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No.11 やっぱり本作は一人称でよかった

気づけば総アクセス数200突破していました。200……何回か閲覧して下さっている方がいると考えても、少なくとも20人以上がアクセスしていることになるのでしょうか?

 読者さんの反応、そろそろ気になりますね……。

 なにはともあれ、ありがとうございます。


「明音ちゃん。夏休みって予定ある?」

「…………」

「母さん達も話してたんだけど、今度皆で水族館行くってさ。それで、都合のいい日を聞いて来いって言われたんだけど―――」

「…………灯くん」

「―――まぁ強制じゃないから自分の都合を……え、何?」

「あんまり、話しかけてこないで」

「…………」


 思い出した。

 そうだ。これがスイッチだった。


「―――先輩っ」

「―――っ! え、ああ」

 突然、耳元で穗村の呼び声がした。いや、突然ではない。何故なら、2人で話し込んでいる途中で、俺が勝手に物思いに耽っていただけのことだから。

「結局、次はどうするんです?」

「そうだな。じゃあ穗村、音楽室行く前に女バスと演劇部の顧問探そうか」

「そのほうが良さそうですね」

 次の吹奏楽部を目指す途中で気づいたことがあった。いくらなんでも、顧問が知らないところで勝手に話が進むというのは問題があるだろう、ということに。特に演劇部。あの調子だと、きっと顧問に一切話が通らないまま決まってしまいそうだった。

(遠藤さん……か。なんか、久しぶりに会ったから幼馴染って感じ、しなかったな)

 多少の気まずさはあると覚悟していたが、そういったものはまるでなかった。一見喜ばしいことのように思えるが、それはつまりお互い過去のことに無頓着になり過ぎているということでもある。仲良く過ごしていた時間を無効にされたような、そんな寂しさがあるのだ。

 こういうとき慶介なら……いや、俺以外の人間だったらどんなことを話していたのだろう。昔を懐かしむようなことを話しただろうか。これから改めて仲良くやっていこう、といったことを話しただろうか。そもそも、あのときの俺の応対は、正しかったのだろうか。

 少なくとも、ベストじゃなかったことは確かだ。

(遠藤さん……立派になったよな)

 俺と関わりがなくなった後の彼女が、どういう風に生きてきたのかは窺い知れない。だが、結果として、あんなに綺麗になり、まるで生徒、ゆくゆくは人間の模範のような人になっていた。憧れの的であり、尊敬の的。俺がいなくてもこうなった。いや、むしろ俺がいなかったからこうなれた。そんな彼女の物語に、今更俺なんかを交わらせる必要が果たしてあるのだろうか。

 やはりあの頃のように、という願望は持っているだけ無駄なのだろうか。

 過去を見限り現実と未来を見る。それが人間の成長ということなのだろうか。

「…………」

 相変わらず未来とか、将来とかいうものが上手く見えない。

(だったら今のことだけ考えよう)

 そのほうが楽だし。

 こうして、またもや問題を先送りにしつつ、俺たちは女バスと演劇部の顧問の下へと進める歩を、強めるのだった。

 

 が――――

「上月君か。どうした?」

「あ、ええと…………」

「部活関係かい?」

「そう、なんです。それでですね……いいでしょうか?」

「? 何が?」

「ぅ…………」

「先輩ほらほら。ツークール、ツークール!」

「……穗村、多分そのクールは意味が違う……」

 先生相手では結局まともに話せないんだった、と今更思い出すのであった。


 …………


「じゃあ廊下で話そう。穗村行くぞ」

「はーい」

(…………)

 久々に顔を合わせた上月灯は、中学時代と違って少し明るくなっていた。

 遠藤明音が11歳になってしばらくした頃だろうか、お互いの交流が途切れてから、灯は一人でいる時間が圧倒的に多くなった。元々の消極的な性格が災いして、小学校中学校と、自身への風当たりは相当強かったらしく、日を追う毎に彼の顔から生気が抜け落ちていく様がよく観察できた。おそらく、彼の抱える極度の上がり症はこれが要因となっているはずだ。彼の上がり症は、それというよりむしろ対人恐怖症の類にまで及んでいるのだから。

 高校に上がってからは、クラスに馴染んでいるらしく、ようやく友人も出来たらしい。

「その子も同じ新聞部?」

「あ、はい。初めまして。今年新しく新聞部に入部した1年の穗村と申します。以後お見知りおきを」

「うん。よろしく」

 そして、とうとう良い後輩にも恵まれたらしい。先ほどの「穗村行くぞ」「はーい」というやり取りからだけでも分かるように、彼らの間には親しみというものが培われていた。特に灯のほうは、穗村に声をかけること自体を楽しんでいるみたいだ。

 その通り言うと灯は「そ、そうかな……」と謙遜した反応を見せたが、否定はしないのできっと図星で間違いない。

「良かった」

「え?」

「友達出来なくて、困ってたから」

 無意識に口に出して、明音は後悔した。何を達観したようなセリフを吐いているのだろう。あの時クラスで、それが無理でもせめて家にいるときぐらい話が出来れば、彼はもっと違った心持ちで小中学校を過ごせたはずだ。おそらく「君が無視しなければ良かったんだ」と言われても当然だろうし、自分でもその通りだと思っている。

「はは。今だって少ないほうだけど、気軽に話せる人は多くなったよ。クラスの連中は皆人間が出来てるからね。だからそう気にするものでもないって」

 自分の言葉に気を悪くしたわけはないらしく、灯は微笑混じりに答えてくれた。そこにはあくまで、「全部俺の責任だよ」という意味が込められている。素で思っているのか、気を遣っているのか。少なくとも「優しい人」と認識するには十分過ぎた。

「……それならいい」

 なんだか言ってみて、これでも上から目線に思えてしょうがなかった。自分にはそんなつもりは無いのに。どうしても純粋に安心したという意が伝えられない。彼にはちゃんと届いているだろうか。

「そ、そうだ。遠藤さんこれ。部活のことなんだけど」

 しかし何故か、灯はそのあたりには触れず、話を部活のことにシフトさせた。少し狼狽も読み取れた気がするのだが、一体どうしたのだろう?

 それからしばらく、灯との会話が続いた。

 内容そのものは極めて事務的なものだったが、それでも久々に彼の声を正面から聞けて、何故か無性に嬉しかった。

 話そのものは要約すると、週に一回くらい練習参加を兼ねた取材活動。見学という例えが相応しいものである。

 ここの担当は、新聞部員数の関係から灯が固定ではないらしい。最初に顔を出したからまさか、と思ったのだが……。

「ありがと。俺の用はこんなところかな」

 と、いつの間にか彼との会話に終わりが近づいていた。

(もうちょっと……)

 話し足りなかった。

 6年間の溝は、こんなものでは埋められない。

 ここで終わるのは味気なさ過ぎる。

「あ、他に何か聞きたいことある?」

 渡りに船と、明音は反射的に尋ねた。

「それは全部の部活が参加しなければならないこと?」

「え……」

 しまった、と後悔したときにはもう遅かった。これでは「うちも応じなきゃいけないの?」と難色を示しているようにしか聞こえない。事実、その言葉に灯は落ち込みを隠せていない。

「いいや、無理だったら断っていい。そんな強い権限がうちにあるわけもないんだし」

「じゃあ断ったところも?」

「うーん、他の部員の担当については知らないからなんとも言えないかな。あ、でも俺たちの担当だと、一つ了承、一つ保留だね」 

 しかし、予想に反して灯の反応はさっぱりしたものだった。どうやら落ち込んでいたように見えたのは気のせいだったらしい。

 それが愚考だと思い知ったのは次の瞬間だった。

「保留ってところは他にも結構あると思う。それでさ、多分そのうち全部が了承してくれるとも思えないし。それに結構練習の邪魔になるだろうから―――」

 ―――嫌ならいいよ。

 そう続けるだろうことは火を見るより明らかだった。

 なんてことだろう、気のせいなんかじゃなかった!

 こんなことで、嫌われたなんて思われたくない!

 誤解を解こうとした彼女がかろうじて発した言葉は、

「引き受ける」

 この一言だった。灯は目を丸くしている。唐突の心変わりに。あるいは、普段と違う自分の態度に。しかし、今更「冗談でした」で済ませるわけにもいかない。ここで冗談だといえば、余計に灯を落ち込ませるだけだ。

 ほとんど自動的に、明音は畳み掛けた。

「多分皆反対しない」

「いや、たとえそうだとしても……流石に先生に何も聞かせないままっていうのは」

「顧問なんてほとんどいないようなもの。全部部長任せだから」

 自分でもちょっと強引だと思うが、今の冷静ではない頭ではこれで精一杯だった。

「……うーむ……分かったよ、ありがとう」

 理解しきれないといった表情で悩むこと数秒、灯は折れてくれた。

「うん」

「でも一応もう一回改めてくるから、正式な受諾はそのときにね」

 それを聞いて気づいた。強引どころか極めて独裁的な物言いばっかりだったことに。顧問はともかく、何十人にも及ぶ部員を蔑ろにしていいはずがないのだ。もし灯がそう言ってくれなかったら、自分は部員達にどう説明していいか思い悩んだことだろう。今日はどうにもイニシアチブをとられてばかりだ。

「…………」

 灯の口が完全に閉じた。いよいよ終わりのときである。

 担当は固定ではないと言った。ならば、次に彼と会えるのは何時だろう。家が隣なのだから普通に訪ねればいいかもしれないが、6年もそれを絶っていた身として、それは今更のように思えてつい躊躇ってしまう。

 都合の良いきっかけを待つか。灯のほうから訪ねてくるのを待つ以外にないのだ。

 会いたいと思って会えないというのが、こんなに苛立たしいものだとは思いもしなかった。

「じゃあ俺はこれで―――」

 ああ、待って! もう少しだけ待って―――

「母さんが」

 彼女が未練が、言葉となって灯に届いた。しかし、その言葉の意味は彼女の心とは一切無関係だったが。

「何?」

 何、と聞かれても困る。

 たちまち冷静さを失い完全に狼狽する彼女は、苦し紛れにこう言うことにした。

「今度おはぎを作るって」

 …………。

 頭を抱えたくなった。いくら彼の好物だからといって、そんな脈絡の無いことを言ってどうなるというのか。

「ああ、そういえばそうらしいね」

「…………」

 あまりの奇跡に今度は明音が目を丸くする番だった。母さんであるところの遠藤美祢は時々「朝に彼を見かける」と食卓で明音に話していた。おそらくその時にでもおはぎの話をしていたのだろう。

 灯にばれないように胸を撫で下ろしていたら、灯が無邪気な笑顔でこう言った。

「是非ともあやかりたいものだ」

「…………」

 噴出しそうになった。だって、こんな玩具を見た子供みたいな顔を普通17,8にもなった青年がするものだろうか!

(甘いものが好きなのは、全然変わらない……)

 そういえば、彼は小さい頃は少ない小遣いで、流行の玩具には目もくれずケーキや団子、チョコレートばかり買っていた。そしてその度に、

『これはいいよ! まさに埋もれた名作ってやつだ!』

 とか言って分けてもらっていたな、と、そんなことを思い出した。もっとも、ダントツでその頻度が高かったのはおはぎだったが。

 その時の味が、今になって急に恋しくなってきた。

「じゃ、じゃあ今度こそ。またね!」

 灯はまるで照れを誤魔化すかのように、早口で言った。自分で見せた表情そのものが恥ずかしかったのか、もしかしたら自分のほうが顔に出ていたのかもしれない。もし後者なら自分も恥ずかしいが、不思議と、灯相手なら致命的な失態とは思えないのだった。

「うん、また」

「ああ、それと練習頑張れっ!」

「…………」

 瞬間、その言葉は彼女の内側全てに浸透した。

 6年である。彼と疎遠になっていたのは。普通だったらいくら幼馴染といえ、とっくに他人のような感覚になっていておかしくない。

 なのに、彼は笑顔で励ましてくれた。冗談でも作り笑いでもない。灯はそういったことを器用に出来る人間ではない。だから、これは明音のことを親しく思っていることの証。

 この溢れんばかりの喜びを、内に隠してはおけなかった。おそらく、その断片が表情に表れているだろう。

 そして、その表情を見て逆に慌てふためく灯は穗村をつれて、若干急ぎ足で第3理科室を後にするのだった。

「…………」

 嵐が去った後のような静けさ。それはまさに祭りが終わったあとの寂しさに似ていた。

 もっと話していたかった。それも、こんな事務的な話ではなく、普通に、個人的なことを。世間話でもなんでもいい。

(次に会えるのは、いつになるかな……)

「部長ーー! シーン26にちょっと削りたいところがあるんですけどー!」

 理科室の中から聞き慣れた部員の声が聞こえたところで、自身の腕時計を見る。なんと、廊下に出てから5分も経っていないではないか。明音としては数十分は話していた感覚だったのだが……。

「……今行く」

 思う存分余韻に浸ってから、遠藤明音は部活の練習へと戻っていくのだった。


会話ベースが前話からそのままC&コピーアンドペーストであるため、チートと言われても返す言葉がありません。でも、個人的にはこういうのはとっても面白いです。視点を変えるだけでここまでガラリと空気が変わるとは。 それにしても……甘ったるい。遠藤さん、別に惚れかけとかじゃないのに、既に破壊力高いよ。 本作のテーマにこういうキャラは不釣合いな気もしますが……かといって、味気なさ過ぎるのも、むしろ書いてるこちらがつまらないし……。 まぁどっちにしても、これ以上もっと甘ったるいキャラにしてやる予定ですが。


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