77 事実は時に残酷?
サフィ、モーリス、俺の三人と竜王様の話は続いた。
「これほどのマナを持っていれば肉体が破裂するか、精神が壊れてもおかしくない。あの幼女め、何というマネをするのじゃ!」
いきなり竜王様が吠え出した。
俺の事心配してくれてるのかな。
「まぁ、この身体は創造神様にいただいたものですから、そのあたりも考えてくれたのではないでしょうか?」
竜王様は俺を見る。
「…どういうことじゃ。」
あまり言うべきではないと思ってたけど、この状況じゃしょうがないね。
「私は別の世界で一度死んだ身です。魂だけだった私に、創造神様はこの身体をくださいました。」
「なんじゃと……。お主、ちょっと視させてもらうぞ。」
そう言うと竜王様は俺をジッと見つめてくる。
心なしか、こめかみがピクピク痙攣しているように見える。
「あの幼女め、何ということを……。お主、ヒト族ではのうて亜神になっておるぞ。」
「へっ、そうなんですか。」
「ちょっとどういうことよ、あなたヒト族じゃなかったの?! と言うか、一度死んでるの?」
竜王様の一言に、サフィが顔色を変えて俺の服を掴んできた。
そして、その細腕にどれほど力があるのかと思うくらいガクガク揺すってくる。
いやいや、首が痛いから許して。
「いや、その、ちょっとどういうことかわからなくてね。確かにこの体は神様が作ってくれたって言ってたけど、亜神って言われてもねぇ...。」
「あの幼女と話をしたのじゃろう? ひょっとして長い時間話したのではないのか? 白い空間がほのかに赤くならんかったか?」
「ああ、確かに辺りがピンク色になってきて神様が焦ってましたね。」
「それじゃ! 神域のせいで魂が昇華して神に近づいたのであろう。」
「何ですと!」
俺はいつの間にか神様に片足を突っ込んでいたようだ。
「シンジ様は御遣い様ではなく神様だったのですか………」
モーリスが呟いていたけど、俺はそれどころではなかった。
サフィからのジト目が止まない。さっきから問い詰めたそうにしてるよ。
これスルーしてもダメだよね。
んでも、どこに引っ掛かったのかな? 亜神ってとこ?
「シンジ、あなた勇者のように神託を受けた人じゃなかったの? 一度死んだって何?」
サフィが詰め寄ってくる。
いやぁ、俺は生まれた世界で一度死んじゃったんだよね。
そしたら神様に魂を呼ばれて、身体を用意するから生き返らないかって言われたの。
「…何よそれ。随分と軽いのね。」
まぁね。自分でもイマイチ信じられなくてね。でもこうして生きているのは事実でしょ。
だから神様には感謝してるし、できるだけ神様の役に立ちたいな、とは思ってるよ。
「ふぅ~。まぁそうね、生きてるのは確かだしあなたの気持ちは分かったわ。……アンデッドじゃないのよね。」
失礼な。こうして生身で生きてます。
俺はズボンの下から足を見せるけど、サフィには伝わらなかったようだ。
サフィは首を捻っている。
ああ、幽霊に足がないって話は前世の世界限定の話なのね。
「…何をしたいのかわからないけど、生身で生きているっていうことはわかったわよ。」
そう、そこ大事だからね。俺はゾンビでもレイスでもないからね。
「はいはい。」
何か往なされている感じがする。
と、サフィはいいとしても、俺だよね。
しかし、亜神って何? 神様から身体を貰うともれなく付いてくるの?
「亜神とは神になりかかった者のことじゃ。少なくともヒト族の括りではないのぅ。」
はぁ、左様ですか。
それって何かマズいことでもあるんでしょうか?
「特にマズいことがあるわけではない。ただヒトの範疇を超えておるだけじゃ。」
だったら特に問題ないのかな。
「……随分とあっさりしておるのぅ。お主、ヒトを止めておるのだぞ。」
あまりそういう実感はないですね。
どこかに違和感があるわけでもないし、美味しいものは美味しく食べられるし、問題ないですよ。
「美味しいものが食べられれば良いのか?」
ええそうです。
そこは基本ですよね。
「…お主がそれでよいのなら、ワシからは何も言うことはない。」
いろいろとお気遣い、ありがとうございます。
まぁ、生きていくのに支障がないようにと神様が準備してくれましたし、実際に私も不自由や違和感を感じていませんので大丈夫ですよ。
「そうか。まぁ、気を付けるのじゃ。と言っても、この世界で[鑑定]できる者はワシ以外におらんはずじゃから、そうそうバレることはないじゃろう。ヒトの範疇を超えることを連発しなければ大丈夫じゃ。」
はい、わかりました。
こうして年寄りの愚痴に始まった竜王様との話は終わりを迎えた。
竜王様との話が長かったからか、家の外はいつの間にか暗くなっていた。
ふと窓から外を見ると、黒い雲が一面を覆っている。さっきまでは晴れていたよなぁ、とぼんやり思っていると、空が一瞬光りゴロゴロいいだした。どうやら雷のようだ。
この世界でも雷があるんだね。まぁ当たり前か。そのうちにさっきまでの光とは次元の違う眩しい光が辺りを射し、立て続けに音が来た。
ドンガラガラガッシャーン、と地揺れを伴い耳を劈いた。
「雷野郎め、来おったな!」
竜王様が一言叫ぶと家を飛び出していく。
俺たちも竜王様に続いて外に出ると、竜王様の向かった先に背の高い巨人が立っているのが見える。
右手に握られている槍の先には電気が放電しているように、小さな稲妻がパチッパチッ、と飛び散っている。
何か危なそうな巨人だ。知っている人だとしても近寄らずに他人の振りをするだろう。
竜王様は知っているようだけど、できることなら知らんぷりしていなくなってくれないかなぁ。
俺は切に願うのだった。




