74 バンデミル半島にて
わざわざ宿をキャンセルして、携帯ハウスで食べたカレーライスは最高だった。子供たちの大好評メニューが増えてよかったよ。
でも宿には申し訳ないことをしたと思う。この街に来た時といい、今回といい、予約だけして結局宿泊しなかった。馬を預かってもらったりしたから、お金は払ってきたとモーリスは言ってたけど、今度来た時はちゃんと泊まるようにしよう。
ガインの王都では、たくさんの食材が手に入った。
さすが王都だね。子供たちに喜んでもらえるメニューが増えるし、いいこと尽くめだ。
「カレーは美味しかったのです。カツもサイコーなのです。レミは毎日でもいいのですよ。」
「……お米、カレー、カツ、天国の食べ物。」
「もうちょっとからくなくていいの!」
子供たちには好評なんだけど、リーシャにはちょっと辛かったようだ。今度はハチミツでも入れてみるかな。
食べ物には大満足なんだけど、肝心のバンドウ行の船がない。
港を見ていると海の状態を確認しているのか、少数の船が出入りしている。漁をしているのか網を海に入れたり、上げたりして何かを確認しているように見える。
やっぱりギルドに行って話を聞いた方がいいかもしれない。
「どうやらギルドでは海の魔物を疑って様子を見ていたようです。ですが特に被害がないので、明後日から漁以外の船の操業を元に戻すそうです。」
モーリスがギルドで話を聞いてきたようだ。素早い。
ありがたいね、明後日バンドウへの定期便が運航されるようなので、それで行くことにする。バンドウへの定期便は大きな船らしく、ドランたちのような馬も乗せられるということだった。
予定がハッキリしたことで、レミたちはミズリグ村プリン部隊のお店に出かけるようだ。子供たち四人だけで行くのも何なので、サフィも一緒について行くと言う。
レミたちが売り子の手伝いをしてから、王都ではプリンとアイスが大人気だそうだ。そう言えば歓迎会でも好評だったからね。貴族が買いに来てるかもしれない。ミズリグ村では毎日作ったプリンやアイスを王都に持ち込んで売っている。ミズリグ村から王都までは船で二日くらいかかるそうなので、ダグランさんはいくつかのチームをローテーションで回しながら店を切り盛りしているという。そのチームの一つにアナベラたち子供の売り子がくっついて王都に来ているようだ。
子供たちが一生懸命売り子さんをやっているから、プリンやアイスの売り上げは上々で王都でもかなり認知されてきているらしい。
ミズリグ村の人たちも頑張っているようだ。
さて、子供たちが出かけているうちに出発の準備をしておこうかね。そう言っても必要なものは揃えてあるから、移動の途中で食べるものやデザートなんかを作っておく。いつかのように調理できないときは困るからね。できる限りいろいろ用意しておく。市場で鍋も買っておいてよかったよ。鍋いっぱいにカレーを作っておいた。
子供たちが気に入ってくれたからね。いつでも食べられるようにしておく。
準備が整い、船に乗れる日がやってきた。
事前にモーリスが船に乗れるよう手配してくれていたので、スムーズに乗ることができた。馬のドランたちも一緒だ。
ここにいる限り、ミズリグ村などで感じた嫌な気配はない。それでもあまりゆっくりしていてもよくないから、早くバンドウまで行ってしまいたい。
王都の港を出航すると、しばらくの間はモデナ島と大陸に挟まれた海峡のようなところを進むことになる。モデナ島をやり過ごしてからバンドウまでの間が外海となる。海峡と外海とで揺れが変わるのか心配だけど、モデナ島に渡った時は大丈夫だったから心配し過ぎかな。
これからしばらくの間はモデナ島に挟まれた海峡を進む。何となく瀬戸内海みたいな感じだ。
あまり波もなく、穏やかに進んでいる。進行方向に向かって左手を見ると、そこには陸地がある。モデナ島だ。一度上陸して封印の浄化までやったけど、やっぱり大きな島だ。ずぅっと陸地が続いているように見える。
「海なのに、陸が見えるのです。あそこまで泳いでも大丈夫なのです?」
レミが対岸のモデナ島で漁をしているような人たちを見ながら、不思議そうな顔をして言ってくる。
「あれはたぶん島の人たちだね。こっちの港から泳いだわけではないよ。」
「そうなのですか? レミも泳ぎたいと思ってたです。」
「……残念。」
いやいや、二人ともやめてね。海で何キロも泳ぐなんて大変だよ。
こんな陸に挟まれたところって、潮の流れが複雑なんじゃなかったっけ? とにかく危ないから泳いじゃダメです。
「仕方ないのです。船の中でトランプでもするです。」
「………」
レミがニナを連れて船の中に戻って行った。
危ない。こんなところで泳ぎたいと思うとは……
ウテナ湖で泳がせたのがいけなかったか。二人から目を離さないよう注意しておこう。
何日か過ぎると進行方向に向かって左手の陸地が見えなくなる。右手には陸地が続いているのが見えている。どうやら沖乗りではなく地回りで運行しているようだ。確かに正確な知識がなければ沖乗りは怖いよね。でも考えてみれば俺たちはウテナ湖でそれに近いことをしたんだよ。そう考えるとやっぱりウテナ湖は大きいんだ。
ずっと陸地が見えている範囲で進んでいるので安心感はある。
何もしなくても船が進んでくれるのでとってもありがたい。こうして見ていると、何となく進んでいるのが分かっていいね。
そうして陸の先を見ていると、小さな港らしきものが見える。あれがバンドウのようだ。
バンドウは小さな漁村だった。ミズリグ村みたいに賑わいのあるところかと期待していたけど、ちょっと違った。王都から離れていくと寂しくなっていくのはしょうがないのかな。
特にバンドウに用事はないので、封印目指して馬車を準備して出発する。
このバンデミル半島はこれまでの場所と違い、岩が多い荒涼とした景色が広がっている。
その昔、神々の戦いがあったからだとか、いろいろと言い伝えはあるようだけどホントかどうかはわからない。何にしてもガインのラインバッハ領や獣王国で見てきたような草原は見られない。
その岩の間を縫うようにして出来ている道を馬車で進んで行く。
バンドウから封印まではそれほど遠くないと聞いているけど、この荒地を進んで行くのはもの悲しい感じがして早く通り抜けたいと思ってしまう。行けども行けども草原が続くと飽きるなと思ったけど、この岩場が続く景色も負けていない。
どうやら俺は、単調な景色が続いているとすぐに飽きてしまう質らしい。そんなことを考えながら馬車を進めて行く。
バンドウに着いたときは晴れていた空が、封印目指して岩場を進んでいると心なしか灰色に変わってきているようだ。なにも岩場に合わせて空まで曇らなくてもいいのに。どうもこれまでの旅のような景色と落差が大きくて滅入ってきてしまう。
それに、岩場が多いせいかバンドウを出てから人の集落が見当たらない。これまで行ったところは、何かしら人の手が入っていることを感じさせるものが少なからず存在していたけど、ここにはそう言った様子が全くない。ちょっとやさぐれそうだ。
「そろそろ休憩にしない?」
サフィが馭者台と客室を遮る窓から声をかけてくれる。
そうだね、少し休んで行こうか。ドランたちも休ませてあげたいし。
馬車を止めて休憩の準備を始めると、レミたちがごそごそと踏み台を出してきてドランたちに近づいて行く。
サクヤは飼い葉や水を入れる桶を持ってその後をついていった。
「ライン、ご苦労様なのです。」
子供たちは銘々に馬へ声を掛けながらブラッシングしている。
馬たちはサクヤが用意した水を飲んでいる。ドランたちはホントによく働いてくれる。俺たちが楽して旅ができるのもこの馬たちのお陰だ。
子供たちが馬の世話をしているうちに、俺は子供たちのオヤツを用意してあげる。
軽くホットケーキでも焼いて、蜂蜜をかけてあげようか。
「おお、いい匂いがするのです。」
ブラッシングを終えたレミがやってくる。
「ちゃんと手を洗ってくるんだよ。」
「はい、なのです!」
元気よく返事をして、テーブルに向かったようだ。
他の子たちもブラッシングが終わったのかな。
テーブルに目をやると、全員フォークを持ってスタンバイしている。ヤバいね。早く持って行かないと怒られそうだ。さっさとホットケーキを焼いて皆のところに持って行く。
「今日はホットケーキだよ。上にバターを乗せて蜂蜜をかけるとおいしいよ。」
そう言って皆の前でバターを乗せて蜂蜜をかける。
各自の前に置いてあげていただきますだ。
「おいしいのです!」
「…ハチミツがすてき」
「あまいの。おいしいの!」
どうやら子供たちに合格をもらえたようだ。
休憩が済んだら、出発だ。何となくここに長居したくない。
岩がゴロゴロしている荒地を進んで行くと、視界の先が海で囲まれる。どうやら半島の先端まで来たようだ。
そしてここには黒い封印がしっかりと立っていた。
ここの封印はモデナ島と封印とは違って、瘴気を出していないように見える。辺りに黒い霧は見えない。それでも体に張り付いてくる不快な感じはあるんだけど。
とりあえずいつものように魔力弾モドキをモノリスにぶつけてみた。ポフッ、っと音をたててぶつかったところが白く変化する。
特にこれまでと変わったところは見られない。
白く色が変わった部分に手をついて魔力を流すイメージをしてみる。やはりこれまで同様魔力とは別のものが流れている感じがする。
すると、モデナ島のモノリスと同じように黒い部分が白くなっていった。手を離してみるが、白くなっていくのは止まらない。
モノリスは次第に全体が白くなっていき、黒い部分がなくなると眩しく発光した。
いつもの感じで対処してみたけど、ここもモノリスが真っ白になって浄化できたように思える。
さっきまで感じていた肌に張り付く嫌な感触がなくなった。
「どうやらここも浄化できたようね。」
サフィの一言に俺は軽く頷いた。




