78 雷の精霊王推参
バンデミル半島の岩がゴツゴツしている荒地で、竜王様と稲妻がパチパチいってる槍を持った危ない巨人が話している。
と言うか、怒鳴り合っている。
「お主まだ生きておったのか!」
「喧しい、余計なお世話じゃ!」
危ない巨人と竜王様は古い知り合いなのかな。
危ない巨人の問いかけに答える竜王様に気安さを感じる。
でもあの巨人って見た感じ、ヒト種の範疇に見えないんだけど。
「ん、ピカピカガラガラうっとうしいオヤジなの。」
えっ、リーシャ知ってるの?
っていうか、いつの間にか子供たちも携帯ハウスから外に出てきていた。
リーシャが知っているってことは精霊王なの。あの危なそうな雰囲気の巨人は。
俺の問いかけに、リーシャは答えてくれる。
「カミナリの精霊なの。」
へぇ~、そうなんだ。確かに鬱陶しそうな感じだね。
その鬱陶しそうな巨人が竜王様に問いかける。
「ところで、瘴気が弱まったようだが、お主何か知らんか?」
「封印を浄化した。」
「はぁ?!」
鬱陶しい巨人が口をあんぐりとさせ絶句している。
何かスゴい間抜けさを感じる。
「封印を浄化した。マナは取り込まれず、瘴気が収まった。」
巨人が話を理解していないようなので、竜王様が説明を繰り返している。
でも竜王様も端折りすぎだと思うんだ。
「……お主何を言っておるのか理解しているか? 聖戦の折、ピィピィ泣いて逃げ回っていた羽根付きトカゲが何をほざいておる。」
その一言にゼル爺の眉間にシワが寄ったが、ゼル爺はスルーした。
ピィピィ泣いたって、……触れられたくないんだろうな。
「ワシが浄化したわけではない。そこにいるシンジがやったのじゃ。」
「なんじゃと!」
竜王様の一言に、怪訝そうな顔をしながら俺を見る巨人。
見る間に顔色が薄くなっていくと、おもむろに俺の前に来て跪いた。
「お初にお目にかかる。雷の精霊王、ミョルニルと申します。失礼ですが、神の御遣い様でいらっしゃいますか?」
あらら、やっぱりリルーシャさんたちと同じ反応なのね。
「はい、創造神様に遣わされたシンジと申します。」
一応、ちゃんと名乗っておこう。
でも、どうして雷の精霊王がこんなところにいるの?
「この辺りの荒れ具合が、某には居心地がよいのです。周りには何もありませんので、雷も落とし放題です。」
いや、それはいいのか?
「この辺りは荒地で植物すらも育ちにくいところ。だから某、気兼ねなくここに住まうことができます。」
………まぁ、当人が気に入っているならとやかく言うこともないけど。
「ところで、さきほどあのトカゲが言っておったことは真なのですか?」
あぁ、封印を浄化したってこと?
確かに私がやりましたけど、何かマズかったですか?
「いいえ、そんなことはありません。この辺りが瘴気で覆われそうであったので、某は少々この地を離れておったのです。瘴気がなくなって助かりました。ありがとうございます。」
そうだったんだ。私が来た時は、瘴気は出ていなかったようですが。
「ふむ。某がここを離れた後に瘴気が収まったのでしょうか? よくわかりませんが。」
ふぅ~ん。まぁ、こうして瘴気が収まってよかったです。
「そうですな。これでまた雷を落とせます。」
それはいいことなのか?
誰もいないから迷惑にならなくていいのかな。
「ところで、そちらにいるのはリルーシャの娘ですな。確かリーシャだったか。」
雷の精霊王は、俺のそばにいたリーシャを見て声を掛けてくる。
「そうなの。ここはカミナリオヤジの地なの?」
「ははは、そうじゃ。ここは某の住処じゃ。ところで、母上は達者かの? 最近会っておらんが。」
「ん。ははうえはげんきなの。お兄について行くように言われたの。」
「そうか。リルーシャも御遣い様のことは存じておるのか。それなら某は土の奴に話しておくか……」
雷の精霊王がなにやらブツブツと呟いているが、よく聞こえない。
何やら一人で考えているようだけど、不意に顔を上げて聞いてきた。
「ここの封印を浄化したということは、他の地の封印も同じようにされるのでしょうか。」
ああ、封印の浄化が気になるのね。
俺はウラル半島、モデナ島、バンデミル半島と三か所の封印を浄化して、これからベスビオス山へ向かうことを雷の精霊王に話した。
「左様ですか。ベスビオス山に向かわれるのですな。…それでしたらイフリートにはご注意ください。」
イフリートって何ですか?
「ああ、イフリートは火の精霊王です。威勢のいい奴でベスビオス山を住処にしているのですが、最近某の挑発に乗ってこずに山から出てこないのです。」
そうですか。
どこか調子が悪いんですかね。
「そんなことはないでしょう。あ奴の脳みそは筋肉でできており、戦うことしか考えられない困った奴なのです。」
……確かに困った人ですね。
どこかの獣王様のような人だ。
「そうなのです。ところがこのところベスビオス山で奴のことを揶揄っても奴は現れんのです。山は火を吹きそうなほど勢いがあるのですが、イフリートの奴はいっこうに姿を見せません。あの脳筋が戦うこと以外を考えているとは思えないのですが……」
へぇ、何か会いたくないですね。
「ははは、まぁ奴を揶揄うのは某たちの挨拶のようなものでございます。ただ、ベスビオス山の勢いが気になりまして、あのままでは噴火するのではないかと思うのです。あそこが噴火すると、ヒト族は結構なダメージを受けると思うのですが。」
それはヤバいではないですか。山を噴火させない方法はあるのでしょうか。
「イフリートを宥められれば大丈夫と思いますが、何とも言えません。」
そうですか、結構逼迫しているのかな。
本能のままに暴れまわる魔物とは違うから、精霊王を討伐するわけにもいかないだろうし、対応に困りそうだ。
「某、風の奴を探して話してきましょう。イフリートの奴が少々おかしいと。」
そう言って雷の精霊王ミョルニルさんは空へと飛んで行った。
あ、ちょっと待って欲しかった。
辺りの魔物がどうなっているか、とか聞きたかったんだけど。
すでにミョルニルさんの姿は遠くに見えなくなっていた。




