先輩。M○Aは多分一般常識には含まれないかと……」

「ところで先輩」

 ようやく顔を上げてつぶやく迫神君を遮り、穗村はお家芸「バイザウェイ」を使った。

「……なんだよ」

 俺が応えると、穗村は迫神君の方へ手の平を上に向け、こう言った。

「どちら様ですか?」

「今更かよっ」

 我が唯一の後輩は、やるべきことの順序が倒錯していた。


 最後のレギュラー、迫神君のお披露目!

 ……のはずなのに完全に穗村に食われてますね。やはり寡黙な性格は損なのでしょうか。

 個人的にはこういうタイプ、好きだったりします。突き放して見ているようで実は思慮深い。普段から怒っているように見えて実は寛容な心の持ち主。慶介君とは違う意味で「出来た人間」ですね。

 人によっては不快に思えるキャラかもしれませんが、精一杯の愛情を注いでいく所存です(……だってこのキャラ、別作の主人公そのものだし……)。

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