No.0 名乗らないお前が悪い
この作品のテーマは、「平穏」「成長」「現在」。特別なものとは何の縁もないキャラ達による、馬鹿で平坦な日常がベースとなっています。従って、ド派手なアクション、ミステリー、ファンタジー、修羅場等を楽しみたい方には、刺激が足りないかと思います。
逆に、「胸糞悪い悪役、キャラ死亡、完璧すぎる主人公とか、みんなまとめて大嫌いだぁー!」という方には、意外と合うかもしれません。
それではそんな感じでどうぞ、暇つぶし程度にお楽しみください。
それは、いつものように新聞部の部室で音楽雑誌を読み耽っていたときのことだった。
「?」
廊下のほうが騒がしい。荒々しい足音が、戸で区切られているはずの室内にまで響いてくる。そして、その足音が秒刻みに大きく、近くなっていくのに気づいたところで、ようやく己の重い頭を上げる。
その時にはもう、部室の戸は乱暴に開け放たれていた。
見知らぬ女子生徒によって。
「ここが新聞部ね?」
彼女の第一声は挨拶ではなかった。やたらとよく通り、同時に鋭さを醸し出した声である。この一言だけでも、彼女が極めて攻撃的かつ自我の強い人間であると判断するには十分すぎるだろう。
……俺が最も苦手とするタイプの人間だった。
(まぁ、誰かが答えてくれるだろう)
思ったところではたと気づく。失念していたのだ、今現在この部室内にいるのは俺ただ一人ということに。他の部員は、別の運動部への助っ人だったり、補習授業だったりで、いつこちらに来られるか分からない。
「ここは新聞部で間違いないのよね?」
一声目よりさらに鋭さが跳ね上がった声色だ。故意でないにしろ無視されたことに相当腹を立てているようだ。このまま誰かが戻ってくるまで放置を続けようものなら、おそらく今より5秒以内に暴力的な憂さ晴らしをこの一身に受けることになるだろう。それくらい、彼女の顔がヤバい。
「新聞部で合ってるよ」
結果、答えてしまった。
「そう。でも妙ね。確か資料によると部員は20人以上いるはずなのに。もしかしてあんたが部長?」
早速、糾弾がこちらを向くことになった。糾弾、というと若干言いすぎな気もするが、つまりそれくらい彼女の声色が厳しいものであり、それだけ俺が強い重圧下に置かれているということだ。
「ほとんどは幽霊部員だから、顔も出さない。それと、俺は部長じゃない」
「でも……あんたはここの部員で間違いないのよね?」
「まぁね」
「それならいいわ。明日にでも全部員に伝えて頂戴」
女子生徒は横のホワイトボードに一枚のプリントをバンと押し付け、更にその上に棒状マグネットをも一度バンと押し付け固定した。
俺がそのプリントに書かれている事柄を目で追うよりも早く、彼女は言った。
「私は今日付けで新聞部に入部することになった矢伊原乃絵。それと、早速顧問に全部活への密着取材活動に関する全ての許可を貰ってきたわ」
「……密着取材だって?」
「7月の学園祭でのうちの出し物は『我が校の部活動記録』。MVPを狙うわよ」
そう言う彼女―――矢伊原乃絵の表情は真剣そのものだ。
「本格的な活動は明日からだから」
そして、矢伊原はあっという間に部室から退いていったのだった。俺の名前も、部長の名前も聞かずに。
「…………」
時間にして何分のことだったろうか。それどころか一分も経っていなかったのではないだろうか。
どちらにしても。
「連絡網、回したほうがいいかな。どうせ部長に報告しなきゃいけないし」
その前に顧問に確認を取らなければならない。こんな突拍子もない話、後ろ盾なしに誰が信じるというのか。
ここで、チャイムが鳴る。本日の部活終了時刻を回ったのだ。活動延長を申し出ていない部活、生徒は原則として今より20分後までに下校を完了させなければならない。
そして俺も新聞部も、その例に漏れない。
さっさと音楽雑誌を鞄にしまい、適当に戸締りを確認してから、部室を出て施錠する。
(取材活動……)
その単語を復唱するたび、嫌な予感しか覚えないのだった。
へぇ、後書きって、こうやって使うんですねぇ〜。もしかしたら連載終了後に表記されるものなのかと思って、空白にしちゃうところでした。
んなことを、No.1投稿後に書いているやつ、それが私です。