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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第二章 古代の封印
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73 ガインの王都にて 港町ふたたび

歓迎会は概ねいい感じだったと思う。うちの子たちも王女と仲良くできたみたいだし。

歓迎会で出したデザートはかなりうけたみたいだ。参加した貴族たちにも大好評だった。プリン、アイス、ケーキと並べて何とか皆に行き渡っていた。

どうやって作るのだとか聞かれて面倒になるかと思ったら、王様が「わが友のレシピを公表せよと言うのか!」と貴族たちを一喝していた。プリンとアイスについては、欲しければ港でミズリグ村プリン部隊が売っているから購入してくださいと言っておいた。そちらにも無理難題を言わないよう王様が重ねて言い聞かせてくれていた。

いろいろと気を使ってもらって助かったよ。


そんな王様や王女様たちに別れを告げて、俺たちは港まで降りてきた。

これからバンドウまで行く船を探さなければならない。

王様にはもっとゆっくりしていけと言われたけど、お城の中でのんびりしていられるほど俺の肝は太くない。


ということで、歓迎パーティーが終わった後、早々にお城を退散してここまでやってきた。とりあえず、最初に港へ着いたときにお願いした宿に泊まることにして、船を探そうと思う。


「お兄ちゃん、お船さんを探すですか?」


「そうだね、バンドウへ行くには船が必要だからね。」


「…魚、釣る~?」


「う~ん、どうかな?」


リーシャを抱いて、レミと手を繋ぎながら港を歩いている。ギルドなどを回って、バンドウまでの船が出ていないか確認したいからだ。

まぁ船だけじゃなく、市場を見ている途中でお城に連行されたから、前回見ていないところに掘り出し物がないか探したいという思いもある。

でも、封印の影響で魚は獲れていないみたいだから、釣りするかどうかはわからないね。


「それでは私がギルドまで行って船が運航していないかどうか聞いてきましょう。」


モーリスが船を探してくれるようだ。

それなら俺は市場を見に行こうかね。


「おいしいもの、いっぱい探すです。」


「…天国、つくる~?」


いやいや、ニナ何言ってるんだい。天国なんか作れないから。

おいしいものは作りたいけど。


前回見て回った市場の反対側から冷やかしていく。

こうして見ると、当たり前だけど海産物が多い。でもイカ・タコを見かけない。これはミズリグ村だけでなく、もっと広い範囲で忌避されているのかもしれない。まぁロアーナさんのところでたくさん貰っておいたから、当分いらないと思うけどね。


香辛料も手元にいろいろあるけど、今のところは米が手に入らないから出番が少ない。調味料は醤油と味噌を手に入れたからね。そう言えば味醂やお酢を見かけないね。お酢があると、ちゃんとしたマヨネーズが作れるんだけどなぁ。

店を冷やかしながら、そんなことを考える。


ウロウロと当てもなく歩っていると、ミズリグ村の店舗が目に入る。

前回レミたちがサクラをして受けがよかったようで、ミズリグ村プリン部隊は今日も大盛況のようだ。店の前に人だかりが出来ている。その人だかりの中で、小さな影がちょこちょこ動いている。どうやら村の子供たちが売り子をしているようだ。あれっ、アナベラじゃないか。通りを歩いている人にプリンを勧めているようだ。

俺の腕の中にいるリーシャも気づいたようだ。


「アナベラなの! お兄、早く行くの!」


腕を振ってリーシャが催促してくる。

へいへい、自分で歩くという選択肢はないのね。


「アナベラがいるのです!」


レミも気づいたようだ。ニナと走って行ってしまった。

アナベラとハイタッチしている。みんな嬉しそうだ。


「お兄ちゃん、レミもアナベラを手伝うのです。」


「……プリン教、布教~?」


「リーシャもアイスを売ってくるの!」


「シンジ様、わたしもお手伝いしたいです。よろしいですか?」


子供たちは、皆アナベラを手伝ってあげたいようだ。

それならお店のお姉さんたちにお願いしていくかね。


「こんにちわ。この子たちにも売り子さんの手伝いさせてもらっていいですか?」


「あら、シンジさん、こんにちわ。レミちゃんたちも手伝ってくれるの? それは助かるわね。」


子供たちをプリン売りの手伝いに残し、俺は一人で市場探索に行こうかと思っていると、サフィがついてきた。


「あなたを一人にすると、ロクなことにならないような気がするからね。」


失礼なことを言ってくる。この喧嘩上等エルフめ。


「何よ、文句でもあるの?」


いえ、ないです。

文句はないので、その笑顔やめてください。怖いです。


「ホント、失礼しちゃうわね。」


そんなサフィと市場を歩いて行く。

前回は来れなかったエリアまで足を伸ばし、並んでいる店を眺めていると一際変わった衣装が目に入った。前世で旅館の仲居さんや居酒屋の店員さんが着ていたような、着物というか作務衣のような衣装である。

ちょっと心惹かれて店の前までやってくると、垂涎ものの食べ物が並んでいる。


「いらっしゃい。こっちはヤマトの国の食材や。うまいもんが揃うとるで。」


おお、ヤマトってロアーナさんに聞いた醤油を作っている国だ。なんか関西弁のようなノリだな。でも、これは聞かねばなるまい。


「お米ありますか? ありったけ下さい。あと酢や味醂もお願いします。鰹節はありますか? 乾燥シイタケがあるとなおいいです。大豆や小豆は手に入りますか。昆布もいいのがあれば見てみたいです。」


ちょっと食いついてしまった。


「シンジ、ちょっとやめなさいよ。店の子が驚いているわよ。ごめんなさいね。この人食べ物のことではたまにおかしくなるのよ。」


「……ああ、いやいや、かまへんねん。ウチも米やら鰹節やら聞いてビックリしたんよ。」


「それで、あるの? あるだけ言い値で買う。」


俺は見境がなくなっていたようだ。


「だから、止めなさいって。」


サフィに脳天チョップされて我に返る。

俺が落ち着いたところで、お姉さんに店の奥へと案内された。そこでお茶をもらって一息つく。久しぶりの緑茶だ。前世以来だよ。モーリスとかが淹れてくれるお茶は紅茶みたいで緑茶はなかったんだよね。


「それでお米に酢、味醂、鰹節がほしいんかい。今回、シイタケはないんよ。ゴメンなぁ。それから大豆や小豆もないねん。」


「このお茶もください。」


「アハハハ、アンタ変わっとんなぁ。このお茶がエエなんて初めてやわ。」


店の奥は店員さんたちのための休憩スペースらしく、普通はお客を案内しないらしい。そこに置いてあったお茶を何の気なしに注いでいたようだ。そのお茶をいただきながら話を続ける。


「ウチはヤマトの国から来たミスズ言うねん。よろしゅうな、兄さん。」


店のお姉さんはミスズさんというそうだ。ヤマトの国から船で獣王国を経由してガインにやってきた娘さんだ。獣王国の王都近くの港の市場で物を売ろうとしたけど、何でもそれまで獲れなくなっていた海産物が獲れるようになって大騒ぎで、他国の船は商売どころではなかったのでガインまでやってきたと言う。


「獣王国では商売ならんさかいここまで来たったけど、ここでも商売にならんなぁ。アカンわ、全然売れへんねん。それで、ホンマにお米とか買うてくれるん?」


「買う、買う。米と酢と味醂と鰹節。あるだけ買う。」


「ウチが言うのも変やけど、ここに店出して三日、なんも売れんかってん。アンタ、ホンマに買うてくれるん?」


「買う、買う。まかせといて。」


何かこっちまで調子が変わってくる。

でも、米とか鰹節以外はないのかな。


「他には味噌や醤油もあるで。何やったら味見てもろうてもエエよ。」


味噌と醤油は先に買ったけど、アイテムボックスがあるからたくさんあっても困らない。でも味見は必要だね。美味しかったら買おう。


「これなんやけど。」


そう言ってミスズさんは小皿に味噌と醤油を垂らしてくれた。

香りはこれぞ味噌って感じで舐めるととっても濃い味がする。醤油も香ばしく癖が少ない。これはどっちも買いだね。


これももらえるかな。ありったけ。


「おおきに。これで国に帰ってもオトンに叱られんで済むわ。」


ミスズさんはヤマトの国の王都で店を出している商人の娘らしい。販路開拓で他国を回っていると言う。普段は国にいるらしいけど、今回はお兄さんの代わりに外回りをしているそうだ。

ヤマトの国に行くことがあれば是非寄りたいから、店の住所や簡単な地図を貰った。どうやら港に店があるらしい。ひょっとして、ミスズさん家って大店なんじゃないの?


まぁ、思いがけず米や酢が手に入ったからいいか。それに味噌や醤油も大量に買えた。

俺はホクホクしながらミスズさんにお礼を言って、ミズリグ村の店舗へ向かった。


店に戻ると、ミズリグ村プリン部隊は盛大に散っていた。子供たちはミカン箱のようなものに座り込みヘトヘト顔だ。大人たちも真っ白な灰になっている。

何があったんだろうね。


「すごかったよ。全部売れた。シンジさんにもらったアイテム袋に目一杯いれてきたアイスとプリン、千ずつきれいに売れた。」


へぇ、すごいね。それだけ売れたら店番も大変だね。


「ホント、大変だったよ。戦争みたいだった。終わりの頃にはお客さんがプリンを奪い合う感じで怖かったよ。」


「でもレミちゃんが「ケンカは良くないのです!」って言って止めてくれたの。助かったわ。」


そうなんだ、偉いねレミ。

俺はミカン箱に座っているレミの頭を撫でる。ヘトヘト顔だったレミが笑顔になった。


「今日はお客さんがいっぱいで大変だったのです。」


そうだね。そんな大変なお店の手伝いご苦労様。

そんな子供たちにご褒美を渡したいね。どうしようか。悩んでいると、モーリスが戻ってきた。

お疲れ様です。


「いけませんなぁ。どこもバンドウには船を出していないようです。モデナ島の情報がまだ伝わっていないのかもしれませんな。」


そうなんだ。まだ時間がかかりそうだね。

どうしようかな、子供たちにご褒美を上げたいし、長期戦になるなら宿はやめようか。


俺たちはすぐに宿を引き払い、子供たちを馬車に乗せていったん王都の外に出た。目立たない場所を探してそこに携帯ハウスを出す。今日は携帯ハウスでお料理だ。念願の米が手に入ったので、カレーを作ってみることにする。

ついでにビッグボアのカツも揚げてカツカレーにしようか。


「はじめチョロチョロ中パッパ、赤子泣いても蓋取るな♪」


つい嬉しくて声に出してしまった。


「何よ、それ。変な唄ね。」


サフィが眉間にシワを寄せて反応する。

そうだよね。こんなの聞いたらおかしいと思うよね。

でもお米だよ。お米が炊けるんだよ。うれしいよね。


そう思いながら、お米を炊いていく。

火が落ち着いてきたところでカレーも作る。

香辛料はお好みの割合で、子供が多いから甘目にしておこうかね。ジャガイモも買っておいて良かったよ。


「いい匂いがするのです。」


「……天国突き抜ける~?」


「おいしそうなの! 幸せの匂いなの!」


さっそく我が家の欠食児童たちが釣れた。


「もう少しで出来るからね。向こうで待っていてくれるかい。」


そう言って子供たちを席に着かせる。サクヤにお願いしていたカツも出来たようなので盛り付けしよう。

福神漬けがないのは残念だけど、カレーは上手くできたからいいよね。


皆の前にカレーを並べていただきますをする。


「なんですか、これ。ちょっと辛いけどおいしいのです。カツがサイコーなのです!」


「わんだふぉ~」


「ちょっとからいの。でもおいしいの! いっぱい食べるの!」


「不思議なスープだと思っていたのですが美味しいです。お米も初めて食べますが、とっても相性がいいですね。」


子供たちには大好評だ。


「変なものを作っているなぁと思ったけど、こんなに美味しいとはね。癖になりそうね。」


「以前食べた米はこれほどおいしいものではなかったのですが。調理がいいと全然違いますな。それとこのスープがまたいい。」


サフィやモーリスにも好評だ。

ミスズさんから買ったお米は三十俵くらいあったから、まだまだたくさんお米を食べられるよ。

食べたいものが食べられるって幸せだね。


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