88 森を抜けると
「お兄ちゃん、おじちゃんから貰った剣はすごいのです。」
「…………」
レミが嬉しそうに言い、ニナも笑顔で頷いている。
そうだね。すごい剣だっていうのは見ててわかったよ。
危ないから十分注意して使うんだよ。
「わかったのです。」
レミは神妙な顔をして頷いた。
危ない物だと理解しているならいいかな。
レミの剣は、腰に挿すには大きすぎるので、背中に括り付けてやる。
ニナの方は双剣を両腰に下げる。
うん、とても似合っているね。
ふたりともキチンと装備できてうれしそうだ。
「むぅ、えものさがすの!」
こちらはまだ収まってなかったか。
リーシャがむぅむぅ唸っている。
しかしレッドベアなんかどうやって探すんだろう。
「我が探して連れてきましょうか?」
う~ん、リーシャもこれじゃあ収まらないだろうから、お願いできますか。
「承知しました。レッドベアを連れてきましょう。」
ジンさんはそう言うと風に消えていった。
何か変なことを頼んで、申し訳ありません。
「ホント、こんなこと精霊王様に頼むなんて……。でも、精霊王の娘のお願い事なのよね。何か複雑だわ。」
そうなんだよね。
今も腕の中で手を振り回しているけど、魔法の練習なのかな、リーシャ。
「そうなの。かっこよくきめるの。」
そうですか。それはようございました。
幼子にパシリにされる精霊王様って…………
「…申し訳ないわね。」
サフィがシミジミと言う。
まぁ、ジンさんが自分から言い出してくれて助かったかな。
サフィと項垂れながら話していると、遠くから大きな気配が近づいてくる。もう見つけてくれたようだ。
「サフィ、来るみたいだ。」
「ええ、わかったわ。」
モーリスにレミとニナをまかせて、俺とサフィは近づいてくる大きな気配に向かって行く。
「リーシャ、レッドベアが近づいて来ているよ。わかるかい?」
「大丈夫なの。ちゃんとわかっているの。」
そう言うとリーシャは地面に降りようとする。
俺はしゃがんでリーシャを地面に降ろした。
「すぐにやってきます。」
風と共にジンさんの声が聞こえてきた。
大きな気配の移動も早い。
バキバキ、ドスドス言いながらレッドベアが近づいてくる。
音がする方向をジッと見つめていたリーシャが右手を上げる。
レッドベアが木々の間から姿を見せるとすぐに
「こおるの!」
リーシャが叫んだ。
冷気が白い風のようにリーシャから流れ、レッドベアを包む。
レッドベアは一瞬で白く氷ってしまった。
ビッグヴァイパーを氷らせたときは、これほどの冷気の流れはなかったと思うんだけど。
サフィを見ると口を開けて驚いたまま固まっている。
「御遣い様の傍にいたので、精霊王の力が覚醒し始めているのでしょう。」
ジンさんがいつの間にか俺の隣に立っていた。
ん~、俺の傍にいると、リーシャの成長が早いってことですか?
「極論ではありますが、概ねそうです。あなた様の持つマナが、リーシャや我々にはとても好ましいものなのです。」
はぁ、そうですか。
ちょっと俺には理解できないけど、リーシャにいい影響が出るというならいいかな。
こうして狩りをしながら進んで行くと、森が途切れ目の前に草原が広がった。
イシュルの森から出られたようだ。
辺りを見回していくと、草原の左手奥の方に建物が見える。あれが砦なのかな。かなり遠いようではっきりとはわからない。
その砦の上の方で陽の光が反射したのか、キラリと光るのが見える。
何か金属の物でも置いてるのかな。
まぁ、これだけ遠いとよくわからないね。
この辺りにも人の気配がないから、たぶん誰にも見つかっていないと思う。
ようやくイシュベルク神聖帝国へ入れたよ。
「あとは川を越えてベスビオス山へ向かうだけですな。」
ジンさんが腕を組んで頷いている。
それじゃあ、馬車を出して進もうか。
馬車を走らせ、一路ベスビオス山へ向かう。
馭者台に座っていると、頬を流れる風が心地いい。
天気もいいし、空もきれいだ。
これでイフリートさんが暴れていなければ、言うことなしだね。
途中にあった大きな川は、ジンさんが馬車を風に乗せて渡らせてくれた。
楽をさせてもらっているようで申し訳ない。
川を渡ると、遠くに石壁が見える。あれは街なのかな。随分と大きい街のようだ。
もうイシュベルク神聖帝国に入っているけど、人目につくと面倒そうだから街から離れて遠回りしよう。
そうして進んできたけど、ジンさんの案内が良かったのか馬車が早かったのか視界には雄大な山、ベスビオス山が見える。
何となく山が赤みがかっているように見える。
まさか燃えていないよね。
「何かイヤな感じね。」
サフィも悪い予感がしてるのかな。
まぁ、山まで行けばわかるか。
マップを出して警戒しているけど、山の方から平地に向かって降りてくる魔物が多い。
山で何かあったのかな。
馬車の近くにもいくつか魔物の表示が見える。
馬車から降りて魔物の気配を探ると、道の脇から紫色のウルフが現れた。
群れでいたのか、七、八頭いるようだ。
面倒なので風の魔法を強めに当てる。
倒れたウルフをアイテムボックスに収納して馬車に戻った。
「どうだった?」
サフィが心配顔で聞いてくる。
「ウルフの変異種だよ。」
「そう、この辺りにまで影響が出ているのね。」
サフィは俯きながらそう呟いた。




