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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第三章 精霊王の錯乱
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84 風の神殿

レミとニナは、神殿に巡らされている石壁をよじ登ろうとしているけど、あの門のところから入れないのかな。


「二人ともちょっと待って。入れるところがないか、探してからにしよう。」


そう言って壁に足をかけようとする二人を止める。

この二人は動くのが早いからね。先に止めないと危ない。


皆で一緒に門らしきところまで歩き、入れそうなところがないか見ていく。

石壁はそれほど高くはないけど、結構頑丈で簡単には崩れそうにない。

そんな壁を眺めながら歩いて行くと、門の前まですぐだった。


門には二枚の大きな扉がついており、とても重厚そうに見える。

蝶番が見えないので押して開けるのかな。それとも左右にスライドするのか、一見しただけではわからない。

左右両方の扉の真ん中に丸い紋章らしきものが見える。


「んん~」


俺の腕の中にいたリーシャがムズがって降りたそうに身を捩っている。

リーシャを下ろしてあげると、ぽてぽてと扉に向かって歩いて行き中央の紋章に手を伸ばした。

でも残念。ちょっと背が足りないようだ。飛び上がって手を伸ばすけど紋章までは届かない。


「むぅ~」


可愛く頬を膨らませて、唸りながら俺を見る。

はいはい。高い高いすればよろしゅうございますかお嬢様。

俺はリーシャの腰を掴んで上に持ち上げてやる。

リーシャが紋章に触れると扉の周りが淡く光り、ズズズッと押し開かれていく。

へぇ、どんな仕掛けになっているんだろうね。


リーシャが触って反応したということは、ここは精霊王に纏わる建物なのかな。


「リーシャ、ここは何の神殿なのかな?」


「ん~、リーシャもよくわからないの。」


リーシャは軽く首を傾けて不思議そうにしている。

あの門を開けたのは君なんだけど、君が首を傾げてどうするの。

まぁ、しょうがないか。リーシャだし。


門を抜けて敷地の中に入ると、パルテノン神殿のような建物が目に入ってくる。

これだけの建物を石で作るのって大変だよね。木造文化で育った俺としては、全然想像つかないよ。


神殿の前に来ると、建物の扉が開いていた。

これは入ってこいってことかな。


「この気配はひょっとして……」


サフィが何か気付いたようだ。


「中に入っても大丈夫かな?」


「ええ、たぶん大丈夫だと思うわ。」


サフィは何か気付いたのかな。ちょっと警戒が緩くなっているようだ。


「レミが一番なのです!」


そう言うとレミとニナが駆け出して、神殿の中に向かいだした。

ホント、あの二人は行動力があるよね。


「レミ、ニナ、ダメだよ。俺の後についておいで。」


走り出したレミとニナが立ち止まり、こちらを向いて渋々戻ってくる。

まぁ、二人とも素直なのはいいことだ。



神殿の中に入るとそこは広間になっており、奥には祭壇のようなものが見える。

祭壇に向かって歩いて行くと、軽く竜巻のように風が集まり視界が遮られた。

しばらくすると小さな竜巻はやんで、風のあとには一人の男性が跪いていた。

筋骨逞しいけど、どこかの脳筋とは違って知性を感じさせる人だ。


「お待ちしておりました。我は風の精霊王ジンと申します。ミョルニルにあなた様のことを伺いました。」


そう言ってレミの麦わら帽子を差し出してきた。

やっぱり精霊王様だったのね。

俺は帽子を受け取ると、そのままレミに渡した。


「ここから先、イフリートの元までお供させていただきたい。」


ジンさんはそう言って頭を下げてくる。


「我ら精霊のことで御遣い様を煩わせるわけにはまいりません。イフリートがことは、我らにお任せいただけないでしょうか。」


それはいいですけど、よろしいのですか?


「あなた様のお力ではイフリートが消し飛ぶやもしれません。何卒、それはご寛恕いただきたいのです。」


「別に怒っているわけではないので、私のことはお気になさらないでください。ジンさんたちの好きなようにしていただいて構いませんから。」


俺がそう言うとジンさんはニッコリ笑ってくる。こうして見ると、とってもナイスガイだ。

でも俺って精霊王様を吹っ飛ばせるの?

それはちょっとどうなんだろう。これがヒトの範疇を超えるってことなの。

あとで竜王様に聞いてみよう。


それにしても、ミョルニルさんに聞いたって言ってたけど、肝心のミョルニルさんはどうしたんだろうね。


「あ奴でしたら、土のところへ行きました。」


へ、土って土の精霊王様ですか。


「そうです。土の奴はあまり外に出てこないため、世の事には疎いのです。ですからたまに我らが顔を出しているのです。」


へぇ、引きこもりの精霊王様なんだ。

そんなことを考えていると、サフィがジンさんに声をかける。


「ジン様、お久しぶりにございます。」


「おお、サフィーネか。お主も息災であったか。」


「はい。おかげ様で元気にしております。」


サフィがジンさんに挨拶している。

確か、サイリース陛下が知り合いなんだっけ?


「そちらにいるのはリルーシャの娘か?」


ジンさんがリーシャを見て尋ねてくる。


「リーシャなの。」


右手を上げてリーシャが答える。

ちゃんとご挨拶できて偉いぞ、リーシャ。

そんなリーシャの頭を撫でながら辺りを見回す。

壁や天井のあちこちに見事な彫刻が見える。神殿って建物自体もすごいけど、こういう彫刻もきれいだよね。


「この神殿は建物だけでなく、彫刻なんかも立派ですね。」


つい口に出てしまう。


「かつてこの辺りに住まう者たちは、我のためにこの神殿を作ってくれました。ヒト族にしてみればかなりの時間をかけていました。当時のヒト族、皆が皆愚かであったわけではないのです。」


「そうですか。」


「ええ。一部の、特に北に住まう者たちが酷かったのです。女神は北の地を灰燼に帰すほどの力を振るわれましたが、余波はこの辺りをも飲み込みました。」


ジンさんが遠い昔のことを話してくれる。

昔は敬虔な人が多かったのかな。


「この地の者たちを守ろうと、この神殿に集めて風の結界を張ったので、ここに避難した者たちは何とか助かりました。ですが他は酷い有様でした。今この辺りに住む者たちが言うイシュルの森の辺りは、跡形もなく消えてしまいました。」


イシュルの森はテルステット共和国とイシュベルク神聖帝国の間にある森の事だ。

結構大きい森だと聞いてるけど、その辺りを跡形もなくってどれだけの威力だったんだろう。


「そのままここに住むのは難しそうだったので、被害の少なかった南へとその者たちを移動させました。」


ここから南ってことはガイン王国だよね。

そっちに人を移したんだ。


「避難させた者たちは我のことを心配してくれましたが、あの時は何よりも自分たちが生きていくことが大事だと言って聞かせました。」


ジンさんは遠くを見るようにして懐かしんでいるようだ。

いったいどれだけ昔のことかわからないけど、精霊王様には忘れられないことなんだろうね。


そんな精霊王様と一緒に神殿から外に出る。



神殿がある林を抜けると、レミが帽子を飛ばされた丘に出てきた。

今日はここで休んでいこうか。


「そうね。そうしましょう。」


サフィも賛成してくれる。

今日はいろいろあったからね。

いつものように携帯ハウスを取り出すと、


「さすがは御遣い様ですな。」


ジンさんに感心された。

う~ん、やっぱりアイテムボックスに家を収納しているのは変に思われるのかな。


「まず家をアイテムボックスにしまえるだけ魔力があるということと、そのような発想に至るということがなかなかないでしょうな。」


なんか、微妙にディスられてるような気がするのは気のせいだろうか。


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― 新着の感想 ―
[一言] 大容量アイテムボックスなら 結構あるあるかと思ってました でも一番初めに考えた方は かなりぶっ飛んだ考え方 だったのかなとも思う。
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