79 魔王様の憂い?
バンデミル半島の封印を浄化した後に出会った雷の精霊王ミョルニルさんは、自分の言いたいことを言い終えるとすぐに何処かへ飛んで行ってしまった。
何とも落ち着きのない人だ。
「まぁ、雷野郎のことは放っておいていいじゃろう。お主はこれからどうするのじゃ。さっきの話じゃとベスビオス山へ行くのか?」
竜王様が俺を見ながら聞いてくる。
ええ、そうですね。そのつもりです。
「そうか。それならさっきの雷野郎の言う通り、イフリートには気をつけるのじゃ。雷野郎の挑発に乗ってこんとはおかしなことになっておるのかもしれん。」
こうして話を聞けば聞くほどイフリートさんには会いたくないですね。
「まぁ、基本的には気のいい奴なのじゃが、いかんせん戦いたがるのが面倒でのう。」
はぁ、そうですか。
「それでベスビオス山の後はヴェルシュタインと竜王国の封印か。それならば竜王国の封印は後にするといいじゃろう。そして、ヴェルシュタインに行くなら魔王国側から行った方がいい。ただし、魔王には気をつけるのじゃ。」
それはどういうことでしょうか?
「今の魔王は名君と讃えられておるが、狂王と同じことになるやもしれん。今は収まっておるから大丈夫かと思うが、瘴気に囚われると厄介じゃ。」
魔王様が瘴気に囚われるのですか?
「ふむ、その昔魔族や多くの亜人たちが大陸の西側に居た頃、知恵の女神シシュリアーネが魔族の長に渡したと言われる指輪があるハズじゃ。その指輪が瘴気を発して魔王を操るのじゃ。」
「その指輪とは[王の証]として代々魔王様に伝わる指輪のことでしょうか?」
竜王様の言葉にモーリスが反応した。
「たぶんそれのことじゃろう。シシュリアーネが魔族や亜人たちをまとめ大陸の東側へ行くようにと授けたものじゃ。千年前、その指輪が瘴気を発し、時の魔王を狂王と呼ばれる者にしてしまった。その指輪を浄化してやれば魔王は元に戻るじゃろう。」
「なんと! 千年前の混乱はあの指輪が原因だったとは……」
モーリスは言葉をなくし落ち込んでいる。
竜王様はその様子を気にすることもなく、すべてを話したようなやり切った顔をしている。
「どれ、それじゃあワシは帰るとするかの。一足先に竜王国でお主らを待っておるからの。気をつけて来るがよい。」
竜王様は俺たちにそう言い置くと、煙と共に黒龍の姿に戻り、空へと飛び上がった。
その後ゆっくりと俺たちの上を旋回すると、東に向かって羽ばたいて行った。
何かすごく疲れた感じがする。
ただ話していただけなんだけどね。
「……そうね。でも、いろいろと衝撃的だったわ。」
竜王様が寝てて瘴気が溢れたこと?
「そうじゃないわよ! …あれ、そうなのかな?」
まぁ、封印を浄化すれば瘴気も収まるみたいだから、これまでとやることは変わらないよね。
「そうね。それにしても指輪が魔王を操るとはね。」
そうだね、何か気味悪い指輪だね。
「そうですな。話を聞いてしまうとそのように思えますな。しかし、元々は魔族や亜人の民を統べるために神より遣わされた物なのです。」
そうなんだ。それこそ王権神授だね。
「何その王権神授って?」
う~んと、国王の権力は神から授かったものだから神聖不可侵で、民は国王の命令に絶対服従しなければならないっていう考え方のこと。
「へぇ、そういう考え方もあるのね。でもそれだと王様が神様の代理みたいじゃない。」
まぁ、そうだね。
これは王様側の都合を押し付けるのにちょうどいい考え方だね。
でも魔王様は神様から指輪を貰って民を統べるように言われたんだから王権神授そのものでしょ。
「確かに初代魔王様はそうでしたが、だからと言って民を蔑ろにしたということはなかったようです。大陸の西側から東側へ移動し、疲弊した民に寄り添っていたと聞いております。」
へぇ、偉い人だったんだね。
「その初代魔王様以降、魔王国の王は聡明で慈悲深い者が多いと言われております。」
すごいね。そんなにいい王様たちが治めた魔王国に行ってみたいよ。
「ありがとうございます。それにしても狂王と呼ばれたアクラブ王は、元々慈悲深い賢王と評判だったのです。そのお方が何故狂王と呼ばれるようになったのか今まで不思議だったのですが、瘴気のせいでそうなっていたとは…」
そうだね。
そう言えば、サフィ。前に瘴気に触れると呪われるとか言ってたけど、それってどういうこと?
「そうね、それまで健康でまともだった人が、瘴気に触れることによって気が狂ったようになったり、狂暴になったりするのよ。」
ふぅ~ん。そうすると、その狂王様も瘴気のせいで気が触れたっていうのはあり得るんだ。
「そうね。言われてみればその可能性はあるわね。」
「確かに、ある日突然アクラブ王は気が触れたようになったと伝わっています。」
怖いことだね。
「はい、そうですね。昨日までとは真逆のことを突然言われたりしたそうです。その混乱から動乱へあっという間だったそうです。」
そうだったんだ。
そんなこと当代で起こしたくないよね。
「当代の魔王ゼイウス様もそのようなことは望んでおりません。千年前を繰り返してはならんと仰せでした。」
そうなんだ。いい王様なんだね。
「はい。ご当代様は稀に見る名君であると思います。」
モーリスはとても誇らしげに魔王様を思っているようだ。
そういう王様が治めているなら、魔王国はとってもいい国なんだろうね。早く行ってみたいよ。
「お兄ちゃん、まだお話あるですか?」
ふいにレミが声をかけてきた。
竜王様を見送ってから、俺とサフィとモーリスの三人で話し込んでしまってジレてきたのかな。
レミの顔には”オヤツはまだですか”と書いてある。
レミの隣にはしたり顔でニナも控えている。
これは大至急オヤツを用意しないといけないね。
そういうことで俺たちは携帯ハウスに戻ることにした。
さて、今日のオヤツは何にしようか。これから作ると時間がかかるし、アイテムボックスに入っているもので許してもらおうか。
子供たちに手を引かれながら家に戻る俺たちを他所に、モーリスは一人佇んでいた。
「それにしても竜王様は魔王様の事、お気づきだったのですね。」




