86 イシュルの森 その一
風の精霊王ジンさんのおかげで、何事もなくイシュルの森までやってきた。
あとはこの森を抜け、大きな川を渡ればベスビオス山へ着くらしい。
話しを聞けばたいした行程じゃないように聞こえるけど、このイシュルの森がまた大きいらしい。
ひょっとするとエルフの森よりも大きいそうだ。
まぁ、俺とモーリス以外は森の住人だからたいして問題にならないのかもしれないけど。
森を抜けるのに何日くらいかかるのかな。飽きなければいいんだけどね。
森の入口で一夜を明かし、携帯ハウスと馬車を収納して出発だ。
今回は、ガルーシャの森の時みたいに中の様子がわからないので、馬車はしまっていくことにした。
馬で進めるのかもわからないからね。
馬でも進めないとなったらジンさんに飛ばしてもらうしかないのかな。
それも怖いね。
「お兄ちゃん、早く行くのですよ。」
妙にレミが張り切っている。
森の中を行くのが楽しいのかな。
「この森は初めてなのです。ワクワクするのです。」
「……獲物、楽しみ。」
初めての森で、獲物が楽しみってどこの猟師さんだよ。
どこかの獣王様みたいに、脳みそ筋肉になっていないよね。
お兄ちゃん心配だよ。
森の中の道なき道を進んで行く。
先頭では、ジンさんが宙に浮かんでいる。
そのジンさんが右の方に視線を向けた。
うん、ビッグボアが近づいてくるようだ。
こいつは皮が固いから子供たちじゃムリだろう。
俺の様子に気が付いたサフィがこっちを向いてくる。
「ちょっと行ってくるよ。」
そう言い置いて、俺はビッグボアに向かう。
ビッグボアは気が付いているのか、こちらに向かうスピードを上げてきた。
草むらから出てこようとしたところに結界を張る。ビッグボアはそれを知らずに結界に衝突した。
ゴンッ、という音がすると、ビッグボアはその場でフラフラとして倒れた。
結構勢いつけて走っていたみたいだから、脳震盪でも起こしたかな。
俺は魔法でビッグボアを逆さに持ち上げ、風魔法で首を斬る。このままにすれば血抜きできるだろう。
「すごいのです、お兄ちゃん! どうやって倒したですか?」
「…攻撃してないのに倒れた。」
ニナ、よく見てるね。
結界を張ったら、勝手にそこにぶつかっただけだよ。
「でっかいイノシシさんは、お間抜けさんだったですね。」
レミよ、でっかいイノシシさんはお前にだけは言われたくないと思ってるかもしれないよ。
レミたちと話をしていると、左の方から少し小さめの気配がする。一角兎かな。
「……ん、また来た。」
すぐにニナが反応して俺を見てくる。
ん~、これはまかせろってことだよね。
ちょっと危ないかもしれないけど、俺がついていれば何とかなるかな。
軽く頷いて見せると、ニナはニパッと笑顔を見せてレミの手を引く。
「どこ行くですか?」
レミはまだわかっていない。
やっぱりニナの気配察知はレベルが違うのかな。
「大丈夫なのですか?」
俺に近づいてきたサクヤが心配そうな顔を見せる。
「あの二人なら大丈夫だよ。」
そう言ってサクヤの頭を撫でてあげる。
「ちょっと、ついて行こうか。」
声をかけると、サクヤは頷く。
レミたちの後ろから、サクヤと一緒について行くと、木の影からちょうど一角兎が出てきたところだった。
飛びかかってきた一角兎の角を、ニナが左手のナイフで受け流す。一角兎は勢いあまって体制を崩しているが、その隙にレミが後ろへ回り込んだ。
それを見たニナが、一角兎に向かいながら右手のナイフを振るう。
一角兎は右に躱すけど、後ろからレミがこん棒のような木の枝で殴り掛かった。いつの間にそんなもの拾ったの。
ゴンッ、という音と共に一角兎が前のめりになる。
そこへニナが首筋に向けてナイフを振るい一角兎を倒す。
一角兎は立ち上がろうとするけど、血が流れ過ぎたのかそのまま倒れた。
「やったのです! ニナ、すごいのですよ。」
「ん、勝利。」
いやぁ、二人ともすごいね。
自分たちの体より大きい一角兎を倒しちゃったよ。
サクヤが二人のところに駆けていき、手を取って喜んでいる。
倒した一角兎もそのままにはできないので、魔法で持ち上げながらさっきのビッグボアのところまで運んだ。
「へぇ、二人で一角兎を倒したの。すごいわね。」
サフィも二人を褒めている。
レミとニナは嬉しそうにこちらを見てくる。
「二人とも頑張ったね。偉いぞ。」
そう言って二人を撫でてあげる。
二人ともくすぐったそうに笑っている。
そうしていても、一応警戒してマップは出している。ここは魔物が多いみたいだからね。
ビッグボアと一角兎を倒した後、レミとニナが先頭で歩いている。
ちょっと危ないかもしれないけど、ニナが気配を察知できるからいいかと思い、二人の好きにさせた。
そしたら、ジンさんがその後ろに胡坐をかいて浮かんでついて行くようになった。
ジンさんも二人が気になるみたいだ。
「ほれ、二人とも。右の方に何かいるぞ。」
ジンさんが二人に警戒を促す。
「ンニャア、オーガ~?」
不意をつかれたのか、ニナが変な声を上げる。でも、察知できたようだ。
「……シンジ兄、行ってもいい~?」
ニナが後ろを振り返り、戦ってもいいか聞いてくる。
オーガは大きくて力が強いけど、ちょっとニブいからうちの子なら大丈夫かな。
「行ってもいいけど、サクヤも一緒だよ。」
サクヤは、さっきの一角兎のときには参加できなかったのが悔しかったようなので、今度は一緒に行ってもらおう。
「いいんですか?」
サクヤが顔を上げて聞いてくる。
大丈夫だよ。気をつけて行っておいで。
「はい!」
サクヤが嬉しそうに、レミたちと走っていく。
嬉しそうにオーガを狩りに行く女の子ってどうなのかな。
あんまり深く考えてもしょうがないか。
俺も三人娘の後を追う。いつの間にかジンさんがレミたちの上にいた。
「すぐやってくるぞ!」
ジンさんの一声に三人が緊張する。
「ニナ、前に出て牽制して。隙を見てわたしが魔法を打つから。」
ニナはサクヤを見て頷くと、するするっと前に出る。
レミはニナと反対方向に移動していく。
ガサガサ、ズンズン音を立てながらオーガが近づいてくる。
その姿が見えたと思ったら、バシーン、と音が鳴りオーガの顔に木の枝が当たった。
どうやらニナが木の影から枝を投げつけたようだ。
「ガアアアアッ、・グホッ・・」
オーガが雄たけびを上げるが、その口目掛けてサクヤがファイアボールを放った。
たまらずに口を押さえてオーガが蹲ると、レミとニナが立て続けに首に切りつける。
キズが浅いのか、オーガはすぐに立ち上がって腕を振り回し始めた。
ちょっと危ないかな。
そう思った瞬間、サクヤが風の魔法を飛ばす。
魔法はレミたちが切ったところに当たり、オーガが音をたてて倒れていく。
三人娘はオーガを倒した。




