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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第一章 はじまりのガイン王国
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8 エルフさんと一緒

「ちょっとあなた、どういうことなの!?」


サフィーネは最初の凛とした佇まいを捨てて、こちらが素の表情なのか気色ばんでいる。表情に合わせて、言葉まで崩れていた。

美人さんは怒ると怖いんだよね。こんなこと考えてたら不敬になるかな。

とりあえず何か言わないと、飛びかかってきそうだ。さっきの黒い虎みたいだね。でも、こっちの方がおっかない気がする。


「あなた、ブラックタイガーを風魔法で一撃なんて、おかしいんじゃない!」


「はぁ、風魔法はダメでしたか。」


「そうじゃなくて、ブラックタイガーには魔法耐性があって、風魔法くらいでは弾かれるはずだけど。」


「そうなんですか。じゃああれは何魔法だったんでしょうね?」



俺は、この世界に来てまだ数日だから知らない魔法もあるだろうし、俺が風魔法と思っていても違うのかもしれない。

そう思ったけど、サフィーネが言いたいのはそうじゃないらしい。


「あなたが放ったのは間違いなく風魔法でしょう。なんであなたが首をひねっているのよ!」


肩で息をしながら、サフィーネはヒートアップしている。血圧が上がるよ、と心配になるが、エルフにも成人病ってあるのかな。

俺はまだ三十前だったから、あまり気にしなかったけど、四十過ぎてた田宮課長はしきりに「血圧がぁ...」とか言ってたもんなぁ。



「サフィーネ様、落ち着いてください。」


サクヤがサフィーネの手を引きながら声をかける。

うん、ナイスタイミングだね。落ち着いて話そうよ。


「これが落ち着いていられる? あの固いブラックタイガーを、あっさりと風魔法で倒したのよ。」


「まぁ、シンジ様ですから……」


「どういうことよ。」


サフィーネはサクヤに詰め寄っていく。


「シンジ様は、わたしたちの首輪にちょっと触るだけで外してしまわれたのです。わたしにもよくわかりませんが、魔力の保持力と解放力がものすごく強いのではないかと思います。」


「えっ、そんな簡単に外したの? 私たちでも外せなかったのに………」


そう言うと、サフィーネはブツブツとなにかを呟いていた。


「その首輪はまだあるの?」


サフィーネはサクヤに聞く。


「はい。シンジ様がお持ちです。」


サクヤの返事を聞くと、サフィーネは俺に聞いてくる。


「首輪を見せてもらえる?」


こうなったら、見せないとダメなんだろうな。


「はい、これです。」


俺は、アイテムボックスに収納していた隷属の首輪をサフィーネに渡す。


「これは……」



サフィーネは俺が渡した隷属の首輪を食い入るように見て、何かをなぞるように指を滑らす。

何をしているのかよくわからないけど、俺が外したときのように薄く魔力を流しているみたいだ。

俺たちだけで話をしていて、相手がニナだけでは飽きてきたのかレミが俺の服を掴む。


「お兄ちゃん、あの黒いのはどうするですか?」


ああ、ブラックタイガーを忘れていた。


「そうだね、あれって食べられるのかい?」


「タイガーは食べたことがあるですが、あの黒いのは食べたことがないからわからないです。」


「ん~、たぶん大丈夫。」


レミはわからないみたいだが、ニナは大丈夫だと言う。

ほんとかよと思うが、解体してアイテムボックスにしまっておいてもいいだろう。


「それじゃ、血抜きをしておこうか。」


俺は、レミとニナを連れてブラックタイガーのところに行く。サクヤはサフィーネと何か話しているみたいだ。

まぁ、知り合いみたいだし話すこともあるんだろう。


ブラックタイガーをよく見てみると、全長七、八メートルありそうだ。ちょっとした小屋くらいの大きさはある。これはこのまま木には吊るせないな。

仕方ないので、魔力でブラックタイガーを持ち上げ、首を下にする。下の地面は軽く土魔法で穴を空けて血を埋められるようにした。

前世では、虎のはく製とか毛皮とかがあったけど、こちらではどうなんだろう。

まぁ、取り合えずとっておいて後で考えよう。

レミとニナは口を開いたまま、ポカーンとブラックタイガーを見上げている。


「どうしたんだい。」


二人に尋ねてみる。


「これだけ大きかったら何日くらい食べられるですか。」


「……ひと月?」


レミとニナが聞いてくるが、正直俺にもわからない。

一人で一食五百グラムくらい食べるのだろうか。

だとすると、四人で一回二キロになる。さて、このブラックタイガーは何キロあるか。五百キロとしたら、二百五十回食べられる。

ということは、八十三日ということになる。いやいや、三ヶ月近くこれを食べ続けるって、それはそれで嫌じゃないかな。


「たぶん、三ヶ月くらいの量があると思うよ。」


「すごいのです!それだけあれば村までいけるのです。」


ああ、なるほど。ということは、獣王国の村まで三ヶ月ほどかかるということか。森を出たら馬車がほしいかな。

でも、あの巨体が五百キロってことはないよね。象って、トンあるのかな。あのブラックタイガーは象より大きそうだな。

何にしても、獣人国まで何ヶ月もかかるなら、馬車の利用は考えないといけないよね。まさかこの世界にSUVがあるわけないし、後でサクヤに聞いてみよう。



サクヤとサフィーネはまだ話していた。


「それじゃ、彼が首輪に魔力を流したときにあなたは何も感じなかったの?」


「はい。首輪が締まるわけでもなく、何事もなく外れました。」


「おかしいわね。これは魔力を流したら首が締まるはずなのだけど…」


「そうなのですか。」


「ええそうよ。よくあなたたちは無事でいられたわね。」


「まぁ、シンジ様が外してくれましたから。」


「そうねぇ、ひょっとして………」


「どうかしましたか?」


「いいえ、何でもないわ。」



二人が話終わったみたいなので話しかける。


「サクヤ、ブラックタイガーって食べられるのかい。」


「えっ、ブラックタイガーですか。…たぶん大丈夫だと思います。」


「そうなんだ。それじゃ、あいつは取っておいた方がいいね。」


そう言って、魔法で宙吊りにしたブラックタイガーを見た。

一瞬サクヤの顔が引きつったように見えたが、すぐに諦め顔で言ってくる。


「ええ、アイテムボックスに入るようでしたら、その方がいいかと思います。」


「わかった、それじゃそうするよ。ところで話は終わったのかい。」


俺はそう言ってサフィーネの顔を見る。


「ええ、終わったわ。これは返しておくわね。」


サフィーネはそう言って隷属の首輪を俺に差し出してくる。

俺はそれを受け取って、アイテムボックスにしまいながら


「ああ、わかった。ところで、話し方が最初と違うけど、サフィーネさんはどこかのお偉いさんなのかい。サクヤが随分と畏まっているようだけど。」


俺は気になっていたことを尋ねる。


「それは……」


「そんなことはないわ。この話し方が普通なのよ。エルフっていうと高貴なものって勘違いしてくれるから、面識のない者には最初のように話すの。それから、私が住んでいる森の近くにサクヤの里があるから、サクヤとは顔見知りだっただけよ。」


サクヤが返事しようとすると、サフィーネが被せるように答えてくる。まぁ、あまり気にしないでいいか。


「私のことは、サフィでいいわ。」


サフィーネがそう言ってくる。


「……サフィ(ネエ)


ニナが突っ込んでいるが、馴染んでくれれば問題ない。


「なんか、気になる言い回しね。」


サフィーネはニナをジト目で見ていたが、ニナは流したようだ。知らんぷり、って顔をしている。

こうして俺たちの旅に、サフィーネが加わった。


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