表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第一章 はじまりのガイン王国
8/279

7 はじめましてエルフさん

鳥の囀りが聞こえ、明るさを感じて目を覚ました。

左右にレミとニナが丸くなって寝ている。いつの間にかここで寝ていたようだ。不思議だけど、この子たちといっしょだと思うと、やる気が出てくる。

三人を起こし、毛皮をしまっていると、サクヤが目を丸くしながら聞いてくる。


「その毛皮、どうしたんですか?」


「ああ、これかい。昨日鞣してみたんだよ。こんな感じでどうかな。」


俺は両手で毛皮を広げながら、サクヤに見せてみる。


「ひと晩でこんなにきれいに鞣したのですか。…ありえないです。」


サクヤは驚いていたが、出来たものはしかたがない。

俺は毛皮をアイテムボックスに収納して、朝食の準備を始める。昨日と同じなんだけど、朝から肉というのもヘビーだね。

ちょっと重いかなと思ったけど、三人は気にすることなくモリモリ食べている。特に、レミとニナはうれしさ全開だ。


「一角兎はおいしいのです。朝から食べられるなんてレミは幸せなのです。」


「ん~、幸せ。」


レミとニナはご機嫌のようだ。でも、塩があるともっといいんだけどね。岩塩とか探せばあるかな。

朝食を食べ終わると、あたりを片付けて出発の準備をする。


空は今日も晴れており、森の中でも清々しさを感じる。

レミとニナは元気よく、先を競うように歩き出す。後ろからはサクヤが心配して声をかける。


「そんなに急がなくてもいいんですよ。それよりも魔物が出るかもしれませんから、皆で一緒に行きましょう。」


サクヤの一声で、そう言えば魔物がいるからと昨日作ったナイフを思い出し、三人にそれぞれ渡す。


「魔物が出てきたりすると危ないから、念のために渡しておくよ。石で作ったから切るのは難しいかもしれないけど、刺すくらいはできると思う。」


「お兄ちゃんが作ったのですか。すごいのです。」


「……かっこいい」


「すてきです。」


レミ、ニナ、サクヤがそれぞれ感想を言ってくるが、石なので少々心もとない。

そう思っていると、ニナがピョンと飛び上がり、高いところにある木の枝をナイフで切りつける。


「よく切れる~。」


「すごいのです。レミもやるのです。」


ニナが枝を切り落としたのを見て、レミも真似しようとするが、枝まで届かないようだ。ニナの身体能力に驚いたが、これだけ喜んでもらえるなら、鉄などが手に入ったらちゃんとしたナイフを作ってあげようと思う。ナイフは危ないからと、皮を使って鞘も作っておいたので、きちんとしまうように三人娘を窘めた。

三人娘はナイフを鞘にしまい、鞘についている紐で腰に括り付ける。しっかりと固定できたようなので、あらためて森の中を歩き出す。


「それにしても、石で作ったナイフなのに、よく切れるんですね。びっくりしました。」


サクヤはナイフを括り付けた腰に目をやりながらそう言ってくる。


「魔法で削りながら、魔力も込めて固めてみたからかもしれないね。」


「そうなんですか! 優秀な鍛冶師でも、石に魔力なんて込められないと聞きましたよ。」


サクヤは呆れた顔をしながら、そう言ってくる。

そう言われても、出来たんだからいいじゃん。と、何となく理不尽に思うのだった。




三人娘たちと話しながら歩いていると、一陣の風が吹いて、あたりの落ち葉や小枝が巻き上がった。巻き上がった落ち葉の陰に、警戒心を露わにした少女が現れる。腰のあたりまで伸びている髪は、金色でキラキラと輝いてとてもきれいだ。色白で華奢な体つきをしているが、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。

彫の深い顔つきは西洋人形のようでとても美しい。何よりも左右に大きく伸びている長い耳が特徴的だ。

ラノベに出てくるエルフのようだなと思って見ていると、


「その娘達を解放するのだ! 人攫いのヒト族よ。」


不穏なことを言ってきた。凛とした美人さんに見えるんだけど、怒った顔はおっかないね。

レミとニナは俺の手を取りキョトンとしている。サクヤは風と共に現れた少女を見て驚愕する。

突然の言いがかりに、俺もびっくりして言葉を返す。


「いやいや、突然何を言い出すのかな。人聞きの悪い。」


「私はサフィーネ。その獣人族の娘たちを今すぐ放すのだ!」


いやいや、そんなこと言われても、この子たちがいなかったら俺は余裕で野垂れ死になんですけど、と思い言い返してみる。


「迷子の俺にとっては、一緒に旅してくれてるこの子たちが必要なんですけど。」


「何を言っている。無理矢理連れているのであろう。」



微妙に話が変な方に行ってるなぁ、と思っているとサクヤが割って入ってきた。


「サフィーネ様、誤解です! シンジ様は私たちを助けてくれたのです。そして、隷属の首輪を外して自由にしてくれました。」


サフィーネは、割って入ってきたサクヤの顔をじっと見つめてから、サクヤに問いただす。


「……そなた、狐人族の里で見たことがある。カグラの娘か?」


「お見知りおきいただきまして光栄です。カグラの娘サクヤでございます。」


「やはりそうか。何故里より遠く離れたこのような地にいるのだ。」


「それは、話せば長くなります。お聞きいただけますか。」



突然現れたエルフは、サクヤの一声に落ち着いたようで、話を聞き入れてくれた。

それからサクヤは、里の近くで奴隷狩りにあったこと、途中で奴隷商人に売られ海を経由してこの地まで来たこと。この森で商人がフォレストウルフに襲われ倒れたこと。俺に出会い首輪を外してもらい、獣王国を目指していることを話した。


「そうだったのか。シンジ殿、疑いをかけて申し訳ない。」


サフィーネは神妙な顔で頭を下げてくる。


「いえ、わかっていただければいいんです。それにしてもサクヤは、こちらの方を知っていたのかい?」


「はい。里にいたときにお世話になった方です。」


「そうだったんだね。」



サクヤは、旧知の人に会えたことでほっとしているようだった。そうだよな、しっかりしているから忘れがちだけど、まだ10歳の子供だからな。

サクヤの頭を撫でながらそう思った。

サクヤを見てから、サフィーネの方に向き直ると、


「失礼した。礼が遅れたが、この者たちを解放してくれてありがとう。」


そう言ってサフィーネは軽く頭を下げた。

これまでの物言いといい、サクヤの態度といい、偉い人なのかな、と思ったがよくわからない。

こういうときに気の利いた受け答えができないんだよなぁ。どうしたものかと思ったけど、


「こちらこそ、誤解させたようで申し訳ありません。」


と、苦しまぎれに言ってみた。

もとはエンジニアなので営業職のように如才なく、機微に合わせた受け答えをするのは得意ではない。ひょっとしたらコミュ症かもしれない。

こういうときに、何と返したらいいものか悩んでしまう。


サフィーネは、一瞬怪訝な顔を見せたが、すぐに表情を戻した。


「サフィーネ様はどうしてこの森にいらしたのですか?」


サクヤが助けてくれようとしたのか、サフィーネに尋ねた。


「うん、…何、ちょっとお婆様の用事でな。」


「サイリース様の御用事ですか。それは大事なことですね。わたしたちはこれから里に帰るだけなので、どうかご放念ください。大事な御用に差し障りがあってはいけません。」


「なに、急ぐことではないし、たいしたことではない。」


今度は、サフィーネがちょっと困っているようだった。

微妙な空気が漂ったが、すぐに刺すような気配が伝わってきた。

何かいるのかなと思いそちらに目をやると、サフィーネも気づいたようで


「むっ!」


と、俺が目を向けた方に向き直った。

俺の視界の奥に、黒いただならぬ気配が漂う。それはフォレストウルフよりも大きい、黒い虎のような生き物が見えた。

サフィーネはいつの間にか弓を番えており


「はっ!」


と、気合と共に矢を放った。

いやぁ、素早いな、などと感心していたら、黒い虎はサフィーネが放った矢を気にすることもなく、こちらに向かって走ってきた。

サフィーネの矢は黒い虎に当たる直前で砕け散った。あれはあの黒い虎の魔法なのかなと思っているうちに、もう一息というところまで近づいてきた。


何だか殺気立っているようなので、軽く風魔法を放ったら、黒い虎は後ろに押し戻されていく。

フォレストウルフを仕留めたときくらいの魔力では効き目がないみたいだ。今度はさっきよりも強めに魔力を込めて薄くして、切るイメージを描きながら風魔法を放った。

黒い虎の首元を狙ってみたが、あっさりと首が落ちてしまった。


ダメージが通ればいいなと思っていたのだが、魔力を込めすぎたかな。

次の矢を放つつもりだったのか、矢を手にしていたサフィーネは、口をあんぐりと開けて黒い虎を見ている。


せっかくの美人さんが、お間抜けさんに見えますよ、と声を掛けたら怒られるんだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ